ドウタヌキ?


エピローグ


校庭の脇にある体育館、普通の体育館より少し狭い作りのそこは即席のパーティ会場に変貌していた。
幾つか並べられた机には料理が乗り、その料理の何倍もの酒類が準備された体育館に『V系バトロワごっこ』に参加した・・・付き合うはめになったバンドメンバー全員が集合している。それぞれゲームオーバー時のダメージに合わせた血糊のついた制服姿、一応顔を洗って髪は整えたもののどこがボロボロになった風で、疲れを隠せない顔をしている。
しかしやっとこの長い《ごっこ遊び》から解放された安堵や、上がったままのテンションのせいで皆、楽しげだった。
『皆さん!3日間お疲れさまでした、楽しんでもらえたかな〜!?よっちゃんも顔出す予定だったけど、なんか無理っぽいからごめんね〜!!』
壇上で挨拶をするヒデの隣でヒースが苦笑を浮かべて頷いている。
『それでは優勝者からの挨拶です!』
3日間振り回した主催者の挨拶にはあまりに簡単すぎるが誰も突っ込めない。ヒデに手招きされて、ディルアングレイの京と堕威が壇上にあがる。
普段ステージに立つ時のオーラは何処へやら、落ち着かない様子の京は、拍手で迎えられたことが居心地悪いとばかりに、気弱な顔で一礼する。
堕威の方ははにかんだ笑みで手を振っていた。
『優勝したおめでとーー!!さっそくだけど優勝賞品はなにに使うかな!?』
ゴールデン枠2時間を自由に使っていいという優勝賞品、ディルアングレイは特に狙っていなかったようだが貰うとなればどう使うのかは他の面々も気になる。
京はそんな視線にまた居心地悪そうに顔をしかめた。
堕威は爽やかな笑顔でマイクに向かって言う。
『さっきメンバー内で相談して・・・京君の発案で決めました』
堕威に肘で突かれ、京はさらに居心地悪そうな顔になった。
「・・・堕威君から言うてや」
「京君の発案なんやから自分で言いなさい」
ステージ下にいた薫に言われ、京は小さく息を吐いてマイクの前に立つ。
ライブ中の神々しさは欠片もない、小柄な体を縮めて不安げに体育館内を見渡し、そして心を決めたのかマイクに顔を近付けた。
『さっきヒデさんにも聞いて・・・ゴールデン枠じゃなくていいから、そんで、地上波じゃない、BSとかMTVとかその辺りなんでもいいからってことで時間延ばすことにオッケーもらったんやけど・・・』
息を飲んで続きを待つ面々を見渡して、京は不機嫌そうな顔になる、近しい者ならそれが彼の照れた時の表情だと分かっただろうが、水を打ったように静まり返った体育館から視線を逸らして足元に落とし、京は言葉を続ける。
『もちろん、諸事情あるしスケジュールの都合もあるから全員とは言わんけど・・・だからやりたい奴だけでええんやけど・・・此処にいるみんなで・・・ライブイベントをやってその中継ってのはどうか・・・と思ってな。会場やら日程やらは話し合って決めるし、皆の意見聞くし、出たくない人は出なくていいから・・・その、やりたい奴だけ、な』
体育館内は静まり返ったままだった、静寂を破ったのは中央端からステージに駆けて来た大佑。
「京さん!!それ、俺も呼んでいただけるんですか!?」
『あ、大佑もおったんや・・・』
「はい、途中参加で!!」
『そらもちろん・・・出てくれたら嬉しいで』
「やった「京さんっ!!」
そんな大佑を押しのけて前に出たのはガラ、目をキラキラと輝かせて京を見上げている。
「お、俺は、俺はもちろん出させていただきます!!」
『そっか、ありがとな、まこ・・・』
ガラの勢いに京は若干引いた様子で頷き、後ろにいたネロが「先に俺らに聞けよなぁ」と苦笑する。
静寂から騒然に変わった体育館からは次々に「俺達も出ます!」という声が上がり始め、京は緊張が解けたように深く息を吐いた。
『ん・・・えっとルキ?』
唐突に名前を呼ばれ、立ちつくしていたルキが「はいっ!」と叫ぶように応えると、京は渋い顔で言う。
『出てくれるか?』
「も・・・・っもちろんっす!!もうスケジュール空けまくります!!」
「俺らにも相談しろよ・・・」
れいたの突っ込みも耳に入らない様子で、感動のあまり五体投地に入りそうなルキに京は少しだけ笑う。
『幕張メッセか横スタかなぁ・・・スケジュール合わなかったら買い取っちゃおうかな、いっそ両方とも・・・』
ヒデの呟きに堕威があくまで爽やかな笑顔で答える。
『買い取りまではしないで下さい』
『まあいいよ、イベント費用も全部こっちで持つし、スケジュールの帳尻合わせなら任せて!』
『け・・・喧嘩にならない程度でお願いします・・・』
ディルも事務所の意向を無視することがあるが、無視の規模が違うヒデの発言に堕威は低姿勢で言った。
『じゃあ詳しい話は後にして・・・とりあえず飲んで飲んで飲んで騒ごう!!乾杯!!』
―飲むしか項目がねぇ!
と内心で突っ込みながらも、ヒデの音頭で乾杯、打ち上げのスタートだった。
以下、セルフツッコミでお願いします。


