熱視線


※リクエストのオクちゃんの甘エロ…になるはずの序章です。
※続きはゲームのストーリー関連が落ち着いた頃に書きたいとは思っています。



色取り取りのドレスの花が、今夜のパーティーの為だけに咲いた。なんて刹那的で、軽薄なのだろう。

取材の為に祝賀会やレセプションパーティーには度々顔を出すが、どうもこういう雰囲気は苦手だ。何度参加しても慣れる事は一向になかった。
肩や足を露出した豪奢で頼りない衣服は動き辛く、一度は嫌々身に纏ったが、以降はいつものパンツスーツで出向くのであった。
どうせドレスを着たって、私の首元を飾るのはギラギラとした宝石ではなくゴツゴツとした愛機なのだ。

作られていてない、その一瞬だけにしか見られない、自然な表情を切り取るのが好きだ。だからか、その真逆を行くおべっか塗れの空間が苦手でしょうがない。
媚から美が生まれる訳がない、それが私のフォトグラファーとしての信条だった。

黒と紫を基調にしたスレンダーラインのドレスを着たレイスが目の前を通った。シャンデリアの煌めきを受け、まるで夜空の様だった。
似合ってはいるし、ぱっと見の華やかさはいつもの戦闘服と段違いだが、それと引き換えにギラギラとした野生的な魅力が失われている様に思えた。

彼女の向かう先にはワットソンが居た。天使の様な金髪がより引き立つコバルトブルーのワンピース姿がとても愛らしいが、普段の理知的過ぎるが故の残酷さが影に隠れてしまい、これではただただ可愛らしい妙齢の女性だ。

正装は全てを均一化する。だから、つまらない。私が思うに優美さとは一種の暴力で、それ以外を全て覆い隠す。
凹凸が激しい頬にファンデーションを塗ると、その下の素肌の熱を感じる事は不可能になる。されど、その場限りの圧倒的な美しさを得る事が出来る。


写真は一瞬で、永遠の世界だ。
今時はデータでやり取りしているから、一度撮ってしまえば不滅と言っても差し支えないだろう。
形に残るのだから、最高の姿で写りたい。大多数の人間はきっとそう思うだろう。だから華々しい場面には私の様な人間が呼ばれる。

本日は雑誌のカバーを飾る集合写真を撮るのがお仕事だ。お開きの直前にそういう機会が与えられているので、早く帰りたくても帰れない。

パーティに対して、あまり好意的ではない私だが、そんな中でも楽しみにしている事が二つある。
一つは目も舌も満足させてくれる食事。
そしてもう一つは私と同じ様に嫌々パーティに参加している人間の観察だ。

シーズン終わりの慰労会だけあって、強制参加なのだろう、こういう場が苦手なのか出席率が悪いレジェンドも今回ばかりは勢揃いしている。ただし、レヴナントは除く。こればかりはシンジケートも諦めているらしい。

黒のショールカラーのタキシードを着こなすクリプトを盗み見る。不自然に隠れたりはしないものの、アロハシャツが華やかなジブラルタルと会話を絶やさない様に画策している様だった。
彼は私の様な外部の人間と話すのを徹底的に避けている。万が一話し掛けられた時は社交的なジブラルタルが上手くいなしてくれる。実に上手い作戦だ。

抜け目ない色男をたっぷり観察した後、私は悪い意味で目立っているコースティック博士にこっそりと視線を移した。
お得意のガス缶は無いというのに、彼の周りには重苦しく、威圧的な空気が漂っていた。見た目だけなら落ち着いた老紳士だと言うのに誰も声を掛けようとしない。
普段だったらジブラルタルあたりが気を遣って声を掛けるのだが、本日はクリプトが貸し切っている。ここまで計算しているならクリプトは本当にコースティックを人一倍嫌っているのだろう。

