星を掴む馬鹿(久秀)[12/14]
反乱の鎮圧に時間は掛からなかった。
九つ時の鐘が鳴る頃には東大寺も静かさを取り戻し、各自が持ち場へと戻った。
それは屍の静かさではあったが、別段松永軍には珍しい事ではなかった。
馬尻に乗った者を裁きもしなければ、誰が死んだかも気にも止めない久秀に律義に部下が報告には来たが、やはり聞いてはいなかった。
首謀者は三好三人衆候補から外された男で元は名のある武家の三男だった事、その男が食い扶持に困り山賊にも成れずあぶれていた農民を松永軍に引き入れ派閥を作っていた事。
細かに調べて来たのは、よく久秀の周りで見る親衛隊とでも言える心酔はなはだしい連中だ。
逆賊は残らずこいつらに処罰されたはずだ。
君臨すれども統治せずを地で行く久秀の軍が軍としての体制を保っていられるのは、ひとえに久秀のためだけに動く者の働きだろう。
そちらに見向きもせず、小さな盃を手に、久秀は盛大に燃え盛る炎を見ていた。
日が長いとは言え後始末に時間が掛かり、日は落ち、火の粉は美しく夜空に吹き上げられる。
ほとんどが身寄りがない無縁仏となった反逆者達は久秀の希望通り盛大な火葬で葬られる事となった。
火を絶やさぬよう、荷車に乗せて薪と身ぐるみ剥れた仏が玉砂利の広場に運ばれる。
寺への上がり口の階段に腰を掛けて、俺と久秀は目の前で人が火にくべられていくのを見ていた。
正しくは、久秀は炎しか見ていなかったし、俺は炎を見ている久秀を見ていたわけだが。
ぐびりと久秀が盃をあおり、手酌で酒を注ぐ。
「美しいな」
人も薪も燃えてしまえば同じ灰だとうっとりとした目で呟く。
あるいは安堵しているような表情。
人の死に触れる事で己の生を感じるような狂気を、この真っ直ぐ過ぎるががゆえに邪悪な男は持ってはいない。
死に触れれば己の死を感じるのが普通だ。
ただ死が引き金になって湧き出す感情が人によって差異があるだけで。
久秀は死が等しく全てに訪れる事に安堵しているように思える。
不滅のものなどあってたまるものかと、いつだったか鼻で笑っていたし。
「卿もくべられてみてはどうかね?少しは愛しく思えるかもしれないからな」
「燃え残って生きてたらちゅーさせろ」
「卿の死体なら愛せそうだ」
本当に機嫌がいい横顔に思わず火に飛び込みたくなったが自重した。
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