コミュ力無限大

山本猛虎。

ただいま、大変困っております。

研磨に部活の連絡をしに教室まで来たものの、出入り口には女子、女子、女子。呼んでもらうにも俺には話しかける勇気はない。
なんとか怪しまれないように隙間から教室の中を覗くと、そこにはお目当ての相手はいなかった。

クソォ、どこにいんだよ研磨のやつ。昼休み中に伝えねぇと午後はこっちに来れねぇっつうのに。


「孤爪くん探してるの?」
「うおっ……え!ぁ、う、あ…は、い!!」

どうしたものかと悩んでいたら、後ろから急に女子の顔が覗き込むように現れた。この人、研磨とよく一緒にいる女子だ。それにしても、顔近っ…!パーソナルスペースどうなってんだ…!!

「トイレ行ってるから、もう少しで来ると思うよ!」
「そ、そそそそそそっスか」

俺は今、じょ、女子と話をしてる…!しかし、目が合わせられなくて泳いでしまう。泳ぐんじゃねぇ…俺の黒目…!しかし、そんなことは気にせず、目の前の女子は話を進めた。

「孤爪くんが行くならって、連れションしようとついて行ったんけど怒られて戻ってきたんだあ」
「…え、…連れ…ション」
「そー。バカなの?って言われたよ!」

ああ。…うん。申し訳ないが、俺もそう思う。スンッと真顔になったのが自分でもわかった。なんか、この人…

「…虎、どうしたの」

そこに聞き慣れた声が聞こえ、やっと戻ってきたとホッとして連絡事項を伝える。時間ももうないのでさっさとここを去ろうとしたら、隣から制服の裾を掴まれた。……え?

「虎?!……名前、虎って言うの?!」
「え、…え?」
「かっこいい〜!!私も呼んでいい?…あ!みょうじなまえという者です!」
「や、山本……猛虎」
「たけとら?…おお!だから虎なのね!いいないいな!略して虎なのかあ」

なんなんだ。このテンション、というかこの人のペース?研磨と一緒にいるところを見かける時は、いつも研磨がゲームをしてるのを黙って覗きこんでいるからこんな感じの人だとは思ってなかった。
つーか、なんでこの2人は仲が良いんだ?タイプが違すぎるだろ。研磨がウザがりそうなタイ…ごふん、ごほん。いやいや、そういうことを考えるのは良くねぇ。

「ねえねえ私達もさ、あだ名で呼び合おうよ!!」
「え、やだ」
「んー、こづめー…こづこづ?こづめん?」
「やめて」
「ああああ!こづけんは!?孤爪のこづと研磨のけん!どう??」
「………もう話しかけてこないで」
「えーごめんー」

………もしかして、これは…

「付き、合っているのか…!?」
「は?」「??」

意外とタイプとは違う人と付き合うと誰かに聞いたことがあった。そう思って聞いたのだが、とんでもなく嫌な顔をされた。みょうじさんに至っては、有り得なさすぎてその意味を理解していない様子だ。
まるで苦虫でも噛み潰したような顔をする研磨は、何かに気づいたらしく窓の外を見る。

「あ、クロ」

廊下の窓から渡り廊下が見え、そこには黒尾さんと夜久さんが歩いていた。

「え、え、え?!どこどこどこ??あ!いた!!うああああああああ…歩いている!エロッ」

さっきまで研磨に納得してもらうあだ名を静かに考えていたのが、嘘のように窓に飛びつく。凄まじい勢いに一歩下がった。

「うわああ、もう見えなくなっちゃった。渡り廊下短くない?100メートルほしくない?ねえ、虎!!」

頭がぶっ飛ぶくらいの振り返りを見せるみょうじさんに身を引いてしまった。

「あ、ああ…?…黒尾さんのこと気になんのか?」
「気になるなんてもんじゃない!気になりすぎて夜も眠れないの!!」
「いつも8時には寝てるじゃん」

寝てんのかよ。それを何で研磨は知ってんだ。

「あ、あのさ、虎」
「………」

なんかわかってきたぞ。これは、変なことを聞かれそうな嫌な予感。

「黒尾先輩とお風呂入ったことある?」
「……まあ、合宿とかあるからな」
「先輩はどのような下着を…」
「………」

これはどう答えればいいんだ。みょうじさんの圧が凄いが、俺には尊敬している先輩を売るようなことは…ておい!研磨!!逃げんな、ご愁傷様みたいな顔でこっち見んな!!お前の友達だろ!?

両腕をがっしり掴まれ真っ直ぐ見つめる目に、逃げる術が思いつかねぇ。女子にこの距離で触られて、見つめられてんのに、なんも思わないのは初めてだ。
去ろうとする研磨に「根性見せたら?」とボソッと言われ、殺意しかわかない。そう言われても目を泳がせることしか出来ない俺を見兼ねてか、「次の授業、みょうじ当たるよね。今なら見せてあげる」と発し、教室に入って行った。け、研磨…!!お前はそういう奴だってわかっていたぞ!!

「うわ!そうだった!!ごめんね、引き止めて!!」
「いや」

続いて中に入って行くみょうじさん…呼び捨てでいいだろう。みょうじの後ろ姿を見ながらため息を溢す。

「根性が足らん」

あれ?俺、普通に女子と会話してた?いや、みょうじは女子なのか…?