君の瞳の中の青
カリカリカリ……
真夜中と呼ぶべき時間もとっくに過ぎたというのに、私はまだ机の上の書類とのにらめっこを続けている。
「ふ〜…、終わらない…。」
私は今は鎮守府にいないメガネの似合う彼女の顔をおもむろに思い出し、また
ため息をついた。
いつもは第一艦隊にいる彼女…霧島は、現在他の鎮守府との強化演習の交渉を取り付けるために、遠出をしているのだ。いつもは彼女にせかされながら書類を片づけている私は、彼女がいなくなってから、絵に描いたように増え続けていく書類に頭を抱えていた。
『私が鎮守府を留守にしてもいいのですか?提督…私がいないと何もできないじゃないですか。』
霧島が出かける前に私に向けて放った言葉が頭の中でこだまする。本当に霧島の言う通りだった。情けない。
随分と長い間、終わりそうもない書類とにらめっこしたので、流石に疲れたから、少し息抜きでもしよう、と席を立ちあがった。
「よいしょ…ん〜」
背伸びを思いきりすると、眠気が戻ってきた。
もう寝ようかな…
明日帰ってくる霧島に怒られるのは必至だが、眠気には勝てない。私は寝る支度を始めた。
コンコン
不意にノック音が部屋に響いた。壁の時計を見ると4時だった。こんな時間にいったい誰だろう。
「どうぞ」
ガチャリとドアが開いて入ってきたのは、秘書の時雨だった。
「こんな時間にどうしたの?」
「提督にコーヒーを汲んであげようと思って…」
時雨の手を見ると、お盆の上にコーヒーの入ったカップが2つ乗っていた。
「あ、ああ…ありがとう」
時雨からカップを一つ受け取って、一口飲むと、今までの疲れにコーヒーの温かさが染み渡っていった。
時雨も自分の持ってきたもう一つのカップに口をつけると、おもむろに話し始めた。
「…提督、頑張っているみたいだから、僕も力になりたいと思って。提督の部屋の明かりがついてるのが見えたから…。書類、僕にも何か手伝わせてくれないかな。」
思わず私は、時雨の顔を見た。彼女はもしかして、ずっと起きていたのだろうか。
「僕には霧島みたいに提督の仕事を円滑に進めさせてあげることはできないけど、提督のお手伝いならできるから。」
彼女のまなざしは真剣だった。
ーーああ、私は彼女のこういうところに惹かれたんだっけ。
初めて出会った時も、寂しそうにしているのに、瞳の奥に彼女の強さを感じたのだ。
それ以来彼女は私の艦隊のたった一人の秘書なのだ。
「…もう諦めて、寝ようと思ってたんだけど、時雨が手伝ってくれるっていうなら、終らせるしかないわね。」
「え、そうなの。」
私がそうよ〜というと、時雨は申し訳なさそうにした。
でも、もう全然眠くなんかない。こんなにも優しい秘書がいてくれて、なんて幸せなんだろう。この後帰ってきた霧島に怒られることも、二人でいれば、もう怖くはない気がした。
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