ドウタヌキ?


スタートから第一回放送まで


現場はやや騒然としていたものの、雰囲気的には大型イベントの控え室の様相をていしていた。集まっているのは新人から大御所クラスまで様々なV系バンドのメンバーであり、仲良し同士、あるいはメンバー同士に固まって賑やかにおしゃべりをしている。
異様なのは此処が廃校の一室で本土から遠く離れた島だということと、集まっている面々はみなカーキ色の洒落たデザインのブレザーを着ているということだった。
それぞれが情報交換した結果、経緯はこうだ。
雑誌の撮影だという名目で此処に連れて来られ、撮影用の衣装だとブレザーを渡されたので着替え、此処で待っていてくれと言われたのでこの教室にいる。
うん、意味不明。
髪も整えて、メイクもそれなりにしてはいるもののこんなたくさんバンドが集まっての撮影なんて聞いたこともない、なにより気になるのが黒板にデカデカと書かれている言葉だ。

『V系集合・バトルロワイアルごっこ大会』

芸術的にすら見える殴り書きでそう書かれていた。よく見れば確かにこの衣装、映画のバトルロワイアルで使用されていた衣装にそっくりだ、違うのは胸の辺りにプラスチック製のランプがついていることで、色は全員『青』が点灯していた。
この状況を解説できる人間はいないものかと誰もが思っていた、一番知っている可能性が高いのはこの中で一番のベテランである元ルナシーの面々だったが、全員首を傾げただけで本当になにも知らないらしい。元ルナシーの面々はそれぞれバラバラに座っている。
後ろの木製ロッカーの窓側にイノランが腰掛けて煙草をくわえていた。その横でケン・ロイドが居心地悪そうにオニギリ座りをしている。
どちらも無言なくせに他人が入りづらい空気が漂っているので声をかける人間はいない。
その反対側、ドアの方ではディルアングレイの京が身体を丸めて床に座っていた。眠そう、というか本当に眠いのだろう、うつらうつらしている。京のシンパである数名が来るには来たが、京が眠そうなのを察知して今は離れている。京の隣に立っているのはディルアングレイのリーダー、薫だった、腕を組んで京の隣に立っているその姿はなんだかボディーガードのようだ。ディルの他のメンバーは随所に散らばって情報を集めている。
窓の前では喫煙者達が煙草を吸っては煙を外に吐き出していたので、ちょっとしたボヤに見えなくもない。全員ブレザーなのでタチの悪いヤンキー集団にも見えた。
「ねぇイノラン、なんなんだろうねコレ」
ずっと黙っていたケン・ロイドが口を開き、イノランに問いかけた。元より発展的な答えが期待していない、自己確認のような問いかけだった。
「《バトルロワイアルごっこ大会》って書いてあるね」
「それは見れば分かるよ」
予想以上の適当な答えにケン・ロイドは口を尖らせた。
「でも俺は、あの字に見覚えがある気がする・・・」
そう言って首を傾げるとイノランはまた無言になった。
「なぁ」
二人に突然影が落ちた、顔を上げると立っていたのはラルクアンシエルのハイドだった、何故か女子の制服を着用している。似合っているというか違和感はなかったが。
「KAZは来てないんか?」
どうやらケン・ロイドに向けられた言葉のようだった。黙って首を振るとハイドは怪訝そうに顔をしかめた。
「ヴァンプスの撮影や言うから来たのに・・・何故かテッちゃんやサクラはおるんやけど、これってどういう基準で集められたんや?」
この質問はイノランに向けられているらしい。
「ごめん、ちょっと分かんないや」
イノランがそう答えるとハイドは一礼して去って行った。
その反対側では睡魔と直接闘ってる人と間接的に闘ってる人がいた。
「京君、寝たらあかんて」
「・・・・外郎と下郎って似てるなぁ」
「いや、似てるのは字面だけつーかそこまで似てへんよ」
「事実無根と事実無限ってそっくりや・・・・」
「似てるけど後のが造語やん」
支離滅裂なことを口走る京の相手を真面目にやる典型的A型人間薫。このやりとりにつっこめる勇気のある人間が周囲にいなかった。
時刻は朝の9時、そもそも彼等にとって活動時間ではない。
いいかげんだれたムードになりかけた時、教室前方の扉が開かれ、入ってきた男の姿を見て室内は水を打ったように静かになった。
男は教卓の前に立つと、ある意味予想通りの言葉を言った。
「今日はちょっとみんなにバトロワごっこをしてもらいます」
スーツ姿のショッキングピンクの髪をした男、みんなの大先輩、ヒデだった。
全員引きつった笑いでその姿を見る。さらに前方の扉からはディバックを大量に載せたカートが運びこまれた。
誰もなにも言わない、無言である。様々な思いが一瞬で錯綜した、この大先輩相手に意見の言える相手は少ない、直接交流の多い元ルナシーのメンバーに注目が集まったがむしろ付き合いの長い彼等は一瞬で悟ったようで、突き抜けた笑顔で視線に答えた。言語化するなら『あきらめろ』の一言だ。
「とりあえずバトルロワイアルを知らない奴は手を上げて!」
ヒデの言葉に数名の手が上がった。ヒデは笑顔で頷いてバトルロワイアルの説明をした。
そして続いて今回の《ごっこ》としての説明が始まった。
説明によればこのブレザーは特殊なもので、一定の条件が加わると『当たり判定』が出る、その判定によって胸のランプの色が変化し、それは5段階。色が『赤』になったらゲームオーバー、つまり『死亡』扱いになる。軽いものでも蓄積されればいずれはゲームオーバーになり4段階目の『紫』になった場合は島の何処かに点在している回復アイテムをゲットしなければ5時間で『赤』に変わりこれもゲームオーバー。
『当たり判定』が加わった直後は電子音と共にランプが点滅するのでその間は『移動』してはならない(手なら動かしても良い)
安全のため、頭部や首、手などへの攻撃は禁止(そもそも服の部分に当てないと『当たり判定』はでない)
本家バトルロワイアルは最後の一人になるまで殺し合うというルールーなのでそれにのっとり一人を除いて全員がゲームオーバーになった時点でゲームは終了。
期間は3日間でそれ以内に優勝者が出なければ全員ゲームオーバー。禁止エリアの設定は本家と同じでエリア内に入った時点でゲームオーバー。本家での首輪の役割が胸のランプということになる。
『死亡判定』を喰らった人間は定期的に流れる放送で名前を呼ばれたら此処に戻ってきて良いが、それまではその場から動かないことと、喋って良いのは『どうやって殺されたか』のみで『誰に殺されたか』は言ってはいけない。どの武器で殺されたかも具体的に言ってはいけない、『《銃》で《お腹を撃たれた》』というように言う事(つまり『銃殺』『刺殺』『撲殺』という大雑把なレベルで伝えるルールで、これは《マーダー》を判定し難くし、より複雑な心理戦に持ち込むため)『死亡判定』を喰らった人間は支給されるディバックの中に入っている帽子を被ること。それ以外の時にこの帽子を被ったらルール違反として『警告』が入る。
参加者の行動はすべてコンピュータでサーチされており、ルール違反をしたら『警告』が入りそれでも改めない場合は強制的に『失格』になる。
武器は見た目こそ本物そっくりだがもちろん偽物。但し特殊な物で『当たり判定』は配布される武器でないと発生しない。武器の配布はランダムで、『ハズレ』『小当たり判定武器』『中当たり判定武器』『大当たり判定武器』の他に『超大当たり判定武器』が3つ存在する。
ディバックの中には食料・水・地図・懐中電灯・時計・コンパス・ルールブックと武器が入っている。私物の持ち込みは禁止で煙草とライター、携帯灰皿、薬(服用の必要がある場合)のみ持ち込みOK、但し火の扱いには細心の注意をはらい、吸い殻のポイ捨ては厳禁。また、支給武器以外での攻撃や故意に相手を怪我させた場合は『失格』扱いとなる(怪我をしないレベルのトラップならOK)

