誰でしょう
放課後、二年一組の教室で黒い影がふたつ。
「なまえちゃん〜。助けてぇ」
「あと、これとこれとこれ切って貼れば終わりだよー」
「う〜……今日はほんまありがとな」
「いーえ」
私だけやったらこんな綺麗にできひんかった、と言う去年同じクラスだった友人。今年は隣のクラスで離れてしまったけど、今でも仲良しだ。
そんな友人は、三年のバレー部、大耳練のファン。宮兄弟のうちわが目立っているが、他の部員のうちわを持っている人もいて、今日はそのうちわ作りを手伝っていた。私もたまにアイドルのを作ったりしているから、という理由だけではなく、この子が超絶不器用だからだ。顔は学年、いや学校一可愛いと噂されるくらいなのに、手先は不器用、料理はできない、勉強もできない。と色々残念なところがある。そこが可愛いと思うけど。
「やっぱりもっと目立つ色にした方がええかな」
「いいんじゃない?大耳先輩っぽいし、それにユニホームと似てる」
「それや!」
納得したように私の方を指差す友人に笑みが溢れる。
ひと通り終わったので、トイレに行くと言って教室を出た。
あの子ちゃんと出来たかな。あと貼るだけだったし、大丈夫だとは思うけど心配。同じ学年とはいえ、人生二度目。三十年以上生きてたわけで、今の年齢足すと大体五十近い。おばさ……
……やめよう。こういう話はなしなし。
教室に戻ると何の音も聞こえなくて、終わったのだということが分かった。友人はさっきまで座っていた椅子にはいなくて、机の傍でしゃがみ込みうちわを見ていた。どうしてそこに?疑問を持ちながらも、こっちからは他の机に隠れて見えない姿に、いいことを思いついてしまった。
足音立たず、バレないように素早く友人の後ろに行き、手で目を隠す。
「だーれだ」
「!?」
少し声を変えて、耳元に口を近づけて囁くように言った。バレないようにギュッと抱きつき、そこで初めてこれ犯罪?などと考える。
……ん?…………あれ?
こんな、体格良かった?いやいや、私よりも小柄で。え、待って……。
恐る恐る顔を確認しようとした時「……みょうじさん…?」と声が聞こえバッと手を離す。
やってしまった。
友人ではなく、そこにいたのはあの宮治だった。私が手を離した時、少しだけこっちに顔を向けた治くんだが、イケメンは鼻も高いらしく、私と治くんの鼻が触れた。その瞬間、私は勢いよく後ろへ後退りながら謝る。
「ご、ごめんごめんごめんなさい」
「……いや、」
「友達かと思って!」
大事なお鼻に私はなんてことを、と治くんに近づこうとしたら一歩後ろに下がられた。
「いや、ほんま大丈夫やから」
二の腕で顔を隠し、反対の手を前に出す彼。あれ?なんか、照れてる……?
そうか。バレー界、最強のツインズと呼ばれていても普通の男子高校生。中身はおばさんでも、見た目はぴちぴちの女子高生なわけで。しかし、私なんかがその相手になってしまったのが申し訳ない。
取り敢えず、あまり気にしないように切り替えようと思って先日あげたマドレーヌのことを思い出した。
「あ。そういえば、マドレーヌどうだった?」
「は、マドレーヌ?……あ。めっちゃ美味かった」
ほんまに、とさっきの照れた姿はなく、目を輝かせた彼に良かったと微笑んだ。
「あれね、妹が作ったやつなの。料理得意なんだぁ」
私の自慢の妹だ。治くんに、妹のことを自慢をする。
「は?……自分が作ったんとちゃうの」
「私、料理苦手」
友達のこと言えないわ。そう言うと、ポカンと口を開けた。