星を掴む馬鹿(久秀)[9/14]
「……壁を壊さないでくれるかね」
驚きを通り越すと呆れがあった。
床に捨てた骸に見向きもせず、したり顔で笑う萩原彰道に場が騒然となる。
まず前触れなく手前の武士が殴られた。
ただの拳にどれだけの力が込められていたのか、鎧が胸ごと陥没する。
次に切り掛かった武士が蹴られた。
鞠でも蹴るように飛び上がった体が何人も巻込んで柱に当たって、軟らかい物が当たったとは思えないほどに弾む。
それを見てためらった足軽は引く前に掴まれた手を握り潰され、人形のように腕を引っこ抜かれた。
前に刀を奪いに掛かった時とは比べ物にならない血腥い暴威が振るわれ、屍の山を築く。
この破天荒な男にも、一応の手加減と言うものはあったらしい。
突き出された槍を回し蹴りで構えた腕ごとへし折り、忍びが変わり身をするより早く頭を掴んで首を千切り、逃げ出した者にもついでとばかり拳を浴びせる。
型などあったものではない武骨で純粋に力だけの破壊は、獣に近しく、されど劣る。
「実に卿らしい戦い方だ」
「なんだ…なんなんだっ!!」
忘れかけていたが、三人衆になれなかった男が一人憤っていた。
「これが器の差、格の差言うものだ。卿にも目に見えて分り易かろう?」
雑兵は所詮雑兵。
弱き者が強き者より奪う事など有り得はしない。
先ほどまで勝ち誇っていた目には怒りとそれ以上の激しい怯えがあった。
派手な事この上ない萩原彰道の登場は、確実に反乱者の気概をくじいた。
「何を勘違いしたかは知らないが、弱肉強食の定理が覆る事などありはしないのだよ」
「あぁ…あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」
口の端から泡を飛ばしながら狂ったように──狂ったのかもしれんが──久秀だけを血走った目で正面に見据えて、切り掛かる。
頭の付いて行かない体の反射で繰り出す狂気の一打は、悲しいかな、男の今までの技の中で最も優っていた。
久秀は構えなかった。
あるいは予感だったのかもしれない。
ほんの少しの興味が久秀の剣を持つ手を止めた。
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