全員無言でその説明を聞いていた、というより意見できるような勇気を持った人間がいなかった。そんな中で一人手を上げた人間がいた、ディルアングレイの頼れるリーダー、薫だ。
「はい、薫君」
ヒデに指名されて薫は口を開く、ちなみに隣の京はヒデの姿を見てこれ以上ないほどぱっちりと目が覚めたらしく、今は立って発言する薫を見ていた。
「優勝したらなにか貰えるんですか?」
(この状況でよくそこまで頭が回るな、おい!)とほぼ全員が心の中でツッコミを入れた。
「もちろん!優勝者には全国放送ゴールデン枠二時間使って自由な番組作っていいぞ!新曲の宣伝でもツアードキュメントでも好きなもの!ちなみにディレクターやらなにやらも好きに指名できる権利つき、費用は全額こっちが持つ!」
歓声が上がった、それはデカイ。
新たにもう一人、手を上げた人間がいる、イノランだった。
「ほい、イノランちゃん」
「それだと、バンド内でバトルする理由はないですよね?同じバンドのメンバーだけが最後に残った場合はどうするんですか?」
俺には関係ない話ですがと小さく付け加えてイノランはもっともな質問をした。
「う〜ん・・・最後に残ったのが全員同じバンドだった場合はそこで終了、そのバンドが優勝ってことで」
(考えてなかったのか!)また全員が心のなかでつっこんだ。
「あと徒党組んでもだまし討ちしても談合してもなにしても良いけど、あくまでごっこ遊びの関係上、配布武器に毒物はないよ」
「あともう一ついいですか?」イノランの前置きにヒデは笑顔で了承した。
「タクヤ君はどうして参加しないのかな・・・」
穏やかな口調なのに血も氷るような響きがある声音、イノランが指さしたのはディバックの入ったカートを運び込んできた人物だ。深めに被った帽子を脱ぐと、たしかにそれは元ジュディアンドマリーのタクヤだった。
「ん〜タクヤはビジュアル系じゃないしお手伝いにと思ったんだけど・・・」
そう言うヒデの横でタクヤは音速に近い速さで頷いている。
「いやだな、ロボッツはビジュアル系ですよ」
きっぱりとイノランが言い切った。
「じゃあタクヤも参加して」
あっさりとヒデに言われてタクヤは肩を落とした。
(あれ?もしかしてイノランさん怒ってる?)全員が口には出さずにそう思った。イノランの隣にいたケン・ロイドはさり気なく腰をずらしてイノランから離れる。
再び手が上がった、手を上げたのは元ピエロ現アンジェロのボーカル、キリト。ヒデの指名を受けてから淡々と言う。
「主催者に反撃するルートはあるんですか?」
KYなんだか勇気があるんだか、たぶん彼の場合両方だろうがすごい質問だった。この質問にヒデは嬉しそうな顔で答える。
「あるけど、すっごい難しいよ。実は一個だけ抜け道を用意してある、そのルートを狙うなら俺を倒せばオッケー、俺もおまえらと同じように特殊なスーツを着てるからな。ただし、このルートを行った場合は優勝賞品はナシだ」
まぁそうでもしないとみんなそのルートを狙うだろう。腐ってもロッカー。
「もう一つ《死亡判定》をくらった人間を生きてる人間が動かすのはオッケーですか?」
キリトの質問の意図が分からなかったのか一瞬怪訝そうな顔をしてから「それはかまわないぞ」とヒデが答えるとキリトは満足そうに頷いた。
「他に質問のある奴はいるか!?」
そろそろと手が上がった。ハイドだった。
「あの、なんで俺、女子の制服着せれられてるんですか?」
この言葉には「俺も」「俺も」とちらほらと同意する声が上がった。
「読者サービス!」
きっぱりとヒデに言い切られると、全員黙った。
「そうそう、これ一応仕事扱いだから3日分のギャラは出るぞ、少ないけど」
その後はとくに質問が出なかったので名前順でのスタートが始まった。


武器萌え追及ごっこ遊び!?
『V系バトルロワイアルごっこ』はじまりはじまり☆







山道ならばけっこう歩き慣れている。時々コンパスを確認しながらイノランは道なき道を突き進んでいた、その後ろを大型犬、もといケン・ロイドが苦心しながら着いてきていた。
「ねぇイノラン、もっとゆっくり歩いてよ」
文句を言ってみたがそれに対する返答はない。ケン・ロイドと合流したのはイノランにとってはまったくの偶然だった。名前の都合上比較的早い出発となったイノランは校舎の周辺を見てまわっていた、そこにケン・ロイドが「待っててくれたんだ!」と輝かしい笑顔で寄ってきたので適当に頷いたのだ。条件反射。
本人にその自覚はないがけっこうイノランはトロい。
とりあえずはディバックの中を確認しなければと思い、周囲から死角になっている場所を選んで木の根に腰を下ろした。ケン・ロイドは向かいの石の上に座る。
「このゲームは破綻しているんだ」
とくに前置きもなく喋り始めたイノランにケン・ロイドは一瞬不思議そうな顔をしたが頷いて続きを待った。
「バトルが起こることを想定してのゲームならすでに破綻してるんだよ。それは何故か?コレがたかだか《ゲーム》である以上、緊張度の高い関係ほどバトルに発展する可能性が低いからだよ」
そう言ってイノランはディバックを開けた。ケン・ロイドもそれに習ってバックの中身を確認する。
イノランのバックから出てきた武器は短機関銃、ミニウージーだった。『大当たり判定武器』である。それに対しては特にリアクションをせずにイノランは使用説明書らしきものを読みながら続けた。
「《ごっこ遊び》だからこそ、よく知らない相手と遭遇した時、そこからバトルに発展する可能性は極めて低い。さらに嫌いな相手、過去に遺恨があった相手なら可能性はもっと下がる。何故かと言えば《シャレじゃすまない》からだ。小学生ならともかくみんないい大人なんだから」
精神年齢が低い人物ならけっこういるのだが交流範囲がさほど広くない(V系に限って言えばだが)イノランはそこまで思い当たらなかったらしい。ケン・ロイドがバックの中から取りだしたのは無骨な大型ナイフだった。説明書には『エリミネイター』と書いてある。『中当たり判定武器』だ。当然のことながら材質はゴム以上プラステック未満といった堅さで試しに木を切りつけて見たが跡すらつかない。イノランのミニウージーも同様のようで片手でお手玉でもするように弄んでいるところから見るとそうとう軽いらしい。
「一番バトルに発展しやすいのは比較的仲が良くて、バンドメンバーじゃない相手ってことになる、まさに《ごっこ遊び》に相応しいと言ったところかな・・・」
説明書に何か気になる部分でもあったのか、イノランは少し嫌そうな顔をしながらそう言った。
「Jや京君辺りはシンパがいるから混迷するだろうね、優勝者なんて出るわけないよ」
「言われてみればそうだよねぇ。ヒデはなんでそんなこと・・・」
「でもそこに気づかないヒデさんでもないみたいだ」
「え?」
気がつくとミニウージーの銃口はこちらに向けられていた。

