チェリーブロッサム・タービュランス[6/7]


 



「どう言う事だ小十郎?」


なるたけ平静を装って、政宗が話を切り出した。

さっきの動揺が跡形もない────わけもなく、視線は若干斜め上。


「政宗様が望まれておりました再戦の準備、できましたので萩原彰道を連れて参りました」


対する小十郎はいけしゃあしゃあと言い放つ。

これが腹芸と言わんばかりの、知らぬ存ぜぬ顔、なんだろう。

真後ろからだと後頭部しか見えないが。


「あぁ?じゃあそいつの言った条件てやつも、どうにかなったんだろうな?」


ぱしんと膝を叩くと、ようやく政宗の視線がしかと小十郎を捕らえた。


「勝てばこの小十郎を好きにしていいと」


小十郎の肩越しに政宗の視線が俺へ突き刺さる。


「俺は許さねぇと言ったはずだぜ」

「口約束と言えど、武士に二言はありません」

「俺の命に背いてもか!」

「危険を承知で政宗様に身代わりを許す事ができるほど、小十郎の心は広くありません」


剣呑な雰囲気にざわざわとリーゼントがゆらめく。


「小十郎っ!」

「…政宗様が勝てばよいのです。勝てば何の問題もなく全てが丸く収まります」


小十郎が息を大きく吸う。


「この小十郎の身が惜しければ、お勝ちください政宗様っ!!」


びりっと空気が震えた。

驚いて夢吉が転げ落ちるほどの大声。

ちりちりと肌が痛む音が聞こえそうな間隙。


「ハハハ……ハハハハハハハハハッ!!!!」


ばしばしと政宗が膝を叩く音だけが静まった場に響いた。


「いいぜ、いいぜ、いいぜ!上等だ!勝ってやるよ、小十郎!お前のためになぁ!」

「お勝ちください、必ず」


両手をついて、畳に頭を擦り付け静かに小十郎が礼をする。

ぎらぎらと輝く政宗の一つきりの眼が、真っ直ぐ、俺を捉える。

背筋をえも言われぬおぞ気が駆け抜けた。

劇物を直接血管にぶち込んだような、猛々しく激しい刺激。

産毛が逆立ち、長く熱い息が肺から絞り出される。

叫びだしたくなるわけの分からない衝動。

俺は嬉しさで、歯が鳴るほどに今を噛み締めた。






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