男ばかり50人以上、そこに酒も入れば騒がしさも倍増、体育館だから音も響く。
喧騒というBGMに押され、下戸や飲み会嫌いは早々に端に並べられた椅子に居座り、騒ぐタイプの人間はハメを外してはしゃぎだす。
さして酒を好まないアンジェロ三人は料理だけとってさっさと椅子に座っていた。
「っていうかキリトの特攻が失敗したのって俺のせいかな?」
「うん、お前のせいだ、殴り合おう」
一応あやまったタケオにキリトはにべもないがタケオは気にした様子もなく「あっそう、ごめんね」と笑って皿に乗った料理を食べる。
「残念だったね、おにぃ」
「コータと合流で来てたらな、一緒に特攻できたのに・・・それにしても地味な手に引っかかったな、お前。後でステゴロ」
「もうバトルは良いよ、こりごり」
「いや、殴り合い足りない、俺はまだ満足してない、心行くまで殴り合おう」
淡々というキリトにタケオが可笑しそうに、しかしそっけなく言う。
「自分の顔面でも殴ってたら?」
「やっていいのか!?」
「「やらないで!!」」
これ以上、此処にいる面子に奇人っぷりをアピールする気がないリズム隊に止められキリトはまだ少し不満げだった。

「うあああ、ディルアングレイ様とイベント、京さんと同じステージ、もうなんでもいい、俺に悔いはない・・・なんなんだこの幸運、やはり俺の日頃の行いの良さが!?」
「お前レベルの良さで幸運が降りかかるなら全世界の人が毎日ラッキデーだっつーの」
泣きながらご飯を食べるルキをれいたが冷やかに一瞥して言う。
「その馬鹿は裏にあった池にでも捨てて来たらいいよ。うっさん、戒君知らん?」
偽者生首のダメージから未だ回復していない葵が疲れきった様子で吐きだした言葉に麗は首を傾げる。
「あれ?さっきまでその辺りにいたのに・・・あ、来た来た!」
血相を変えて走って来た戒は何故が服が半分脱げかかっている。
「おい、みんな逃げろ!!明希が悪い方向に酔いだした!!」
「嘘!?こんな緊張する面子で破壊神降臨したん!?」
「脱ぎ魔じゃなくて脱がせ魔になった!!逃げるぞ!!」
「ルキ、逃げるぞ。ダメだコイツ聞こえてない」
泣きながら何かの義務のように食事を続けるルキの手をさらに引こうとしたれいたに麗が言う。
「馬鹿は捨てて逃げよう、っていうかこいつ生贄にしとこ!!」

