ダーク・アイスクリーム[8/30]
「小十郎こそ、なんで俺にかまうんだ」
俺の強行にも動揺しないしゅるしゅると布が巻かれる音。
「俺は小十郎が好きだからだ」
ぎょっとして睨み付けるが、そらされる事はない。
真直ぐで、震え一つない声。
ただ目を見ると瞳の縁が揺らめいているように思えて目眩がした。
「ぶっ殺されかけただろうが」
「死んでないし」
やはり痛みを感じないのか。
無抵抗だ。
生理的な抵抗さえない。
最初から逆らおうとさえしていない。
殴られようが蹴られようが突き放されようが。
まるで幼子のように。
かつて確かにいた──会うのがもう少し早ければ──間に合わなかった──あの頃の──ただ守ると誓った──幼子のように。
思い出から響く泣き声に、思わず彰道の頭を床に叩き付けた。
「こ、小十郎?」
ああ、俺はまた間に合わなかったのではないか──何に?
聞こえる泣き声は幻聴だ──本当に?
「俺は」
されるがままにいるのが似ているという理由。
それだけではない気はしたが、覚えのない思考に蓋をして割り切った。
突き放せはしない、と。
「俺はお前が嫌いじゃねぇ、理由なんざそれで十分だろうが」
固まり、唖と見開いた彰道から感情が消えた。
恐る恐る手を伸ばすうちに頭で理解したらしく、目に感情が炸裂する。
「小…十郎。小十郎。小十郎っ!小十郎ぉぉっ……大好きだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
髪が抜けるのも構わず飛び掛かってきた彰道の力は手加減なしで、抱きすくめられて身動き一つ取れなかった。
奇声を発している彰道をよそに下男はさっさと片付けを始める。
今、人生を踏み間違えた気がした。
もしこいつが本気で俺を押し倒したら、抵抗できるのだろうか。
と言うか、政宗様はどうやって襲ったんだ。
自分の保身のために、政宗に聞くまいとしていた事の真相を、小十郎は切実に知りたくなった。
軒先から渡り廊下にさす太陽がやけに眩しかった。
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