高校生と夏休み


「真面目かッ!」

ダンッ!

なまえがテーブルに拳を叩きつけるのは、既に本日だけでも三回目になる。

定期的に発生する雑音に承太郎と花京院は特に驚くこともなく、承太郎は問題集から。そして花京院は読書感想用の本から顔をあげ、音の原因であるなまえへゆっくりと視線を向けた。

「…お前、本当に集中力がねえな」

「いや、あれから45分だし…なまえにしては頑張った方じゃあないか?」

「おめーは甘いんだよ、花京院」

「そうかな…」

「ちょっと。キミらはわたしの先生か。ていうか、バカにしてるよね、完全に」

なまえを置き去りにして流れる二人の会話に、彼女は目の前に広げていた問題集をシャープペンで叩きつつ抗議の声をあげる。


此処は空条邸の客室。
障子戸を開ければ風通しが良く、三人分の教科書や問題集などを広げられる大きさのテーブルがある一室だ。

夏休みに入って丁度一週間になる本日、彼らはこの場所で5回目の勉強会をしている。
更に詳細に言うならば、夏休みに入ってから5回目、である。


「うぅ…、長期休みに入って一週間だよ?なんでわたしたちは学校行ってるのとほぼ同じ日数勉強に励んでるの…」

「『先に課題を終わらせよう』とか言い出したのは他ならぬお前だろうが」

「うっ」

「日数的には変わらなくても、流石にフルタイムではないしね」

「…そうだけど、」

「一人じゃあはかどらないからって僕たちを誘ったのもなまえ自身だ」

「…そうですね!ありがとうございます本当にッ!」

勉強嫌いを自覚しているなまえ自らが考えた、課題に追われる休み終盤を回避するための対策。
確かにそれは正しい判断であり、一人でやるよりかは確実に課題の進みが早い。が、人間『辛いのは今だけ』の『今』が辛いのだ。
分かっちゃあいるが、頭を抱えたくもなる。夏の課題は多い。

「はぁ〜…。…でもさ、言い出したわたしが言うのもなんだけれど、実際二人とも他の友達と約束があったりしないの?」

テーブルに片肘を着いて顎を乗せ、シャープペンをくるくると指で弄び始めたなまえに、これはもう休憩モードに入ったなと二人は確信する。

「僕は他の誰とも約束をしていないから問題ない」

「おれも特にこれといってねえよ」

「えー、うっそ。二人とも人気者なのに…なんか変」

「変って…。僕が人気かどうかは別として、人気があるのと友達が多いのは違うだろ」

横目で承太郎を見ながら言う花京院の言葉に、なまえは「確かにそうか」と頷く他ない。
承太郎のスクールライフを見ていれば、花京院の言葉は確かに的を射ている。

そして自分に人気があることをいまいち分かっていない彼もまた、無意識ではあるが承太郎と同じ気持ちなのだろう。
憧れと友情は違う。

「じゃあさ、二人は去年の夏休みとか何して過ごしてたの?」

「去年…?」

ほぼ興味本意で投げかけたなまえの問いに、どちらともなく呟き、ふむ、と去年の夏を思い起こす素振りを見せる。

「…水族館と船の展示に行ったな」

「へえ!いいじゃん、夏っぽい!」

海の生物や乗り物なんかが好きだという承太郎らしい。
きっと水族館に行ったのは一回や二回ではないだろう。
ちなみに一人で?とは敢えて聞かなかった。聞けなかった。

「僕は…ああ、家族と旅行に行ったな」

「あー、いいなぁ。花京院家って仲いいよね」

話で何度か聞いた程度だけれど、花京院家はよく家族旅行に行くらしい。
素直にいいことだと思う。
友達とはなにかないの?とは聞けなかった。聞かなかった。

「そういうお前はどうなんだ」

「え、わたし?…んー、普通だよ?海行ったり、お祭り行ったり…あとお泊り会したり」

「お泊り会…ふっ、幼稚園児か」

「ノォホホ、言うなよ承太郎。僕だって我慢したのに」

「…腹立つ…!じゃあなにか。パジャマパーティーって言えばいいの」

「やめろ、腹痛ェ」

「キミそこまでは笑ってないよね?!」

素直に夏休みの過ごし方を話しただけだというのに、謎の屈辱を受けたなまえは大変ご立腹である。

言ってはなんだが一番青春エンジョイしているはずだというのに。
解せない気持ちでなまえは唇を尖らせた。

「でも海とか祭りとか、今までほとんど行ったことがないから一度くらいは行ってみたいかな」

「おっ!花京院、海とかお祭りに興味あるの?」

「うん。小さな頃に行った記憶しかないし」

「それはもったいない!高校生には高校生の楽しみ方があるのに!」

「遊び人め」

「こら承太郎、遊び人言うな。違うからね?キミらがあまりに高校生していないだけだからね?」

いつの間にか完全に手から離れて紙面上に転がっていたシャープペンで二人を指す。
この二人は他の同級生とは少しズレている、と前々から感じていたなまえだったが、それはそれで二人の個性だと納得していたし、魅力だとも思っていた。
だからこそ特に口出しすることもしなかった。
しかし、一般的な高校生が楽しんでいることに興味があるというのなら別だ。

彼ら二人とも、普通に遊んでみたい。
その気持ちはなまえだって同じなのだから。

「…よし、決めた。夏休みの課題、頑張って早く終わらせよう」

「あ?最初っからそう言ってただろ」

「そ、そうだけど!もっと頑張るってこと!」

「…あまり無理しても仕方ないと思うけれど、」

「仕方なくない!遊ぶ時間いっぱい作って、二人とたくさん思い出を作る!目標があれば頑張れる子だからね、わたし!」

「…、」

「二人も何して遊びたいか、ちゃんと考えといてねっ」

ぎゅっと強くシャープペンを握り直すなまえに、承太郎と花京院は顔を見合わせる。

勉強が嫌いで、30分も集中すれば糸が切れるようななまえが。
自ら『勉強を頑張る』と言った。
しかも、『自分たちと思い出を作る』ために。

なまえと行きたい場所、やりたいこと。
すぐには思いつかないけれど、きっと一緒にいられるだけで心地いいのだろう。
今でさえ、そう感じているくらいだ。

二人は胸の奥が熱くなる感覚を僅かに感じながら、太陽の光に目を細めた。

「…なまえ、そこ間違えてんぞ」

「えっ!」

課題終了まで、優秀なスパルタ教師兼監視役が降臨するのは必然である。


end

『3部高校生で夏休み何して遊ぼうかの話』とのリクエスト。

…うん?なんだか微妙にずれている気も…?

今更ながらご希望に沿えているのかとても不安になって参りましたが、少しでも楽しんで頂けましたら光栄でございます…!




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