小皿に取った色鮮やかなマリネをちびちびと口に運びながら私はレジェンドや業界人のやり取りを耳に入れる。
面白半分で下世話な噂を広げるマスメディアとは違う、と思っていても本人達が目の前にいると結局気になってしまうミーハー気質な自身に嫌気が走る。
されど、伝説と称される彼らの完璧過ぎない様子を見ると、偶像ではなく実在する人間なのだと分かって妙な親近感が湧くのだ。

昼休みの間、流れているニュースを流し見する位のテンションで業界人をぼーっと眺めながら豪華な食事を堪能する。意識はいつの間にか舌に全集中していた。
一番楽しみにしていたオレンジソースのかかった柔らかそうなローストビーフを味わおうとした瞬間、事は起こった。


ドン、と肩に突如として強い衝撃が走る。「あっ、」と思っても時すでに遅く、手にしていた小皿はアイボリーのスーツに不時着した。途端に油を吸って象牙色は重たい茶褐色に染まった。一張羅なのに。……これからが仕事だというのに!

「ちょっと、」

顔を上げると、ゴーグルとマスクで顔面の殆どが隠された緑色の髪の男が目の前に立っていた。
ほぼほぼ覆面でも、ビビッドな色合いが目に五月蝿いスーツと風変わりな髪色で誰か分かる。レジェンドのオクタンだ。

姿だけでなく、彼は立ち振る舞いや行動自体がとにかく派手な事で有名だ。
ガントレット時代、グレネードで自身の脚を吹っ飛ばしてでもスコアタイムを伸ばした話は最早伝説である。

彼がやる事はいつだって革新的だ。「ブッ飛んでて最高だ!」と大衆は熱狂し、レジェンドの中でも彼はかなり人気がある人物だ。 けれども、何を考えているのか分からなくて、私は正直……彼が苦手だ。多分脳の作りが真反対なのだと思う。

彼と認識した瞬間、情けない事に文句を言おうと開いた口が横一文字に結ばれた。
声を掛けられたオクタンは眉を顰めこっちを見ている。何、端の方で食事していただけの私の方が悪いって言うの?

ムカつくが、理性が勝った。彼はレジェンドで、何よりあのシルバ製薬の御曹司でもあるのだ。下手事をいったらこの宇宙の何処にも居場所が無くなる。
それだけは確かで、気の利いた言葉がでない私の全身からは嫌な汗が噴き出るばかりだ。

「シルバ、アンタが悪いのよ」
「あ?アネキ、なんだよ」
「ごめんなさい。シルバの所為で服が汚れてしまったのよね?クリーニング代は出させて頂戴」

見事な赤毛を二つのお団子にした女性が毅然とした態度でオクタンを嗜める。彼と幼馴染で同僚のライフラインだ。

「え、いや、大したことじゃ……」
「それでも、私の気が済まなから。……ほら、ジャケットは脱いで。シャツと……カメラは大丈夫かしら?」

彼女に促され、せかせかと汚れた上着を脱ぎ、シャツとカメラを確認する。彼女には私をそうさせるだけの、オクタンとはまた違う圧がある。
真っ白なシャツと愛機は無事だった。カメラのストラップに染みが少しだけ出来てしまったが、機体には汁気は掛からなかったので無問題だ。

「大丈夫みたいです」
「なら、良かった。ジャケットは……そこの人、彼女に似合う物を。これのクリーニングも宜しく」
「何から何まで、申し訳ないです」
「いいのよ。だって、悪いのはコイツだし」

ライフラインに小突かれたオクタンはボソリと「この女はパパラッチだろ」と呟いたが、直ぐに小さな悲鳴を上げた。ライフラインに頭を叩かれたからだ。

「だとしても、アンタが悪いんだし、そもそも彼女は……ええっと」
「フリーの写真家で、イライザと申します。今日は『LEGENDS』のカバーを依頼されて来ました」

簡単に自己紹介をし、名刺を渡すとライフラインは軽くオクタンを睨んだ。「ほら、言わんこっちゃない」と彼女の目が物語っている。

「あー……えっと。悪かったな」
「……いえ。私も紛らわしくてすみません」

渋々謝るオクタンに悪感情が湧く。私に対してではなく、明らかにライフラインに向けられたパフォーマンスだったからだ。

形だけとはいえ、謝罪は謝罪だ。ここで彼を声高に糾弾すれば今後の私の仕事人生は終焉を迎える事になるだろう。
グッと堪えて微笑めば、用済みとばかりにオクタンは踵を返し、歓談中のレジェンドの集いに混じりに行った。

