ドウタヌキ?


第二回放送まで(前半)


マオの呼びかけとその直後に拡声器を通じて島中に響き渡ったマシンガンの音と第一回放送でマオの名前が呼ばれたことは確実にこの《ごっこ遊び》に乗った《マーダー》がいることを示していた。
展望台から遠く離れた森の中、ミヤは目の前でもそもそと昼食をとっている逹瑯を見て小さくため息をついた。
「なんかヤス(サトチ)を見つけられる気がしなくなってきた」
「合流する・・・手だて・・・が、ないからね」
パンを水で流し込みながら逹瑯が答える。
「ミヤ君は飯食わねぇの?」
「食欲ねぇよ・・・」
むしろなんでこの状況で食えるんだ?というミヤの表情を読みとって逹瑯はにやりとした。気分が高揚しすぎてなにか変な空気を醸し出しているせいかますますパグっぽい。その広い額をひっぱたきたい気持ちになったがミヤはぐっとこらえた。
「で、どうすんのさリーダー」
「オマエはどう思う?優勝賞品」
「魅力的ではあるけどねぇ。でもまぁ単純にこの《ごっこ遊び》を楽しんでもいいんじゃない」
逹瑯は軽薄な笑みを貼り付けたまま答えた。ミヤに対してはもっと淡々とした態度をとることのほうが多いのだがずっとこのテンションを持続しているのはやはりこれが異常事態だからだろうか。単にこの真面目なリーダーをからかえるチャンスを窺うのが楽しくてしかたないのかもしれない。
「なんかオマエ、楽しそうだな」
「だってサバゲーとかやってみたかったし」
「あぁ。言ってたなそんなこと」
「ねぇミヤ君。俺のこと信じてないっしょ?」
「なんでだよ?」
細い目をさらに細めてミヤは逹瑯を見る。サドモードは解かれていないらしい、もっとフランクになれば逹瑯もミヤのことを本名の矢口をもじった「ぐっちゃ」と呼ぶからだ。逹瑯がミヤを呼ぶパターンは「呼び捨て」「君付け」「ぐっちゃ」の三パターンでそれを目安に気分を計る事ができる。(但し、彼は礼儀をわきまえているので正式な場で外部の人間を相手にした時は「呼び捨て」にする)
ちなみに普通の時に呼び捨てしてきた場合は死ぬほど機嫌が悪いか、どうしようもなく機嫌が良いかのどちらかだ。
「絶対俺の前を歩かないじゃん、本来なら銃を持ってるミヤ君が先に行くのが道理ってもんだべ?」
「オマエな・・・」
ミヤが言いかけたところでガサリと何かが動く気配がした。
「誰だ!」と鋭い声を上げてミヤがショットガンをそちらに向ける。逹瑯も立ち上がり音のしたほうを注視した。木の後ろに中背で細身のシルエットがあったが誰かまでは判別がつかない。相手もこちらを窺ってるらしくしばらく静寂が続く。
「ミヤ君と逹瑯君、かな?」
相手は落ち着いた声で話しかけてきた。通りが悪い癖に不思議な響きのある声。
「誰、ですか・・・?」
先輩かもしれないと判断してミヤは敬語に切り替えたが、ショットガンはかまえたままだ。
「出るけど撃たないでね」
そう言ってから相手はゆっくりと木の陰から姿を現した。ミニウージーを左手にさげたイノランだった。
「なんだ、イノランさんか。驚かさないでくださいよぉ」
逹瑯は気の抜けたような声を出したがミヤはショットガンをイノランに向けたまま険しい顔をしている。
「ミヤ君?」
怪訝そうに言う逹瑯に一瞥もくれずミヤは問いかける。
「マオを撃ったのはイノランさんですか?」
そう言われてもイノランはとくに動揺した気配を見せず、微苦笑した。
「あれもマシンガンだったね。でも俺じゃないよ」
「そうだよミヤ君、イノランさんなわけないべ」
逹瑯もそう言うがミヤはショットガンを下ろさない。イノランはまた困ったように笑った。
「ねぇ、マシンガンとショットガンで勝負なんかして相打ちになったら馬鹿みたいでしょ」
「それはまぁ・・・そうですけど」
「じゃあ止めておこうよ。ついでにミヤ君、携帯灰皿貸してくれない?」
元祖キラースマイルを前にしてミヤはようやくショットガンを下ろした。

紫煙を燻らせながらミヤとイノランは向かい合って座っていた。もはや汚れるのを気にしてられなくなったのか地面に直接腰を下ろしている。ブレザー姿なので「ここは体育館裏か!?」というツッコミを入れたくなるような光景だった。逹瑯は周囲を見張れというミヤの指示に従って少し離れたところで目を光らせている。ちなみに「見張りなんだから銃持たせてよ!」という逹瑯の意見は冷ややかに却下された。確実に信用されてないが、逹瑯の場合100%自業自得だ。
「それにしたってマオの行動に意味がなさすぎるんですよね、本人もなんだか戸惑ってるみたいでしたし」
ミヤは疑問に思っていた事をイノランに伝える。敵意のない参加者同士が会ったらやるのは情報交換だ。
「そうだね、マオにゃんの行動は不自然だねぇ」
「そうです・・・今"マオにゃん"って言いました!?」
「ダメかな?」
はるかに年上の人間に可愛く首を傾げられても困る。
「ダメではないでしょうけど・・・」
「これに載ってたでしょ?全員のあだ名。それにマオにゃんって書いてあったからそう呼んだ方がいいのかなって思ってさ」
そう言ってイノランはルールブックの最後のページを開いた。そこには参加者名簿が写真付きで載っている。そういえばそこはよく見てなかったとミヤもルールブックを取り出してページを捲った。
名簿には写真(おそらく最新のアー写から顔だけ切り取ったもの)と名前、所属バンド、そしてイノランが言っていたようにあだ名が書かれていた。仲良し同士の呼び名やファンの間の通称などが掲載されている。
「逹瑯君はパグってあだ名なの?」
まじまじとイノランに見つめられて逹瑯は少したじろいだ。
「そう呼ぶファンもいるみたいっす・・・」
「ちょっとさ、気抜きすぎじゃないそれ」
そう言ってイノランは逹瑯の顔を指さす。
「へ?いや、髪が邪魔だったし、肌荒れると嫌なんで」
逹瑯、現在ノーメイクで髪を頭のてっぺんでまとめてお団子にしている状態だ。
ミヤもメイクは落としているので単純に眼鏡の二人組だった。気の利くマネジャーがメイク落とし(それも水無しで使えるタイプのものを)用意しておいてくれたのだ。
「オレらはもう普通にすっぴん出してるし、問題ないですよ」
ミヤはイノランの言いたい事が理解できているらしい。
「どうゆうこと?」
怪訝そうな逹瑯にイノランは少し笑って言う。
「隠しカメラぐらいあるかもしれないからさ、盗聴器は確実として、カメラもどこかにあるかもなって」
「動きをサーチしてるだけじゃルール違反したかどうかとか分からねぇべ」
ミヤの補足を受けて逹瑯は納得した。
「あぁ、だから格好がヤバイんじゃないかと」
なるほどねぇとばかりに頷く逹瑯にミヤは少し苦笑したようだった。
「しかしカメラって・・・」
イノランはふと言葉を切って空を見上げた。ミヤもイノランの言わんとすることが分かったようで空を見上げる。
「まさか、ねぇ」
「まさかですよ、それは」
逹瑯も空を見上げて、原作終盤のシーンを思い出し、二人が考えていることが思い当たった。
「あ、衛星写真」
「まさか、いくらなんでも」とイノランはかぶりをふって、「ところで」と話を変える。
「ユッケ君がゲームオーバーになったみたいだけど、経緯は知ってる?」
「逹瑯がやりました」
さらりとミヤに言われてイノランは一瞬面食らったような顔をしたがすぐに笑いだした。
「ダメじゃん、メンバー殺しちゃ」
逹瑯がまたわざとらしく傷ついた表情を作った。
「あれは・・・不可抗力だったんです、殺すつもりなんてなかった・・・」
「大先輩相手に三文芝居始めんじゃねぇよ」
ドスの聞いた声で怒られて逹瑯はすぐに口を閉じた。最近はずいぶん丸くなったが、伊達に元ヤンじゃない。でもめげないのが逹瑯だ。
「ミヤ君・・・すきすきだいすきあいしてるっ!」
「心にもないこと言うんじゃねぇよ」
「え、つっこむとこそこなの!?」
イノランの指摘は的確だったがダブルボケ状態になった二人は暴走状態に突入した。ちなみにミヤは天然で逹瑯は意図的にやっている。
「心にもないことなんて言ってないよミヤ君!俺、夢で抱いちゃうくらいミヤ君のこと好きなのに」
「そのエピソードを此処で言うな!イノランさんの前だぞ!分かってんのか!?あのイノランさんだぞ!」
どのイノランさんだ。
「俺よりイノランさんのほうが良いの!?」
「そういうこと言ってんじゃねぇべ!」
本格的な怒鳴り合いになってきたところでイノランが間に立って止めた。
「ちょっと静かにしようか、居場所がバレちゃうよ。君らが仲良しなのはよ〜く分かったから」
気の抜ける止め方だった。ミヤは深いため息を吐いて煙草をくわえなおし、逹瑯も煽るのをやめて黙った。
「でもイノランさん、どう思います?この《ごっこ遊び》を」
「だってまぁ・・・ヒデさんの企画だし」
突き抜けたように笑顔でイノランは答える。
「優勝狙ってるんですか?」
「だったらこんなとこでダベってないよ。ミヤ君と逹瑯君は?」
「正直、どうしようかなと」
そう言ってミヤは肩を落とす。バタフライナイフを弄びながら逹瑯が笑う。
「俺はガラ見つけてバトルしたいかも」
「メリーのボーカル君だよね。仲良いんだっけ?」
「はい。ぶっちゃけた話、イヤなんですよね・・・」
急に真顔になった逹瑯を何事かとミヤとイノランは見上げた。
「たとえ《ごっこ遊び》だろうが、俺以外の人間にメンバーや友達が《殺される》なんて耐えられない」
吐き捨てるように言った逹瑯の顔をミヤは唖然として、イノランは少し面白そうに見る。
「逹瑯君って独占欲強いんだ?」
「俺、我が儘ですから。ね、ミヤ君!」
「そこで俺にふるなよ・・・」
ミヤは脱力したように肩を落とした。

