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※SSページに載せていたものを加筆修正したお話です


「イライザは良くお茶会を開いてるよね?良ければ僕も参加したいな!」

僕がそうイライザに声を掛けると彼女は一瞬怪訝そうに首を傾げたが、「ああ!」と納得したように笑った。

「お茶はね、実験のお手伝いをしてくれた人へお礼で出してるんだけれど……そっかお茶会って名前で広まってたのね。パスも手伝ってくれる?」
「勿論さ!……具体的にはどんな事を手伝えばいいのかな?」
「うーん。そうだなぁ……。この前クリプト先輩が手伝ってくれてから結構日が開いちゃったし、雑草抜きを一緒にしてくれる?」
「オーケー」


早速イライザと約束を取り付ける事が出来た僕は彼女と2人、目的地に向かう。
イライザの実験室にはズラッとプランターが並んでいた。見た事もない珍しい植物達に、なんだかワクワクしてくるな!

危険な植物の取り扱いについて教わった後、新たに芽吹き始めようとする雑草達をプチプチと根元から引っこ抜く。
こういうのは雑にやったらダメだと言うのは色んな仕事をした経験から知っている。

丁寧に、と心掛けて無心で作業をしているとポンポンと肩を叩かれた。壁に掛かる時計を確認する限り、結構な時間が流れていたみたいだ。

「パス、お疲れ様。凄い手際良いね」
「ありがとう!こういう作業は得意なんだ」
「後は水遣りをしたらお待ちかねのお茶会だよ」

その言葉に僕は思わず嬉しくなる。
イライザのお茶はミルクとお砂糖たっぷりで美味しいってミラージュから聞いていたからね。

白いクリームがたっぷりとコーティングされたケーキのてっぺんには真っ赤な苺がキラキラと輝いていてとても魅力的だ。
隣に添えられたお茶は聞いていた話通り、甘い香りをふんわりとさせている。

皿とカップはお揃いで、ピンク色の小花が散っていた。派手すぎないけれど、存在感はキチンとある。持ち主と何となくだけれど、似通っている気がするなぁ。

「じゃあ、頂こうか!」
「うん。頂きます」

白いクリームが満遍なく絡まったスポンジケーキがピンク色の唇の奥に消えていく。 頬を緩めて咀嚼するイライザは幸せそうだ。釣られて僕もなんだか嬉しくなる。

ニコニコとケーキを突く彼女を見つめていると目が合った。そしてハッとしたように僕とケーキに交互に視線をやる。

「パスってもしかして……食べれないの?」
「うん。僕には口は無いからね」
「ご、ごめんね!?余りにも堂々とお茶に誘ってくれたのも有るけれどパスはパスだと思ってたというか……兎に角ごめんね」

イライザはしょんぼりとしょげてしまった。 困ったな、彼女を困らせに来た訳じゃないのに。

「確かに僕は食べたり飲んだりは出来ないけれどイライザとお茶会が出来て嬉しいよ」
「……そう?」
「人が美味しそうに食べているのを見ると、僕もなんだか幸せな気持ちになるんだ。それに今日はイライザを独り占め出来て既に大満足さ」

僕の言葉にイライザは目を丸くした後、ふふっと小さく笑った。良かった。

「ねえ、僕やってみたい事があるんだ!」
「果敢にもお茶を飲んでみるとか……?まって、それはラムヤを呼んでからにしよう」
「違うよ!イライザ、あーんって口を開けて」

僕用に用意されたケーキを小さく切り分け、彼女の咥内まで運ぶ。 ……うーん。普段じっくりと人間の口の中なんて見ないからかな。少しだけドキドキする。

完全に運び終えると彼女は口の端に着いてしまった生クリームも含めペロリとケーキを体内に収めた。

「この前ドラマで観たんだ!恋人達がこうやって食べさせあってたのをね。……うん。何故こんなことをするのか分からなかったけれど、なんだかポカポカしているかも」

モニターのあたりを撫でると、イライザはふんわりとした笑みを浮かべる。 不思議な事に、日向みたいに心地良く思えて、僕はイライザのこの表情が好きだ。

「……人によって考え方は違うかもしれないけれど、私はねパスは生きてると思う」
「僕は食べたり飲んだりも出来ないし、呼吸もしないよ?代謝だってしない」

僕がそうイライザに反論すると、うーんと彼女は腕組みをして唸った。

「確かに生物学的には生きてるとは言えないけど……。うーん、心の問題というか……」
「イライザは僕に心があると思うの?」
「勿論!……だって人の喜びを一緒に分かち合えるんだもの」

あっ、今凄い勢いで僕の集積回路が動いてる気がする。多分、この事を僕は忘れたくないんだね。

「ねえ、イライザ」
「なあに?」
「あーんっていうの、ミラージュやクリプトにはしないでね」

僕がそう約束を求めると彼女は思いっきり咽せ返った。





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