「なぁなぁ、結局こっちはいくら儲かったん?」
「案出したサクラに払う分を除いても9万円や、胴元が儲かるシステムって大事やね」
顔を突き合わせ、にまにましている松岡と都に黒柳が憮然として言う。
「お前ら・・・普通に酷いぞ、俺の頑張りは無視か」
「ええやん、それで皆で美味いもんでも食べに行けば、な!?」
ジルの提案に松岡が親指を立てて頷く。
「そやな、おいトモ!お前の行きたいとこでええで」
「ええ!?お、俺!?黒ちゃんじゃなくて!?」
おろおろする赤松に松岡はタックルするように抱きついて笑う。
「だってお前、めっちゃ男前やったし、見なおしたでぇぇぇ!!」
「ちょ、松ちゃん!痛い!痛い!」
こめかみをグリグリされながらも嬉しそうな赤松に黒柳はさらに憮然として叫ぶ。
「だから俺の立場はどうなるんだよ!!」

「もーー浅葱君と一緒にやれなかったのショックや〜」
不貞腐れてもたれかかる涙沙を大城が焼酎を飲みながらなぐさめる様に撫でる。
「まあまあ、しかたないって、二人は番号離れてたし、浅葱君も『待ってなくてごめんね』って言ってたじゃん」
「せやけど。大城君はええよなぁ、無駄にカッコいいことしちゃってさぁ」
「当たり前だろ、俺はカッコいいさ!英ちゃんと違って」
「大城さぁん!もうマジで反省してますから勘弁して下さいよ〜!!」
「そやね、俺らから残念だったのは英蔵君だけやね、俺はなんだかんだで終盤まで生き残ったし」
「涙ちゃんまで・・・」
じゃれあう三人を笑って見ていた恒人の肩を浅葱が軽く叩いた。
「ツネ、これ落としたでしょ」
リラックスしすぎなクマさんの絆創膏ケースを渡されて恒人は驚いたように浅葱を見上げた。
「どこで落としたのかって困ってたんですよ、ありがとうございます!」
「俺があげたやつ、大切に持っていてくれたんだね」
「そりゃ浅葱さんから頂いたものですから・・・」
「メモまで残してくれたし、ツネは本当にしっかりしてて、良い子だねぇ」
誇らしげな顔で頭を撫でられ、恒人は照れたように俯く。
そんな恒人に抱きついてきたのは上半身裸になった明希。
「ツンデレく〜〜〜ん」
「うきゃ!?なんっすか、明希さん!?」
絡みついてくる明希を引きはがそうとするが、力で負けているらしく離れてくれない。
手足を絡め取って触手のようにべたべたとくっつく明希に浅葱が微笑みかけた。
「明希君、助けてくれてありがとうね」
「いえいえいえいえ!当然のことをしたまでですよ!手を組んでたんだからあの時は仲間でしたもん!」
バンド対抗戦である以上、常識外れの行為を明希は胸を張って嬉しそうに言い切った。
「それに恒人君にお世話になりましたし〜〜!!恒人君、恒人君、お礼にキスさせて〜〜!!」
「いや、ちょっと、勘弁して下さい・・・」
浅葱は可愛い子同士のじゃれあいだと思っているらしく微笑ましそうに見ていて助けてくれそうもない。
「ベロチューしよ!!大丈夫大丈夫!男同士だから数に入らないよ〜〜!!でも俺、キス上手いよ〜〜!!っていうか脱がせてあげる!!一緒に裸になろ〜〜!!」
「いえ、俺はあまりそういうのは自信な・・・」
「ぱきしこーーーー!!」
恒人が本気で悲鳴を上げようか悩んでいると、悪鬼羅刹の如き形相をしたマオが飛んできて明希を引きはがした。
「よそ様に対して恥ずかしいことするなっ!!まったく・・・あ、浅葱さん明希がお世話になりました」
明希の首根っこを掴み、地面に引きずり倒して荒い息を吐いているマオに、浅葱は優雅に一礼する。
「いえ、俺はむしろ助けてもらいましたし。ウチの恒人もお世話になったみたいで、ありがとうございます」
「いやあ、俺がお世話されちゃいましたよ。おかげですごく楽しめました」
「マオ君ってば俺のこと二回も助けちゃって、ホント俺のこと好きだよねぇ」
「お・ま・え・は!!一度死んでその馬鹿を治せぇぇぇ!!!」
明希の首を絞めながら立ち去って行くマオに浅葱は微笑ましそうに言う。
「シドさん達も仲良いよねぇ」
「しんぢさんとゆうやさんは何処かに逃亡したようですが・・・」
周囲を見渡した恒人は半眼でそう呟いた。