「じゃあ俺は行くね」と煙草を吸い終わったイノランが木々の向こうに消えるとミヤは手に持っていたショットガンにこめる力をようやく緩めた。
イノランの姿が完全に見えなくなるのを確認して逹瑯はミヤの隣に移動する。
「どうしたっぺ、ミヤ君」
ミヤが警戒していたのに気づかないほど逹瑯の目は節穴ではない。
「マオを撃ったのはイノランさんだ」
「たしかにマシンガン持ってたけど、それだけじゃ・・・」
「オレら展望台まで行ったろ、マオが行く前」
もしかしたらサトチがいるかもしれないと思い(バカと煙は以下略)二人は展望台の下まで行った。展望台といっても丘の上に四阿があるだけだったので階段の前で引き返したのだ。マオとは丁度すれ違いになった形だ。
「マオは普通に階段を上がっていっただろうけど、マオを襲撃した人間は?まさか階段は使わないだろ、いくらなんでもマオが気づく。下から確認しただけだから確証はないけど四阿からは階段がよく見えるはずだ。だからきっと襲撃者は木の陰に隠れて階段以外の所から上った」
「う〜ん・・・それが?」
「赤土だよ。あの丘は階段以外のところは赤土だった。イノランさんの靴には赤土がついてた。もちろん他の所でついたのかもしれないけど、《マシンガン》と《赤土》って二つも符号するところがあるなら、マオを撃ったのはイノランさんで間違いないと思う」
訥々と喋るミヤを呆然としたように眺めていた逹瑯は、ミヤが話を終えると顔を輝かせた。
「ミヤ君すげぇ!名探偵みたい!かっちょいい!」
「落ち着けよ」
ミヤはクールに言うとルールブックの名簿を開いてイノランの名前の横にチェックを入れる。
「イノランさんは要注意だ」


「ミヤ君警戒してたなぁ、先にショットガン向けられちゃったし、不意打ち失敗。剣呑剣呑」
ムックメンバーから離れ、イノランは地図を眺めていた。
そして僅かに口角を上げ、物騒な声音で「いいこと思いついちゃった」と言うと地図をしまって歩き出した。


イノラン
【武器】ミニウージー、エリミネーター、手榴弾
【所属】なし
【状態】青
【行動方針】マダー役続行、なにかを思いついた(?)
【特性】危険乱数

ミヤ
【武器】レミントンM870、ギターの弦
【所属】ムック
【状態】青
【行動方針】サトチを探す、イノランを警戒
【特性】リーダーモード

逹瑯
【武器】バタフライナイフ
【所属】ムック
【状態】青
【行動方針】ミヤに従う、ガラを見つけてバトル
【特性】俺様サドモード




タクヤは地面に寝そべり、スコープをのぞき込んでいた。ここからは展望台の様子がよく見えたのでマオを撃ったのがイノランであることも確認できたが、あくまで此処も展望台も高台だから見やすいだけであって、距離はかなりあったためタクヤの武器でもどうしようもなかった。(ちなみに展望台より此処のほうがずっと高い)やっぱりイノランってそういう人だよなぁと、友人として猫被ってないバージョンも見ているタクヤは妙に納得してしまった。
大人しく待っていようかとも思ったが目の前には狙撃用のライフルがある。完璧なスナイパースタイルだ。
「どうしよう、すごく撃ってみたい・・・」
あったら使いたくなるのは人間の性というものだ。たとえ白い鳩並の平和主義者であろうともそれは変わらない。
「ぶっちゃけ撃ってもバレへんし、半分以上は後輩やし、怒られないだろうし・・・撃っちゃおうかな」
微妙に京都訛りを出しながらタクヤは呟く。
スコープをのぞき込むと手頃な位置に人影を見つけた。後ろ姿なので誰かまでは分からないが本当に手頃な位置だ。
「そうだ、キャラ設定どうしよう・・・トリビアを言いながら撃つっていうのはどうかな・・・えっと伊勢湾台風物語・・・ファイナルデットコースター・・・浮かばへん、映画トリビア却下。そうだ、昔、サハラ砂漠にはライオンがいた!」
照準を合わせて引き金を引いた。ズガン!と予想以上の銃声が響く。その音に驚いて鳥が数羽逃げていった。
「あれ?」
狙ったはずの人影は消えている。
「んんんん、外したのかな?」
静寂につつまれる中でタクヤは首を傾げ・・・「まぁいいか」と再びスコープをのぞきこんで観察を再開した。

タクヤ
【武器】ワルサーWA2000
【所属】ロボッツ
【状態】青
【行動方針】とりあえず適当に撃ってみる、イノランに仕返し
【特性】キャラ試作中


突然響いた銃声にラルクアンシエルのテツはとっさに地面に伏せた。自分の胸から電子音が響くのを聞いて『当たり判定』を喰らってしまったことを悟る。支給武器の十手(小当たり判定武器)を握り締めながら息を殺して気配を窺うが、聞こえるのは鳥の声だけだ。
「誰もおらんやん・・・狙撃されたんか?」
胸のランプを確認すると『黄色』が点灯していた、《重傷判定》だ。這いつくばったまま地図を広げて確認する。
「診療所か・・・此処に行けば回復アイテムがあるだろ」
しばらく匍匐前進で進んでから立ち上がり、木々の間を縫って駆け出した。

テツ
【武器】十手
【所属】ラルクアンシエル
【状態】黄色
【行動方針】診療所に向かい回復アイテムを探す
【特性】?


