ダーク・アイスクリーム[10/30]


 



夏の盛りに春でも来たのか、ひょんこひょんこと白壁の瓦の上に頭が出たり引っ込んだりしながら随分な速さで近付いて来るのが見えて、慌てて瓦の上から地面へ飛び降りた。

政宗の顔が青くなる。

庭の端に隠れた政宗の上を巨大な影が通り過ぎた。

土を踏む音が遠ざかってから顔を上げると、ひょんこひょんこと歩く萩原彰道の後ろ姿が遠ざかって行くところだった。

別に隠れる必要もなければ、わざわざ壁をよじ登ってまで侵入する必要もなかったが、後ろめたさがこそこそとした行動を取らせているのだと政宗自身自覚していた。

あの一件以来、萩原彰道とは一言も言葉を交わしていない。

無理矢理身体を繋げておいて、だ。

本心を言えばどう接していいのか分からず小十郎に丸投げしていた。

こうして会いに来た今も心の整理などかけらもついていない。

昔から割り切るのは得意だったが、割り切ったつもりになっただけで解決していない事がままあり、今回も頭では謝罪の言葉が紡げても、足は根をはったみたいに地面に張り付いてしゃがみ込んだままだ。

じっと見ている先には萩原彰道がいる。

彰道はおもむろに屋根のある井戸端に寄ると────諸肌を脱いだ。


「っ!!」


政宗の前で石畳の上に滑り落ちた着物の下から褌が覗く事はなかった。

質量のある尻にはそもそもそれを隠す布地が食い込んでいない。

小十郎にはかされない限り彰道が褌をはけない事など政宗は知らなかったが、緩衝区画である褌がなかったせいで、政宗はあの日の事をまざまざと思い出した。

あの日と同じ政宗の前でそうとは知らず裸をさらしていた彰道は、縄を引き釣瓶で汲んだ真水を頭から被り水ごりを始める。

夏と言えど、地の底から汲み上げた雪解け水は浴びるには酷なほど冷たい。

頓着せず何杯も被ると長い髪が肉の盛り上がる背から腰に張り付く。

知らない背中を見ているうちに、政宗はすっかり本来の目的を見失っていた。


#photo3#





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