「絶対に後でマオ君に怒られるよ、明希を任せて来ちゃって」
ステージ脇に避難していたしんぢとゆうやは酒の入ったコップを合わせて笑う。
「破壊神の相手したいなんてマゾなの?俺は酔った明希の相手なんてゴメンだし、この面子に頭下げてまわるのもゴメンだよ」
「・・・っていうかさっき、ルキさんを半裸に剥いてたからどっちにしろあやまりに行った方がいいと思う」
「そう?俺はなんにも見てないけどね」
胡散臭いスマイルを張りつけたしんぢにゆうやは肩を落とす。
「しんぢってば、俺に銃を投げ渡した時すげぇカッコ良かったのに、ちょっと感動したんだよ?」
「男ってのはね、ここぞって時にちゃんとしてればいいんだよ」
「説得力あるんだかないんだか!!」

洋酒が注がれたグラスを片手に、体育館の隅に設けられた喫煙コーナーでミヤはゆっくりと煙草をふかしていた。
全身をくまなく動かした後の倦怠感は心地良いが、ワーカホリックの彼の心は既にスタジオにある。
ふと顔を上げると無駄に長いパグがこちらに駆け寄ってくるところだった。
「・・・ここ喫煙所だぞ、あんま近寄るな」
「分かってるけどさ、なんか、色々ありがとって言いたくて」
「・・・俺も好きでやったことだ、礼を言われる覚えはない」
「ん、そっか」
すっかりいつもの距離感に戻っていることに軽い寂しさを互いに感じ、寂しく思う自分を可笑しく思った。
「最後ごめんね、俺のミスで負けちゃって」
「ああ、逹瑯がリュウイチさんに向かって『俺ら』って言わなかったら俺の存在には気づかれなかっただろうからな」
「え!?」
「お前が『俺らの勝ち』って言った瞬間、完全にお前以外もいることがバレたんだよ、視線飛ばしてたし、あの平たい爆弾使うのもその時に決めてたんだろな」
「あちゃ!!俺、そこもミスったんだ!?」
ミヤは微笑を浮かべた、いつものへにゃりとしたものではなく、寂寞とした笑みに逹瑯は首を傾げる。
「いいんだ・・・《ごっこ遊び》でも俺が最後に残るのは嫌だったから」
「・・・そっか」
ミヤが抱える影を存分に理解している逹瑯は頷くに留める、次の言葉を探しているとサトチとユッケが足音を立てて駆けて来た。
「たつろー!!ぐっちゃ!!このサンドイッチ超うめぇべ!!みんなの分持ってきたから一緒に食べよう!!」
「あとね、あとね、こっちのサラダも美味しいよ!!あとミヤ君の好きそうなデザートもあったから持ってきたよ」
リズム隊のはしゃいだ姿に、ミヤもいつも通りの笑顔を浮かべて煙草を揉み消す。
「ホントだ、美味そうだな・・・」
「ね?みんなで食べよ。たつぅもほら!」
「ああ?しょうがねぇなぁ」


