高校生と露伴先生がスイカ割りに挑戦する
「海だーっ!」
「海なんて別に珍しくもなんともないだろ。車でたかだか20分程度だぜ」
「…もー、露伴先生ったら。こういうのはいかにテンションを上げて楽しむかじゃあないですか」
露伴先生が出してくれた車からハイテンションで降りたわたしを露伴先生が生温い目で見てくる。
けれどもわたしのテンションは落ちない。
こんなことくらいで萎えるようなら露伴先生に付き添いなんて頼めない頼まない。
「おーいなまえ、これおめーのだろ〜?」
「あ、そうそう!億泰ありがとうー!」
トランクに入れていた荷物を分担して持ち、わたしたちは浜辺へと向かう。
今日は快晴。夏真っ盛り。
仗助、億泰、康一くんと由花子ちゃん。それからわたしと、付き添いの露伴先生の計6人で近場の海へとやって来た。
これぞ夏休みの定番だね!
当たり前といえば当たり前だけれど、着替えたみんなは学校指定のものとは違う水着。
なんだか新鮮だし、それだけでテンションも上がる。
ていうか、あれだね。みんなスタイルいいね?
由花子ちゃんは同じクラスだし、体育のプールで一緒になるからそのナイスバディはよく知っている。
それでもやっぱりプライベート水着の破壊力たるや…。本人は康一くん以外アウトオブ眼中って感じだけれど、顔良しスタイル良しの彼女に向けられる視線はひとつふたつではない。(わたしを含む。)
それに、仗助、億泰は服を着ていてもガタイがいいのは分かるからまぁ予想どおりではあるけれど、やっぱり結構立派な身体をしておられる。でもむさ苦しい感じはしないのが不思議。細マッチョ、って感じだからなのかな…。
そして康一くんは、あんまり見てると由花子ちゃんに睨まれてしまう恐れがあるが…思わず二度見してしまった。
だって、仗助たちとまではいかないにしても、意外に結構筋肉質な身体だったから。顔のつくりとか身長とか、どうも可愛いと思いがちだけれど、やっぱり康一くんも男なんだなぁ、なんて当然のことをしみじみ思ってしまった。
ちなみに露伴先生は上にパーカーを着ていて露出が少ない。下手したら私服の時の方が露出しているくらいだ。…女子か。
「よーし!じゃあみんな、荷物はわたしが見てるからひと泳ぎしておいで!」
「おい、荷物番ならぼくがしてやるから、キミも一緒に行って来ていいんだぞ」
砂浜の空いているスペースにパラソルを突き立てて、その下にレジャーシートを敷いて荷物をまとめる。
わたしが荷物をしっかり守ります!という意気込みでその荷物の前に仁王立ちしてみんなを送り出そうとすると、露伴先生が鞄からスケッチブックを取り出しながらわたしに言った。
露伴先生が気を遣ってくれたことに、失礼ながら若干驚いた。
でもやっぱりその気持ちが嬉しくて、わたしは自然と笑顔になる。
「ああ、わたし実は泳げないんですよ〜」
「はぁ?」
顔の前でひらひら手を振りジェスチャー付きで先生の提案をやんわりお断り申し上げると、先生はとても怪訝そうなお顔。
…いや、今の「はぁ?」は…実は先生だけじゃあなかったけれども。
少なくとも先生と仗助と億泰と康一くんと…うん?由花子ちゃんとわたし以外の全員…だと…?
「え、なまえお前…カナヅチなのかよ!?」
「うん。そのとおりだけど仗助声デカい。一応恥ずかしいんだから拡散しないで」
そう、わたしみょうじ なまえはカナヅチ。泳げません。
プールの授業の時とかビート版が本当に手放せない。手放した瞬間わたしの人生終わる。
本当に恐ろしい授業ですよ、まったく。
みんなもそれを知っているものだと思い込んでいたけれど、そういえば高校って体育は男女別だし、仗助と康一くんはクラス違うし。よく考えたら知らなくても不思議じゃあない。
「なまえが泳げないのは知っているけれど…まさか着替えるだけ着替えてまったく海に入らないつもりなの?」
「泳ぐだけが海じゃあないよ、由花子ちゃん!まぁつま先程度ならいける!」
「浮き輪とかは?持って来てないの?」
「康一くん…真のカナヅチは水に浸かるだけで恐怖なんだ…」
「あなた…それでよく海に行こうって言い出したわね」
「えー?普通に好きだよ、海。楽しいじゃん、海」
荷物番っていっても足元に広がる砂があれば暇なんてしないし、泳いでるみんなを遠目から見るのも楽しい。ちょっと前に承太郎さんから砂場や浅瀬で見つけられる海の生き物について少し教えてもらったし、ビーチボールも持ってきた。
完璧じゃあないか!
