※ストレートだと思ってた夢主が妙にローバにドキドキしてしまう原因を突き止める話
男の人しか、愛せないと私は思っていた。
恋に恋をしていた思春期の頃、なんとなくいいな≠ニ思っていた人物は同じクラスの男子生徒だった。
体付きはがっしりとしていて、一見強面だけど笑うと年相応に可愛いところが魅力的だった。
ハイスクールの時に交際していたのも勿論男性で、彼もスポーツマンだった。隆々とした筋肉が男性らしくて、彼が体を動かす度に舞う汗が堪らなくセクシーに思えた。
父親の事業が失敗したのをきっかけに、全てが負の方に転び始めたのは、社会人になってからだった。
恋人にも振られ、OLの稼ぎでは払えない程の借金漬けとなった私は半ばやけっぱちでAPEXゲームに参加する事になった。
何も失うものを持っていない私はがむしゃらに銃を片手に突っ込んだ。何度も何度も突撃した。あの頃の私は全てが面倒臭くなっていたのだ。だから、懲りずに死地に向かった。
でも、死ななかった。
何故なら私みたいな馬鹿を守ってくれる心優しい巨人がいたからだった。
単純な私はジブラルタルさんに恋をした。そして、思いを募らせる前にバッサリと振られた。それは気持ちのいい位に。
彼はゲイだった。となれば、対象外の中で更に特別魅力的でもない私はごめんなさいだろう。 残念だとは思ったが、それ以上は特に何も思わなかった。結局は私が筋肉質な男性が好きだという事に何ら変わりは無いのだ。
深く悲しもうと思えば、もっと悲しめたと思う。ジブラルタルさんは私が人生を諦めてから出会った人間の中で一番温かく、優しいときめきを与えてくれた人だった。
努力すれば彼の好みのタイプに近づける訳では無いというのが沈みそうになる私の思考を止めたのだと思う。
それなりに長く生きる内に自分は女性らしい嗜好だと自覚していて、それを受け入れている。
恋した相手の為に現状満足している自身の性別を変えるというのには流石に抵抗があったのだ。
改めて自身の性についてひとしきり考えた後、私はこの恋を終わらせた。
一度好いた人間に迷惑を掛けるくらいなら私はこの世から消える。彼は大衆から求められる聖人だ。だからこそ、甘えたら気を遣ってくれるのが易々と想像出来るからだ。
優しい彼の手を煩わせない様に私は無闇に突っ込む事はやめた。相変わらず生きる事が面倒に思えても努めて明るく振る舞うようにもなった。
自分に振られた所為で余計に破滅願望に拍車が掛かったとジブラルタルさんが負目を感じさせない為にもだ。
表面的に変わってからは、他のレジェンド達ともそれなりに仲良く出来る様になった。
会話を重ねる度に皆それぞれ違った魅力を持っていて惹かれる面があるな、と思ったけれど私の中でジブラルタルさんを超える男性はいなかった。
それなりに賑やかで穏やかな時間を過ごしている内に借金は無くなった。
元々注目されるのはそんなに得意じゃないし、残りの人生、贅沢しなければ生きていける位に稼いだらこのゲームから引退しよう。そう考えていた私の前に彼女は突如として現れた。
「どうしたらローバみたいに美しくなれるの?」
気付けば、私はそう口にしていた。
優美な姿勢で椅子に腰掛けたローバは私の言葉に目を細めた。その表情に私の胸がドキリと揺れ動く。
「あら、嬉しい事を言ってくれるのね?……でも、ただ私を模倣するだけでは真の美しさに辿り着けないわよ?」
「私じゃ、ローバになれないのは分かってる。だって経験して来た事も、考えて来た事も、全然違うから」
「ふふ、賢い子」
子供扱いをされている。そう感じた私の口角がたちまち下向きに急カーブを描く。
不満に思っているのが顔に出ていると尚そう思われると気付き、私は慌てて澄ました顔をした。
誰をも魅了するけれど、気安く近付けさせない気高さがローバにはあった。秘密を持つ女は魅力的と言われているけれど、ローバの心の内はどんな色をしているのだろう。
私はそれがどうしようもなく知りたい。例え彼女に邪険にされたとしても。
ローバが薔薇だとしたら、きっと私はその茨で傷付くと知っていても飛び込む愚かな虫だ。
人に対して此処まで強い執着を抱くのは、生まれて初めてだ。私はこの感情の名前を、まだ知らない。
ローバの様に美しく成熟した女というのはいつの時代も女達の羨望の的だ。だからローバの姿を一目見ただけでドキドキしても、単純な憧れからの緊張だと思ったし、同性だという理由で恋愛感情ではないと思った。
だというのに私は彼女との距離感を測りあぐねていた。
女友達、または同性の同僚。多分目指すべきはそこなのだろうけれど彼女の事を考えるとソワソワと落ち着かなかった。ローバの事を考えるとまるで私はティーンに戻ったかの様だ。
一度性別を根拠に否定したけれど、恋愛感情なのかもしれない、と私は心の整理をする事にした。
私は彼女とキスをしたいのか?