「シルバの奴、本当に無責任なんだから」
「彼の立場は色々と複雑そうですし、カメラを持ってる人間に神経質になるのも、分かるので」

大きなため息を吐くライフラインをフォローするつもりでオクタンを庇うと、余計に申し訳が立たないとばかりに彼女は肩を窄めた。

「最近アイツの親父さんは政治活動してるでしょ?自分以外の事で注目されて荒れてんのよ。それにしたってあれは酷過ぎて庇いきれないけれど。……イライザ、だっけ?」
「あ、はい」
「貴女の写真、楽しみにしてるから。ジャケットの事もあるし、また連絡するわね」

そう言うと彼女は私の名刺を優しい手付きでハンドバッグに仕舞った。
どんな名声を上げても驕らず、責任感の強い彼女に、私はこの短い時間の中で強い尊敬の念を抱いていた。

力強く「はい!」と私が答えると、ライフラインは軽く手を振って彼らの輪に戻って行く。 オクタンへの好感度は急落し続けたままだが、この出会いを作ってくれた事には感謝しなければ。
新しく用意して貰ったネイビーのジャケットは、皮膚の様に馴染んだ。


* * *


まるで時を戻したかの様に、アイボリーのジャケットは綺麗になっていた。
それに加えて高額な菓子折りが一緒に送られてきて、私は申し訳ない気持ちになった。手配してくれた彼女ではなく、奴が諸悪の根源だと言うのに。

メッセージカードに載っていたアドレスに、私はお礼の言葉と少しの下心を乗せて写真を送る事にした。
少し前にあった、ヒューズのレジェンド任命式の際に撮ったお気に入りで、ライフラインが子供達におもちゃを手渡している所を撮ったもの。

目を細めて笑う彼女と、全身で喜びを伝える子供。なんというか、この写真を見る度に人の根っこの部分にある、変わらない温かさを感じるのだ。

この時は式典の様子を伝える為に取材班として呼ばれたのだが、悲しい事にマッドマギーが起こしたテロ行為によって事件性の低い記事は流れてしまったのだ。
その為、この写真は未だに私の元から離れず、日の目を浴びるのを待っている状態だった。

彼女がこの写真で喜んでくれるといい。
初夏の日差しの様な輝きが、きっと誰の胸にも差し込む画だと私は信じている。


その後は何もかもが、驚く程とんとん拍子に進んで行った。
メッセージを送った後、すぐにライフラインから返信が来た。
自分達に落ち度があったのだから遠慮なく受け取って欲しいとの旨と、この写真を彼女のSNSに載せていいか?という内容だった。

「なんで兵団に入ったのかを改めて思い出せたよ。ありがとう。とても気に入ってる!」と、写真家冥利に尽きる言葉を言われて、断る訳がなかった。

それからが凄かった。
彼女のSNSに写真が上がると、まず人の目に触れる機会が普段と段違いなのと、そもそもの彼女の人気も相まって、宇宙中から「LIKE♡」をかき集める程の反響となった。

「素晴らしい写真!ライフラインの優しさに満ちた表情に涙が出ました」
「この子、きっと一生の思い出になるな」
「この人の写真がもっと見たい!私の推しも撮って欲しい!」
「語彙がなくてゴメン!とりあえずサイコー」

