存外ウブね
色男



※夢女交流会のワンドロで書きました。お題はラッキースケベです。



隣で、イカつい旧式の銃を構える女を盗み見た。
絶世の美女という訳ではないが、何故か俺はいつも彼女から目を離せないでいる。

俺の熱視線に気付いたらしいイライザが、恥ずかしかったのか、頬を桃色に色付かせ眉をキッと釣り上げた。

「……試合中ですよ、ミラージュ先輩!」
「ははは、許してくれよ!世界で一番可愛い横顔に違いないって思ったんだ。思わず夢中になってしまったって訳さ」

本心だったのに、揶揄われたと思ったらしいイライザが俺の肩を軽く殴った。

いつも彼女を真剣と書いてマジに口説いているというのに、少しも取り合ってくれないのは俺の性格?性質?いや、キャラの所為……なのだろう。
気持ちに気付いてて敢えてこの態度ならば繊細な俺のハートは粉々になってしまうかもしれない。

もう少しだけ見ていたかったが、真面目な彼女に嫌われたら元も子もないので俺は銃を構え、スコープを覗き込んだ。

マップで言うと、間欠泉を中央に挟み込む形で、フラグメント側とラバシティー側その双方の小高い丘で俺達の部隊と敵部隊は睨み合っていた。

「ミラージュ先輩、ヘビーアモ余裕あります?30-30なのでワンスタックで充分なんですが……」
「おお、あるぜ。どうぞ、プリンセス」
「有り難う御座います!……ある程度削れたら、突っ込みましょう。ナタリーとマリー博士の部隊ならインファイトは私達の方が分がある筈です」
「オーケー!俺様に任せろ!」

本日の相棒にバチン、と必殺のウィンクを送るが彼女は曖昧に笑うと手元の武器をリロードをした。
まるで滑ってしまったかの様な空気に耐えられず俺もトリプルテイクのリロードで忙しいフリをした。

何回か弾の応酬を繰り返し、突如として詰めてきてもおかしくないという空気を俺達が演出すると、デコイに釣られたワットソンが岩陰から身を乗り出した。チャンスだ!

引き絞ったトリプルテイクの弾が2発、彼女のボディに直撃した。

「ワットソンのアーマーを壊したぞ!」
「畳み掛けます……!よし、ナタリーはダウン寸前です。突っ込みましょう!」

俺が報告する前からイライザもスコープを覗き込んでいた様で、タイミング良くワットソンに追い討ちを掛ける。

機を逃さぬ様にイライザは自身のアルティメットを発動する。彼女が処方したアロマガスを吸うと一定時間回復量と速度が上がる。
遠慮せず胸いっぱいに吸い込むとフレッシュな花と蜜の匂いが、俺を癒やしてくれる。

彼女からする仄かな甘い香りはこのアロマと……シャンプーだろうか?
今日一日、一緒に過ごした彼女からふんわりと漂う香りの正体にあたりをつけてからスン、ともう一度アロマガスを吸った。……うん、とても好きな匂いだ。

自然と口角が上がるのを感じるが、今は戦闘真っ最中である。ここでボロ負けしたらいいとこ無しで、男として恥だ!頬を一回抓り、邪念を振り払った。

「俺がデコイと一緒に突っ込むから、イライザはソマーズ博士の牽制を頼む!」
「オーケーです!」

坂を2人、スライディングしながら作戦を手早く伝えるとイライザは間欠泉の建物上に陣取った。
俺はそのまま医療キットを使おうとしていたワットソンまでデコイを絡め、テクニカルに距離を詰める。……いける!

「きゃあ!」
「イライザ、ワットソンがダウンだ!」
「……ッ、私もダウン寸前です……!」
「なッ!?あっソマーズ博士!?」

音も無くソマーズ博士は宙に浮いてイライザより遥かに高い場所にポジション取りをしていた。ヤバい、俺もここに居たら一方的に撃ち抜かれる。

「エリオット、今回は少しばかり爪が甘かったかもしれないねぇ」

博士の構えたヘムロックが俺の頭をしっかりと狙っている。あークソ、時間がない!考えろ!
「イライザ、回復したら、間欠泉に突っ込んでくれ、時間は俺が稼ぐ!」
「……分かりました!」

好きな女の前だ、大見得を切ってしまったからには引き返すなんてダサいマネは出来る訳が無い!

「ソマーズ博士、いきますよ!」
「ふふっ、……ああ、掛かっておいで!」

俺の態度は分かり易いのか、ソマーズ博士は俺のイライザに対する気持ちを察しているらしい。
カッコつける俺に博士はクスリと笑ったが、直ぐに銃口を俺に向ける。尊敬する人物だが、俺だって淡い恋路の為にも容赦は出来ない。

一度回復の為に室内に引いたイライザの気配が背後からする。

「……俺に構わず行ってくれ!」
「ミラージュ先輩!?」

彼女からの返答を待たずに、一度岩陰に飛び込むと滑り降りながらデコイエスケープを展開する。

俺もイライザに続いて間欠泉に飛び込みたい所だが、俺の位置からだと遠過ぎるのと、心理的に逃げたい場面だというのはソマーズ博士も分かっている。
案の定、彼女から距離を取ろうとしているデコイから優先的に打ち抜かれていく。

となれば、不意打ちしかあるまい!