薫と京はまだ民家の中にいた。薫が京だけを連れだしたのにはそれなりの思惑があり、それは「この機会を利用して京とゆっくり話す」というものだった。
といっても深刻な話をしなくても、世間話で充分に相手の心情を読む事が可能な二人は比較的のんびりと第一回放送までの時間を潰した。
現在、京は《愚神礼賛》という名の釘バット片手に民家の中を散策しており、薫は窓の外を眺めている。
民家に潜むというリスクの高いことをみんなが避けたせいか、周囲に人影はない。但しこの集落は禁止エリアに設定されてしまったのでもうしばらくしたら移動しなければならなかったが。
「京君、なんかあった?」
台所を見ていた京に声をかけると軽い足音を立てながら戻ってきた。
「水は出るけど、やっぱ電気はつかんみたいや。あとなんか・・・」
しかめっ面をしながら京は首を傾げる。
「なんか、此処変やない?」
「なんかって?」
「うん、まずニオイ。廃墟ってもっと埃っぽいやん、此処はあんまりそれがないな。廃墟のニオイじゃない・・・といっても一般家屋の廃墟やから勝手が違うだけかもしれんけど」
「言われてみれば確かにそうやな」
ふと思い立って薫は身をかがめて畳のニオイを嗅いだ。
「変や、これだけ汚れとるのに新品の畳みたいな香りがするで」
京も屈んでニオイを確認すると確かにい草の良い香りがした。
「あともう一つ気になってることがあるんやけど」
「なん?」
「此処がいつから空き家になっとるのかは知らんけど、蜘蛛の巣の一つや二つあってもいいような気せぇへん?」
薫は顔を上げて部屋の四隅を仰ぎ見た。昼間とはいえ木々に囲まれた日本家屋の中は薄暗い。天井は染みだらけだったが京の言うとおり蜘蛛の巣らしきものは見あたらなかった。
「推測としては、此処が人の手を放れたのは蜘蛛が活動を止めた冬以降か、それともこの《ごっこ遊び》に使うために誰かが掃除したか」
「後のはないと思うで、畳ザラついとるし、蜘蛛の巣だけ取る意味はないやん」
京は畳に手をこすりつけると、指についた砂を薫に見せた。
「う〜ん、ほかの民家も確かめたいけどそこまで時間はないしなぁ」
「・・・そろそろ動こか。堕威君と心夜は問題ないけど敏弥がちょっと心配やし・・・ん?堕威君も微妙かな」
この発言には薫は少し苦笑したようだったが頷いた。
荷物をまとめて立ち上がり足音を忍ばせて玄関へ向かうと薫はこっそり外の様子を窺った。
「大丈夫、誰もおらん」
外へ出る時に京は部屋の中をふり返って呟いた。
「これが《ゲーム》なら《攻略法》があるはずなんやけどな」

薫と京は集落から離れて獣道のような細い道を歩いた。海岸線に出ればメンバーと合流できるかもしれないという希望的観測からのことだ。なだらかな上り坂になっており、地図で確認すると山の斜面を突き抜けるルートだ。「できるだけ他人と会いたくないがメンバーとは合流したい」と思った結果こうなってしまた。V系界の大御所は意外と無計画だった。
薫はS&Wのトリガーに指を引っかけた状態で先を行き(暴発の心配はないだろうが念のため安全装置は外していない)その後ろを《愚神礼賛》を肩に担いだ京が歩いている。
「京君、疲れてへん?」
「まだ歩き始めたばっかやで」
京の声音に呆れが混ざっているのを感じ取ったのか「過保護すぎるか」と声には出さずに薫は思う。
「いや、そこにちょっとした空間があったから・・・ん?」
立ち止まった薫の後ろから京は背伸びして前を見ようとして、ムリなので諦めて横から顔をのぞかせた。
「《死亡カード》が置いてあるな」
少しこわばった顔を互いに見合わせてから即座に周囲を警戒して視線を飛ばした。人の気配はない。鳥の声だけが平和に響いている。
「大丈夫や。《死亡カード》ってことは第一回放送前に《ゲームオーバー》になった人ってことやろ、もう犯人は逃げとるはずや」
「そういやそうやな、さすが薫君」
「誉めてもなんもでんで」
《死亡カード》は《ゲームオーバー》になった人間が放送で名前を呼ばれて廃校に戻った後も他の参加者のヒントとなるように残すルールになっている胸にプレートのついた人形だった。ブードゥ人形ぽいのはヒデなりのジョークなのかもしれないが、見た目がちょっと怖い。
「確認するで」と言った薫にこくこくと京は頷く、別に本物の死体でもないのにちょっとビビってしまっている自分達がなんだか笑えた。
人形のプレートには名前と死亡原因が書かれているはずだ。薫が人形を手に取り確認するのを京も横からのぞき込む。
そこには『ケン ロイド じゅう いっぱい』と下手くそな字が躍っていた。
「・・・えっと、オブリの人やっけ?」
「たしか一時期イノランさんと一緒に活動してた人やな、この《じゅう いっぱい》いうのはなんや?」
薫の疑問に少し考えるような顔をしてから京が答える。
「"銃創が多数"ってこととちゃう?」
イギリス人であるケン・ロイドに日本語で分かりやすく死亡原因を書くのは少々難しい注文だったようだ。片仮名で名前を書いただけでもけっこうな配慮に思える。薫は地図を裏返してメモ書きを確認した、几帳面な薫は銃声が聞こえた時間をメモしておいたのだ。
「まず始まってすぐ、オレらが民家に向かってる途中でマシンガンらしき銃声がして、そのすぐ後にわりと大きな銃声が一発、これは遠かった気がする、それからマオが拡声器でメンバーを呼んだ後にマシンガンの音」
「と、いうことはこれは最初のマシンガンの被害者ってことやな」
マシンガン以外に聞こえた銃声が一発なので『銃創が多数』というからにはマシンガンでないと通らないだろう。
「犯人はマオを撃った人、か」
「その可能性は高いやろな、マシンガンがそんなに配布されてるとも思えへんし」
薫は思案顔になった。京も無言で《死亡カード》を見つめている。
「えっと、ケンさんは教室でずっとイノランさんと一緒におったな、一回ハイドさんと話してたけど、他に交流のある人はおらんみたいな感じやったな」
「そやかて薫君、たまたま鉢合わせて撃たれたんかもしれんやろ、その《マシンガンの人》に」
原作に倣って『マシンガン野郎』と呼んでも良かったが、京は丁重な人間だったのでそういう呼び名をつけた。
「《マシンガンの人》が誰か、それも考えんといかんな。しかし危なかったわ、道路じゃなくてこっちの道通ってたら鉢合わせたかもしれん」
「・・・一応、この人と親しい人は警戒したほうがいいかもしれへん」
「なんや京君、前言撤回か?」
微笑む薫を上目遣いで(身長差の関係でどうしたって視線を合わせればそうなるのだが)睨めつけて京は言った。
「《ごっこ遊び》でほとんど交流のない相手を、しかも始まってすぐ状況も分からないのに撃ったと考えるより仲良し同士の可能性が高いと思わへん?」
「おふざけでってことか、言われてみればそうやな・・・」
この二人の場合、とっさに頭が回るのが薫で、冷静に考えると鋭いのが京のようだ。京は突発的な事故やフリに弱い部分がある。
「ということは元ルナシーのメンバーさんには注意ってことか?」
「そうなるんやけど、性格的に乗りそうな人がおらんのがこの推測の難点やな・・・マシンガンの被害者がユッケやったら100%逹瑯だけど」
ガラ繋がりで逹瑯とも交流のある京はそう言って苦笑した。
「え?逹瑯とユッケってメンバーやん」
「だから、おふざけでや」
「・・・なんとなく分かる気もするわ」
《死亡カード》を元の位置に戻すと仕切り治すように薫が言う。
「ここで考えとってもしゃあないし、行こか」
京もそれに異存はないので頷いて二人は歩き出した。
「それにしても後ろから釘バット持った京君が着いてくるのなんか怖いわ」
「・・・お望み通りどついたろか?」
「どついてもいいからその後"燃えたろ?"って言って」
「局地的な上に今更過ぎるからイヤ」