ぱらららららららっ

本物そっくりの(本物なんて聞いたことがないけれど)音がして銃口がレーザーポインターのように光った。衝撃はない、光だけだ。
「なんだ、反動すらないやこれ。手応えないなぁ」
ケン・ロイドの胸からピピピピという電子音の後ピーっと長めの音が響き、静かになった。
「ちょ!いきなりなんなのさ!」
「オマエはもう死んでいる」
芝居がかった口調でそう言われ、慌てて胸元のランプを見ると色は赤に変わっていた。
つまり『死亡判定』を喰らっている。
「う〜〜〜〜〜!なんで撃つんだよ!俺なんかした!?」
泣きたくなってきた。けっこう本気で傷ついてるケン・ロイドに対しイノランはしれっと言う。
「なんでって俺の話聞いてなかったの」
「ええええ?どういうこと??」
「言っただろ、一番バトルに発展しやすいのは《シャレですむ相手》つまり《バンドメンバー以外の友達》だって」
言った、確かに言ったけど、いきなり撃つことはないんじゃないだろうか。
「ひどくない!?」
「いやいや、申し訳ないなぁと思ってるんだよ」
苦笑いしながら近寄って来たイノランは軽くケン・ロイドの頭を撫でてエリミネーターを自分のズボンのベルトに差した。
「じゃあなんで!」
本気で怒っている様子を察したのかイノランはケン・ロイドの目の前に先程見ていた説明書を広げて一点を指さした。そこにはこう書かれていた。
『この武器を当てた人間は《マーダー》になること』
「・・・・・・・・・・・・・・・」
目が点になった。
「な、これも運命だと思って諦めて死体役をやっててくれ、じゃあ俺はこれで」
さっさと荷物をまとめるとイノランは背を向けた。
「ちょっと待って!」
「なんだよ?」
「《親友》を《殺した》んだからさ、なにか気の利いた台詞でも言っていってよ」
聞き分けの良さを発揮したケン・ロイドが笑顔でそう言うのを受けてイノランもつられて笑い少し考えてからこう言った。
「愛してたぜ、ケン。生まれ変わっても友達だ」
これ以上ないぐらい最高の台詞だった。
しかし《V系裏最強》に《大当たり判定武器》と《マーダー》が渡ってしまったのは傑作だなぁとイノランの後ろ姿を見送りつつケン・ロイドは最近覚えた日本語を呟いてみた。
「え〜っと、みなさん、ゴシュウショウサマ」

イノラン
【武器】ミニウージー、エリミネイター
【所属】なし
【状態】青
【行動方針】マーダー役、ゲームをかき回す
【特性】?

【ケン・ロイド FAKE? ゲームオーバー】

【残り54人】




早くスタジオ入って仕事の続きがしてぇなと心の中で呟きながらミヤはバックの中を確認していた。優勝賞品は確かに魅力的だが、この手の『悪ふざけ』を進んでやるタイプではないミヤは正直、どうするか決めかねていた。
ついさっき、わりと近いところで大きな銃声が聞こえたが、どうせごっこ遊びだし、とミヤはあまり気にしていなかった。その少し前、これはかなり遠くで銃声がした。マシンガンのようだったがこれも気にしていない。
「なんだこれ・・・」
自分に運がないことはよく分かっていたがバックの中にはお馴染みすぎる道具『ギターの弦』が入っていた。ご丁寧にも『ハズレ』という紙が貼り付けられている。
「ありえねぇ」と脱力したミヤの背に聞き慣れた軽薄な声がかけられた。
「ミ〜ヤ〜君!」
一瞬びくっとしてふり返ると、そこには無駄に長い奴がニヤニヤと笑いながら立っていた。
「逹瑯・・・おどかすなよ」
「ミヤ君が勝手にびっくりしたんだべ」
「屁理屈を言うな」
「屁理屈なんだから理屈だっぺ」
逹瑯の一種のサドモードというかおふざけモードというか、これが何年経ってもあまり好きではない。逹瑯の手元を見てミヤは顔をしかめた。
「オマエの武器それ?」
「うん。すごいっしょ。《大当たり判定武器》だべ」
逹瑯が持っていたのは大型の散弾銃−ショットガンだった。
「レミントンM870って書いてあった、もちろん偽物だけど」
「逹瑯、おまえ・・・それ撃ってみたのか?」
「撃たなくても偽物なのは分かるよ、すげぇ軽いもんこれ」
「そうじゃなくて・・・」
「ミヤ君、なんでびびってんの?」
ニヤニヤとした表情のままで逹瑯は揶揄するように言う、ミヤは少しムッとした。
「さっき銃声が聞こえたからさ、オマエかと思っただけ」
「ふ〜ん。ところでユッケが向こうにいるんだけど、一緒に来る?」
「なんだ、一緒だったのかよ・・・どうするかも決めたかったし、行くよ」
「そお」
相変わらずのニヤニヤ笑いを浮かべたままの逹瑯の後を追ってミヤは荷物をまとめて歩きだした。
「銃声っていえばさ、俺が学校の外に出てすぐ手前の茂みから銃声がしたんだよ。慌てて横に逃げたんだけど、誰かゲームオーバーになったかもね。ところでミヤ君は武器なんだったの?」
「《ハズレ》だったよ、ギターの弦」
「あはは!ミヤ君らしい」
「どんな"らしさ"だよ、それ」
げんなりしながら山道を進む、先に逹瑯が立ってショットガンで藪をかき分けてくれているおかげでそこまで歩きにくくはない。気づかってくれているのか、只単に自分が邪魔だからやっているかはいまいち不明だが。
しばらくして少しひらけた場所に出ると、大木の前にユッケが座っていた。
「ぐっちゃ〜!ゆけたん死んじゃったなりよ」
ユッケはそう言って胸のランプを示す。赤い『死亡判定』が出ていた。
「ユッケ!誰にやられたんだ!?」
ちょっと狼狽えたミヤにユッケは笑う。
「それは言えないルールなりよ」
「そうだった・・・じゃあ何でやられたんだ?」
「えっとね《刃物》で《胸を刺された》なりよ」
「ん〜」
誰だろう?と思いながらユッケのディバックをのぞき込んだ。ほとんど手つかずのそれの中に何かの取扱説明書が入っていた。ユッケの持っていた武器のものだろうと広げてみると飛び込んできた文字は『レミントンM870』だった。
後ろをふり返ると逹瑯がニヤニヤ笑いのまま立っている。
「どうしたの、ミヤ君」
「おまえ・・・」
どう言っていいものか分からないという表情のミヤを見て逹瑯は露骨に、そしてわざとらしく傷ついた顔をした。
「ミヤ君!まさか俺を疑ってるの!?」
口調もわざとらしかった。
「疑ってるつーかさ・・・」
「俺が!俺がメンバーを殺すような奴に見えるの!?俺のこと信じてないの!」
「いやいやいやいや、もう一回言うぞ、いやいやいやいや!オマエなんでそんな入り込んだっぺ!?ちょっとまでよ」
怒濤のようなツッコミをいれたが逹瑯はこの三文芝居を続けたいらしい。
「俺はそんなことしてないよ、ミヤ君なら分かってくれるよね!俺はいくらこんな状況だからって人を殺すような人間じゃないって!」
「待てって。なんでそんな入り込んでるんだよ、なんでそんなノリノリなんだよ・・・あぁいい、分かった」
どうやら逹瑯は遊びたいらしいと解釈して、渋々ながらミヤものった。
「じゃあどうしてオマエはその武器を持ってるんだ?そもそもそれはユッケの武器だったんだろ?」
長い髪を振り乱し泣きそうな顔になった逹瑯が言う。もちろん全部演技だ。
「ちが・・・違うんだよ、ミヤ君!ユッケが先に撃って来たんだ、だからとっさにナイフで・・・殺すつもりなんてなかったよ!でも仕方なかったんだ!」
この二人ならふざけあってるうちにどっちかがうっかり《死亡判定》くらってしまってもおかしくはないし、先程聞こえた銃声もこれだと思えば納得がいく。想像だがユッケの武器を逹瑯が欲しがってそのままバトル(というかじゃれ合い)になってしまったんだろう。いくら大先輩に強要された《ごっこ遊び》とはいえ30近い男がやることじゃないが。
つーかショットガン相手にナイフで勝てるってすげぇ、このバンド内(体力)最弱男が・・・
「だからといって逹瑯、メンバーを手にかけるような奴を俺は信用できない」
心優しいミヤは逹瑯につき合ってのってあげた。かなり台詞が棒読みだったが。
「ミヤ君お願い、俺を信じて!」
こちらはさすがボーカル、演技が上手い。
「でも逹瑯・・・」
本気でほだされかけてきてしまった。逹瑯はショットガンをくるりと回転させて、持ち手をミヤのほうに向けた。
「ミヤ君、俺の事を信じられないなら俺を撃っていいよ」
だんだん感動的なストーリーに発展してきた。構成は逹瑯(ちなみに即興)呆れるのを通り越してミヤはちょっと感心しまう。
仕方なく、ミヤはショットガンを受け取って言った。
「分かったよ逹瑯、オマエを信じる」
ミヤは微笑んだが、作り笑いになれていないため、ただの怖い顔になってしまったのでユッケが小さく吹き出した。
「ミヤ君、ありがとう!」
「う〜なんかゆけたん悪者みたいなり・・・」
不満そうにぼそりとユッケが呟いた。
「俺じゃ上手く扱えないからその武器はミヤ君が持ってて」
「分かった。ところでオマエの武器はなんだったんだ?」
「これ、バタフライナイフ」
そう言うと逹瑯はバタフライナイフをポケットから取り出してくるくると器用に回して見せた。表情は元のニヤニヤ笑いに戻っている。
「・・・・ショットガンにバタフライナイフで勝ったのか?」
「まぁね」
「このゲームが終わったらユッケから何があったか聞いてそれによって今後のオマエとの接し方決めることにする」
「う゛ぉい!?」
初めて本気でショックを受けた表情になった逹瑯の後ろでユッケが小さくピースした。


