イケメンは今日も輝いている

「孤爪くん、孤爪くん…みてみて」
「………やだ」
「あそこにいるのって黒尾先輩だよね?!」

ねぇねぇ!と後ろの席でゲームをしている孤爪くんの腕を掴む。

「ちょ、ほんとやめて。後にして」

孤爪研磨という男は、表情の変化が乏しいわりに嫌悪、そういったものに対しては表情が豊かだ。現に今、ゲームの邪魔をされて顔が歪んでいる。まあ、ゲームの邪魔をしたら誰でも怒るか。ひとりで納得し、孤爪くんからグランドに目を移す。

「はぁ〜窓際の席、さいこー」

2年3組、窓際、列は真ん中。ここが私の席。その後ろには去年から同じクラスのお友達、孤爪くんの席だ。

「クロ、どこにいるの?」

ゲームが終わったのかグランドを見る孤爪くんは目を細める。終わったらこうやって、話を流さないでちゃんと聞いてくれるところが彼の優しいところだ。

「あそこあそこ!」
「え、どこ?」
「あの、木に寄りかかっている!」
「……………髪しか見えないじゃん」

それもなんであんな遠くにいるのにわかるの、と若干引き気味で私を見る。そう!あれは黒尾先輩の髪!ツンツンしているところが少し見えるのだ。

「だって輝いているじゃん」
「どこが」
「ほら!今走った!キラキラしてるでしょ!!眩しくて見えづらくなってる!」
「あれ、ただの砂埃…」






みょうじなまえ、高校2年生、16歳。愛する人は黒尾鉄朗先輩。
そして、今私の隣を歩いているのが孤爪研磨くん、黒尾先輩の幼なじみで私のお友達。黒尾先輩と幼なじみだから仲が良い、良くなったという訳ではない。その逆だ。孤爪くんと仲良くなってから、黒尾先輩の存在を知り、私の心は奪われてしまったのだ。

「え!…おしるこがない。…はっ!コンポタも!みそ汁もないじゃないか」

飲み物を買いに教室を出ようとする彼に、喉が渇いていたので私もお供することにしたのだが、目当てのものがひとつもなかった。

「喉渇いてたんじゃないの」
「渇いてた。おしるこで潤いたかったのに」

この間はあったのに…!そう嘆く私を無視して自分の飲み物を買うと、置いてくよと猫背で歩き出す孤爪くん。ゼリーが入ってるので良いか、ボタンを押し、缶をシャカシャカ振りながら後を追う。

その飲み物を見て「余計、喉渇く」と言うので「美味しいからいーの」と答えたら、イケメンボイスが耳の中に乱入してきた。

「おー、研磨ー…とみょうじちゃんじゃん」

相変わらず仲がよろしいことで、とニヤニヤしながら近寄ってくる黒尾先輩。
さっき遠くから眺めていた好きな人が目の前にいるなんて、とんでもないことで。孤爪くんの背後に周り隠れ、肩をガシっと掴んで揺さぶる。

「孤爪くん、孤爪くん!!目の前に黒尾先輩!いる、目の前に!!声が、顔が、雰囲気が、喋り方が…全てが輝いていて、盾無しでは死んでしまう」
「俺を盾にしないで」
「…はーい。黒尾先輩ですー」
「な!?はっ!!」

黒尾先輩は自身の長身を生かし、盾(孤爪くん)をものともせず間に挟み、上から覗き込んできた。

「し、し………死亡」

あまりの近さに心臓が停止した。孤爪くんの制服をシワになるくらい握り締める。

「クロ、離れて」
「えー面白いのに?」
「……もう知らない」

そう言って私を引き剥がす。

「うえっ」

あ、ちょちょちょまったぁぁぁぁ!ふたりきりなんて駄目!絶対駄目!!
黒尾先輩に一礼して「まってええええ」と叫びながら走る。後ろの方で、「走って転ぶんじゃないよー」なんて声が聞こえてくるもんだからキャパオーバー。

え。素敵。