二度とお前と
組むものか

「このメンバーだと……ミラージュ先輩このアーマー着てください」

金に光り輝くアーマーを見つけたエヴリンが俺とミラージュを確認する様に見つめてから1人頷いた。



クソ、ミラージュさえいなければ気持ち良くこのアーマーを譲れたのだが。

エヴリンからチームへ誘われた時に「分かった」と二つ返事をするのでは無く、もう1人について聞いておけば良かった。
どうせ彼女と仲のいいライフラインかバンガロールあたりだと思っていたのだ。その2人なら俺も比較的やりやすい。

ところがどっこい蓋を開けてみればこのおっさんだった。

どういう事だ、とエヴリンに問いただす前に「ミラージュ先輩にあと1人誘っておいて欲しいって言われて!」と和かに微笑まれてしまったら、俺もミラージュも頬を引きつらせるしか無かった。

どうせ奴も俺の枠はライフラインかバンガロールだと思っていたのだろう。
だが、奴は誘い、俺は誘われた。いいか、ここには大きな差がある。

ミラージュもそう思ったのか、今日はやけに俺を敵視してくるがスルーを決め込む。
けれども、このアーマー問題は流石にそうはいかないだろう。



「おいおい、この俺がレディを差し置いて着る訳ないだろう?それも後輩だ!大人しくお前が着とけ」
「いや、ミラージュお前が着るべきだろう」

心情的には俺もミラージュと同じく小柄な彼女に着てもらいたいものだが、彼女は試合に私情を持ち込むのを頗る嫌う。

「クリプトお前までか!?レディファーストを知らないのか?」
「俺はEMPで比較的安全にアーマーを育てられるし、イライザは回復促進の能力持ちだがお前の様にダウン中のフォローは出来ない。お前がベストだ」
「それに詰めるタイミングでEMPと一緒にアロマ焚きますし、先陣切るのはミラージュ先輩!貴方しかいない!」

俺の言葉だけなら納得いかなかっただろうが、当人であるエヴリンにそう言われては譲歩するほかあるまい。
黙っていても顔がうるさいミラージュの顔がグヌヌ、と歪んだ。

「……そう言われてしまうと着るしかない様だが……いいか?俺はお前が心配だ。ダウンはするなよ?お前が倒れる度に生きた心地がしないというか……最悪の気分だ。何故だか分かるか?」

吐息まじりの、こそばゆく甘ったるい声でミラージュが彼女の耳に囁いた。完全に俺がいる事を忘れているのだろう。

奴の汚い両手がエヴリンの肩に置かれ、2人は暫し無言で見つめ合ったが、その手は彼女が丁寧に降ろさせた。

「ミラージュ先輩みたいな色男にそう言われて悪い気はしませんが、試合中ですよ。口説くのはプライベートの時でお願いしますね」
「……いいからとっとと着ろ。グリッドの中へ急ぐぞ」

めっ、とミラージュに注意をするエヴリンの手首を掴むと彼女は目を見開いたが、直ぐにはにかむように笑った。

どうだ、ウィット。
どうやら俺の方がイライザに少しばかり意識されているらしい。

フン、とウィットに向けて鼻を鳴らせば奴は銃声の鳴る方へ駆け出した。
イライザは急な展開に心底驚いた様だが、ウィットが何をする気か察した俺も奴に続き走った。

この後、男2人良いところを見せようと先走り、リスポーンしてくれた彼女に両者共々、大層怒られたのであった。





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