仗助と承太郎の義妹
◇あまり活かせていませんが、シーザーの孫娘。
高校生にもなると悩み事っつーのも増える。
ベンキョーのことだとか、何かとつっかかってくる先輩とか。
年上の甥が現れたり、幽波紋使いの殺人犯に命を狙われたり。
しかも、その殺人犯をなんとかして、これでひとまず平和になるかと思いきや、やっとこさ告白して恋人になったコが他の男と仲良くお茶なんかしているところを目撃しちまったり…。
「…って、流石に高校になってからこっち、雲行き怪し過ぎねえか…?」
昨日の帰りに目撃した衝撃的シーンのせいで、正直全然眠れなかった。
すげー頭痛ぇけど、学校はちゃんと行かねーと。
それに、やっぱこーいうのは直接本人に聞かなくちゃあならないことだ。
重ダルい身体を叱咤しながら、なまえとの待ち合わせ場所へと向かう。
おれの恋人…なまえは、中3の時におれらの学校へやって来た転校生。
最初の印象としては、肌がすげー白くて、同級生の女子よりちょっと大人っぽくて。
美人だなーと思ってた。
いや、今でも美人なのに変わりはねーんだけど。
席が近かったもんで、自然と話をする機会も多かった。
聞くところによると、なまえにはイタリア人の血が流れているのだという。
しかし、6歳の頃から日本で生活しているため、別にイタリア語が達者だとかイタリア料理ばっかり食べているわけじゃあないんだと、冗談っぽく話していたっけ。
その辺の詳しい事情はまだ、聞けていない。
実際、付き合い始めてまだ2カ月だ。
告白して、オッケーもらえた時は思わずガッツポーズしたくらい嬉しかった。
「…まさか、だよなぁ〜…」
自分に言い聞かせるようにぼやいた言葉は、まるでおれのもやもやした心ん中みたいな、灰色の雲が覆う空に消えて行く。
「おはよう仗助。…ごめんね、待たせちゃった?」
「あー、いや、今日はちこっとおれが早かっただけ。…行こうぜ」
「…うん…?」
待ち合わせは、おれが待たせることの方が多い。
そんなおれが先に待ち合わせ場所に来ていたうえに、いつもよりテンションが低いもんだから、なまえは少し心配そうな表情で首を傾げている。
…気まずい。
勝手におれが気まずくしてるだけかもしれねえけど、おれはあんまこういう気まずい雰囲気ってのに耐えられないタチだ。
女々しくウジウジ考えんのも性に合わない。
…昨日のこと、き、聞くぞ。聞いてやる!
おれはぐっと全身に力を込め、気合を入れる。
「なぁなまえ、ひとつ聞きてえことがあるんだけど、いいか?」
「うん、なーに?」
「…昨日、帰りにたまたま…たまたまだぜ?見かけたんだけどよォ、」
「うん」
「なまえ、れんが亭にいただろ」
「うん、行ったよ」
「そん時によ、…お前、誰といた?」
「誰…って?」
「一緒にいただろ、男と!」
「男…え、あぁ」
一瞬、なんのことか分からないって顔をしたなまえだったが、すぐに思い当たるところがあったようで。
正直、おれの心臓は嬉しくない意味でバクバクしていて、なまえの一瞬の間にさえ良くない感情を生み出してしまう。
「もしかして、お兄ちゃんのことかな」
「………え?」
おれを見上げてくるなまえの表情はただ不思議そうなそれで、声にも焦りや嘘臭さなんかまったく感じられなかった。
そしておれは絶句する。
多分相当間抜けなツラしてんだろーな〜とは思うけど、おれの頭は今とんでもない情報によってショート寸前だ。
そんなおれに、なまえはダメ押しの言葉を口にする。
「白い帽子と白いコートで、かなり背が高くて体格のいい人じゃあなかった?」
…グレート。完全一致だ。
「じょ、承太郎さんの妹ぉ!?」
昨日より何倍もデカい衝撃に、おれは叫ばずにはいられなかった。
―…放課後。
気が付いたら、放課後。
昨日の寝不足と今朝の衝撃で、授業は半分も頭に入って来なかった。
まぁ、授業のノートとかは後でクラスの誰かに借りるとして…今は。
「お兄ちゃん、お待たせ」
「…どうもっス」
「ああ、来たか」
なまえと二人、連れ立ってれんが亭に来るなんてデートみたいに見えるかもしれないが、実際はそんなかわいいもんじゃあない。
何故なら、父兄同伴…というか、父兄にご挨拶しなくてはならないのだ。
しかも相手は既に面識のある承太郎さん…。
気まずいったらない。
