シーザーと年下乙女の片思い


この学園には所謂イケメンと言われる人が沢山いる。

背が高くて、スタイルが良くて。そしてお顔が美しいやらかっこいいやら。
そんな人が少なくとも1学年に4、5人以上。教師の中にもかなり。
当然女子生徒が放っておくわけがなくて、ファンクラブや派閥なんてものがあるくらい。

わたしはそういうものへ参加しているわけじゃあないけれど、実はひっそりお慕いしている人がいる。

ひとつ上の学年、2年のシーザー先輩。

シーザー先輩はルックスだけじゃあなくて、成績優秀、文武両道。優しくて頼りになる。なにもかも完璧な人だ。

ファンクラブがある人の中には女生徒を鬱陶しがる人もいるみたいだけれど、シーザー先輩はいつも笑顔で言葉を聞いて、しっかりと返している。
そんなところも人気だし、わたしも大好き。

けれど、わたしみたいな人にも優しく接してくれるから、つい…勘違いをしてしまいそうになるんだ。

わたしにも、望みがあるんじゃあないかって。

わたしのことを、もしかしたら覚えてくれているんじゃあないかって。

「…おい、聞いているのかみょうじ。…みょうじ なまえッ!」

「えっ!は、はいっ!?」

「このディオの授業中に呆けるとは…いい度胸をしているなァみょうじ?」

「わ、わーい…褒められちゃった〜…」

「そうだな。褒美に放課後になったら雑用をさせてやろう」

「遠慮させて、」

「ああ、もっと別のことがよかったか?課題2倍コースというのもあるが」

「よぉし、雑用がんばるぞーっ!」

「…HRが終わったら職員室に来い」

「はぁい…」

ふん、とディオ先生は鼻を鳴らし、再び黒板へと向かい授業を再開した。

ディオ先生もすごくかっこいい人だけれど、Sっ気が強いというか、謎の威圧感というか。
一部の生徒にはすごく人気があるけれど、今回みたいな罰を受ける人に対して羨望の目を向ける人はほとんどいない。
むしろ「あいつ、やっちまったな」的な憐みの視線を感じるくらいだ。
別に、悪い先生ではない。と、思うけれどね。

あーあ、帰りにシーザー先輩を一目見て帰りたかったのになぁ…。

思わず溜息が出てしまうけれど、授業中にぼーっとしていた自分が悪いんだし…仕方ない。

今度注意されたら雑用と課題2倍の特別ハイブリットコースに処される可能性が高いので、わたしは気持ちを切り替えて教科書とノートに意識を集中させた。



「それじゃあなまえ!ディオ先生のお仕置き、頑張って!」

「うぅ…、他人事だと思って…」

「他人事だもーん。んじゃ、また明日ね〜」

「ばいばーい…」

授業が終わり、HRが終わり。
薄情な友達は軽やかに手を振って爽やかに帰って行った。

わたしはその背中に力なく手を振り見送る。

とりあえず帰り支度を済ませ、鞄は席に置いたまま職員室へ。

雑用ってなにやらされるんだろ…。

書類整理とか荷物運びかな?
…うーん、荷物運びは女子だとあんまり役に立たないって言いそうだし…書類整理かなぁ〜。

と、考えていたのだけれど…。

「あ…甘かった…!」

つい5分前の考えを知っていたかのように、指示された雑用はまさに荷物運び。
結構大量な本や書類の山…。

「何往復しても構わん。これを全部上の準備室へ運べ」

「一人で全部、ですか…?!」

「当たり前だろう。これは貴様への罰なんだぞ。俺はしばらく職員会議でいないしな」

「ひぇ〜…」

わたし、一体何往復したらいいの…。8…いや、10往復くらい…?
階段の上り下りのことを考えて今から疲れてしまいそうなわたしを置いて、ディオ先生はさっさと職員会議室へ行ってしまった。

鬼畜っ!

しかし嘆いても何一つ変わらないので、仕方なく書類の山へ手を伸ばす。
まずは分厚い本から片づけよう。
最初のうちはちょっと多めに持っても大丈夫かな?

体力に余裕があるうちに少しでも多く減らしたくて、わたしは結構ギリギリまで本と書類を積み上げた。

先生方がいないことをいいことに足を使って扉を開き、がらんとした廊下を歩く。
階段を半分登り、少しズレてきた書類の山を整えようと足を止めた時。

「わ…っ!?」

一陣の風が吹いた。
踊り場の窓が開いていたことは確かに見えていた。

けど!まさかこのタイミングで風が吹き付けるなんて…!

バサバサバサッ!

