近けりゃいいって
もんじゃない

※SSページに載せていた話を加筆修正したものです
※ミラージュ→夢主→←クリプトって感じの報われないミラージュのお話


「やっぱり、口煩くない落ち着いた女の人が好みなんですかね?ラムヤと話してる時は顔を顰めてるけど、レネイ先輩やナタリーと話してる時は彼のペースで話してる様に思いません?」
「……そんなの、聞かれても分かるわけねーよ。興味ねえ」
「絶対クリプト先輩と一番近しいのってミラージュ先輩じゃないですか!面倒くさがらないで答えて下さいよ〜!……クリプト先輩って私と話してる時、客観的に見てどんな顔してます?」
「当人であるイライザこそ、一番近い距離で見てるだろ?それが答えだ」
「緊張して目なんて見れる訳ないじゃないですか!……いつも顎とか、首元見てます」

「うぅー」と態とらしく唸るイライザは、奴の顔を思い浮かべているらしい。
顎に縦皺を作り、唇をMの形に曲げて冗談めかしてはいるが、頬はほんのりと赤く色付いていた。それが、無性に気に入らない。

「なあイライザ」
「なんですか?」
「俺の目をじーっと逸らさずに見てみろよ。練習だ!」
「ええ、それはちょっと流石に……恥ずかしいので遠慮願いたいのですが……」
「いいから」

強引に彼女の顎を掬って視線をかち合わせると、彼女の瞳は水面の様に、しずかに揺れていた。つまり、笑えるくらいそう言った熱は篭っていないって事だ。

嗚呼クソ。こんなにも近いというのに、彼女の瞳は俺じゃなくてクリプトを見詰めている。

どう考えても、俺の方が全てにおいて彼女の側にいるのに。少しも相手にされないだなんて、色男失格だな。

「クリプトの奴、ここ最近はお前と話してる時、珍しく言葉を選んでるというか。満更でも無いって顔してるぜ」

セットした前髪を払い、何でもない事の様に言うと、イライザは目蓋をぱちぱちと瞬かせた。そういう、素の表情を見る度に俺がときめいているなんて事を、彼女は知らない。

「えっ……えっ!?」
「多分強く押せばイケると思うぜ」
「そ、そうですか?……そっか、へへ。ミラージュ先輩が言うならそうなのかも」

最初の頃は誰にでも気さくなイライザを鬱陶しがってた癖に、ここ最近は彼女が側から離れると一丁前に名残惜しそうな顔をするクリプトが、憎い。

「おう。今すぐ付き合って、さっさと振られてこい。そしたら、またこのミラージュ様が話聞いてやるからよ」
「別れる前提なの酷くないですか!?くそー沢山惚気てやりますからね!待っててください!」

多分、惚気なんて聞いたらこの世から消える準備をする。 それ程までに嫌だと言うのに、懲りない俺は惚気も愚痴も彼女の隣で聞くのだろう。

人の恋路を邪魔するどころか応援してやってるんだ。神様ってやつがいるなら、一度位俺の願いを叶えてもいいんじゃないか。

それまでは徳を積んでおくからよ。





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