思うがままに

※SSページに載せていた話を加筆修正したものです
※S6のコミックとパスくんのマスター関連のネタバレがあります


ある時から、イライザと一緒に過ごしているとビビビ!っと……まるで稲妻に打たれた様な(本当に稲妻に打たれたらきっと僕はその瞬間に機能停止してしまうけれど)未知の感覚に襲われる事があった。

こんな感覚は初めてだった。
……もしかしたら彼女は、僕のマスターに繋がる道標なのかもしれない!

……と思ったけれど、いざ崇高な目的を思い出してみるとワットソンやホライゾン、それにジブラルタルは僕の創造主──マスター達の子孫だったけれど彼女は全くの無関係だった。
ふむ。それじゃあ、イライザに対するこの不思議な感覚はなんなんだろう。


「……っていうのをこの頼れるミラージュ様に聞きたい訳だな?」
「うん。どうしてなんだろう」

電子工学に詳しいワットソンとクリプトに先ずは聞いてみたけれど、「そういうのは俺達よりもミラージュのが向いてる」ってクリプトに言われたんだ。
僕もワットソンもどういう意味か分からなかったけれど、彼は意味ありげに笑っていたからどうしても分からなかったらもう一度クリプトに話を聞こうと思う。

とにかく行動に移す事にした僕はクリプトに言われた通り、ミラージュに相談をしてみたけれど、パッと答えは出て来ないようだった。

「……それを本人もいる前で聞いちゃう?」
「まあまあ、イライザだって気になるだろ?」
「……まあ。私とパスはこのゲームで出会うまでは繋がりは特に無いと思うけど……」

うーん、とイライザは腕を胸の前で組んで首をコテンと傾げた。その仕草に自然と僕の目のセンサーが吸い寄せられるんだ。 やっぱり、イライザを見ると僕は変だ。

快く自身の実験室を貸し出してくれたイライザは、美味しそうなお茶まで出してくれた。
僕は飲む事は出来ないけれど、仄かに香り立つ湯気の揺めきに癒される。 ミラージュは可愛らしいカップに口付けると、ゴクリと喉を動かした。余程美味しいのかその顔は満足気だ。

「うーん。だとすれば、思わずパスが反応してしまう様な何かがイライザにはあるって事か……」

ミラージュが探る様な目線をイライザに遣る。頭の先からテーブルの下に隠れる靴の先までわざわざ体を迫り出して彼女のことをジッと見つめるものだから、イライザはなんだか居心地が悪そうだ。

「絶世の美女って訳ではないがイライザは魅力的な女性だよな。でも、お前が以前紹介してくれたガールフレンドから察するに、イライザはそういうんじゃないんだろうし……」

「彼女とはタイプが違いすぎる」そう笑うミラージュの口元を僕は思わず手の平で覆った。

「えっ、彼女ってどんな子?」

イライザの質問にミラージュは答えようとするけれど、僕が口を動かす事を阻止している所為でモゴモゴとした雑音にしかならない。

「今は一緒に暮らしてないよ!それに、彼女は……友達だよ!……ゴミ捨て場で会った彼女は一人で、寄り添う友達が必要だったのさ」
「ゴミ捨て場?ああ、もしかして猫とか?」
「それはね……」

どう答えたらいいのか、分からない。そもそも、なぜ僕はイライザに嘘を吐こうとしているのだろう。

アッシュはきっと、僕の初恋だ。
彼女が我が家から消えてしまった日の悲しみは多分本物で、僕はあの時目の前がなんだか薄暗く感じたから。 僕の思考回路がグルグルと回り続ける。全てはイライザに少しでも良く思われたいからだ。

「ほら、アリーナのあのおっかない女性型のロボット!彼女だよ」
「ミラージュ!酷いや!」
「えっ、な、なんだよ?」

僕がちょっとばかり考え事をしている内に、ミラージュは緩んだ手の平からひょっこりと抜け出して知られたくなかった事を彼女に言ってしまった。

「僕とアッシュは恋人じゃないよ!イライザ!必要な時に肩を貸してあげたのさ!」

ねっ、と彼女に同意を求めるが何一つ事情を知らないイライザはぱちくりと瞬きを繰り返すだけだった。

「なあパス」
「ミラージュとは、今は口を聞きたくない」
「俺はクリプトの野郎がなんで俺にこの件を回して来たか答えが分かったんだが……知りたくないか?」

むむ。そう言われてしまうと、気になってしまう。チラリと視線を遣ると彼は得意気に笑う。

「知りたいよな?」
「うん、知りたい」
「いいか、お前はイライザに恋してるのさ」

何となく、僕も気付いていたけれど避けていた答えを彼はあっけらかんと言うものだから肯定も否定の言葉も言えなくなってしまう。
だって、レヴナントみたいに、人間だった事が有るならばまだしも、初めからロボットとして生きてきた僕に好意を持たれても普通の人間は困ってしまうんじゃないか。

「あのね、イライザ」

シンと静まり返ってしまった空間で声を掛けないのもおかしいかもしれない、と勇気を振り絞ってイライザに話しかけると、彼女の顔は耳まで真っ赤に染まっていた。
想像していた彼女の反応とは全く違って、僕は余計に頭がこんがらがってきた。

「パス、お前は難しい事を考えてたのかもしれないけど……なぁ?」

ミラージュのワハハという笑い声をBGMに僕とイライザは少しだけ見つめ合った後、互いに顔を逸らした。 そうしないと、僕はオーバーヒートしてしまいそうだったからだ。

……イライザも、そうだったらいいな。





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