【武器】愚神礼賛−シームレスバイアス−(超大当たり判定武器)
【所属】ディルアングレイ
【状態】青
【行動方針】薫に任せる、メンバーを探しに海岸線に出る、《ゲーム》の《攻略法》を探す、元ルナシーのメンバーに注意(?)
【特性】冷静沈着


【武器】S&W M500
【所属】ディルアングレイ
【状態】青
【行動方針】京を守る、メンバーを探しに海岸線に出る、元ルナシーのメンバーに注意(?)、優勝を狙う
【特性】保護者モード全開


ソフィアのベーシスト、黒柳能生はベレッタM92を片手に林の中を歩いていた。もうしばらく行くと営林所にでるはずである。武器が自動拳銃と《大当たり判定武器》であったのはよかったが、先に出発したはずの同バンドのドラマー、赤松芳朋を探していたところに銃声が聞こえ、様子を見ているうちに「誰とも合流できない」という嫌な結果になってしまった。松岡充と都啓一は名前が近いので合流できた可能性が高いがあまり楽観的に考えられるたちではない黒柳はメンバーとの合流は「エリアの広い序盤ではムリ」と判断し、今は個人的にアイテムや情報を集める事に専念することに決めていた。あの控え室で、優勝賞品を告げられた時の松岡の表情を黒柳はこっそりうかがっていて「ああ、欲しいのだな」と思った、それが全ての理由ではなかったが優勝を狙おうという気持ちが黒柳にはある。安定期であろうと行き詰まっていようと常に現状は打破し続けたいからだ、最近はあまり顔を出さなくなったがここらでもう一度「メディアの力」を利用してみるのも悪くないかもしれない。ソフィアはV系全盛期の脚光を浴びていたバンドの一つだ。しかし、脱V系をしてから長いせいであまりこちらの方面に知り合いはいない、この《ごっこ遊び》には松岡がリュウイチと繋がっているから呼ばれたのが理由ではないかと黒柳は思っていた。
まぁソフィアの中で一番V系っぽいのは黒柳だと指摘されることも多いのだが。
見知らぬ相手と《ごっこ遊び》のバトルができるほど子供ではないし他のソフィアメンバーと違い悪ふざけをするほうでもない(かといって洒落を解さない無粋な男ではないが)ので無難に避けて生き残るのが有効な手段といえよう。
黒柳はどちらかというと他人に「怖い」と思わせてしまう風貌の持ち主なので親交のない相手と交流をはかるのも避けた方がいいかもしれない。
「やれやれだな、この歳になってサバイバルごっこをするはめになるとは」
そう呟きながら地図とコンパスで現在地を確認する、間違っていないはずだ。このまま進めば営林所があるはずである・・・営林所ってなんだ?とも思ったがなにかの施設だと推測できるので此処に行けば上手くするとアイテムがあるかもしれない。ルールブックには《回復アイテム》のほかにも役に立つ道具が各所に点在していると書かれていた。
不意に風を切るような音が耳に届いた。そして何かがぶつかる音と人の声。音の方は軽いというか、ちょうどビーチバレーの音に似ていた。
−誰かが戦ってる?
黒柳は身をかがめて音のする方へ移動した。根元はすぐに見つかった、営林所の前の空間に二人の男がいて、一人は日本刀をもう一人は錘を振り回して戦っていた。黒柳は木の陰に隠れて様子を窺う。
お互いにリーチのある武器を使っているせいで武器同士がぶつかるばかりでどちらも相手の身体に当てることができないでいるらしかった。もっともこれが本物の武器であったら錘がぶつかった時点で日本刀は折れていただろう、日本刀を使っているのが達人であれば錘の持ち手を一刀両断にしてしまうという可能性もあるが。
錘使いのほうはは背の高いモデル体型の男で女子ブレザーを着用しおり、ニット帽から垂れた長い髪が片側でだけ揺れていた。ダメージを喰らったのか胸のランプは緑の《かすり傷判定》が点灯していた。日本刀のほうは中背でセミロング、錘使いとは違いがっちりメイクをしている。黒柳はルールブックの後ろの名簿を見た。苦心して写真と総合すると、錘使いはディルアングレイの敏弥、日本刀の方がDの英蔵ということが分かった。敏弥のほうはどこかで会っていたかもしれない。
状況的には英蔵のほうがノリノリで日本刀を振るっていて敏弥は少し焦っているようだった。
「待ってちょっと待っていろいろ待って!たしかにバトルしようって言われて"うん"って答えたけどさ、あれいわゆる条件反射っていうか脊髄反射て言うか、君ちょっと怖いよ!?」
それが本当に脊髄反射なら一度病院に行った方がいいが、この場合は単なる比喩として使ったのだろう。ちなみに条件反射でも間違っている。
「だからちゃんと断ってやってるじゃないですか、今更止めるのも変だし、その言葉が心理戦って可能性もありますよ」
ノリノリなわりに的確かつ冷静な指摘をしながら英蔵は日本刀を振るう手を止めない。
「う、確かにそうだけど!」
あっさり言い負かされた敏弥はしかたなく錘で日本刀を受け流した。気は弱いが運動神経は抜群なうえ、一時期やんちゃしていたこともあるせいかなかなか様になっている。それは英蔵も同じだが。
黒柳は改めて名簿を見た、どうせなら他のバンドメンバーとの交流状況とかスポーツ履歴とか書いてあればいいのに、と思う。
でも、この勝負はたぶん敏弥が勝つ。英蔵の方は何故か突き技にひどく拘っているようで敏弥の攻撃を受けるとき意外は全て突きを放っている。剣術における突き技は熟練していないと難しいはずだ。長物で戦う時の基本は横スイング。
黒柳はこの戦いの行方を見守ってから次の行動を決める事にした。
しばらく武器同士がをぶつかり合わせていたが、英蔵が突きを引っ込めた隙に敏弥が間合いに入って錘を日本刀目がけて思いっきり横に薙いだため、日本刀は英蔵の手から離れて宙を舞った。
「あ!」
「よっしゃあ!」
「ちょ、タイ・・・」
「タイム」と言おうとしたのだろうがそれより早く錘が英蔵目がけて振るわれる。
空気の抜けかけたボールでドリブルした時のような間の抜けた音だったが端から見ればでかい鈍器でボコボコにしている風にしか見えない状況に黒柳はドン引きしていた。
しばらくして英蔵の胸のランプからピーと長めの電子音が響いた。
「死んだ・・・」
どうやら《死亡判定》を喰らったようだった。敏弥は肩で息をしながら「ごめ〜ん」と謝っている。
チャンスかな、と黒柳は思う。そっと木の陰から出ると敏弥にベレッタの銃口を向けた。そこそこの距離があるから命中する確立は低いかもしれないが、銃にはレーザーポインターのような機能が付いていて、赤い光を敏弥の胴体に合わせることができた。意を決して引き金に指をかけた時、黒柳が隠れていた木から鳥が数羽飛び立った。英蔵と話していた敏弥が驚いたように振り向き、そして黒柳と目が合う。かまわず黒柳が引き金を引くと銃声が響いた。英蔵もそこで黒柳の存在に気づいたらしくこちらを見ている。
《当たり判定》を示す電子音は響かない、黒柳が引き金を引く直前、敏弥は錘を身体の前に持ってきてガードしていた。ある程度の物体なら銃の攻撃を無効化できるらしい、ならばあれだけ面積の大きな武器を持っている敏弥のほうが有利と判断し、黒柳は踵を返してもと来た道を走り出した。