……グラマラスな真っ赤な唇は素敵だけど、その内側の肉を蹂躙したいとは思わない。
私は彼女とセックスをしたいのか?
……今迄女性とそういう事をしようという発想が無かったから、イメージが湧かない。けれど、彼女の裸体を見てみたいと思った。
きっと、どんな彫刻よりも滑らかで肉感的で美しいのだろう。
私はローバの圧倒的な美を信仰しているのかもしれない。
“信仰”という言葉が湧き出た時、妙にしっくりと来た。ああきっとそうだ。
「ローバ、お願いがあるの」
「何かしら?」
深く息を吸って、呑み込んだ。頭はスッキリしている。それでもやっぱり馬鹿げた渇望が私の中で燃え盛っている。
「貴女の一糸纏わぬ姿を見てみたい」
赤色に彩られた目蓋が気怠げに私を見遣る。
「見返りはあるのかしら」
「私の美しい≠ニいう言葉はローバだけのものだよ」
私の言葉に蠱惑的な花唇が開いた。
ローバという薔薇の根元、私はただ養分に成り果てたい。
男の人しか、愛せないと私は思っていた。
恋に恋をしていた思春期の頃、なんとなくいいな≠ニ思っていた人物は同じクラスの男子生徒だった。
体付きはがっしりとしていて、一見強面だけど笑うと年相応に可愛いところが魅力的だった。
ハイスクールの時に交際していたのも勿論男性で、彼もスポーツマンだった。隆々とした筋肉が男性らしくて、彼が体を動かす度に舞う汗が堪らなくセクシーに思えた。
父親の事業が失敗したのをきっかけに、全てが負の方に転び始めたのは、社会人になってからだった。
恋人にも振られ、OLの稼ぎでは払えない程の借金漬けとなった私は半ばやけっぱちでAPEXゲームに参加する事になった。
何も失うものを持っていない私はがむしゃらに銃を片手に突っ込んだ。何度も何度も突撃した。あの頃の私は全てが面倒臭くなっていたのだ。だから、懲りずに死地に向かった。
でも、死ななかった。
何故なら私みたいな馬鹿を守ってくれる心優しい巨人がいたからだった。
単純な私はジブラルタルさんに恋をした。そして、思いを募らせる前にバッサリと振られた。それは気持ちのいい位に。
彼はゲイだった。となれば、対象外の中で更に特別魅力的でもない私はごめんなさいだろう。 残念だとは思ったが、それ以上は特に何も思わなかった。結局は私が筋肉質な男性が好きだという事に何ら変わりは無いのだ。
深く悲しもうと思えば、もっと悲しめたと思う。ジブラルタルさんは私が人生を諦めてから出会った人間の中で一番温かく、優しいときめきを与えてくれた人だった。
努力すれば彼の好みのタイプに近づける訳では無いというのが沈みそうになる私の思考を止めたのだと思う。
それなりに長く生きる内に自分は女性らしい嗜好だと自覚していて、それを受け入れている。
恋した相手の為に現状満足している自身の性別を変えるというのには流石に抵抗があったのだ。
改めて自身の性についてひとしきり考えた後、私はこの恋を終わらせた。
一度好いた人間に迷惑を掛けるくらいなら私はこの世から消える。彼は大衆から求められる聖人だ。だからこそ、甘えたら気を遣ってくれるのが易々と想像出来るからだ。
優しい彼の手を煩わせない様に私は無闇に突っ込む事はやめた。相変わらず生きる事が面倒に思えても努めて明るく振る舞うようにもなった。
自分に振られた所為で余計に破滅願望に拍車が掛かったとジブラルタルさんが負目を感じさせない為にもだ。