「あ、あああ…」

ああ、書類が舞っていく…。書類をまき散らすとかなんてベタな…。

踊り場に広い範囲で散らばっていく書類たち。
思わず呆然と固まってしまったけれど、ひとまず二次災害を防ぐために残りの書類を足元へと下ろし、窓を閉める。

書類、踏んでないよね?
もし上履きの跡なんかついてたら課題2倍…いや、3倍…とか…。

想像しただけで恐ろしい…!

…しかし不幸中の幸いというか、今が放課後でよかった。

人もいないしゆっくり拾える。
はぁ…。とほほ、ってやつです。

「大丈夫かい?なまえちゃん」

「あ、ごめんなさい!すぐ片づけ…って、し、シーザーせんぱいっ!?」

溜息を零しながらのたのた書類を拾い集めていると、上の方から声をかけられた。
人もいないしゆっくりやればいいやと呑気していたわたしは、慌ててその人に頭を下げる。
そして顔を見上げたら、なんということでしょう。
わたしが一方的に想いを寄せているシーザー先輩が、そこにいた。

「大変そうだね。手伝うよ」

「えっ、いえその滅相もないです!先輩の手を煩わせるなんてそんな、」

「前にキミは手伝ってくれただろ。今度は俺の番だ」

「えっ」

「あれ…、もしかして覚えてないか?去年、冬に公園で…」

「お、覚えてます!ちゃんと!」

むしろ、シーザー先輩の方こそ覚えてないと思っていた。
そういえば、さっきもわたしの名前…呼んでたっけ。
…覚えてて、くれたんだ…。

「あの時なまえちゃんが一緒に探してくれたおかげで、弟のキーホルダーは見つかったし俺もバイトに間に合ったんだ。本当に助かったよ」

「いえ、そんな…でも、よかった。お役に立てて嬉しいです」

「あの時は中学生だったキミをこの学園で見つけた時、俺はすごく嬉しかったんだ。また会いたいと思っていたからね」

書類を拾い集めながら、シーザー先輩はわたしの方を見て、にっこりと笑った。

もう、なんというか…爆散しそう…!

近くにシーザー先輩がいるというだけでドキドキしてしまうのに、名前を呼んでくれて、わたしを見てくれて。
一対一で、そんな嬉しい言葉を言ってくれるだなんて…。

う、嬉しすぎて泣きそう…!

「わたしも、この学園に来て先輩に会えてすごく嬉しかったです。…ていうか、シーザー先輩がいるからこの学園に来たいって思って頑張ったんですよ…へへっ」

「え…それは…、」

「え?」

シーザー先輩が手を止めて、驚いた顔でわたしを見つめている。
あれ?わたしもしかして何かマズイこと言っちゃった…?ドン引きされるようなこと口走っちゃった…?!

ふわふわ浮足立ってあまり考えなく喋っていたわたしは、一気に嫌な感じのドキドキで支配されていく。

「なまえちゃんも、俺に会いたいと思ってくれていたのかい…?」

「は、はい!もちろんです…!」

「そうか…。俺だけが浮足立っていると思っていたんだが…、」

「…先輩…?」

「ああ、すまない。なまえちゃんも俺と同じ気持ちでいてくれたことが嬉しくて堪らないんだ」

「…っ、」

一度下を向いてしまったシーザー先輩は、それでもすぐにまたわたしの方を見てくれた。

その笑顔は、いつも見ている爽やかな笑顔とは違う、少しはにかんだような…何処かかわいらしい笑顔。

遠くから見ていたり、ほんの少しだけお話をしたりしただけで苦しくなるわたしの心臓は、今…痛いくらいに強く、早く。
全身に熱い血を巡らせていく。

「今まではあまり話す機会がなかったけれど、これからは積極的に話しかけてもいいだろうか?」

「よっ、よろこんで…っ!」

grazie ありがとう!」

シーザー先輩は本当に嬉しそうにそう言うと、ゆっくりになっていた書類集めを再開し、そのまま荷物運びまで手伝ってくれた。
10往復くらいは覚悟していた荷物運びは半分以下の3回で終わり、ほんのちょっぴり名残惜しいなと思っていたわたしの心を知ってか知らずか。
シーザー先輩が一緒に帰ろうと言ってくれて。

今まででは想像もできないくらい沢山話すことができた。

夢みたいだったなぁ…。
幸せ気分で眠りに就いたわたしは、次の日からもそんな夢みたいな日が続くだなんて…それこそ、夢にも思っていなかった。


end

『現パロでシーザーに片思いする年下ヒロイン』とのリクエスト。

片思いするヒロインっていうか…両片思いにしてしまいました。
もうなんか勝手にすみません…!

少しでも楽しんで頂けましたら光栄でございます!




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