黒柳が去ったあと、営林所の前では「なにあれ!?」と憮然としている敏弥と「・・・やばい、調子に乗りすぎた、アドレナリン全開だったぁぁぁぁぁぁ!」と落ち込む英蔵が残された。

黒柳能生
【武器】ベレッタM92
【所属】ソフィア
【状態】青
【行動方針】優勝を目指す
【特性】なんちゃってクール

敏弥
【武器】錘(二本)
【所属】ディルアングレイ
【状態】緑(かすり傷判定)
【行動方針】メンバーと合流
【特性】ネガティヴモード

【英蔵 D ゲームオーバー】
(日本刀は英蔵の傍に放置されています)

【残り51人】


おそらく現在の参加者の中で一番気分が落ち込んでいるのがスギゾウだった。ユウナから冷たくされたことと、マオが拡声器で呼びかけをしたあげくにゲームオーバーになったこと、この二つにスギゾウの気分は完全に沈んでいた。
とりあえず今は《回復アイテム》を手に入れなくてはいけない、それからユウナを探してちゃんと話そうと思いながらスギゾウは灯台へと辿り着いた。診療所か灯台か迷ったが地図で見た限り楽なルートで早くいけるのは灯台の方だった。
海の音と潮の香りが心地よいが今は和んでいる暇はない。
とりあえず中に入ろうとドアを押すが開かなかった。強く押すと僅かに隙間が開いたがどうやら持ち手の部分に木の板がかけてあるらしい。
(バリケードってことは先客か・・・)
声をかけようか悩んだが先程の一件で少々気弱になっていたスギゾウは静かに灯台を離れる。もう時間がない、診療所まで走らなければ間に合わない、スギゾウはニューナンブを握ると全力で走り出した。

スギゾウ
【武器】ニューナンブM60
【所属】なし
【状態】紫(致命傷判定)
【行動方針】回復アイテムを探す、ユウナと仲直り
【特性】ネガティヴモード



「行ったみたいだ」
灯台の中にはアンジェロの二人がいた。タケオは窓に目隠し代わりにかけておいたダンボールを少しずらして外の様子を見ていた。
「誰だったんだ?」
部屋の真ん中でルールブックを広げたキリトが聞く。
「スギゾウさん。声かけたほうがよかったか?」
「いや、この《ごっこ遊び》の性質上、メンバー以外は仲間にしようと思わない方がいい」
「先輩でも?」
「先輩でも後輩でも同期でも」
きっぱりと言い切ってキリトはルールブックに視線を戻した。その手には掌サイズの拳銃、ハイスタンダード・デリンジャーが握られている。彼が持つには少々小さすぎるがそれでもこの男、物騒なモノを持たせると異様に似合う。さすが某I氏に「オヤジ狩りにあったら真っ先に呼ぶ」と言われるだけのことはある。
「コータと合流しそこねたのはやっぱり痛かったね」
「それはもうしかたないだろ」
名前が近かったのに合流できないというのはいささか妙な事態だったが、キリトが一旦廃校から離れ武器を確認した後に戻って来ると、時間配分を誤ったのかコータは既に出発した後だったのだ。タケオにしてみればキリトが自分を待っていたことが意外だったので、たぶんコータもさっさと行ってしまったのだろう。
「なにか浮かんだ?」
「いや、まだだ」
当たり前といえば当たり前にキリトは《主催者反撃ルート》を狙っていた、タケオを待っていたのはそのルートを取るのに人手がいることを考慮したからだ。ルール上メンバーは100%信用できる。(その100%を躊躇なく打ち破った逹瑯はある意味で大物かもしれない)タケオはもう一度スギゾウが行ったのを確認してからキリトの邪魔をしないように少し離れたところに腰を下ろし、ディバックを開ける。
タケオのディバックの中に入っていたのは薄い円形にギザギザのついた板だった。
マンホールのような文様が描かれているそれを取り出し、床に置いた。これは《大爆文様》というらしく、説明書を読む限り地雷と同じ役割のようだ。もちろん踏んでも本当に爆発するわけではなく踏むと電波のようなものを発して周囲の人間に《当たり判定》を喰らわせるものらしい。トラップに使うもののようだがキリトが「威力が分からないから使わない方が良い」と言ったので、安全シールを付けたまま持て余している。
ふと、どこか遠くでマシンガンの音がして、すぐに静かになった。
「誰かゲームオーバーになったかな・・・」
キリトは顔をしかめてそう呟いたがすぐに興味をなくしたようでルールブックに視線を戻した。

キリト
【武器】ハイスタンダード・デリンジャー
【所属】アンジェロ
【状態】青
【行動方針】主催者反撃ルート
【特性】超人の領域への階段

タケオ
【武器】大爆文様
【所属】アンジェロ
【状態】青
【行動方針】キリトに付き合う
【特性】?


誰かが走ってくる気配がしたので、メリーのボーカリスト、ガラはとっさに身を隠した。走り抜けていったのはスギゾウのようだ。メリーのメンバーの中では最初の出発となったガラは手前の茂みに隠れある人物を待っていた。待っていたのはメンバーではなく自分の兄貴分である京だ。しかしようやく出てきた京に声をかけようとしたところ、薫が(出てきた位置からしてずいぶん近くにいたようだ)京を連れて行ってしまい、慌てて後を追ったが見失ったので諦めて戻ってきた頃には時間が過ぎておりメンバーと合流する機会も完全に逃していた。友人である逹瑯に聞かれたら大爆笑されそうなドジっぷりを披露してしまった。
自分より先に出た薫が京を待っていることなど少し考えれば分かったはずなのに、かすめもしなかった自分に自嘲しつつ、二人を探すために移動中だ。
ガラの右手には支給武器である鉈が握られている。
「それにしたって、この広範囲を探すのは難しいよな、他のヤツに合う可能性だってあるわけだし・・・」
交友範囲は広いほうなので友達と会ったらわけを話して手伝ってもらうか、情報交換をするという方法をとろうかとも思ったが不安要素がある。
「逹瑯とか大喜びで攻撃して来そうだよな」
逹瑯が「ガラ〜!遊ぼうぜ!」とか言いながら笑顔で銃をぶっ放してくる姿を想像するのは容易だった、むしろ《マシンガン》の正体は逹瑯ではないかとすら思っている。そうでなくても逹瑯が一人でいるなら積極的に動き回っているだろうし、遭遇率は高いかもしれない。
「ミヤ君が一緒にいたらストッパーになってくれてるかも。いや、あの二人は名前が離れてるし一緒にいるわけはないか。逹瑯がメンバーを待ってたとは考えにくいし、そういえばユッケ君はゲームオーバーになってたな・・・」
奇跡的にムックのメンバーは三人が合流できたことを当然ガラは知らない、もっともユッケは逹瑯の手によってゲームオーバーになってしまったが。
考えが行き詰まって来たのでちょっと整理してみよう、とガラは立ち止まり、木を背にしてもたれかかった。
何故、京を待っていたのか?
−京さんと一緒に行動したかったからだ。
何故、京と一緒に行動したいのか?
−それはもちろん、京さんが優勝する手伝いをするためだ。
考えてみればものすごく簡単な回答に行き着いた。京が優勝してくれればいいというなら自分がやることは決まっているじゃないか。
京を含むディルアングレイのメンバー以外を自分が倒せばいいのだ。
「とりあえずこんな武器じゃ心許ないし、銃がいるな・・・できればメンバーと先輩達、あと逹瑯は避けよう・・・」
消極的ではあるが奉仕型マーダーが誕生した瞬間であった。

ガラ
【武器】鉈
【所属】メリー
【状態】青
【行動方針】京を優勝させるためディルメンバー以外の参加者を倒す
【特性】?