「えーっと、二人はもう面識あるんだよね?」
「ああ。まさか、仗助となまえが既に知り合っていたとはな」
「おれも驚きましたよ。まさか承太郎さんがなまえの兄貴だったなんて」
「そうだろうな。なまえは空条姓じゃあねぇし、おれとは似ても似つかん」
まるでなんでもないことのように言う承太郎さんだけれど、それはおれが聞きたかったことの核心ともいえる部分。
なまえの姓は、みょうじ。
別に普通に生きてりゃ自分の生い立ちを事細かく話すことなんて、そうはないだろう。
だから今まで根掘り葉掘り聞くことはなかったけれど、これはもう聞かなくちゃあならない。
空条、延いてはジョースター家とは、一体どれほど複雑な家系図になっているのか。
そして、法律のことはよく分からないが…下手をすればなまえとおれって、その…イケナイ関係になってしまうんじゃあないか。
こんななまえとおれの未来に直接関わるようなこと、聞かないわけにはいかないだろ。
膝の上で握った手のひらに、じっとり汗が滲んでいるのが分かる。
そりゃそうだ。
おれ、今すげー緊張してる。
喉はカラカラに乾くし、どう切り出していいのか…なかなか言葉が出て来ない。
「わたしね、空条家の養子なの。…んー、養子っていうか、居候?」
「居候…?」
おれが言葉に詰まっているのを察してか、なまえがおれの方を真っ直ぐに見て、そう言った。
その一言だけで、なまえの生い立ちは簡単に触れていいものじゃあないということを感じたけれど、それでも彼女は続けた。
真面目な表情で、しかし重くならないように言葉を選んで。
10年前、6歳の頃に両親を亡くし、祖父の古い友人だったおれの父親…ジョースターさんに保護されたこと。
その後すぐ、自分の一族の姓を忘れたくないと願うなまえの意思を尊重し、養子ではなく居候というかたちで、治安の良い日本の空条家に引き取られたこと。
「それで、自立への第一歩として中3の時にこの杜王町へ引っ越して来たの」
「…、」
「…仗助?…ごめん、なんか重たい話になっちゃったね」
「いや、ダイジョーブ。…ありがとな、辛いことなのに話してくれて」
「…ううん、こっちこそ聞いてくれてありがとう」
ほんとのこと言えば、全然大丈夫なんかじゃあない。
なまえの過去を知ったことに後悔はない。
けれど、今まで知らなかったことだし、なまえだって望んでいないことだとは思うが…今までなまえと接してきた中で、無意識の言動は彼女を傷つけていなかったか。
もっと気遣ってやるべきだったんじゃあないか。
そんなことを考えちまう。
「仗助、お前には今までどおりなまえの側にいてやってほしい。…お前は、頼りになる男だ」
「もちろん、当たり前っスよ!…そりゃあ、確かに色々びっくりはしてますけど…おれ、なまえのことマジで好きなんで」
「じょ、仗助…っ!」
「…そうか」
あれ?おれ今なんか勢いですげーこと言ったような気がすんだけど…。
なまえは顔を赤くしてあわあわしてるし、承太郎さんは相変わらず何考えてんのかよく分からない表情だけど、変な間があったような。
別にやましいことじゃあないのに、背中をだらりと冷たい汗が流れていく。
「まぁ、なんにせよ…これしきのことで怖気づくような奴なら、最初からなまえは任せられねえ」
承太郎さんは一度目を閉じ、もうすっかり冷めきっているだろうコーヒーに口をつけた。
なんでか、その動作が妙にスローに見える。
そして、静かにカップをテーブルに戻し、再び目を開き…。
「おれも、まだ暫くはこの街にいることだしな」
「う…っス」
…まるで、敵を観察するかのような鋭い光を放つ瞳で、おれにそう言った。
「(プ…プレッシャ〜〜〜っ!)」
悩み事が、また一個増えた。
end
『仗助の恋人でシーザーの孫娘な承太郎義妹』とのリクエスト。
お送り頂いた素敵設定がかなり盛り込めておらず、本当に申し訳ありませんんんッ!
圧倒的力不足!精進致します…。
DIOとの因縁や幽波紋使いであること徐々に知っていき、仗助の衝撃はまだまだ続く!という感じになると思います。(予想)
ほんの少しでも楽しんで頂けましたら光栄でございます…!
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