ミヤ
【武器】レミントンM870、ギターの弦
【所属】ムック
【状態】青
【行動方針】サトチを探しつつ決める
【特性】リーダーモード

逹瑯
【武器】バタフライナイフ
【所属】ムック
【状態】青
【行動方針】ミヤに従う
【特性】俺様サドモード

【ユッケ ムック ゲームオーバー】

【残り53人】




すでに廃墟と化している民家の中、薫に連れられた京は適当な位置に腰を下ろした。撮影でよく廃墟を使用するので抵抗感はない。綺麗にセットされた金髪をいじりながら京は薫を見た。廃校から出るなり(欠伸まじりにのんびりとしていたら)いきなり薫に腕をつかまれ有無を言わさず走らされたのだ。
「なぁ薫君、あそこでみんなを待っとったほうがよかったんちゃう?」
この場合の『みんな』とはディルのメンバーのことだ。
「ややこしいことになるとあかんから」
そう薫は答えたが京は納得できない。というか理由になってない。
「なんでこの歳になって《ごっこ遊び》なんかせなあかんのや」
「京君は武器なんやった?」
京のぼやきを聞き流して薫はそう聞く。
「まだ見てへん。薫君は?」
「リボルバー。《S&W M500》って説明書には書いてある」
やたらに銃身の長い回転式拳銃が薫の手の中にあった。興味なさそうな目をしながら京は自分のディバックを開けた。開けて固まった。なにかゴツゴツした物が入ってるとは思ったがこれは予想外だった。
「どうしたん?」
京は無言で三つに分かれたそれを取り出して組み立てた、はめるだけで簡単に完成したそれは・・・
「釘バット?」
「釘バットやな・・・」
とはいっても造形が《釘バット》だというだけで全て同じ材質で作られたものだった、プラスチックのような質感で軽い素材だったが全体につや消しブラックが塗られていて、ぱっと見は普通の釘バットより物騒だ。
「説明書見てみたら?」
薫にそう言われて京は説明書を開いた。
「えっと・・・ぐしんれいさん?シーム・・・は?」
首を傾げてしまった京から説明書を取り上げ薫が目を通す。
「愚神礼賛って書いてシームレスバイアスって読むみたいやな、京君すごいでこれ、《超大当たり判定武器》や」
「3つだけあるって言ってたアレか・・・」
《愚神礼賛》を肩に担いだ京は特に感動するでもなくそう言った。その姿は無駄に似合うというか異様に様になっていた。京は薫から戻された説明書に目を通す。
「この台詞を言ってから使う事・・・」
「なになに?言ってみて」
薫に促されて京はできるだけ感情を込めて言った。変なところで表現者としてのプライドが出てしまった。
「《かるーく零崎を始めるちゃ》」
言ってからものすごい敗北感が襲ってきて京は激しく後悔したが、薫からのツッコミはなかった、さすが「ボケ殺し」と言われるだけのことはある。
「薫君・・・」
「なんや?」
「だるい、つかれた、ねむい、かえりたい」
「全部却下」
「ハゲ・・・」
「ハゲ、なんや?」
「Haagen−Dazs!」
無駄に良い発音で京が答えた。誤魔化してるつもりならかなり微妙な回答だ。
「俺はアイスクリームとちゃうで、誰がハゲやねん」
「いや、ハーゲンダッツ並に価値のある男やなと言いたいんや」
「ほう、俺の価値は270円か?」
「ドルチェなら320円やで」
「え?京君にとって俺の価値ってそのレベルなん!?」
薫が唐突にマジになったのでむしろ京が引いた。
「いや、薫君は大事なリーダーやで」
「俺も京君のことむっちゃ大事に思ってるで」
この二人の会話にはツッコミがいないのでこんなことになっているのだ。生憎これを止める人間はまだ現れそうにない。
「えぇっとさしあたって京君、これからどうする?」
「リーダーに任せるわ」
そう言われても薫は考えていなかったらしく黙り込んでしまった。しばらくの沈黙の後、薫は京の隣に移動した。怪訝そうに見上げてくる京にいたずらっぽく言う。
「なぁせっかくやから《ごっこ遊び》やらへん?」
「どういうことや?二人でバトルでもするんか」
「いやいや、これが本当のバトルロワイアルだと思いこんでみるんや」
「わけがわからん」
「そんな状況になったら俺はこう言う」
急に真面目な顔をして薫は京の手を取った。
「俺が死んでも守ったる」
黒目がちな目を見開いて薫を見上げた京は、しばらくの沈黙の後、耐えきれなくなったかのように笑い出した。
「なんで笑うねん、俺はマジやで」
「いや、なんつーか・・・嬉しいで。でも一カ所訂正して欲しいわ。分かるやろ?」
「・・・・・・ごめん、わからんわ」
「そうやなぁ。優勝できたら教えたるわ」
「ほな絶対優勝せなあかんな」
微笑む薫に京は照れ隠しの一言を付け加えた。
「でも薫君、さっきの台詞《前フリ》やで」
「・・・あ!」


