チェリーブロッサム・タービュランス[7/7]


 



「いやぁ、やっぱり凄いね!」


うんうんとしたり顔で慶次がうなずく度に、リーゼントにしがみついた子猿がきゃっきゃ、きゃっきゃと鳴く。

小十郎が気合いを込めてねじり上げた髪は棍棒のように威風堂々としているが、その下の顔はへらへらと笑っていて締まりがない。


「さっすが片倉さん!惚れるねぇ」

「やらねぇが、今だけは代わってやる」

「まつ姉ちゃんの説教並に怖そうだからやだ」


本人がいない間に言いたい放題言う。

何でも話せるとは言え、小十郎に本人への愚痴を言うわけにもいかず、政宗の愚痴る相手は自然と慶次になっていた。

どんな話も相槌を打ちながら聞いていられるのは、この男の才能だろう。


「あれが萩原彰道かぁ」


小十郎に連れられて出て行った男の背を追うように、慶次が遠くを見る。


「本当に襲ったの、あんなでかいの?」


日の下に出た萩原彰道は昨日の記憶に残る男より一回りは大きく、確かに初めて会った時と同じ覇気に満ちていた。

退廃的な雰囲気はなく、ぼんやりとしているように見えて、向けられた殺気に楽しくて仕方ないと言った顔でくつくつと笑いさえ見せた。


「あれだ、間違いねぇ」

「独眼竜の悪食ぃ。腹壊すぞ」

「竜が食あたりするなんざ聞いた事ねぇが?」


肘当てにかけていた自重を戻すと、他に人のいない大広間で立ち上がる。


「萩原彰道…楽に勝てる相手じゃねぇな。おい、慶次」


帯を直すと、慶次がわかってると言わんばかりに立つ。

だが、それでも背丈はあの男の方が高かった。

大広間のかもいを避け損ねて、天井から埃が落ちるほど横木で額を殴打しながら出て行った萩原彰道。


「ちぃと、稽古付き合え」

「あいよ」


慶次が楽しそうに笑う。

きっと俺も同じ顔をしているんだろう。

風が、奥州に新しい風が吹いた気がした。




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