診療所が見えた。此処まで全速力で駆け抜けてきたので息は上がり汗だくだ。途中誰かの姿が見えた気もしたが、背丈からしてユウナではなかったので無視して走り続けた。とにかく《回復アイテム》手に入れなければ。
診療所とはいっても平屋建ての、いまにも倒壊しそうな建物だった。スギゾウは一旦木の陰に隠れて様子を窺う。
「誰かいるか!」
少し大きめの声でそう問いかける。返事はない。
「誰もいないんだな!」
いなかったら返事はないだろうな、と自分にツッコミを入れつつそっと木の陰から出た。ニューナンブをかまえると診療所に向けて足を踏み出す。
半分くらいの所まで来た時、視界の端にゴミ置き場が見えた。ベニヤ板で作ってある、簡素な・・・後ろに人が隠れるには丁度良さそうな・・・・!?
ゴミ置き場の方へ銃を向けようとした瞬間、人影がゴミ置き場の上に飛び上がった。ガタンという音と木が軋む音、逆光で顔は見えないが、ゴミ置き場の屋根の上で箱のようなものを向けている人物がいる。
ぱらららららららららっという銃声がして、スギゾウの胸のランプが電子音と共に点滅する。
慌ててニューナンブを向けるがゴミ置き場の上の人影は既に消えていた。
やがてピーという電子音の後に胸のランプが『赤』に変わった。《死亡判定》ゲームオーバーだ。
「マジかよ、誰だよ・・・」
その場にしゃがみこんでぼやくスギゾウの耳に聞こえてきたのは押し殺した笑い声とよく馴染んだ声。
「杉ちゃん、ゴメンね」
笑顔全開のイノランがゴミ置き場の後ろから顔を出した。
「おまっ!なにやってんだよ!」
驚きのあまり大声を出したスギゾウを人差し指を上げて制してイノランはスギゾウに近寄ってきた。
「なにって、《マーダー》だよ」
真顔でそう告げられては返す言葉もなかった。不満そうなスギゾウの腕をとってイノラン少し口角を上げた。
「移動させたいんだけど、自分で動く?引きずったほうがいい?」
一瞬なにを言われているのか分からなかったが、控え室でのキリトの言葉を思い出した。『《死亡判定》をくらった人間を生きてる人間が動かすのはオッケーですか?』という質問がたしか出たはずだ。
「オマエ、まさか此処で待ち伏せ作戦?」
「ピンポーン。そろそろ《当たり判定》喰らった子とか、《回復アイテム》を先に手に入れておこうとする子が出てくると思ってね、まさか杉ちゃんが来るとは思わなかったよ」
そう言って微笑むイノランが手に持ている武器はミニウージーだ。先程聞こえた銃声は、展望台から拡声器によって響き渡ったものと同じ音がした。
「マオを撃ったのはイノランなのか?」
その質問をした瞬間イノランの表情が曇る。
「マオにゃんから聞いたよ、武器交換したって」
「あ〜、いや悪気はなかったんだけど、その、なんていうか・・・」
イノランがマオのことを「マオにゃん」呼ばわりしたことに全く触れないあたりやはりこの二人は付き合いが長い。
「まぁ別に良いと思うけどさ、しょせん《ごっこ遊び》なんだし」
嫌な顔をされるかと思いきやイノランはあっさりそう言ってスギゾウの腕を引く。
「そういえば杉ちゃん。俺が撃つ前から《致命傷判定》だったけど、その傷は?」
「《腹部》に《刺し傷》」
「ありゃりゃ・・・」
連れて行かれたのは診療所の一室で、おそらくは待合いに使われていた場所だった。驚いたことに先客がいる。
「・・・どうも」
困ったような顔でそう言ったのはラルクアンシエルのテツだった。スギゾウも苦笑いして短い挨拶をした。
「じゃ、俺は行くから」
背を向けるイノランにスギゾウが声をかける。
「まだ待ち伏せすんの?」
「いや〜さすがに三人目は釣れないと思うし、また作戦考えるよ、それに待ち伏せしてると煙草吸えなくてイライラ・・・おっと!」
遠ざかりつつあった声が慌てたように戻ってきた。
「武器回収すんの忘れてた」
そう言ってスギゾウの手からニューナンブを取り上げると今度こそ本当に行ってしまった。
さして仲が良いわけでもないテツと取り残されたスギゾウは深いため息を吐いた。
「いやいや、ドジっ子マーダーはさすがに需要ねぇだろ!」
素直な心情の吐露だったが、意外にもツボに入ったらしく、テツが声を殺して笑い出した。それを見たスギゾウもなんだか笑いが込み上げてきて二人で小さな声で笑い合った。
ユウナとはこの《ごっこ遊び》が終わってから話せば良いのだ、思ったより雰囲気に飲まれていて「此処で会わなきゃ今生の別れ」のように思っていた自分が可笑しくてしかたがなかった。

イノラン
【武器】ミニウージー、エリミネーター、手榴弾、ニューナンブM60
【所属】なし
【状態】青
【行動方針】マーダー(基本的に不意打ち狙い?)
【特性】危険乱数

【スギゾウ 所属なし ゲームオーバー】
【テツ ラルクアンシエル ゲームオーバー】
(十手は診療所内に放置)