【武器】愚神礼賛−シームレスバイアス−(超大当たり判定武器)
【所属】ディルアングレイ
【状態】青
【行動方針】薫に任せる
【特性】冷静沈着


【武器】S&W M500
【所属】ディルアングレイ
【状態】青
【行動方針】京を守る、メンバーを探しつつ優勝を狙う
【特性】保護者モード全開





「違う違う違う違う!待って、ちょっと待って!何を待つの?俺にも分からない!」
海岸線を一人の男が疾走していた。ニット帽を目深に被って片側から長い髪が風に煽られて揺れている。着用しているのは女子の制服だった。但し彼の場合スタイルは良いものの女装するには少し筋肉質すぎた。ディルアングレイの敏弥だ。
「ありえなくない!?昔の俺なら完璧に着こなせたのに、なんで今になって女子ブレザー?なんで出された時点で断らなかったんだ、俺。京君は断ったのに心夜が普通に受け取ったから。いや責任転嫁はダメだよね、ダメだよね」
モノローグを全部口に出して、端から見たらむちゃくちゃ危険なぐらいの勢いで独り言を言いながら敏弥は全力疾走を続ける。
「っていうかさ、誰も待ってないってどういうこと!?まさか俺だけ置いてけぼり!?長野県民なめんなよ、関西勢。いやいや被害妄想だよね、きっと!待ってると危ないから先に行ったんだ!薫君ならきっと合流手段を・・・どうやって合流したらいいんだろ。みんなまだゲームオーバーになってないよね、っていうか京君に手を出せる人間なんて存在するんだろうか!アニメ化したら中の人は高山みなみって感じの外見の京君に!武器は麻酔銃だったりして!ちなみに俺は石田彰!」
自分の所のボーカルにけっこうな暴言を吐いた。現在、敏弥《ネガティヴモード》発動中。
敏弥が両手に持ってるのは巨大な錘だった。らんま1/2でシャンプーが使用していた武器というのが一番通るかもしれない。西洋でいうメイスであり鈍器だ。もちろん材質は軽いもので実際に当たっても問題のない重量になっている。鈍器の中ではわりと強力な『中当たり判定武器』だった。
「なんか俺って今、ラノベかゲームのキャラみたいじゃね!?錘使いの女子高生とか格好良くない?萌えキャラ!?俺って今、萌えキャラ!?」
『女子』というのも『高校生』というのもかなり図々しいが見目の良さならハイレベルな部類に入る敏弥なので一部のファンからは支持されそうだ。そこまで言ってから急に敏弥は走るのを止めて黙った。しばらく無言で辺りを見回す。
「危ない危ない。大声出して疾走するなんて《死亡フラグ》立てるとこだった。ん?今更か・・・」
今度は小声でそう呟きながら、海岸線をそれて林の中に足を踏み入れた。


敏弥
【武器】錘(二本)
【所属】ディルアングレイ
【状態】青(走ってちょっと疲れた)
【行動方針】メンバーと合流する
【特性】ネガティヴモード





敏弥が走っていたのとは反対側の海岸付近に洞窟があった。そこそこの規模を誇る洞窟のなかで男が二人、休息をとっていた。一人は中背で長い黒髪の男、サクラ。もう一人は小柄で人形のような顔立ちをした男、ハイドだった。
「なぁやっちゃん。一つ文句言いたいことがあるんやけど」
口を開いたのはハイドだった。(一応の注釈をいれておくとサクラは本名をもじって《やっちゃん》と呼ばれることが多い)かつて『バンド野郎内姫ランキング』でイノランを抜いたことがある美貌は40近くなってもあまり衰えた様子がなく、声をかけるのを躊躇いたくなるほどだったが、『見慣れている』サクラは鼻を鳴らして答えた。
「この状況で文句が一つしかないなんてすごいな、感心するよ。俺ならこの状況に対して109ほど文句を言いたいね、でなんなんだ文句っていうのは?」
「言う気が半分ほど削がれたわ、この屁理屈黒男。でもここで黙るのも癪やからやっぱ言うで。この歳で女装はキツイ!」
膝上のスカートをひっぱりながらハイドは心底嫌そうに言った。
「赤いパンツが見えてるぞ。男のパンツ見たって面白くもなんともないな。女装がイヤって言ったって無理矢理着せられたわけじゃないだろう、拒否する権利ぐらい持ってるだけの経歴はあるだろうに」
「だって、仕事やって言われたら・・・」
「あの控え室みたいになってた教室に行く前に小耳に挟んだんだがな、イノランさんは断固拒否したらしいぞ」
「いや、ぶっちゃけた話・・・・」
「《俺ぐらい綺麗だったらこの歳になっても女子ブレザー似合うんやない!?》とか思ったか?」
「一言一句その通りやけど・・・」
「なら自業自得」
サクラといるとどうも精神年齢が下がってしまうハイドだった。サクラのほうが年下なのだが、感覚で生きてるタイプと理論で生きてるタイプのコンビのお約束だ。
適当に言い捨てるのがハイドでそれに筋道を通すのがサクラ。昔から決まっている振り分けだが、この状況ではなんだか滑稽に思えた。『この状況』なんてシリアスなものじゃなく本質は脱力するほど馬鹿馬鹿しい事態なのだけど。
「あぁ、ちなみにやっちゃんの文句ってなに?」
「ん?黒い服着てないと落ち着かねぇんだよ」
「俺も黒服じゃないやっちゃん見てると落ち着かんな・・・」
そこはつっこむところだったはずだが、普通に受け取ってハイドは頷く。
いまさらながらV系メンバーを適当に放ったら天然ボケハザードになることをヒデは気づいていただろうか?たぶん気づいていない、何故なら彼こそが一番の天然ボケだからだ。
「まぁ世間話はこれくらいにして、発展的な話をしようか。せっかく合流できたことだし」
「やっちゃんが待っててくれたんは意外やったわ」
「いや、いざという時に盾になりそうな奴と思ったらハイドが浮かんだから」
「俺もいざとなったらやっちゃん盾にして逃げるつもりやから」
そう言ってお互いニヤリと笑う。
「じゃ、武器拝見といきますか」
「俺、バトロワ好きやからちょっとワクワクしとるわ、マシンガンとか出てきたらええな」
まずサクラがディバックを開けた。出てきたのはどうやら組み立て式になっているらしい、サクラは出際良く組み立てていってそれを完成させた。
青龍刀だった。
「やっちゃん、すごい似合う」
「《中当たり判定武器》か。まぁそこそこだな」
「俺はなんやろ」とディバックを開けたハイドはその中にあるものを見て間の抜けた声を上げた。
「《ハズレ》だったのか?」
「というか・・・なんやこれ」
ハイドはそれを取り出して見せた。それは黒い、芸術的なフォルムのマラカスだった。
「俺にはマラカスに見えるが?」
サクラの言葉に言われなくても分かるとハイドは口を尖らせる。
「武器ちゃうやん!なんやこれ」
「待て、説明書が入ってる」
そう言ってサクラはハイドのディバックから説明書を取り出して読み始めた。しばらく説明書に目を通した後、小さくため息を吐いてから言う。
「これは《ボルトキープ》と言うらしい。《少女趣味》って書いて《ボルトキープ》と当てるみたいだ」
「けったいな当て字やな。で、これで相手をぶん殴ったらええんか?」
「そうやって単に鈍器として使ってもいいみたいだが、ハイドこれは凄いぞ、これは《超大当たり判定武器》だ」
「これが!?どう見てもただのマラカスやん」
「いや、これは凄い。ヒデさんの説明だとこの服には電気信号みたいなものが走ってると想像できるんだが・・・」
そこまで言ってハイドが『まったくわからない』という表情をしているのに気がついて言い直した。
「フェンシングの試合で使われてるようなものだと思ってくれていい。この武器・・・《ボルトキープ》の性質上というか解説をするためというかこの説明書にけっこう手の内を明かすようなことが書いてあるんだ。他の《超大当たり判定武器》は分からないけど、使いようによってはかなり強力というか最強の武器だ。そしてこれは音楽ができる奴にしか扱えない、といってもここにいるのは全員音楽ができる奴だが」
何がおかしいのかサクラは笑い声を上げた。ハイドは首を傾げる。
「いやいや、天才のおまえに相応しい武器だよ」
サクラはそう言ってまた笑った。


ハイド
【武器】少女趣味−ボルトキープ−(超大当たり判定武器)
【所属】ラルクアンシエル
【状態】青
【行動方針】ゲームを楽しむ
【特性】?

