歯車
 ひょこひょこと跳ねる頭を眺める。

 西園寺や花村よりは身長はある筈のその身は、無意味に跳ね回り“年相応”という言葉すらも弾いていく。小動物っぽいから、だからちょっと不安になるから見てしまうだけだと、はじめは思っていた。


 淡い空色の髪は風に揺られ、潤むことの少ない海色の瞳はまっすぐに俺を見つめ。決して非力でない細腕は、この腕を引く度に柔らかさと力強さを伝える。

 小鳥の囀ずるような声も、喋りも心地好く耳に残りやがるし、花咲くような笑顔は、絵画に描かれるそれとは遠く離れている癖に身近な暖かさを持つから頭から離れない。


 いつから俺の歯車は狂い出したんだろうか。

 折れた心を鮮やかなピンクで染めて、嘘っぺらい言動で固めて、硬めて、それらしい憧れにすがれついて。

 いや、いや。違う。あの人への憧れが嘘だった訳じゃない。

 あの人の陶磁器みたいな肌も、丹精に織られた御旗みたいな髪も、宝石みたいに透き通った蒼をたたえた瞳も、神聖な鈴みたいなお声も、その全てが“オレ”の憧れで愛しく思っていたのは、決して、嘘なんかじゃない。

 けれど。

 けれど、そうだ。それ以上に、あいつは“俺”の胸の内に入り込んできた。

 たった一粒。でもその一粒がどうしようもなく眩しくって、悲しくって嬉しくて。気が付かないうちに拾い損ねた幾粒ものそれが俺の歯車に噛んだから、なんだ、これは。

 そんなことになったから、お前と会うたびに心の臓が軋むような音をたてるし、少し話すだけで心が走り出しそうになるし、あと汗出るし、挙げ句言葉すらまともに出てこなくなって。

 それもこれも全部、お前のせいだ。

 “左右田和一”という、端正込めた歯車で出来た人間は、お前のせいで狂ったんだ。


 だから、

「責任取りやがれ」

 誰に向けてすらわからない言葉を、夕焼けに吐き付けた。

17/12/17

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