先頭を走る伊壱、その後に続く形の轟、爆豪たちよりも後方から轟いた爆発音に反応したのは実況中継しているプロヒーロー、プレゼントマイクだ。 『やーっと地雷発! 動! あんな感じで派手だが威力はねぇぞ!』 地雷ゾーンの半ばにいる轟たちより後方、恐らくは地雷ゾーンに入ったばかりの生徒なのだろう。 どういう経緯なのかはわからないが地雷を踏んだかどうかしてしまったようで、一回の爆音に紛れて微かな悲鳴が聞こえた。 伊壱の妨害を潜り抜けてここまで追いついてきた爆豪たちのことを考えると善戦した生徒ははたしてどうなったのか、とプレゼントマイクが実況しようとしたその時、今度は別のところで爆発音が轟く。 『今度はどこだー!? 外賀か、外賀が踏んだのか! そうだと言ってくれ!』 『さっきからお前、やけに外賀に対して厳しくないか。……まあ、外賀と言われればそうだ』 実況席及び、観客たちが目撃した二回目の起爆は先頭を走る伊壱付近で起こったわけではないことを直ぐに察した。何故ならば伊壱は地雷の爆発など関係なしに走り抜けている。 しかし、追い抜こうと飛び、走っていた二人は地雷の爆煙が留まる地点から抜け出せていないことから、二人の近くで起爆したことを直ぐに察した。 「クソが……っ!」 「ケホッ」 ――アイツ、俺たちの前にある地雷を起爆させやがった……! フィールド上にあるものを利用した妨害も当然有効。 事前にプレゼントマイクからド派手なだけだという情報があったこともあって一切の迷いのない行動だった。 轟は兎も角、爆豪を“タクト”で操作しようともすぐさま戻ってくることは目に見えている。ならば、飛んでいることを利用して別方向からの衝撃を与えたほうが妨害になると考えたのだ。 実際地雷の衝撃で後退してしまった爆豪と、煙を吸ってしまったのか、咽ている轟の速度は先ほどよりも鈍い。 少しでも二人の速度が落ちるのであればそれでいいため、伊壱は展開していた“ROOM”を直ぐに解除し走ることに専念する。 『先頭を走る外賀、最終関門突破! いいぜいいぜ、もうゴールまで突っ走れ!!』 『続々と最終関門に他の選手たちが到達してきたな』 「あのクソチート野郎が……!!」 新たなあだ名をつけた爆豪が個性を使って飛行速度を上げ、咳きが止まった轟が体勢を整えて走りに力を込めるも、やはり距離は先ほどよりも開いている。 簡単に避けられるとはいえ避ける動作をしなくて済むのだから地雷ゾーンを抜けた伊壱の走る速度は確実に上がっていた。 (後々のことを考えるとこれ以上個性を使いたくはないな……!) 今できる最速で走り抜けるしかない、と先頭を走る伊壱と何が何でも追いつこうと速度を取り戻して猛追していく爆豪に轟。 いつのまにか二人の後方には綱を渡り終えた他の生徒たちが間近に迫りつつある。が、それでも地雷を気にしなければならないため足は鈍い。 スタジアムにいる誰もが今の順位のままでゴールすることを疑ってはいなかった、この場面。突如、今までのどの爆発音よりも大きな音が響き渡った。 『外賀に続く爆豪、轟は最終関門を今抜けそうだが――おーっと!? 後方で大爆発!? 何だあの威力!!』 尋常ではないその音がいったい何なのか、伊壱を追いかけなければならない爆豪達は一瞬気取られるも振り返ることはしなかった。まさか一瞬とはいえこの判断が大きく響くことになるとは予想だにしていなかっただろう。 実際二人はプレゼントマイクが発した次の言葉で漸く猛追に気付くこととなる。 『A組緑谷! 爆発で猛追!! ――っつーか!!』 宣戦布告した轟も、敵視してきた爆豪も、恐らくは他の選手たちでさえも、先を走る伊壱たちを気にかけていたために気に留めてもいなかった。 第一関門で倒したロボットの、荷物でしかない板状となった重い装甲を背負いながら第二関門を突破し、第三関門にあった起爆されていない地雷を掘り集めてまとめ、まるで津波に乗り始めるサーファーのように装甲に乗り、更に地雷の山に乗っかって起爆し飛ぶなどと、いったい誰が思いつくだろうか。 爆豪が個性を使って飛ぶ以上の速度で宙を飛ぶ緑谷の存在に気が付いた時には、既に緑谷は爆豪と轟を飛び越えていた。 『A組緑谷、怒涛のごぼう抜きー!!』 (ここでかっちゃんと轟くんを抜いても、まだ先に外賀くんが……!! ってか、コレ、着地考えてなかった!!) 地面に確実に近づいている中で緑谷が考えていなかった着地について悩まなければならない中、一位さえも奪取していないのに緑谷に抜かれたことでキレた爆豪が更に勢いを上げる。 「デクぁ!! 俺の前を行くんじゃねぇ!!」 「……!」 ただでさえ伊壱が独走している今、このタイミングで緑谷が登場することを想定していなかった轟は驚きこそしたものの、落下していく緑谷を抜こうと走りを緩めない。 三人の距離が少しずつ近付いていく中、徐々に爆破の推進力を失い失速していく勢いに負けて、緑谷とロボットの装甲が離れていく。 (着地のタイムロス考えればもっかい追い越すのは絶対無理!) 背負う時に使っていたロボットの装甲に繋がるたった一本の配線を握る手を放すものかと緑谷は両手で強く握る。 逆さの世界の中で緑谷を追い抜き、先を走る伊壱に追いつこうと走る二人が着実に追い抜こうとするのが見える刹那の時の中、緑谷はまだ諦めない。 (放すな! 二人の前にはまだ外賀くんがいるんだ……!! 追いかける絶好のチャンス、絶対に掴んで放すな!!) 体勢を崩し地面に頭から落ちるかと思われた緑谷は、しかし、体に力を籠めて体を反転すると、追い抜き様こちらに背を向ける轟と爆豪の背を着地点として足を付ける。 突然の負荷に前のめりになった二人。緑谷が思いっきり振りぬいた配線と、地面に勢いよく叩きつけられた装甲を視界に収めるのと、このゾーンならではの事象が起きるのは同時だった。 『緑谷、間髪入れず後続妨害! なんと地雷原即クリア! イレイザーヘッド、おまえのクラスすげぇな! どういう教育してんだ!!』 『俺は何もしてねぇよ、奴らが勝手に火ィ付けあってんだろ』 ド派手に起爆する幾つかの地雷の勢いに完全に押され、二度目の地雷の妨害を受けた二人が怯む中、緑谷は前を走る伊壱目掛けて体勢を整えて走り出した。 今までのやり取りはほんの数秒のことであるとは言え、最終関門を抜けてしまうとゴール地点はもうすぐそこ。 大きな爆発音に思わず振り返っていた伊壱は、既に前を向いて走り出している。 「くっ……!!」 追いかける緑谷は最終関門をあっという間に終えたとは言え、この距離を追い抜くのは流石に無理がある。 せめて地雷があと数個は必要だっただろうか。――つまりは、この第一種目の一位は即座に首位を奪取した、伊壱であった。 『首位奪取してから譲らなかった男、外賀伊壱は余裕の表情!』 (チートとか色々と言われてたな……否定はしないけども) 大歓声を浴びながらプレゼントマイクの実況を思い返して苦笑いを浮かべる伊壱が、観客に返事も兼ねて手を振る中、後続として最後まで変わらなかった二人を予想外の方法で追い抜いた緑谷が今、スタジアムにゴールする。 『誰が予想できたか、後半怒涛のごぼう抜きを果たした二位、緑谷出久!! んでもって、三位、四位の轟、爆豪も無事帰還―!』 個性を使ってきたことや、荷物を持って走り抜けてきたことで到着した四人の息は荒れている。 自身の次という成績、つまりは二位で通過した緑谷を見ると、彼は誰かを探しているようで観客席をきょろきょろと見つめており、暫くするとその動きは止まる。目当ての人を見つけたようだ。 何となく視線を追うがいったい誰に対してなのか伊壱にはわからなかった。何せこのスタジアムは広い。数多居る人々の中から緑谷の目当ての人物を探すのは流石に難しい。 長くはなかった緑谷が誰かとの言葉のないやり取り終えただろうタイミングで、伊壱は話しかけた。 「凄かったよ、緑谷君! まさかロボットの装甲をあんな風に使うなんて……!」 「そ、そそ、そんことないよ! 1位の外賀くんのほうが……!」 「いやいや、あのごぼう抜き凄かったよ! あの装甲もしかしてずっと持ったまま走ったの?」 「う、うん、ロボットを倒した時に便利だと思ってそのまま……」 「……! もしかして最終関門が読めていた、とか?」 「ううん、た、偶々なんだ! 結構便利だと思ったから、持って行っただけで……!」 競争をしている中で重い荷物とともに進むことがどれほどのリスクなのか、なんて誰でもわかることだ。 偶然の産物だったのかもしれないが、運も実力のうちとはまさにこのことか。