サクラ
【武器】青龍刀
【所属】なし
【状態】青
【行動方針】ゲームを楽しむ
【特性】理論展開





「まったくもう、イノラン君の魔王モードにはまいるな、いや、魔王モードじゃなくて《危険乱数−スクランブルランダム−》モードか。俺がつけたんだった忘れてた」
タクヤはそう言って目を細めた。独り言ではあるがかなり小さく周囲に聞かれる心配はない。
「イノラン君のせいでこんな《ごっこ遊び》に参加するはめになったんだから、復讐しないといけないお約束だよな、友達を引っ張り込むなんてひどい人だまったくもう」
そう言いながらタクヤは手際よく支給された武器を組み立てていく、元々手先は器用だ。
タクヤの支給武器は《ワルサーWA2000》だった。狙撃用ライフルである。
武器を確認してから高台の藪の中に移動したのだ、島全体とはいわないがけっこうな範囲が見渡せる。ライフルを組み立て終わってタクヤは一息ついた。ディバックの中から水を取り出して一口飲む。春とはいえまだ少し肌寒い。
「しかし《大当たり判定武器》とはいえ使い勝手悪いのが当たったな。こんなの近距離につめられたらアウトだし」
ライフルはかなり大きな物で、持って使うわけにはいなかった。もちろん偽物なので持ち上げるのは簡単だがうまく狙えないし引き金を引くのに苦心しそうだ。
「でもここはイノラン君に一矢報いないと・・・」
そこまで言ってタクヤは黙る、何故か一欠片も勝てる気がしなかったからだ。
「なんだろ、あの人ってこういう状況で無難に当たり引いちゃってその上何故かややこしいことになるキャラなんだよな、そこが《危険乱数》なんだけど。いい大人が、40近い人間が《ごっこ遊び》って痛いんだけど、なんだろうイノラン君は全くのる性格じゃないのにのってる気がする」
タクヤの神懸かり的なカンだった。ちなみにこのカンは事態が切羽詰まるほど発揮できなくなる微妙に役に立たない能力だった。
「でもまぁとりあえずイノラン君に仕返しだ!」


タクヤ
【武器】ワルサーWA2000
【所属】ロボッツ
【状態】青
【行動方針】現状観察とイノランへの仕返し
【特性】?





微笑みを絶やさないと言われるユウナにだって笑えない状況というものはある。今がまさにそれだ。笑えない。《ごっこ遊び》がではない、問題は学校を出た時に起こった。名前の関係上ほとんど最後の方の出発となったユウナは狭い校庭の真ん中辺りまで来た時、右側の林の中で大声を上げている人物を発見してしまったのだ、最悪なことにユウナはその人物を知りすぎるぐらい知っていた。
「ユウナ!こっちだよこっち!さっきその手前のほう銃声したから危ないぞ!」
無視して手前に駆け抜けようかとも思ったが忠告は聞いた方が良いと判断し、ロケットダッシュでその人物の元へ向かうとほとんどラリアットをきめる形で口を塞いだ。
「スギゾウさん、静かにしてください」
仲良しとはいえ大先輩の口をいつまでも塞いでいるわけにはいかないのですぐに手を離すとスギゾウは不満げに言った。
「なんだよ、突然。オマエのこと待ってたんだぞ」
「ありがとうございます。とりあえず次の人が出てくる前に移動しましょう、何か使えるものが見つかるかもしれないので近くの集落に。まぁ同じ事を考えている人と鉢合わせる可能性もありますが、その時は話し合いで解決します」
ユウナがかなり真剣なことに気づいたのかスギゾウは素直に頷いた。

まだ序盤で禁止エリアが設定されていないせいか誰とも会うことなく集落へと辿り着いた。見た限り人の気配はない(実は奥のほうの民家に薫と京がいるのだが)スギゾウとユウナはそろそろと手前の民家の中に入った。
「廃村、というか廃島なんでしょうね、廃墟マニアが喜びそう・・・」
民家の中は家具一つない立派な廃墟だった、しかし人が住まなくなってそれほど時間は経っていないのか、畳は黄ばんでいたが腐っているほどではなかった。
「そもそも聞いたこともない島だったし、廃島っていったら軍艦島ぐらいしか浮かばねぇんだけど・・・まぁいいや、とりあえず武器の確認するか」
「そうですね」
ユウナはハンカチをひいてその上に座ったが潔癖性なスギゾウはディバックだけ下ろし中腰でディバックを開けた。
「げ!なんだよコレ!」
「《ハズレ》でしたか?」
仏頂面になったスギゾウは黙ってそれを掲げた。拡声器だ。
「・・・強制死亡フラグですね」
「マジかよ〜俺、けっこうやる気だったのに!なんで銃とか当たらないんだ!」
平和主義者だろうと武器は男子の夢ということに変わりはない。ユウナは苦笑いでスギゾウを見た。
「ユウナはなんだった?」
ディバックの中をのぞき込んだユウナは「鋏ですね」と簡潔に答えた。
「鋏と拡声器でどうしろつーんだよ!」
「俺に言われても困りますよ・・・スギゾウさん、外に誰かいます」
声をおとしてユウナが囁く。スギゾウはこっそりと窓の外を窺い、そして何かを思いついたように顔を輝かせた。
拡声器を放り込んだディバックを掴むと「ちょっと待ってて」と言い残し外に出ていった。
ユウナが窓の外をのぞくと、スギゾウは髪の短い若い男(ユウナよりも年下に見えた)となにか話し込んでいる。
知り合いだろうか・・・で、誰だったか・・・
頭の中にサーチをかけたが浮かぶ人物がいない。まぁ平和的に話しているみたいだし神経質になることもないだろうとユウナは自分の武器の確認に戻った。
「鋏っていってもデカイなこれ」
大鋏だった、これと並べたら業務用の鋏だっておもちゃに見えるだろう、そのくらい大きい。よく見ると分解してナイフにもなるようだ。
しゃきんしゃきんと良い音は鳴るものの材質は柔らかく(当たり前だが)たぶんこれでは紙だって切れない。
「あ!」
そこでユウナは思い立った。《他の二人》は気がつかなかったがユウナは偶然にも《元ネタ》を知っていた。
「《自殺志願》だ。たしか読みは《マインドレンデル》・・・」
慌てて説明書を開くと間違いなくこれは《自殺志願》だということが分かった『超大当たり判定武器』最後の一つだった。
スギゾウが戻って来たのでユウナはとっさに《自殺志願》を隠した。
「ユウナ!見てこれ!武器交換してもらった!」
スギゾウが持っているのは《ニューナンブM60》だった。警察官が持っているのでお馴染みのリボルバーだ。
極力意図して他人に見せる表情を操っているユウナが一瞬、無表情になった。呆れでも喜びでもなく《無表情》に。鈍いわけではないスギゾウがそれに気づき「どうかしたのか?」と怪訝そうな顔で問いかけるとユウナはすぐに笑顔を取り戻し「なんでもないです」と返した。