写真についたコメントを見て、私は打ち震えていた。なんなら私室で転げ回る程に喜びが身体中に巡っていた。

物凄い反応の嵐の後、すぐさまライフラインから連絡が来た。そして、そのメッセージに再び身を捩らせたのは言うまでもない。

「ねぇ、みんなアンタに写真を撮って貰いたいんだって!都合はどうかしら?」


* * *


間違えて撃たれてしまわないように、私は指示通り、真っ赤なヘルメットに蛍光色のベストを身に付けた。
これだけ対策しても誤射は起こり得るというか、試合中のレジェンド達は常に一瞬が命取りの戦いをしているのだ。そんな中、部外者に気を遣えというのは酷な話で。

「私は撮影中に撃たれても訴えません」的な誓約書をApexゲームを運営しているシンジケートに書かされたが、まあ当然だと思う。

ライフラインからの誘いは、最初はミラージュやローバ、パスファインダーといった面々からの私的なものだったのだが、話は段々と大きななり、最終的にはレジェンド全員を今後の広報用に撮るという契約を私はシンジケートと結んでいた。

スタジオでじっとポーズを決める彼等の写真も撮ったが、写真慣れしている面々に関しては中々良い画が撮れたと思うが、やはりギラギラとした野生的な魅力が欠けている様に思えた。

更に言えば、明らかにカメラを向けられるのが得意ではない一部のレジェンドの引き攣った顔は見ていられなかった。
プロとして見れるものは一応収めたつもりだが、試合中に見せる彼等の惹きつけられる強い引力を感じさせるとは言い難いシロモノだ。

そこで私は頭を地面にめり込むのでは、という位には下げた。下げに下げた。やっと回って来たチャンスなのだ。このままやすやすと引き下がる訳にはいかない。
しつこい私に運営は折れ、今に至る。

私は胸に愛機をぶら下げ、重たい交換レンズや機材を詰め込んだバックパックを背負い、開けた道を走る。私もレジェンド達と同様に熱いリングに巻き込まれたら大変だ。

初日、戦闘に巻き込まれたら堪らないし、撮られているという意識のない自然なレジェンド達が見たいという理由で、出来るだけ木陰や岩陰から様子を伺っていると、それがハイドしている部隊だと思われ、やたら弾が飛んでくるという事態になってしまったのだ。

なので二日目の今日、写真を撮る時以外は素人丸出しの、目印の赤いヘルメットが見える様に大袈裟に行動する事にした。
余りにも目立つので、発砲せずに彼等は様子を一旦見てくれる。故に誤射も起こりにくい。 この作戦が功を制し、今日は安心して写真業に勤しめている。

成果は上々で、弾丸を気持ち良さそうに乱射するランパートの笑顔は試合中でないと見れないものだったし、いつも朗らかなホライゾンがゾッとする位冷たい目でスコープを覗いてるのには思わず息を止めた。
試合中でしか見れぬレジェンド達のナマの姿に私はいちフォトグラファーとして非常に興奮していた。

キングスキャニオンの気候はとても蒸し暑い。この痛い程の日差しの中、レジェンド達はよく走れるものだ。彼等の無尽蔵の体力には本当に驚かされる。
インドア極まった私はヒーヒー言いながら必死に着いて行く。シャッターチャンスはいつ訪れるか分からないからだ。
されども、限界はある。ボロボロの民家の中で私は写真整理も兼ねて休憩していた。

「は〜あっつい!」

暑い日差しの熱を蓄えたヘルメットを外すと、途端に涼しい風が流れ込む。
溢れる汗を拭い、グッと呷るように水分補給をすると、目に見えぬ体力ゲージが回復していくのを感じる。
細かな隙間が目立つ心許ない木壁に体重を預け、人心地つく。つい目蓋を閉じようとすると、鋭い銃声が近くで鳴った。

何処で誰と誰がやり合っているのだろう。窓から顔を出すと、青い幻想的なショーケースが川沿いに大きく広がっていた。間違いなくシアの部隊だ。
バズーカと揶揄されがちな望遠レンズを担いで敵部隊を確認すると、黒い影が光を目指して駆けて行く。……レヴナントの部隊か!

