前世の苗字
インターハイ予選。稲荷崎高校が優勝し、兵庫県代表として全国大会への出場が決まった。この大会で全国二位の結果を残すことを知っているのは私だけだろう。
試合が終わって初めての学校。教室では宮侑や銀島結らバレー部に声をかけにいく人達がいる。
特に宮侑は女子からも多く、先輩後輩なども通りすがった時やクラスに来たりと、それはもうアイドルっぷりを発揮していた。アイドルの様な神対応ではないが。確か、プロになってからそういうのができるようになったと書いてあったような、なかったような。もう約十七年以上も前のため、記憶は薄れてきている。
そんな宮侑同様に人気がある隣のクラスの宮治の名前も今日はいつも以上に耳に入ってくる。そのせいか、その苗字に何回かに一回は反応してしまう。
「宮先輩ー!優勝おめでとうございますー!」
四時間目が終了し、自分の教室へと戻る途中に一年生の子が大きな声で宮侑に向かって叫んだ。その後も教室に入る手前で同学年の男子生徒の声。近くに侑くんはいない。
「おーい、宮ー!!」
「……?」
「あ、いや。あれ?俺、今みょうじさんて言うた……?」
「ごめん。私が聞き間違えた」
今日何度も耳に入る、その苗字。気が抜けた時、思わず振り返って首を傾げてしまった。なぜこんなに反応するか。その理由は簡単で。
私の前世の苗字が、"宮"だからだ。
もう十七年、みょうじを名乗ってきているわけで。反応はしない。けど、気を抜いた時あるいは、前世のことを思い出している時はたまに反応してしまう。バレー部関係なら尚更、前の記憶を思い出す。それに、双子だからかほとんどの人が侑、治と呼ぶ。この学年に双子以外の宮はいない。たまに聞くその苗字だが、今日はたくさん聞こえるせいだと思う。
お昼。私のクラスで友人と一緒にお弁当を食べていた。いつもは中庭に行ったり、ベランダ、友人の教室、色々その日によって場所を変える。友人曰く、三年間しかいないこの学校のあらゆる場所でお昼を食べたい!だそうだ。
宮侑の席には食堂で学食を食べ終えたであろうバレー部一組メンバーを加えた四人でいることが多い。治くんは本当にいつもいる。仲良しすぎる。こんなの前世で知ってたらどうなっていたことか。いつも一緒というわけではないけど、よく見かける光景。
そして、宮治も加わり、宮の苗字がたくさん聞こえてくる。
お昼を食べ終えた時、教室の電話が鳴った。この学校にはひとつの教室に一台電話が取り付けられている。たまたま近くにいたため、そちらに向かい、受話器を取った。
「はい、宮です」
無意識に出た前の苗字。自分がその名字を口にしたと気づいたのは、先生の「あれ?……宮?みょうじやないの?あ!新手の遊びか!」と納得をし遅れてツッコミを入れられたのと、後ろを通った宮治が教卓に思いっきり足をぶつけた音が聞こえてからだ。
先生の電話の内容は、みんなが提出したノートを準備室に運んどいて欲しいという要件。食べ終わって、まだ時間もある。友人は手伝うと言ったけど、成績の件で職員室に呼ばれていた。これくらい一人で持てるし、誰かに頼むほどでもない。友人に、いってらっしゃいと送り届けた後、ノート達を持ち上げた。
「半分、持ちます……」
教室を出て直ぐに、宮侑ではなく違うクラスの宮治が手伝うと言ってきた。私の方は見ずに、横に視線を向ける治くんに首を傾げる。ていうか、何で敬語……?
自分のクラスのだし申し訳ないと思いつつも、折角言ってくれたのだから頼んでみることにした。
「いいの?」
「おん」
「ありがとう」
近づき、私からノートを取り歩き出した。取ってくれたんだけど、半分じゃない。え……?私、二、三冊くらいしか持ってないんだけど。
「ちょ、ちょっと。私、全然持ってないから」
「ええ。全然重ないし」
ま、まぁ、運動部からすれば重くないけど。けど、いっか。お言葉に甘えよう。楽してこう、楽を。お礼を言って、治くんの隣を歩いた。
……あれ?宮治にこんなことしてもらうなんて、私また階段から落ちて転生でもするの?急に不安が募った。それを振り払うかのように、治くんに話しかける。
「あの、さっき、ごめんね。聞こえてたよね、宮って言ったの」
「ま、まぁ」
「今日、ずっと宮くん達の名前聞いてたから、移ったっていうか。なんていうか……」
「……」
「不快な思いさせちゃったね、ご「そんなん思わへん!」……そ、そう」
隣を歩く治くんが勢いよくこっちに顔を向けた。びっくりした。関わる度に、彼のことがわからなくなる。会う前の方がわかっていたような気がする。
「私、宮くんの苗字好きなんだあ」
「……」
治くんから前へと視線を戻した。前世の名前を思い出しながら発すると、顔が少し緩む。また、宮って名乗ってみたいかもなんて思う。
「あ。宮くんと結婚したら、宮なまえになれるか」
「っ!!」
いいねいいね。いい考えと頷いていると、横からドサっとノートが治くんの手から全て落ちた。固まる治くんを見ながら、落ちたノートを拾うべくしゃがみ込む。
「そういうん……、あかんて」
片手で顔を覆う宮治を見て、また自分の失態に気づき、青ざめる。オタ話をしてる時のノリで言ってしまった。こんな友達でも何でもない女から言われたら、そりゃあ嫌だろう。
「ごめん、本当にごめんなさい」
「勘違いする奴おるからな。もうちょっと、気ぃつけて発言せんと……」
「あ、はい」
一瞬、北さんかと思うくらいの迫力で言われて素直に返事をした。でも、治くんは勘違いしないでしょう?ただ不快に感じるだけだと思う。
あ、でもさっきそんなことないって言っていたし。彼なりの優しさだろう。優しいのは知っているし、どういう人なのかも知っているからこそ安心して、ぽろっと言ってしまう。
「結構気をつけるようにはしてるんだけどね。宮くんといると落ち着くからつい、ね?」
雰囲気とか喋り方だろうか?最初の方は、宮治だ!ってなって緊張して、落ち着きとはかけ離れていたけど、少しずつ関わるようになって変わっていった。今では一年生から同じクラスの宮侑と話す方が緊張してしまう。
「〜……せやから、そういうのや!!」
「ああ!ごめん、ごめん」
あれ……?なんか、楽しい。宮治はウブなのか。新しく情報がインプットされる。この情報が間違っていることに気づくのは、いつになるだろうか。
「あ。優勝おめでとうございます」
「ありがとう、ございます」
ノートを拾うためしゃがみ込んだ治くんに下からおめでとうを伝えたら、お礼と共にため息を吐いた。え……?今のは、大丈夫だよね……?