少しでも

※艦娘目線
※名前変換対応していません






司令官は春雨にとって恩人です。

今の春雨がいるのは、司令官のお陰なんです。


もともと春雨は戦闘は向いていないほうで、遠い昔に夕立姉さんに連れられた思い出を除けば、ほとんど戦いの記憶もないような気もします。

もちろん鎮守府に始めて来た時も戦いの仕方など全くと言っていいほど知りませんでした。

そのせいで春雨は司令官にたくさん迷惑をかけました。
司令官はこんな私をいつもそばに置いてくれているというのに…

弱い自分に耐えられなくなった私は、こっそり夕立姉さんのところで修行をするようになりました。
司令官には修行していることは隠して。


夕立姉さんとの修行は出撃命令のかからない、司令官が眠りについている真夜中に行いました。
修行をする前は夜更かしすることもあまりなかったので、春雨は少し寝不足になりました。



「司令官……お呼びでしょうか」

提督室に来るように言われたわたしは、何も思い当たることがなかったので、恐る恐る司令官に声をかけました。

「春雨……悪いが、明日から第二遠征艦隊のほうに移動してもらう」
「えっ……は、はい」
「今まで秘書艦を務めてくれて助かった。春雨のお陰でここまでやってこれた。これからはあまり会わなくなるかもしれないが、また新しい艦隊のほうでも俺のことを支えてくれ、よろしく頼む」
「……………はい」

何で春雨は秘書艦を外されたのとか、春雨のお陰でここまでやってこれたのならずっと側に置いてくれないのとか、遠征艦隊で司令官の為になるなら頑張らなくちゃとか………

頭の中がぐちゃぐちゃになって、司令官の前では精一杯の笑顔を向けて「頑張ります」って言えたけど、提督室を出た瞬間にわたしはしゃがみ込んでしまいました。

「なんで………うぅ……春雨がやっぱり弱いから……?司令官、ごめんなさい…うっ……でも……ひくっ、司令官……うっ」
涙というものが溢れて溢れて止まりません。
司令官の側にいれないことが、こんなにも悲しい気分になるなんて。
「ううっ……司令官……司令官……!」



「………め……はる……め」

「……春雨!」
「……司令官!?」
体を大きく揺すられて目を開けると目の前には司令官の姿。わたしが目を覚ました様子を見て「よかった〜」と言って肩を撫で下ろしました。

「いつもは春雨が俺のこと起こしてくれるのに、今日は一向に来る気配がないから部屋に来てみたら、すっごい辛そうな顔してるから心配したぞ……!」
「辛そうな顔……?」
「あぁ、泣いてただろ?」
そう言うと司令官は私の目尻に溜まった涙を指で拭いました。

「しっ、司令官!」
司令官のその行動に春雨は顔が赤くなるのを感じました。

「なぁ、怖い夢でも見てたのか?」
「……はい」
「どんな夢だ」
「……司令官に秘書艦を外される夢です」

それを聞いた司令官は目を丸くして驚いた様子でしたが、すぐに優しい顔になって春雨の頭を大きな手でポンポンしてくれました。
「バカだなぁ……俺が春雨のことを秘書艦から外すわけないだろ……」

その声が余りにも優しいので春雨はまた涙が溢れてきました。
「春雨が弱くても……?」
「春雨はそんなに弱くないだろ。鎮守府に来た頃に俺が特訓してやったんだから。それに、弱かったとしても俺が守るから大丈夫だ」

司令官のその言葉に春雨の悩んでいたことがどんなにちっぽけだったのか気づきました。
司令官はこういう人でした。この人のお陰で春雨の居場所はここにあって、ここにいれるのです。

司令官、やっぱり春雨は司令官が大好きです。弱くても、少しでも司令官の力になりたい。






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