とはいえ、柔軟な発想力がなければあのようなごぼう抜きはできなかったことは明らか。 主に個性のデメリットの関係で奇策になることの多い伊壱にとって、緑谷の行動は素晴らしいものに映るのは当然のことだった。 (外賀くんをどう対処するのか……。これは大きな課題だ) 終えた障害物競走について伊壱と話し合いながらも緑谷は頭を悩ませる。 ヒーローになるため鍛えてきたことで爆豪と轟に追いつけるタイミングで実行できたとも言えるが、それでもやはり瞬時に位置交換するなどの応用の利く個性を持つ伊壱には今一歩及ばなかったのもまた事実。 “空間掌握”という個性の驚異さ。味方であれば心強いが敵に回るとこんなにも厄介な存在になるとは。正直、追いつくことに必死だったが冷静に考えると追い抜ける算段が今になっても思い浮かばない。 根津の思惑通り、緑谷を始めとした生徒たちの中には伊壱に対してどうするべきか頭を悩ませているものたちがいることだろう。 「デクくん、外賀くん……!」 「麗日さん!」 「1位、2位おめでとう、すごいねぇ!」 「この個性で遅れを取るとは……やはりまだだ、僕、俺は……!」 「飯田君は地雷に苦戦ってところかな?」 「くっ……!」 単純な長距離走であれば飯田は圧倒的に強かっただろうが、今回は障害物が大きな壁になってしまったようだ。 地雷が起爆する前に走り抜けることができていれば飯田の順位はもっと上がっていたことだろう。 続々とスタジアムに到着する生徒たち。プレゼントマイクの実況によるとこのあと順位や次の種目について発表があるらしい。ほんの短い間だが、十分に休息を取っておかなければ。 (さて、次の種目は何だろう。内容によっては結構変わってくるな……) 最終種目は一対一のトーナメント戦。デメリットを考えれば第一種目よりも第二種目のほうが重要。 合間に休憩時間を挟めるとはいえ、少しでも体力は温存するべきだろう。 僅か四キロの障害物競走を抜けられるのが果たして何位までなのかも未だ公表されていないが、続々とゴールしてきた生徒たちを見つめながら、伊壱はその時を待つ。 「漸く終了ね、それじゃあ結果をご覧なさい!」 スタジアムにある巨大な電子パネルに表示された順位。 一位の伊壱を始め、四十四位の青山までの総勢四十四名が表示されていく。どうやら、この四十四名が予選の通過人数であるようだ。 「予選通過は上位44名! 残念ながら落ちちゃった人も安心しなさい! まだ見せ場は用意されてるわ!」 「そして次からいよいよ本選よ! ここからは取材陣も白熱してくる! キバりなさい!」 選手たちに活を入れながら、ミッドナイトは司会を進めていく。 「さーて、第二種目よ! 私はもう知っているけれど……何かしら!?」 順位を表示した際にも使われた空中に映し出す画面に映し出されたのは漢字三文字の競技名。 「言ってるそばからコレ! 騎馬戦よ!!」 (騎馬戦……、チーム戦か) 「参加者は2〜4人のチームを自由に組んで騎馬を作ってもらうわ! 基本は普通の騎馬戦と同じルールだけど違う点があるわ。先程の結果に従い、各自にポイントが振り当てられること!」 この説明を聞いた伊壱はどこか嫌な予感を覚えた。何が起こるのかわかっているわけではないが、兎に角嫌な予感としか言いようがない。 何せ雄英、やることは派手である。 参加者の生徒がミッドナイトの説明からこの騎馬戦が入試試験の時のようにポイント稼ぎで次に勝ち進めるものが決まること、また、どの人物と組むかによってチームの点数そのものが大きく変動することに気付く。流石の理解力と言えるだろう。 ただ、これから説明しようとしたミッドナイトが言う前に発言してしまったことで、ミッドナイトは少々怒ってしまったが、直ぐ思考を切り替えた彼女は説明を続けていく。 「与えられるポイントは下から5ずつ! 44位は5ポイント、43位は10ポイント……と言った具合よ! そして、1位に与えられるポイントは1000万!!」 嫌な予感はこのことだったか、と伊壱は溜息を零す。確かに一位だけれど、せめて二位より100ポイントか、精々1000ポイント上程度でもいいじゃないか、と思ってしまうあたり、まだ雄英に馴染み切れていない証拠なのだろうか。 「……破格にもほどがあるなぁ」 苦笑する伊壱にポイントの発表とともに選手たちの視線が注目する。