謙也と5年ぶりの再会


高校を卒業してから…5年。5年ぶりに、なまえと再会した。

「謙也、久しぶり」

「久しぶり、やな…なまえ」

相変わらず、かわええなぁ。

にこにこと笑うなまえを見て、一番最初にそう思った。

んで、暫く話をして…やっぱ、好きやなぁ。と、思った。

笑顔とか、妙に忙しない身振りとか。高校の頃からあんま変わってへんかと思う反面、東京の大学に行っとったせいか、ところどころイントネーションはこっちの。せやけど言葉の訛りがなくなった口調に…なんとなく、なまえとの距離のようなもんを感じた。

「(5年間も空いとるんや…)

まったく連絡をとってへんかったわけやない。けど…二人の間にある、5年間というブランク。

俺がもし高校の時。バラバラになる前になまえに告白しとったら…もう少し、違ったんやろうか。

「そういえばさ…わたし、謙也のこと好きだったんだよ」

「…は、」

ちくちくと痛い心臓で、やや曖昧に相槌を打っとったなまえの話に、ぐんっ、と意識が引っ張られた。

「高校2年からずっと。だけどさ、あの頃は謙也もわたしもテニスに夢中だった。テニスのことで頭がいっぱいだった」

「…」

「だけど、わたしはそんな謙也が好きだったの。だからわたしは告白しなかった…っていうのは、まあ言い訳なんだけどね」

昔を思い出すように目を細め、苦笑混じりに頭をかく。

「なんていうか…タイミング逃しちゃったんだよね。部活を引退したら、わたしも謙也も受験勉強で必死だったし」

「今、は…、」

「謙也?」

なまえの話を呆然と聞いていた。
過去形の告白にもそうやけど、なにより驚いたんは…俺と、同じやったこと。

俺もなまえも、高校の時は引退ギリギリまでテニスのことでいっぱいいっぱいやった。
テニスに集中せなあかん。そう思って、テニスのことを第一優先にしとった。

引退してからは受験勉強に追われ、俺となまえだけやない。他のテニス部メンバーとも段々に…関わる時間が減っていった。

その忙しさを理由にして、俺はなまえに告白せずに…卒業した。

ヘタレやとか財前やら白石から言われることがあるけど、これに至っては否定できんほど…自分でも、ヘタレやと思う。

「俺は…今でもなまえが好きやで」

「え…っ」

今更。しかもなまえの話に乗っかるようになってしもうて…つくづくヘタレやなぁと自己嫌悪しつつも、言えてよかった。と、心の底からそう思えた。

なまえは過去形で「好きやった」と伝えてくれた。

今は。今はどうなんやろか。

目を見開いて固まったなまえ。

なんでやろ、告白したんやから…もうちょいドキドキとかするもんやと思うのに。

俺の心臓は不思議なくらい、いつもどおり。

「…わかんない」

ぽつり。呟くように返された返事。言葉同様、なまえは困ったように視線を逸らして笑う。

「多分、好きだよ。でも、空白が大きすぎて…少しだけ、気持ちを疑っちゃうっていうか」

「せ、やな」

フラれた、わけやない。からやないと思う。やっぱり鼓動が一向に変わらへんのは多分…なまえの答えが分かってたから。やと思う。

そんで、これから俺がせなあかんことも。

「だからさ、謙也。もう一回、わたしを好きにさせてよ」

「…おう」

今度こそ、後悔なんかせんように。



end




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