双子の喧嘩
土曜日の昼下がり。学校に宿題のプリントを忘れて取りに来ていた。
目当てのものを取り終え、バレー部が練習している体育館の前を通る。みんなお昼を食べているのか中には誰もいなく、そういえば生で試合を見たことがないのことに気づいた。卒業するまでに一回は見てみたいな。勿体ないもん。折角、稲荷崎にいるんだし、と私のミーハー心がうずく。
でも、試合の日がバイトやアイドルのイベントと被ることが多い。今の私はアイドルの方が優先順位が上なのだ。だってこの瞬間のあの子は今しか見れない……!
あー早くライブの日にならないかな。推しの姿を頭に浮かべていると、近くで聞き慣れた声が耳に入った。
「ああ?!なんやと?!」
「何回でも言うたるわ!このろくでなし!人格ポンコツ!!」
どうやら、稲荷崎の名物。双子の喧嘩が体育館の中で行われていた。
初めて見ると興味が湧くが、取っ組み合いの喧嘩をしていて近づいては危ないと思い、その場を離れようとした。その時、どちらかが投げたボールが外まできて、バウンドしたボールが転がり私の足に絡まる。実を言うと、私は運動音痴だ。
バランスを崩したせいで、手が緩み持っていたプリントが風に飛ばされ、その方向に池があり、私はそのプリントの代わりに池にドボンっと入ってしまった。
「「……あ」」
凄い音がしたのか、先輩に止められたのかは分からないが体育館から出てきた双子は、やってしまったと顔を青ざめるのであった。
「えーっと……」
「………」
「やっぱり、自分の制服に」
バレー部の部室に治くんと二人きり。全身びしょ濡れになってしまった私は治くんのジャージ上下を着ている。流石に百八十センチ以上ある男の子の服は大きく、ダボダボ。彼シャツ、萌え。なんて言う人がいるが、これはなんていうか子供がシーツを被り、お化けごっこをしているようなものだと私は思う。
下は半パンだけど、緩い。紐がついているが、いつも決まったところで結んでいるのか、なかなかほどけない。多分、一回結んでそのままなのだろう。
家も近いし濡れたまま帰ろうとしたけど、濡れた私を見たバレー部主将、北信介がそれを許してくれる訳がなく。双子がすまんな、と言った後「暖かくなっとるけど、まだ肌寒いんや。風邪ひくで」なんて言って、代わりの着替えを双子に探すよう指示した時、治くんが自分がなんとかすると言って現在に至る。
あ。私、あの北信介と話してしまった。すごい……!思ってたより優しかったな。
そして部室で着替え終わり、ドアの前でしゃがんで待っていた治くんに声をかけて、あの状況になったというわけだ。
「凄くぶかぶかだし、部活終わった後着るでしょ?家も近いし、制服で帰るよ」
「駄目や。北さんも言うとったやろ。風邪引くて」
「うん。そうなんだけどさ、これちょっと」
緩すぎて手を離すと落ちちゃうと、ズボンから手を離した。
「!!」
「……あ」
すると本当に半パンは、ずるっと足首までずり落ちる。まずいと思ったが、上のジャージが大きめのお陰でぎりぎりパンツは隠れていた。手を上に上げたら、見えそうだ。と自分の足元にある治くんのジャージを見ていたら、大きな声が部室に響いた。
「自分なにして……!?はよ着ぃ!ほんまっ、ほんま!なにしてんねん!!」
普段からは想像つかないくらい焦り、私から目を逸らしてくれる彼に、謝りながら漫画でも見たことないかも……など呑気に考える。汚いもの見せてしまった。
「これ、紐が強く結んであってほどけないの。とれる?」
「……あかん。それはあかん」
紐の部分を治くんの方に向けて、ほどいてもらうように促すと、額に手を添えて息を吐きながら、近づき解いてくれた。
部活終了後。
「あ、いたいた。これ、ジャージありがとう」
「手間かけさせて、すまんな」
「いいえ。こちらこそ、です」
バレー部が終わる時間を見計らって、ジャージと濡れた時に借りたタオルを紙袋に入れて持ってきた。洗わなくてええから、と言っていたけど濡れてしまったタオルだけは洗ってドライヤーで乾かした。
「あと、これも。ここのおにぎり私のおすすめ」
近所にあるおにぎり屋さん。治くんは知っているか分からないが、昔からある懐かしの味だ。
おにぎりは好きだと知っていたが、具材は何が好きか分からなかったから、しゃけとおかかにした。
「くれるん?」
一瞬にして目を輝かせる彼に、またも母性本能が擽られる。どんどんあげたくなっちゃう。
「うん。どれが好きかわからなかったからね、私の好きな具材にした」
食べれる?と聞くと、「めっちゃ好き」と言われた。
「良かった」
安心して、へらっと笑ったら治くんは真顔になる。え?感に触ること言った……?
「良くない。さっきからそういうのやったらあかんで」
「あ、うん」
お礼を言って体育館に戻っていく治くん。
漫画ではわからないことがある。私は治くんの性格がわからなくなっていた。漫画と違くない?
そういえば、さっき稲荷崎バレー部の部室に入ってしまった。これは一生の宝なるだろう。