デストーテムと呼ばれる謎の影に包まれた姿はとても珍しい。慌てて私は視点を絞り、レヴナントを撮ろうとするが、それは叶わなかった。 突如として腕を撃たれたのだ。痛みよりも驚きが優った私は混乱した。

足音は全く聞こえなかったし、現に今も家の中に人の気配は感じられない。体は未だカメラを抱えたままで、引き寄せられる様に再度レンズを覗き込むと、ゴーグルを額までずり上げ、焦りの色を瞳に滲ませるオクタンがいた。

またもオクタンか、と犯人を特定すると急速に意識が薄れてきた。原因が分かったからか、脳が痛みを訴え始めたのだろう。

彼の、あの珍しい表情、撮りたかったな。
最後にそう思った後、私の意識は途絶えた。


* * *


目が覚めると、白いカーテンに包まれていた。利き腕にはヒールドローンの触手が絡んでいて、私はすぐさま全てを思い出した。
もう一つの腕で負傷した腕をゆっくりと触る。鈍い痛みが走るが、ちゃんと持ち上がるし、指先はバラバラと動かせる。

他に不調はないかと体を捩っていると、勢い良くカーテンが開けられ、驚いた私は固まる。押し入る様に入ってきたのは、まさかのオクタンだった。ポカンと口を開けたままの私に彼は申し訳なさそうに言った。

「……わりぃ。カメラのレンズをスナイパーと見間違えたんだよ」

ベッド横の椅子にオクタンがドスンと雑に座る。ゴーグルとマスクなのもあるが、俯いている所為で彼がどんな表情をしているのかさっぱり分からなかった。

「いえ、私も目印のヘルメットを外していましたし、どちらかと言うと私の落ち度なんで……」
「でも、痛ぇだろ?」
「……まぁ」

気不味い空気が流れる。私の中のオクタン像は、こういう湿っぽいのは苦手で、すぐさまここから出て行くと思っていたのに、中々彼は病室から出て行ってくれない。

「写真は、続けられそうなのかよ」
「……えっ、あ。はい」
「なら、良かったぜ」

何となく彼がホッとした様に笑ったのが分かった。そりゃあ一般人を社会復帰出来ない程ボコボコにしたとなると聞こえが悪いのも分かる。 でも、明らかに彼は「私」に向けて話し掛けている。

「私の事、知ってるんですか?」
「あー……そうか、そうだったな。あの時はぶつかって悪かったよ。まあ、正直言うとアネキに言われるまで覚えてなかったけどよ」

ああやっぱりライフラインに叱られたのがここに来る動機だったのか。それが分かると彼の行動は理解出来る。
謎の緊張感から肩の荷を下ろそうとすると、彼は続けて言った。

「お前が撮ったアネキの写真見てよ、スゲー驚いたんだよ。アネキの写真なんざ飽きるほど見てきたけどよ、その中のどれとも違った」

多分、彼は私を褒めている。突然の事態に私の頬がじわじわと熱を発し始めた。

「……そう、なんですか?」
「よく分かんねーけどよ、ありのまま?ってのをお前は撮る。そう思ったんだ」
「嬉しい、です」

もっと気の利いた言葉があるはずなのに、私はそう返すだけで精一杯だった。
いつも沢山のカメラを向けられている彼に褒められるのはなんだか現実感があまりにも薄くて、足元が浮いている様な感覚だ。

「だからよ、お前が俺をどう撮るのか、楽しみにしてたっつーのに。クソ、早く治せよ」
「……カッコよく撮りますね」
「はは、俺様のカッコよさに釘付けになるなよ?」

軽口で返すと、彼はやっといつもの調子で笑った。そしてその笑い声を聞きながら、私は自身に問う。彼の「いつも」は本当に「いつも」なのだろうか。

軽薄な態度だからといって、彼の本質もそうだと結論付けるのは些か早い気がし始めていた。

彼の素顔は、覆面の癖に全く秘匿とされていない。それならば、彼が隠したいのは、顔じゃない別の場所なのではないかと私は思い始めた。

認めたくない。
けれど、間違いなく今、私は彼の事が気になっている。





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