圧倒的に位置負けしているが、俺はデコイに構っていた博士を下から狙撃する。
見事にヒットするが2発目以降はそう上手くいってくれる訳もない。どれが本物の俺かも確信を持たれてしまった筈だ。

案の定、ニッコリ笑うソマーズ博士と思いっきり目が合った。……これはヤバい。確実に死ぬ。

俺がデスボックスになっても諦めずにチャンピオンを貪欲に狙ってくれよな、イライザ。……愛してるぜ。俺には、君だけだ。

心の中で死地へ向かう映画の主役みたいな台詞を呟きながら目をギュッと瞑ると、エネルギー弾特有の特徴的な銃声がけたたましく響いた。
が、俺は倒れていない。それどころか、全くダメージを喰らってもいない。

恐る恐る瞳を開けると、ボルトを構えたイライザと、地面に倒れるソマーズ博士が俺の目に飛び込んで来た。

「ッ……イライザ!」
「助けに来ましたよ、プリンス・ミラージュ」
「ど、どうやって!?」
「どうもこうも先輩が間欠泉に飛び込めって……挟みこもうって意味かと」
「俺を置いて逃げろって意味だったんだが……でも、まあ、その……助かった。ありがとう。だが、うう〜ん……助けられてばっかでカッコつかねーなぁ……」
「ふふ、俺に構わず行け!って言われた時は少しだけドキッとしましたけどね。さ、漁りましょう」

朗らかに笑うイライザにこちらこそドキドキが止まらないんだが、と洗いざらい思いの丈をぶち撒けたくなるがそれはチャンピオンを獲って、ディナーの約束を取り付けられてからだ。

余裕のある男を演じなくては……と彼女の顔から視線を外すと、気付いてはいけない事に気付く。
思わず手のひらで勢い良く両目を覆うと、不思議そうに彼女は「どうかしたんですか?」と尋ねてくる。

「えーっ、とぉ……イライザ……言いづらいんだが……ッ、その〜!言っても俺を嫌いにならないでくれよ……!?指摘しないほうが余計君を傷付けてしまうかもしれないから俺は、言う、言うけどなっ……!」
「勿体ぶられる方が嫌なので、どうぞ」
「す、透けてる」

スッと彼女の胸元辺りを指差すと、彼女は耳まで顔をボッと赤くし、両手で上半身を隠した。

間欠泉の勢いある水飛沫で濡れてしまったのだろう。ゆったりとした厚手のボトムを身につけている為、被害は薄手のトップスを纏っている上半身だけだったが、頗る目に毒……いやこんな時なんていうんだっけか。……が、眼福?たしかそんな言葉があった筈だ。

繊細な刺繍が縫い付けられている下着の肩紐と、女性らしい肩の丸みがやけに扇情的に思えた。ああ〜っ!下の毛も生え揃ってないガキじゃあるまいし!

「え、ちょ、ミラージュ先輩こそ何やってるんですか!」

急に腕に装備しているホログラム装置を一つ一つ外して、胸や腰の物資を地面に降ろし始めたらそりゃ驚愕もするだろうが、俺はそそくさと目的の物をイライザに手渡した。

「もしかしたら……いや、確実にだな、ちょっと汗の匂いがするかもしれないが、着てくれ」

トレードマークであるイエローのコスチュームは実はセパレートである。上着だけ脱いで彼女に手渡すがイライザはフルフルと顔を横に振った。

「……いや、その気持ちは嬉しいんですけど」
「わ、分かってる!嫌だよな素肌の上に着てたヤローの上着なんて!でもなぁ、イライザも恥ずかしいだろうし、俺もその、どこ見ていいか分かんねーし……何より他の男どもに見られちゃ堪んねえよな……クリプトなんか絶対ムッツ……」
「もう、話聞いて下さいってば!」

ぐぎっ、と首をイライザの顔だけが見れるように捻られる。顔の近さと、無防備な胸元の所為で緊張のあまり息が止まった。

「な、なんだ!?もう色々と限界なんだが!?離れてくれっ!」
「いーや、離れません!」
「……その、この画は色々マズいだろって!」

顔を逸らしながら彼女の肩を押すがそれでもイライザは離れようとしてくれない。距離が、感触が、ダメなんだって!

「いや、その、ミラージュ先輩の裸の上半身が、その……」
「胸毛は中々にセクシーだと思っていたんだが……イライザは無い方がタイプって訳だな?すまねぇな、見苦しいもんみせちまって……残念だが、今日の夜には剃ろうと思う」
「もう!じゃなくて、男らしくてセクシーだなあ!ってなって!直視出来ないんです!」

じゃあなんだ、イライザが林檎みたいに顔を真っ赤にさせているのは俺の肉体を見て意識してるからだってのか。喜ばしい事実に全身がプルプルと震える。

ああクソ!そんなの、我慢出来るワケないだろ!
彼女の体を腕の中に収めると、水に濡れた所為かひんやりとしていた。それが些細な事に思えるほど、彼女の心音はバクバクと鳴り響いていた。

恐る恐る彼女の顎に手を掛けると、嫌でも目が合う。恥ずかしいとでも言いたげに、瞳は少しだけ揺れていた。それでも俺の腕を彼女は振り払わない。それって、つまり……。

吸い寄せられる様に、薄桃の唇に顔を近付けるが、避けられない。遂にはちゅ、っと軽いリップ音を立てて重なり合う。

「……なあ、だったら俺の瞳だけ見ていてくれないか。これからも、ずっと……その、出来たらでいいんだが……ど、どうだろうか?」
「……出来たらじゃなくて、永遠に俺だけを見ろの方がカッコ良くないですか?」

でも、ミラージュ先輩にしては、いい提案だと思います。
そう笑うイライザから、目を離せる訳が無かった。例え様が無いほど、美しかったからだ。





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