わたしとしてはまったく問題ないけれど、みんなはなんだか納得いっていない顔。
そして、仗助がちょっと京都行こうみたいなノリでひとつの提案を口にした。
「スイカ割りをしよう」
「スイカ割りぃ?仗助おめースイカなんか用意できんのか〜?」
「実はお袋から持ってけって言われてよぉ、持って来てんだよ」
「だから仗助くんのリュック、あんなにぱんぱんだったんだ…」
康一くんがちらりと視線を向けた先には、件の仗助が持って来たリュック。
わたしもその膨らみが少し気になってはいたんだけれど、まさかスイカが入っているとは…。
「持ってけって言うお母さんもお母さんだけど、それをちゃんと持って来る仗助すごいな」
「いや〜、みんなびっくりすっかなーってね。まさか、こんな初っ端からお披露目することになるとは思ってなかったけどよ〜」
仗助は悪戯っぽく笑ってリュックの中に両手を突っ込み、何が出てくるのかは分かりきっているのに、わたしたちは仗助の周りを囲んで静かに見守る。
「よ…っと」
間もなくリュックからスイカがお目見え。…リュックからスイカってなかなかシュールだなぁ。
露伴先生はそんなシュールな光景を見ながら物凄いスピードで鉛筆を滑らせている。
確かにこんなシーンはなかなかないと思うけれど、それを漫画に反映させるような話があるのだろうか…。
「スイカ割りか…いいね。とてもベタだが王道イベントだ。実際にどんな動きをすることになるのか…興味がある!」
おお…先生がやる気満々だ…。
「あ、叩く棒はどうしようか。幽波紋で殴る?」
「おいおいおいおいおいおい、幽波紋なんか使ったらリアリティに欠けるだろ。まったくキミはなにも分かっていないななまえ。仕方がない、ぼくが探してきやるよ」
「お、おお…よろしくお願いします、先生」
本当に興味のあることについてはとことんやる気出すな、露伴先生。
さっきまでつまらなそうにしていたのに、言うや否やさっさと何処かに棒を探しに行った。
「仗助がいるからスイカはひとつでも割りたい放題だね。割って直してそして割る!」
「おお、確かにそうだなァ!節約にもなる」
「あはは、億泰くんらしいなぁ。まぁ食べられるのは一個分しかないけど」
「そんなにスイカを食べて康一くんがお腹を壊してしまったら大変だわ。一個くらいで丁度いいじゃない」
「お前らどんだけスイカ割る気だよ…別に直すのはいいけどよ〜」
他愛無いスイカ談義で盛り上がって数分、あ、と声を上げた康一くんの視線を辿れば、何処から拾って来たのだろう。露伴先生がこれはまた見事に丁度良さそうな木の棒を片手に戻って来ていた。
その顔はなんだかすごく満足げというか、得意げというか。
「ほら、このぼくがわざわざ探して拾って来てやったんだ。さっさとスイカ割り、始めろよ」
「わっ!?…え、わたしがトップバッターなの?!」
流れる動作で投げられた棒はわたし目掛けて飛んできて、結構呑気していたわたしは慌ててキャッチ。…別に落としてもなんてことはないんだから慌てなくても良かったんだけどね。投げて寄越されるとつい、ちゃんとキャッチしなきゃ!って気になっちゃうよね。あるある。
「なまえのためにこの秘蔵っ子をこんなに早く出したんだしな。おれはなまえからでいいぜ」
「スイカ提供者の仗助くんがこう言ってるんだもの。ね、なまえさん」
「う、うん。ありがとう…へへっ」
そして、みんなの優しさでトップバッターになったわたしは、只今露伴先生によって入念に目隠しを巻かれている。
「ちょっとでも見えたりしていないだろうな?」
「いや、流石にこれだけ巻かれたら何も見えませんって。一寸先どころか闇しかないですよ先生…」
「そうか、ならいい。…ふふ、なんだかいい恰好じゃあないか、なまえ」
「怖っ!先生怖いよ!?」
一体何に目覚めちゃっているんですか露伴先生…?!