「やっちゃん、今度はもっと甘いの飲みたい」
椅子に腰かけたまま言うハイドにガクトとサクラは顔を見合わせる。
「はいはい、女王様」といかにも適当に言って飲み物を取りに行くサクラを見送りガクトはハイドに視線を移す。
「残念だったね、優勝できなくて」
「うん、せっかく心を鬼にしてがっちゃん倒したのになぁ」
「いやいや、すごく楽しそうにやったでしょ!?」
「・・・そやね、まあ楽しかったで。やっちゃんは幾つになっても面白くて刺激的やな、もしもとかあんま思わなくなったんやけど、今の関係は今の関係でよかったなぁって最近は納得できるんや。ずっと一緒やったら刺激はなくなってたかもしれないし、関係悪化してたかもしれんから、今は今でええんやなって思える3日間やった」
その台詞は軽々しく頷くのすら憚られるもので、ガクトは黙ってハイドの隣に座った。
ハイドは少し離れた所にいるラルクのメンバーに軽く手を振って言う。
「禍福は糾える縄の如しなんて言うけど、やっぱ一喜一憂するのが人間ってもんやけどね。まあこれやっちゃんが言うたんやけど」
「うん、そうかもしれない・・・」
戻って来たサクラは会話が聞こえていたらしく、二人に飲み物を渡しながら悪戯っぽく笑う。
「今回は《ごっこ遊び》で、お互い良い結末じゃなかったけど思ったよ・・・笑って死ねたら勝ちじゃねえかってさ」
「ああ、今回は俺、最悪だよ、友達に裏切られたからね」
拗ねた風に言うガクトにハイドは首を振り「俺もやねぇ」と天井を見上げた。
「俺はそうでもないかもな、カワイコちゃん二人に撃たれてちょっとハッピー?」
「血と汗と涙の裏側?」
「ああ、歌詞的には意味合い変わるけど言葉的には合ってるな」
ハイドとサクラはツボにはいる会話だったらしく爆笑するが、ガクトは意味が分からずに二人を見つめていた。

ステージ上、後輩たちに気を使って元ルナシーの面々が固まっていた。
「最近の奴らってホント、品行方正つーか折り目正しいつーかしっかりしてんだな、俺らが20代の頃と全然違うわ」
スギゾウがそんな感想を漏らし、隣にいた真矢が頷く。
「殴り合いが始まらないんだな、飲み会で・・・」
「俺達が異常だったんだと思うけど?」
さらりと言うリュウイチにJが軽く笑う。
「まあな、そもそも俺ら周辺だったら《ごっこ遊び》でも本気の殴り合いになってたと思うぞ、ルールとか無視して」
「そんな俺達もすっかりオジサンだけどね」
「まったくだよ、ケミカルさゼロになっちゃった、今更なりたいとも思わないけど」
リュウイチとスギゾウもそう笑いをもらす。
壇上ではイノランがもたれかかりぼんやりとその光景を眺めていた。
「イノランちゃん、マーダーお疲れ様」
ヒデに声をかけられ、イノランは淡々と答える。
「考えてみれば俺しか無理でしたもんね、ゲームを流動させるのは杉ちゃんやJには無理だから、俺が適任でしょう」
「キリトも考えたんだけど、指令に従ってくれるか微妙だったから」
イノランの隣でケン・ロイドは耳の垂れた犬のような顔で言う。
「だからって酷いと思うけどね・・・」
「そういやケンっていつゲームオーバーになったの?」
「ひどっ!!この人本気で酷い!!」
酒瓶を回していたタクヤは眉ひとつ動かさずにイノランを指差す。
「こういう人のことを冷酷非道鬼畜生って言うんだよ、覚えておいて」
「レイコクヒドーオニチクショー?」
「そうそう、今後そう呼んであげればいいと思う」
「ケン、たっくん、愛してるよ」
しれっと言うイノランにケンとタクヤは同時に肩を竦めた。