表面的に変わってからは、他のレジェンド達ともそれなりに仲良く出来る様になった。
会話を重ねる度に皆それぞれ違った魅力を持っていて惹かれる面があるな、と思ったけれど私の中でジブラルタルさんを超える男性はいなかった。
それなりに賑やかで穏やかな時間を過ごしている内に借金は無くなった。
元々注目されるのはそんなに得意じゃないし、残りの人生、贅沢しなければ生きていける位に稼いだらこのゲームから引退しよう。そう考えていた私の前に彼女は突如として現れた。
「どうしたらローバみたいに美しくなれるの?」
気付けば、私はそう口にしていた。
優美な姿勢で椅子に腰掛けたローバは私の言葉に目を細めた。その表情に私の胸がドキリと揺れ動く。
「あら、嬉しい事を言ってくれるのね?……でも、ただ私を模倣するだけでは真の美しさに辿り着けないわよ?」
「私じゃ、ローバになれないのは分かってる。だって経験して来た事も、考えて来た事も、全然違うから」
「ふふ、賢い子」
子供扱いをされている。そう感じた私の口角がたちまち下向きに急カーブを描く。
不満に思っているのが顔に出ていると尚そう思われると気付き、私は慌てて澄ました顔をした。
誰をも魅了するけれど、気安く近付けさせない気高さがローバにはあった。秘密を持つ女は魅力的と言われているけれど、ローバの心の内はどんな色をしているのだろう。
私はそれがどうしようもなく知りたい。例え彼女に邪険にされたとしても。
ローバが薔薇だとしたら、きっと私はその茨で傷付くと知っていても飛び込む愚かな虫だ。
人に対して此処まで強い執着を抱くのは、生まれて初めてだ。私はこの感情の名前を、まだ知らない。
ローバの様に美しく成熟した女というのはいつの時代も女達の羨望の的だ。だからローバの姿を一目見ただけでドキドキしても、単純な憧れからの緊張だと思ったし、同性だという理由で恋愛感情ではないと思った。
だというのに私は彼女との距離感を測りあぐねていた。
女友達、または同性の同僚。多分目指すべきはそこなのだろうけれど彼女の事を考えるとソワソワと落ち着かなかった。ローバの事を考えるとまるで私はティーンに戻ったかの様だ。
一度性別を根拠に否定したけれど、恋愛感情なのかもしれない、と私は心の整理をする事にした。
私は彼女とキスをしたいのか?
……グラマラスな真っ赤な唇は素敵だけど、その内側の肉を蹂躙したいとは思わない。
私は彼女とセックスをしたいのか?
……今迄女性とそういう事をしようという発想が無かったから、イメージが湧かない。けれど、彼女の裸体を見てみたいと思った。
きっと、どんな彫刻よりも滑らかで肉感的で美しいのだろう。
私はローバの圧倒的な美を信仰しているのかもしれない。
“信仰”という言葉が湧き出た時、妙にしっくりと来た。ああきっとそうだ。
「ローバ、お願いがあるの」
「何かしら?」
深く息を吸って、呑み込んだ。頭はスッキリしている。それでもやっぱり馬鹿げた渇望が私の中で燃え盛っている。
「貴女の一糸纏わぬ姿を見てみたい」
赤色に彩られた目蓋が気怠げに私を見遣る。
「見返りはあるのかしら」
「私の美しい≠ニいう言葉はローバだけのものだよ」
私の言葉に蠱惑的な花唇が開いた。
ローバという薔薇の根元、私はただ養分に成り果てたい。