喰らえ
ラリアット

※SSページに載せていたものを加筆修正したお話です


ゴーグルとマスクで実際の表情は分からない。けれどきっと、詰まらない≠ニでも言いたげな顔をしているんだろう。

「ごめん」
「なんで詰めてこなかったんだよ」
「オクタビオが一旦回復いれるかな、って思って援護射撃して時間稼ぎしてたつもりだったけど……」
「ミラージュもレイスも俺様のお陰でもう少しでダウン狙えたんだぞ。お前が詰めてれば勝ちだった」
「……ごめん」
「……まあまあまあ!イライザだけが悪い訳じゃないだろ。お前だけ急に突っ込んで来てビビったぜ」

試合後、余りにも悪すぎる空気に敵だった筈のミラージュ先輩が仲裁に入ってくれる。苦笑いを浮かべる彼の額には冷汗が伝っている。

「……あのね、私オクタビオの俺が唯一の正解って物言い好きじゃない」
「はあ?」

ミラージュ先輩が間に入ろうが、私も謝るばかりでは気が済まない。

「私アロマ焚いたでしょ?普通は私が援護射撃してるし、いつもより速く終わるんだから回復するでしょ。そっちのが安定して勝てたと思うんだよね」
「あ?だからあと少しだったんだから詰めれば良かったんだって。俺が回復してる間にミラージュもレイスも岩陰で回復してたら意味ねーだろ。体力に余力あったお前が詰めてりゃ仕留められただろ」
「……そもそも二人の体力が少ないのはオクタビオがミラージュ先輩と交戦してる間に挟み込もうとしたレネイ先輩のアーマーを私が割ったからなんですけど?……周りが全く見えてないのはどちら様でしょうね?」

お互い言いたい事をマシンガンの如くぶつけ合い、ゴーグル越しに彼の瞳を睨む。ああ言えばこう言うで本当に埒があかない。

オクタビオも同じくそう思っているのだろう。私から思い切り顔を背かせると、彼はカフェスペースから義足をカチャカチャと鳴らし勢い良く出て行った。

思わずカッと熱くなってしまったがオクタビオが出て行ったお陰で徐々に頭が冷えて来る。 ふぅ、と息を吐き出すと、気持ちが大分リセットされる。

「ミラージュ先輩もお茶要ります?……ついでに愚痴を聞いて下さると嬉しいんですけども」
「オーケーオーケー。俺の分も頼む」

気分転換といえば美味しいお茶を飲むに限る。 薔薇の香りが鼻孔をくすぐるフレーバーティーを淹れ彼に手渡すと「ありがとう」と微笑まれる。
積もり積もった愚痴を聞いて貰うのだ、これ位はお安い御用だ。

「……オクタビオと組むといつもああなるから嫌なんですよね」
「はは、ちなみに俺はイライザと組むと、やり易くて有難いぜ?いつも引き先を用意してくれてるよな」
「う、さっき言い負かされたと思ったからそう言って貰えると助かります」
「まあ、でも突き詰めれば結局の所相性だよなぁ。ダウン覚悟で突っ込むか安定を取るか」
「ちなみにあの場合、正解はどっちだったんですか……」

うーん、とミラージュ先輩は顎に手を当て例の戦闘を振り始めた。その後、彼は紅茶に口をつけたので釣られて私も一口飲んだ。

「これ、美味いな。まあ、その件は置いといて……。オクタンが言う通り、奴がダウンしたタイミングでなりふり構わずイライザが突っ込んでたら俺もレイスも負けてた。けれど、オクタンがダウン直前に援護射撃してるイライザの方に逃げて回復入れても負けてた」
「……つまり私達はお互いの意見を信じれてたら勝てたって事ですよね」
「ま、そう言う事だな」

一人勝手に突っ込みがちなオクタビオを信用してないのは事実だった。
無線で「来い!来い!勝てるって!」と言われても「ダウンする前にこっちに引いてよ!」と強く言い返したのは記憶に新しい。

「……次はオクタビオの事、少しは信じてみようと思います」
「そりゃあいい!信頼あってこそのデュオだ。……ま、俺はイライザとオクタンは仲良くて羨ましいけどな」
「えぇ……正気ですか……?」

本気の喧嘩を仲裁したのはミラージュ先輩自身だろうに。相当怪訝そうな顔をしてるらしい私をミラージュ先輩が指を差して笑う。

「イライザがあんな風にキレるのはオクタンだけだろ?あんな顔初めてみたぜ」
「本気で怒れば誰にでもああですよ」
「怒るのは期待してるからさ。どうでも良かったら人は無言で立ち去って行く……人も店もそんなもんだよな」

好きの反対は無関心とはよく言ったものだ。 反論の余地も無くて思わず黙り込む。

「ほら、謝りに来たんだろ?」

顔を上げなくとも、特徴的な足音で誰か分かる。嗚呼もう、本当に、ムカつくけれど……そっちから謝るなら許してやらない事も、ない。





apex top
index