「ところでさっきのはどなたでしたか?」
「シドのマオだよ」
「えっと、たしかボーカルの方でしたよね」
民家から出て庭にあたるのだろう空間でユウナは足を止めた。数歩進んでからスギゾウも気がつき、歩みを止めてユウナを見る。
「どうしたんだよ」
「よくないと思うんですよね・・・」
「なにが?」
「後輩の武器を取るなんてダメですよ、やっぱり」
スギゾウはどこまでも無邪気で純粋な男だ、基本的に彼のやることには悪気がない。それをユウナはよく知っているからこそあえて言った。
「スギゾウさんって他から見たら大先輩なんですよ、誰も断れないじゃないですか」
「・・・・・・でもこれゲームだぜ?遊びなんだからさ」
ユウナの手が後ろにまわり、戻ってきた時には《自殺志願》を握っていた。
大鋏。
弱冠顔を引きつらせたスギゾウが「ちょっと待て」と制止の声を上げる。
「ゲームはやっぱり公平でないと」
ユウナは笑った。エンジェルスマイル大放出だった。
「あぁコレを言わないといけなかったんだ《零崎を始めよう》」
三歩の距離を一気に詰めてくるユウナにスギゾウは慌ててニューナンブを向けようとするが遅かった。
ユウナは《自殺志願》でニューナンブをはじき飛ばすと、スギゾウの腹を《自殺志願》で軽く突いた(本当に軽くだった)。ピピピピピと電子音が鳴りランプが点滅する。ニューナンブを取りに行こうとしたが電子音が鳴っている間は動けないことを思い出し諦めた。
「なぁユウナ、怒ってるの?」
「別に怒ってません。スギゾウさんといると生存率下がりそうだなと思っただけです。優勝したいですもん」
ニューナンブを拾っていこうかどうしようか一瞬迷うそぶりを見せたが結局そのままユウナは走って行ってしまった。
電子音が鳴りやんだのはユウナの背中がすっかり見えなくなってからだ。
判定は『紫』で『致命傷判定』だった。
「なんで!?鋏が当たっただけでかよ!?」
『紫』ということは五時間以内に回復アイテムをゲットしなければそのままゲームオーバーだ。スギゾウはニューナンブを拾って地図を広げた。色々な感情が渦巻いていて集中して考えられなかったが診療所か灯台に行けば回復アイテムはあるだろう。
「なんでユウナ、怒ったんだろ」
今まで喧嘩になったことが一度もないとはいわないがユウナが自分にああいった態度をとったのは初めてのことだ。
なんだか急に憂鬱になってしまった。


ユウナ
【武器】自殺志願−マインドレンデル−(超大当たり判定武器)
【所属】なし
【状態】青
【行動方針】優勝を目指す(但し口先だけの可能性アリ)
【特性】ブラックモード降臨中


スギゾウ
【武器】ニューナンブM60
【所属】なし
【状態】紫(致命傷判定)
【行動方針】回復アイテムの入手、ユウナとの仲直り
【特性】ネガティヴモード


マオ
【武器】拡声器
【所属】シド
【状態】青
【行動方針】不明
【特性】?





ルキが廃校を出てすぐに前方の茂みから銃声がした。この学校には狭いグランドがあるだけで、塀のたぐいはなく周囲を林に囲まれている、唯一左側におそらくは通学路だったであろう細い道路があったが、これが一応《バトルロワイアルごっこ》である以上、素直にあの道を行く人間はいないだろう、ならば盲点をついてその道路に出るというのも良いかもしれなかったが・・・ルキは銃声のした方角を見た、今の銃声は何かがおかしい。ノイズのようなものが入っていた。
ルキは忍び足で銃声のした茂みに向かった。誰もいない。
「あぁ、なるほど」とひとりごちてルキはそれを見た。一般的にカセットレコーダーと呼ばれるものが置いてあった。コンセントはないので電池式だ。銃声はこれから聞こえたのだ。おそらく此処でバンドや仲良し同士が固まるのを防ぐためにヒデが仕掛けたトラップだろう(逹瑯やスギゾウが聞いた銃声はこれである)定期的に銃声が流れるようになっている。停止ボタンを押してからルキはまたひとりごちた。
「といっても俺の後って・・・あ」
既に自分が出発してから3分が経過している。ということは・・・
ルキが顔を上げた時、バンドメンバーのれいたが全力疾走で左側の道に駆け抜けていくところだった。
「いや、名前並んでるんだから俺が待ってる可能性とか考えろよな・・・」
しばらく唖然としてしまったが、れいたと合流すべくディバックを掴むとルキも左側の道へと駆け出した。


ルキ
【武器】不明
【所属】ガゼット
【状態】青
【行動方針】れいたと合流
【特性】?

れいた
【武器】不明
【所属】ガゼット
【状態】青
【行動方針】不明
【特性】?


幕間−管理システム−


ライターのJ氏(職業は違うが少なくともV系メンバーと関わる時はライターの時が多い)は一種の感嘆を持ってその空間を見た。おそらく元々は職員室だったであろうその部屋は綺麗に掃除されたくさんの機材が運び込まれていてちょっとした司令基地のようになっている。巨大なコンピュータ画面には島全体の地図と全参加者の現在地が表示されていた。
但し名前が書かれているわけではないので手元の名簿を見て番号を探さないと誰が誰だか分からなかったが。
そしていまさら特に書く必要もないし、参加者の多くは気づいているだろうが、ブレザーには盗聴器がしかけられていて今までの会話はすべて聞こえていた。独り言全開な人物はある意味正解なのだ。小っ恥ずかしい会話を展開していた薫と京は気づいていない可能性も高いが。
「しかし、なんというか少し意外だったよ」
J氏の言葉に回転椅子に座っていたヒデはくるりと回って「何が?」と返した。
「いや、さっきのユウナの態度とか色々、彼って先輩は立てるタイプっていうか、スギゾウに対して批判的なことを言うように見えなかったから」
「あぁあれはね、スギゾウが物理的に潔癖性なのに対してユウナは精神的に潔癖性だからだと思うよ」
「スギゾウもそうなじゃないの?」
「いや、アイツは単に無邪気で純粋で誤解されるのを怖れてないだけ。ある意味でシンプルな奴なんだよ」
「大丈夫なのかな・・・」
「すぐにユウナが折れるよ」
まぁそうだろうが《ごっこ遊び》で険悪になったんじゃシャレにならない。
「もう一つ意外だったのが、イノランがケンを撃ったことなんだけど」
会話は聞こえていたものの、イノランは説明書をケン・ロイドに指し示しただけなのでJ氏は事情を知らない。
「一部の武器の説明書には《指令》が書いてあってね。たぶんだけどイノランが引き当てた武器に《マーダー役》が振り分けてあったんだと思う。でも・・・あんたはイノランをどういう人間だと思ってるの?」
「う〜ん。気遣い上手で優しくて、一種の《調停役》の側面を持っていると思ってる。あとスギゾウと対比して言うなら誤解を恐れてるタイプじゃないかな」
「概ねその通りだけど、なんていうかな、アイツは《飼い猫だと周囲に思われてる虎》みたいなところがあるよ。さっきタクヤが上手いこと言ったな《危険乱数》って」
忍び笑いをするヒデにJ氏は眉間に皺を寄せる。
「どういうことかよく分からないんだけど・・・」
「まぁ一言で言うなら《読めないヤツ》ってことだよ」
名簿と照らし合わせて確かめて見るとイノランは移動中だった。イノラン以外にもほとんどの参加者が移動中だ、おそらくメンバーと合流しようと思っているからだろう。動いていないのは洞窟にいるサクラ、ハイド組と民家に隠れている薫、京組ぐらいだ。遭遇率は高くなっているはずだったが、接近しても会話すらせずに離れていく者もいる。イノランが指摘した『緊張度の高い相手ほど交戦になる率は下がる』という論理は正しいらしい。ただ、ムックやガゼット、メリーなど年齢が下がるほど交友関係が広くなっているのでどうなるか分からない。
「まぁそろそろ動きがあるよ、スギゾウは気づかなかったみたいだけど拡声器にも《指令》が書かれてるからな。マオには悪いけど」
J氏が名簿でマオの番号を探して確かめてみると、マオは展望台に向かって移動中だった。
「あぁ・・・原作のアレ?」
苦笑いをしながらそう聞けばヒデも少し苦笑した様子で答える。
「そう、原作のアレ」
「それにしても、これだけの機材やらなにやらすごい出費だね」
「それは俺の財布、いやヨシキが出してくれたから」
「今、俺の財布とか言わなかった!?」
「いや、俺のサイフォンって言おうとしたの」
「・・・冗談だよね?」
「もちろん」
J氏にボケは通じない。真面目というかジェネレーションギャップというか。
「あは」
小さく笑ってヒデは画面に顔を戻した。