【残り49人】


幕間−敗者控え室−

廃校の一室。おそらくは理科室だとかそういった特別教室だったのだろう、水道などが完備されている部屋に戻ってきたばかりのユッケ、ケン・ロイド、マオがいた。
扉には『敗者控え室』と書かれた手書きの紙が貼ってある。変なところだけ安上がりだった。
「いやぁ死んだ死んだ!」
そんなことを言いながらユッケは自分の胸に血糊を塗りたくっていた。ちなみに三人とも服は着替えたがデザインは同じカーキ色のブレザーで、こちらは胸にランプがついていない普通の制服だ。
何故かいたライターのJ氏から「着替えて傷を受けたところに血糊つけて待っててくれ」と言われたのだ、はるかに年上の人間に恐縮そうに言われたうえ、どちらかといえば素直な部類に入る三人は大人しく死に化粧(?)をしている。
「マシンガンで撃たれた痕ってこんな感じでいいんですかね?」
「撃たれた事も見た事もないからわかんないヨ」
マオとケン・ロイドは水玉模様のように血糊をつけながらそんな会話を交わしていた。
「って俺は後ろから撃たれたんだった!前につけたらダメだったかな・・・」
「Penetrationしたってことでいいんじゃない?」
「え・・・・と?」
突然ネイティヴな英語で言われて理解できなかったらしくマオは首を傾げる。
「ん〜通り抜けた的な・・・」
「あ、貫通ですね」
「たぶんそれ」
後輩相手でもケン・ロイドの人見知りは発動してしまったらしく、やや緊張した雰囲気だ。それを察したユッケは気を使って戯けた調子で言った。
「後ろは俺が塗ってあげるよ〜!ケンさんは?」
「いや、俺はいいや」
イノランからかなりの近距離で撃たれたので理論上は貫通しているはずだが、そこまでのれないケン・ロイドは断った。
「そういえばユッケさんは誰にやられたんですか?」
背中に血糊をつけてもらいながらマオが聞くとユッケは困ったように頭を掻いた。
「たつぅにナイフで刺されたんだよ〜」
「えぇ!?なんでメンバーに刺されるんですか!?」
マオが素っ頓狂な声を上げた。隣で机に腰掛けていたケン・ロイドも「メンバーに!?」と驚いている。
「まぁ・・・いろいろあってね・・・・」
遠い目をしたユッケにそれ以上聞いては悪いと思ったのかケン・ロイドが話を変える。
「でもさ、ナイフで刺されただけならチノリつけすぎじゃない?」
ユッケの左胸は血糊でベタベタだった。かなり広範囲にわたって塗られている。
「だって、めった刺しにされちゃったからね!」
てへっと笑ってみたがマオとケン・ロイドから憐憫の視線が注がれてしまった。
「逹瑯さんって・・・」
「ふざけてとはいえ、メンバーをめった刺し・・・」
「いや、ウチ仲悪くないからねっ!」
慌てて取り繕う、というか仲が悪くないのは事実だ。悪ふざけがすぎるだけである。特に約一名。
「で、たつぅはミヤ君と行動してるんだけど、大丈夫かなぁ。あの組み合わせは危険すぎる気がする」
逹瑯とミヤはあまり仲良しとは言い難い、ミヤが厳しいのに対し逹瑯が基本、自由人なので衝突することもある。またミヤが変なところで大雑把なのに対して、逹瑯がこれまた変なところで神経質なため、その食い違いもある。(誤解のないように言っておけば性格が違いすぎるだけであって互いのことは尊敬し合っている)
管理室ほど大規模ではないものの、敗者控え室からもモニターチェックができ、盗聴されている会話も聞こえていた。
但しミヤ・逹瑯チームとイノランとの接触は第一回放送直後で三人とも此処には辿り着いていなかったため聞いていない。
「刮目すべきは《マーダー》のイノランさんと《主催者反撃ルート》狙いのアンジェロさんチームってところですかね?」
「カツモクってなに?」
「注意して見るべきはってことです」
ケン・ロイドの存在を忘れてうっかり難しい言葉を使ってしまったマオはそう言い直した。
「黒柳さんも発砲したけど、目的が分からないねぇ、ほぼ無言だったし」
単独行動している場合、盗聴器に気を利かせて状況を喋るタイプでないかぎりそれはしかたないが。
「つーかさ、何気なくタクヤ君も危ないよね、さすがイノランの友達」
イノラン経由でタクヤと会ったことのあるケン・ロイドは苦笑気味にそう言う。その後とくに交流が深まることはなかったが「腹黒そうな人」という印象をタクヤに対しては持っていた。
「あぁ《アサシンマーダー》化してますね・・・ってイノランさんってどういう人なんですか!?」
「・・・・」
マオの質問をケン・ロイドが黙殺したのを見て、ユッケは何となく察した。マオも追及はせずに名簿で他のメンバーの現在地を確認しようとして、そして気づいた。
「ユッケさん、あれ!サトチさん見てください!」
突然マオが大声を上げたのでユッケは慌てて番号を照合してサトチの位置を確認する。
「あのまま行ったら禁止エリアですよ」
碁盤のように線の入った地図の上、サトチを示す三角の表示は既に赤くなっているエリアに向かって突き進んでいた。
マオが音声を切り替えてサトチのマイク音のみが流れるようにした。
『ぐっちゃ〜!たつろ〜!ユッケ〜!』
かなりの大声を上げているらしくスピーカーから流れる音は割れていた。
「なんでここにいるユッケ君呼んでんの?」
ケン・ロイドのもっともな疑問にマオが引きつった笑みを浮かべて答える。
「まさか・・・放送聞き逃したんじゃ・・・」
「聞き逃しようがなくネ!?どうやって聞き逃すんだヨ?」
驚きのあまり口調が崩れたケン・ロイドの隣でユッケは顔を覆っていた。
「・・・馬鹿だ、本物の馬鹿だ」
『ぐっちゃ〜!どこっ!?』
「もう禁止エリア入っちゃいますよ!?」
「どうしようもないじゃん・・・」
控え室組の混乱などもちろん届くわけもなく。サトチはそのまま禁止エリアに入ってしまった。
スピーカーから電子音が小さく聞こえ、同時にサトチの慌てふためく声がした。
『うぉっ!?なんだ!なんだべ!どうなってんのこれ!?』
ユッケは完全に顔を覆っており、あとの二人もかける言葉がない。
『あれ!?赤になった!死んだ!なんで!あ、動いちゃだめなのか!?』
動いちゃダメだと判断できただけでも彼にしてみればできたほうかもしれない。
「くそ・・・あとでミヤ君に怒られろ、馬鹿」
ユッケがキャラを放棄して地を這うような低音で言い放つ。慌てふためくこと5分サトチは『そうか!禁止エリアかっ!あはははっ!』と軽快に笑ったのでマオは黙ってマイクを全体に切り替えた。
「いや、なんていうか・・・」
「ほら!あれだけ大声だしてたら禁止エリアに引っかからなくても誰かに襲われてたヨ!」
ケン・ロイドがまったくフォローになってないフォローを入れる。
V系界一の爽やか馬鹿は最後まで爽やかにゲームオーバーになった。

【サトチ ムック ゲームオーバー】

【残り48人】



地主の家で猫と戯れていた浅葱もさすがに暇になったのか、家の中を散策していた。斬馬刀を引きずりながら次々と襖を開けては部屋の中をのぞいてみるがめぼしいものはない。畳が斬馬刀で削れているのには気が回っていないのか廃墟だからかまわないと思っているのか。
「何かアイテム的なモノがあると思ったんだけどな」
赤いカラーコンタクトをした瞳を細めて浅葱は呟く。
台所で水が出るのは確認できた、顔を洗う時にでも使えるのでもうしばらく此処にいてもいいかもしれない。
「これが最後の部屋か」
一番奥の襖を開けた時、さすがの浅葱もぎょっとしてしまった。
障子から差し込む淡い光だけが差し込んでいるその部屋は仏間だった。
壁にかけられた埃まみれの白黒写真、仏壇の入っている扉は閉じられたままだ。和製ホラーシーン、オープンリーチ状態。
良いタイミングというか悪いタイミングというか、外ではカラスが不吉な泣き声を上げている。
「・・・なまはげは出ないよね」
仏壇から出てくるなまはげなんてなまはげじゃない。
「そこはほら、神仏混合だから」
地の文に答えるなと言うに・・・
出てきたのが参加者ではなく超自然的存在だった場合全く意味はないのだが、それでもないよりまし、と浅葱は片手で斬馬刀を構え仏間へと入った。
そっと手をかけて扉を開くと、古い仏壇があった。さほど大きくはないが、この状況で仏壇というのは怖い。少し躊躇ったが浅葱は仏壇の扉を開いた。
仏壇の中に置かれていたのは位牌でも仏像でもない、双眼鏡だった。どこにでもあるありふれた双眼鏡、ご丁寧にも『アイテム』と書かれた紙が貼ってある。
取り出して確認してみると、やっぱり双眼鏡だった。浅葱はそれを持って縁側に戻る。双眼鏡で覗いて見ると展望台がよく見えた。マオが撃たれる前に見つけていたらマシンガンを撃った人間が確認できただろうにと浅葱は少し後悔する。しばらく双眼鏡を覗いているとあることに気がついた。気がついた、というよりこの島に来てからずっと引っかかっていた違和感の正体が徐々に胸の奥からせり上がってくる感じだ。
浅葱は縁側から降りて家の周囲をぐるりと見て回った。やはりあるはずのものがない。当たり前すぎて逆に誰も気に留めなかったことに浅葱は気がついた。
「この島には、電線も電柱もない・・・」
それが何を示すのかは浅葱にも分からなかったが、あまりに奇妙な事実だった。
「・・・・・・動く、か」
浅葱は荷物をまとめると地主の家を後にした。
「るいちゃん達を探そう」