先生の発言に一瞬鳥肌が立つが、性格が拗けている露伴先生のことだ。きっと冗談に違いない。そうであってほしい。
わたしは自分にそう言い聞かせながら、例の棒をさくっと砂に軽く刺し、そしてそれを軸にくるくる回る。
十回転したところで少し遠くの方から「これで“わん”とか言わせたらさぞ滑稽だろうな」なんて言葉が聞こえた気がしたけれど気のせいですよね。ねえ先生?!
真っ直ぐ立っていられないくらいふらふらの足取りになったわたしは、仗助や康一くんの「右だ」「行き過ぎ」「もうちょい左」という声を頼りに暗闇を進む。
ちょいちょい「左!あ、いやなまえから見ると右?俺のこっちがこうだから、えーっと、」といった感じの億泰による妨害があったが、彼の声は当てにしないことにした。
当てにしないのはいいけど億泰声大きいよ!よりによって一番声大きい!後で覚えてなさいよね…。
そういえば、不穏な言葉以降露伴先生の声が全然しないな。…わたしがふらふらしてる軌道とかを観察してるんだろうなぁ…想像するに易しとは正にこのこと。
転んだり何かにぶつかったりしないかという不安を紛らわすように余計なことを考えながらも、どうやらわたしはもうスイカの目の前に差し掛かっているようで。
「なまえさん、そこだよ!そのまま振り下ろして!」
「イエッサァーッ!」
康一くんの声に従い、わたしは思いっきり棒を地面目掛けて振り下ろす。
「げ…っ!?」
振り下ろした棒から、思ったよりも鈍いとはいえ何かにぶつかった感触が伝わってきた。
それと同時に上がった、仗助たちの歓声…とはちょっと違うような…?
げ?今、『げ…っ!?』て言った?
わたしは状況が分からずに、急いで目隠しの結び目を解く。
強い夏の日差しに一瞬目がチカチカしたけれど、瞬きをすればすぐに視界はクリアになった。
目の前にはきれいに、とはいかなかったけれどひびが入ったスイカ。
そして、見覚えのある棒…が、折れて転がっている。
「え…?」
「だ…大丈夫ですか、露伴先生…?」
混乱するわたしの耳に、斜め後ろの方から控えめな康一くんの声が聞こえた。
すぐにそちらの方を振り向くと、そこには驚いた顔をしている億泰と、顔を引きつらせている仗助。
由花子ちゃんは康一くんを守るようにその髪で自分の方へ引き寄せていて、そして。無表情の、露伴先生。
先生の目の前には、先ほどわたし自身の目の前に転がっていた折れた木の棒と、同じような棒が突き刺さっていた。
スケッチブックを巻き込んで。
「お、おい露伴…大丈夫だって。おれがきっちりもとに戻してやるからよ。なっ!」
「そ、そうですよ露伴先生!仗助くんのクレイジーダイヤモンドなら…って、これ…壊れたわけじゃあないよね…?戻すって言っても描いた絵まで消えちゃうんじゃあ…、」
「…いや、心配いらないよ康一くん。ぼくは全然気にしちゃあいない」
先生が康一くんににこりと笑い、ぐにゃりと曲がったスケッチブックを拾って立ち上がったところで、わたしはようやく全てを理解した。
つまり、割れたのはスイカじゃあなくて…あの棒だった、と。
「あ、あの露伴先生…怪我は、」
「怪我はしていない。大事なものは失ったがね」
「け、怪我してなかったなら良かったです、本当…ああああの露伴先生ちょっとあの何処へ引っ張って行ってるんですかちょっと露伴先生―っ?!」
康一くんに向けた笑顔は何処へやら。
全然気にしていないと言った先生は無表情でわたしのところへ歩いて来ると、わたしの首を掴んでずるずると何処かへ引っ張っていく。
確実に海の方へ向かっている。嫌な予感しかしない。恐怖しか感じない。
「なまえ…、キミはカナヅチと言っていたな」
「は、はい。本当にまったく泳げませんです…」
「高校生にもなってそれは困るんじゃあないか?」
「いえ、別にそんなには、」
「ぼくが練習に付き合ってやるよ。なーに、文字どおり全身を水に浸ければすぐに慣れるさ」
「いやァアアッ!荒療治反対!荒療治反対ぃいい〜っ!」
わたしがこの夏泳げるようになったかどうか。
それはまた、別のお話である…。
end
『4部高校生 + 露伴先生と泳げない夢主がスイカ割りに挑戦する日常風景』とのリクエスト。
ひとつのお話に複数キャラを出すのが苦手で、できるだけごちゃごちゃしないようにしよう!と心がけたつもりだったのですが…やっぱり難しいですね…へへ…。
少しでも楽しんで頂けましたら嬉しいです。
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