闘争心、好奇心といった様々な視線が矢のように突き刺さる。 (1位だったらヤバかったかもしれない……!) 先程二位だった緑谷が、破格すぎるポイントと騎馬戦という種目名から簡単に予測がつく試合の展開に思わず表情が引き攣るのを止められなかった。 「上位のヤツほど狙われちゃう、個性有りの下剋上サバイバルよ! それに、雄英に在籍する以上何度でも聞かされるよ、これぞPlus Ultra! 上を行く者には更なる受難を!! 予選通過一位、外賀伊壱くん、ポイント1000万所持!」 大々的に伝えられる1000万のポイントは何度聞いても破格すぎる。 腹を括るしかないか、と再度ため息を零す伊壱から漸く集まっていた視線がなくなると、ミッドナイトの説明が続く。 「制限時間は15分、割り当てられたポイントの合計が騎馬のポイントとなり、騎手はそのポイント数が表示されたハチマキを装着! 終了までにハチマキを奪い合い、保持ポイントを競うのよ!」 ハチマキは結ぶ必要はなく取られやすいように結び目のすぐ横をマジックテープで留められるタイプ。奪ったハチマキは首から上に巻くことが条件となるため、ポイントを稼ぎすぎると管理が難しくなっていくことも攻略における大きな点だろう。 また、この騎馬戦は騎馬が崩れたらそこで終了ではなく、崩れてもまた組み直せば参加可能という、正に下剋上を視野にも入れられるサバイバル合戦がルールに盛り込まれた。 選手たちからすれば十五分という短い時間の中であちこち動かなければならなくなるので負担がより大きくなってくる。 大方の説明を終えたミッドナイトは禁止事項の説明に入った。 「飽く迄騎馬戦! 悪質な崩し目的の攻撃などはレッドカード、一発退場とします! あとハチマキを取られにくいように細工するのも一発退場とするから注意すること!」 例を挙げるとするのならば、峰田のもぎもぎや、轟の氷といったところだろうか。 伊壱としてはこの競技は組めればあとは逃げ回るだけで問題のない競技となるので、その点はあまり問題ではない。 (問題は組んでくれるのかってことなんだけど……) ここまでは予定通り、けれど制限時間終了までともに戦ってくれるだろうか、と伊壱が思案する中、ミッドナイトは話を進めていく。 「これより15分! チーム決めの交渉タイムスタートよ!」 「15分!?」 容赦のない交渉決めの短さと同時に、伊壱の周囲はクラスメイトで溢れかえった。 「外賀! 組もう!!」 「ぶっちゃけ外賀なら余裕だろ、これも!!」 「そんなことはないよ、俺と一緒だと色々な人達に狙われることになるだろうし」 クラスメイトたちには自分がカナヅチであることは伝えているが、体力を激しく消耗するデメリットについては教えていない。制限時間内を個性で逃げ回れると考えているのだろう。 挑戦する気合のあるものは伊壱に頼らず各々チームを組み始めているのが人波の隙間から映り込んでいる。 「ごめん、もう組む人決まってるんだ。他の人に当たってもらったほうがいいかも」 「マジか! 早くね!?」 「俺としてはもう一人欲しいところだから誰か来てくれると有難いけど……。俺と組むと目立たないかもよ?」 観客だけでなくプロヒーローにもアピールする場でもあるんだし、と付け足した伊壱に募ってきた一同は言葉を詰まらせた。 伊壱と組めば高い確率でトーナメント戦に行ける。だが、この騎馬戦で自身が何をできるのか披露する機会が他ならぬ伊壱と組むことによってできなくなる可能性が高いことに、指摘されて気付いたのである。 「そうだった……うっかり忘れてた」 「悪い、外賀。俺たちが間違ってた。挑戦するからそのつもりでな!」 己を魅せることができる騎手に騎馬。限られた短い時間の中で即決しなければならない。 悩むものや、改めて挑戦するつもりで他のところへ勧誘に行く者が出始めると次から次へと人はいなくなっていく。 中には伊壱の話を聞いて他の者に勧誘されることで離れていく者もいた。因みにこの時にとあるサポート科の少女が居たのだが、目立たないと聞いたことで二位の少年のもとへ颯爽と向かったことは蛇足である。 交渉時間15分の短さはあっという間に過ぎ去って――いよいよ、騎馬戦が始まろうとしていた。