星を掴む馬鹿(久秀)[11/14]
ただ無防備に微笑む久秀に向けて三人衆らしい男が槍を振り下ろす。
どうして剣を構えないかなど分からない。
だが、いかに久秀と言えど正面に受ければただでは済まない事だけは分る。
男とて一撃では止めはしない。
息の根が止まるまで何度でも切り付ける。
ぞっとしない想像に背筋が寒くなった。
部屋の奥から動かない久秀とは距離が離れすぎていた。
叫ぶ間も惜しく、剣に手を掛ける。
柄を握った手が濡れたものを持った時のように泡立つ。
嫌な兆候。
まだ剣は鞘の中で黒い刃を蠢かせている。
今振るえば、久秀まで巻き込むかもしれない。
だが、抜かなければ久秀が切られる。
刹那の葛藤を制してどす黒い剣を神速の域で抜剣。
身体をのけ反らせ、久秀を無理矢理避ける複雑な軌道で切り下ろす。
当たるなよ!!
ただ祈る事しかできない。
ぐにゃりと歪んだ刃が舌のようにのたうち、男の脳天に突き刺さり、水音を立てて右脇腹へ抜け、槍を構える腕を肩からごっそり切り落とした。
だが、刃の成長はまだ止まらない。
その向こうの久秀目掛けて貪欲に食らい付いていく。
「────っ」
柄を一気に引き戻し、直線上の畳を鎧を人を裂き、それでも足りずに壁や天井にまで長い切っ先が爪痕を残すが、構ってなどいられない。
「久秀ぇぇぇぇぇっ!!」
「叫ばなくても聞こえているよ」
刃は確かに届いたはずだった。
だが三人衆の男が肉塊になり倒れた後、その向こうに久秀の姿はなかった。
声の方を振り向くと、久秀がおかしそうに笑っていた。
そばにあるのは、小太郎の姿。
「あまりに予想通り過ぎてね、おかしくて仕方がない」
自分より大柄な久秀を抱えていた小太郎が、何でもないように畳に久秀を下ろした。
久秀も大人しく立つ。
萩原彰道の心が叫んだ。
ナイスショット!
あくまでアングルの話であり、手元にデジカメがない事が悔やまれた。
とりあえず網膜に焼き付けんと目を見開く。
「忍の早業には、卿も形無しだな」
おかしそうにくつくつと笑われる度、心臓が激しく脈打った。
今までになくすんごく良い表情をしている。
隣で控える小太郎は、あの刃が当たる寸前に窓から飛び込んで来て、久秀をかっさらったわけだ。
「良き働きをしてくれた、風魔」
肩を撫でる仕草一つ取っても可愛らしくいやらしいのは俺の腐った目のせいだ。
小太郎は久秀の手を払うでなく、いつの間にか持っていた紙巻きを手渡す。
「これも守ってくれたのかね?感心感心。報酬は弾まねばね」
本当に感心しているらしい上機嫌な久秀に、俺は身悶えるのを止められなかった。
なんだこの可愛い生き物は!
血だらけの畳に刀を放り出したのも忘れて、押し寄せるエゲツない衝動と戦うはめになった。
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