そして今回の優勝者、京は隅にある椅子の上で丸まって眠っていた。
それを見守るように隣に座った薫もゆっくりと酒を飲んでいる。
「幾つになっても寝顔はあどけないよなぁ・・・」
「薫君、台詞がいちいちパパしてるよね」
敏弥のからかいに薫は鬱陶しそうに目を細めた。
「事実を述べてるだけやん」
「普通メンバーにそんな発想ないから、ねぇ心夜?」
「は?敏弥に情がないだけとちゃうの?」
抑揚のない声で放たれた心夜の言葉に敏弥が悲痛な叫びを上げる。
「なんで攻撃が俺に必ず来る仕組みができあがってんの!?」
「とし坊、うっさい。京君が起きるやろ」
薫に払うように手を振られ敏弥はしかたなく黙った。
「まあ分かるで、寝る時も苦悶そうな顔してることも多いからな〜、安らかな顔して眠っててくれたらこっちも安心や」
堕威もそう言って京の隣に腰掛けて息を吐く。
「しかし優勝賞品の使い道、京君からああ提案してくるとはなぁ、まあ面白そうやからええけど」
「そやね、まあ3日間も拘束されたのはみんなやから、全員で良い思いした方が良いっていう京なりの気づかいやろ」
薫は穏やかな顔で京を眺めている、京は喧騒など耳に入らないかのように静かに眠っていた。
「それにしても長い3日間やったな、なんだか2年ぐらいやってた気がするわ。今がまだ2009年やなんて信じられへん。不思議なことにライブでオーディエンスと合唱するのが定番になったシングルを発表したような気ぃすらする」
あくまで淡々と言う心夜に眠っている京以外のメンバーは突っ込むことすらできず、顔を引きつらせた。


太陽は西に傾いてオレンジ色の陽光が島を照らし、木々がその光を幾重もの筋に変え、森に、集落に降り注ぐ。
置き去りにされたディバックと《死亡カード》に反射し、その後ろに影を作り、3日間56人が全力で遊び回ったこの島を鮮やかにしていた。
笑いと少しばかりの涙と、手に手を取り合い、翻し、全ての垣根を越えてひたすらに56人の《大人子供》が駆けまわった島も、今は風の音と鳥の鳴き声が静かに聞こえるのみ。
これからも彼等は走るのだろう、今度は目に見えぬ道を目に見えぬなにかと戦いながら走り続けるのだろう。
時に過ちを犯し、反目し、それでも目指す場所を信じて走り続けるのだろう。
主催者のヒデが思ったよりも遥かに大きなものを、この《ごっこ遊び》はもたらした。
ある者はそれをしっかり抱きしめ、ある者は無自覚のまま心に刻み込み、明日からまた走り出す。
廃校に一番近い海岸に中型の船が横付けされると、待っていた参加者たちはそれに乗りこんで行く。参加者たちを乗せた船は東京への帰路についた、帰った彼等に待つのは一時の休息と、終わらない戦いの日々。
海岸に残ったのは主催者たるヒデ、手伝いに駆り出されたヒースとJ・Y氏。
「終わっちゃった、祭りの後は寂しいねぇひーちゃん」
「まあ、あれだけ騒がしかったのがこうなればね・・・祭りの後はいつだって寂しいかな?」
「俺はこの寂しさに耐えきれなくて、ついつい連続してお祭りしちゃうんだよなぁ、でもそうやって続けてくとさ、いつか終わった時もっと寂しくなって、不毛なんだけどね」
ヒデはそう心底寂しそうに笑った。
「またやるなら付き合うよ、一応・・・」
ヒースの言葉にヒデはまだ少し寂しそうなまま頷く。
「そういえばだけど、というより最初に聞くべきだったんだけど・・・」
恐る恐ると言った様子でJ・Y氏がヒデに問いかける。
「まさかこの《ごっこ遊び》、文章に起こすのが俺の役目だったりする?」
ヒデは腰に手を当て、一転悪戯っ子の笑顔を見せた。
「あたりまえじゃん!Iちゃんに頼むと毒舌になっちゃうし、一番ドラマチックに書けるのはアナタでしょ!?」
「ああ・・・やっぱりか・・・」
「さ!片付け人員が来るまでに残りの酒全部飲んじゃお!そのほうが片付けるの早いしね〜!」
廃校の方へ駆けだしたヒデの後にヒースが続き、J・Y氏も重い足取りで歩き出す。
誰もいなくなった海岸には波だけが打ち寄せ、西日はその波を宝石のように輝かせていた。

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