星を掴む馬鹿(久秀)[8/14]
俺も小太郎に倣い、迷わず剣を鞘におさめた。
腱が軋むまでにつがえられる骨と肉。
裸足のまま蹴った景色が、一足で小太郎を追い越して我が身を躍り出させる。
本気の高速抜刀。
笹の葉を思わせ長大ながら影を残さぬ極薄の金属板が、光を残らず沈めたように黒く染まる。
───喰らってやろう───
直進しながら直刀が放つ蛇行する朧な太刀筋。
歪んだ一太刀が、明らかに刀が届かない範囲まで届く。
あぁ、闇属性か。
一撃が届く範囲全ての兵を薙ぎ倒す。
弾けて散った魂から命だけが引きはがされ、剣の表面に葉脈のように網目を作った。
いくつも断末魔の悲鳴が上がり、さしもの松永軍もさっと顔色を変え構えを解かずに引き下がる。
その中ですぐに異変は起きた。
「寒いっ!!…寒い………」
掠り傷からさえ命を吸い上げられた兵が、真っ青を通り越してどす黒くなった顔で寒さに震えながら倒れていった。
ずるずると邪鬼丸が悪鬼の意思のままに命を啜る。
さらに悲鳴が大きくなった。
「死にたくねぇ!死にたくねぇよ!」
「ば、化け物ぉぉぉぉぉぉっ!!!!」
思わず足が止まる。
だが、ひゅおと強い風が色めき立つ人海に吹き、何かに背を押された気がした。
「小太郎?」
今度は悲鳴一つ上がらなかった。
ただ静かに血をぶち撒ける音が聞こえる首狩り。
気にするなという意味なのか?
むしろ、背を押された気がしたのは気のせい?
ぽかんとしていると、背後から恐慌状態の侍に切りかかられた。
思わず手で殴り付け、相手の顔が鼻を中心に陥没する。
ぼうっとしてはいられない。
未だ不気味な脈動を続ける黒くなったままの剣を再び鞘におさめ、今し方殴った兵の足を掴んだ。
「らぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
そのまま片手でジャイアントスイングをかましながら走り出す。
面白いように雑兵が弾き飛ばされ、道が開く。
見れば小太郎は堂の真横で、障子張りの窓から中へとなだれ込もうとする凄まじい数の兵を始末している。
中は既に騒ぎになっていて、入口付近は小競り合いで詰まりに詰まっていた。
近くまで辿り着いたが、どちらを通るにしても時間が掛かる。
なら…
「はぁっ!!」
目測もつけず、目に付いた堂の壁に、兵士を叩き付けた。
轟音。
兵士の体は怪力に耐え切れず、けれど互いをひしゃげさせながら、漆喰の塗られた硬い土壁を容赦なく粉砕した。
土煙を上げる穴へすぐに飛び込む。
ぐにゃりと骨の砕けた死体を床に捨てた時、ようやく中の状況が分かった。
今まで見た事がないほど目を見開いて口をあんぐりと開けている久秀と、同じような表情の兵が固まったままこちらを見ていた。
「よっ!」
あれだ、こういう事を言うんだよね。
ドッキリ大成功って。
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