集落から離れた大きな民家。おそらく地主だとかそういった人の持ち家だと思われる日本家屋の縁側に浅葱が座っており大方の期待を裏切らず猫と戯れていた。ここは野良猫の溜まり場のようで5、6匹の猫が集まっている、もとは飼い猫だったのか単に浅葱が懐かれる体質なのか、猫たちがごろごろと喉を鳴らし浅葱にすり寄っていた。
平和そうで、幸せそうだった。
ゲームに参加する気はないらしい。
「いや、さすがに《ごっこ遊び》する歳でもないしね」
・・・地の文に返答するのは止めて下さい。
「ん?ヴァパイアキャラ守ったほうがいいのかなと思って」
あぁそうですか。メタっぽくなるからやめて欲しいんですが。
「そうか、悪かった。やめるよ」
そう言うと膝の上に乗った猫を撫でる。浅葱の武器は《斬馬刀》だった。巨大な刀剣だったがあまりに大きいので組み立てるのに苦労した(というかディバックがむちゃくちゃ重かった)説明書には『頭部や首を狙ってはいけない』などの注意書きがあったが、使う気はない。優勝賞品には惹かれるものがあったが、優勝できる気がそもそもしない。
ただ一つだけ予感というか胸に引っかかっているものがあった。
もし配布武器の中に『日本刀』があったら・・・
もしそれが英蔵に当たったら・・・
「いくらなんでも、大人なんだし」
大丈夫だよな、と言いかけたところで突然ハウリング音が響いた。
定時の放送にはまだ早いはずだ。
ハウリング音が止むと誰かの声が聞こえた。

浅葱
【武器】斬馬刀
【所属】D
【状態】青
【行動方針】ゲーム終了まで適当に時間をつぶす
【特性】猫集め



その少し前、ミヤと逹瑯は展望台に拡声器を持った誰かが上がって行くのを見て立ち止まっていた。
「え〜それをやっちゃうの!?誰だろ!まさかガラじゃねぇよな、京さん呼んだりして」
ミヤは笑い出した逹瑯の肩を叩いて黙らせる。
「近すぎる。離れた方がいい」
ミヤと逹瑯はかなり展望台に近い位置にいた。
「おや?ミヤ君冷たいなぁ。見捨てるんだ」
「いいから来い」
鬼目全開になったミヤを見て逹瑯は大人しく黙った。
展望台を確認しながら距離を取る。髪の短い後ろ姿を見ながら逹瑯は呟いた。
「あれは・・・マオ?」


展望台に上がったマオは心底困惑しながら拡声器に付随されていた説明書を見た『これを手にした者は必ず《呼びかけ》を行うこと』と書かれている。
スギゾウはそこまでは知らずに押しつけたのだがマオとしては複雑な心境だ、だからといってあの状況で断れたわけもないし、特別優勝したかったわけでもないのだが・・・
「で、なにを呼びかければいいわけ?」
問題はそこだった。《ごっこ遊び》である以上《ゲーム中止》を呼びかけるのは不自然だし、意味がない《主催者反撃ルート》に誘うという手もあるがマオ自身、そのルートは取りたくない。ここは無難にメンバーを呼ぶか。というかそれしかない。
しかし《指令》されてることはマオにしか分からないのでこんな自殺行為をやったら馬鹿だと思われてしまうんじゃないかというのが一番の不安だった。
いや、ここは前向きに考えて見せ場を作れると思っておくのが精神衛生上良いかもしれない。考えはまとまった、やるしかない。拡声器のスイッチを入れて口元に持ってくる。
『え〜っと』
ライブのMCより緊張する。色んなバンドが集まっているのだ、先輩もけっこういる。敬語で喋るべきか、どうすべきか。むしろ原作と全く同じ台詞を喋れと言われたほうが楽だったのに!そうだ、メンバー呼ぶんだった。でも拡声器通すと声変わる、自分の姿はどれくらい見えてるんだろう。
『シドのマオです!』
名乗ってしまった。
なんだこのむちゃな指令。というか改めてメンバーを呼ぶのってなんか恥ずかしい。従うんじゃなかった、交換に応じるんじゃなかったと様々な後悔が押し寄せる。
『しんぢ、明希、ゆうや!俺は此処にいるから来て!』
よほどの馬鹿じゃなきゃ来ないだろうけどなとマオは自分でツッコミを入れた(心の中で)
背後で物音がした。マオがふり返るより早くぱららららららっと軽い銃声が響いた。
マオの胸のランプが電子音を立てて点滅し、ピーという音の後、色が赤に変わった『死亡判定』だ。ここまでお約束なのかとマオはその場にひっくり返って笑った。
撃った人物を見てやろうと頭をそちらに向けると、木の上でミニウージーを持っていたのは大先輩、イノランだった。思わず驚きの声を上げかけたマオを人差し指を上げて制し、イノランは姿勢をかがめてマオの傍まで来ると落ちていた拡声器のスイッチを切った。マオは慌てて上半身を起こす。
「マオ君ももしかして《指令》かな?」
「はい・・・え?イノランさんもですか!?」
「うん。俺《マーダー》役になっちゃったんだ、撃ってごめん」
「いや予想済みというかお約束というか、まったく構わないですよ。でもちょと文句言っていいですか?」
イノランは少し首を傾げて頷いた。マオはスギゾウと武器を交換した経緯を話した。
マオのディバックを漁りながらそれを聞いていたイノランはただただ苦笑するしかないという顔だ。
「それは悪かったね、いやそのことについて俺が謝ってもしかたないんだけどさ」
「とんでもないっす!」
「仇は取ってあげるよ」
「いや、撃ったのはイノランさんですよ」
「あぁそうだった」
天然な人なんだとマオはちょっと感動した。
「でも君にしても杉ちゃんにしてもバックの中身はちゃんと確認しなきゃダメだよ」
そう言ってイノランがマオのディバックから取り出したのは《手榴弾》だった。オマケで入っていたらしい。
「うわ・・・マジっすか!」
「マジっすね。じゃあ俺は行くよ」
「あ、頑張って下さい」
「サンキュー、しかしマオ君の美声も拡声器通しちゃうとなんかもったいないね」
和やかな会話でイノランと別れてマオはまた寝転がった。
「わお、ほめられちゃった・・・しかしツイてないなぁ」
いいや、寝ちまえ。



イノラン
【武器】ミニウージー、エリミネイター、手榴弾
【所属】なし
【状態】青
【行動方針】引き続きマーダー役
【特性】危険乱数

【マオ シド ゲームオーバー】
(拡声器は展望台に放置されました)

【残り52人】

第一回放送

島中に大音量で『Rusty Nail』のイントロが響き渡った、現在昼の0時、第一回放送だ。
『みなさん元気にやってますか〜?主催者のヒデです!現在までゲームオーバーになった人を発表します、名前順。まずケン・ロイド君、シドのマオ君、ムックのユッケ君。ちょっとペースが遅いよ〜!このゲームは無礼講、先輩後輩関係ないからな!今、名前を呼ばれたヤツはもう戻ってきていいぞ〜。みんなも今呼ばれた三人はもうゲームオーバーだから攻撃したらダメだぞ。つーかしても意味ないっ!話しかけるのもダメ。それでは禁止エリアの発表で〜す』

- 2 -

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