浅葱
【武器】斬馬刀
【所属】D
【状態】青
【行動方針】島の謎の解明、メンバーと合流
【特性】猫集め



ガクトは神社の石段を悠々と下っていた。神頼みをしてきたわけではなく単なる散策だ。これが仕事ならキャラを壊すのはマズイとガクトはできる限り悠然とした態度を取っていた。石段を下りると林に囲まれた細い道路に出る。次はどこに行こうかと地図を取り出そうとしたその時、自分を呼ぶ声が聞こえた。
「がっちゃん、がっちゃん」と甘ったるい聞き慣れた声。そちらに視線を向けると木の後ろからハイドが顔を出して自分を呼んでいた。
「ハイド・・・」
ガクトの声音にほっとした空気が混じる。
「ねぇがっちゃん、がっちゃんの武器、なに?」
ふわふわとした口調とふわふわとした表情。40間近になっても彼の不思議ちゃんっぷりは変わらなかった。
「見せてくれる?」
そう言いながらもハイドは木の陰から出ようとしない。もしや信用されていないのだろうか?と戸惑いつつもガクトは自分のディバックから支給武器を取り出す。
それは青い藁人形だった。ハイドが首を傾げたのでガクトは説明を加える。
「説明書には《地獄少女の藁人形》って書いてあった。ハズレなんだって・・・ハイドの武器は?」
「ふぅん。俺はな・・・」
ハイドは木の陰から出てガクトに近づいて来た。何故だろう、顔は笑っているのに目が笑っていない(それはいつものことだが)なんだか怖い。
「これや」
そう言ってハイドは後ろに隠していたものを取り出した。黒い、芸術的なフォルムのマラカス。禍々しい、不吉な文様が刻まれている。
「お互い、ハズレ引いちゃったみたいだね」
平静を装って微笑むガクトの前でハイドはマラカスを振り始めた。

じゃらん!
じゃらん!
じゃらん!

最初はハイドがただ巫山戯ているのだと思った、ハイドの顔にはうっすらと笑みが浮かんでいる。しかしガクトはそのマラカスの音の中に奇妙なものを感じていた。この楽器で得られるものはもっと単純な音のはずだ、そもそもリズム楽器なのだから、それなのに・・・
−音階が、メロディのようなものが聞こえる!

じゃらん!
じゃらん!
じゃらん!

一心不乱にハイドはマラカスを振り続ける。背中がぞくぞくした。やめてもらおうと口を開きかけた時、電子音が鳴り響いた、ガクトの胸からだ。
見ると胸のランプが狂ったように点滅している。
銃声は聞こえなかった、鳴っているのはマラカスの音だけだ。
「ハイド・・・それは、まさか・・・」
「ランプの点滅中は動いたらあかんのやで」
平時となんら変わりのないふわふわとした口調でハイドは言う。確かにそういうルールだ、動けない。
「ねぇ巫山戯るのやめてよ」
「巫山戯てないで」
ハイドが隠れていた木の少し横からもう一人出てきた。黒服を着ていなかったせいで一瞬誰だか分からなかったが、その人物はサクラだった。
手に持っているのは青龍刀。大陸系の顔立ちをしている彼には似合いすぎて笑ってしまうくらい似合っている。ブレザーなのがミスマッチだが。
ハイドが気にするそぶりを見せないところをみると、二人は一緒に行動していたようだ、だとするならば・・・
「ちょ、ちょっと待ってよ!俺達友達でしょ!」
我ながらチープな台詞だとは思ったが、他になにも浮かばない。そして思わずキャラが壊れてしまった、そのくらい焦っている。
「だってこれ《ゲーム》やん」
清々しいぐらいあっさりと躊躇なくハイドはそう断言する。
サクラは無言でガクトの前まで来ると、腹が立つくらい男前な笑顔で言った。
「悪いな、お姫様のご所望だ」
青龍刀が振り下ろされると同時にハイドのマラカスが止まった。
ガクトの胸のランプが今度は断続的な電子音を発し、最後にピーと鳴ってから止まった。色は『赤』《死亡判定》だ。
「勝ったな、オレら」
上機嫌なハイドがサクラの腰にタックルを決めてから、上目使いにガクトを見た。
「がっちゃん、ゴメンな」
こう言われては怒る気もしない。代わりにガクトは疑問をぶつけた。
「その武器がなにかしらの方法でこのランプを誤作動させるものだっていうのは想像がついたけど、なんで二人は平気なの?」
「がっちゃん頭ええなぁ・・・それはこれや」
ハイドはジャケットをめくりランプの裏側を指し示した。
「実は此処にSDカード入れられるようになっとんねん、この武器に2枚だけ付属しとってこれを入れておけば誤作動を防げるんや」
「あぁ、なるほど・・・」
「でもこんな上手くいくと思わんかったわ、がっちゃんがハズレ武器で良かった」
自己中極まりない発言だがそれを自己中と思わせないのがハイドの不思議なところだ。
「相手が飛び道具を持っていたら意味がないからな」
サクラはハイドの隣で苦笑いしている。
「じゃあ行くわ、がっちゃんバイバイ!」
楽しそうに手を振って歩き出すハイドの背中を追って慌ててサクラもガクトに背をむけた。
「一つだけ!その武器はなんて名前?」
ガクトがそう声をかけるとハイドがふり返って答えた。
「少女趣味って書いてボルトキープ」
それだけ言うとそのまま小走りで行ってしまった。
「俺は自分をマイペースだと思うけど、ハイドには負けるなぁ」
一人になったガクトはそう言って苦笑した。

「いきなりお友達攻撃とはさすが外道です、ハイドさん」
「容赦なく切り捨てるやっちゃんも酷いけどな」
襲撃成功に意気揚々としながらハイドとサクラは笑い合う。
「思ったより使いこなすのに時間かかってまったし、さくさく行くで」
もっと複雑なメロディを奏でられるようになれば音だけで相手に《当たり判定》を喰らわせることも可能らしいが、あれからかなり練習しても一番簡単な《動きを止める音》しか修得することはできなかった。
それでも有効な武器には違いない。二人は新たなターゲットを捜すべく探索を再開した。

ハイド
【武器】少女趣味−ボルトキープ−(超大当たり判定武器)
【所属】ラルクアンシエル
【状態】青
【行動方針】《少女趣味》を使って会う人を襲撃
【特性】天然悪魔

サクラ
【武器】青龍刀
【所属】なし
【状態】青
【行動方針】ハイドのサポート
【特性】理論展開

【ガクト 所属なし ゲームオーバー】
(地獄少女の藁人形はガクトが持ったままです)

【残り47人】



南国の鳥のような髪型をした二人が並んで歩いていた。シドのベーシスト、明希とメリーのドラマー、ネロだ。明希のほうは女子ブレザーを着用している。
「マオはどうしてあんなことしたんだろうな」
「わかんないっす・・・マオ君らしくないし」
あれからもう何度もしている会話なのだが一向に答えが出ない。二人が一緒に行動しているのはマオの呼びかけを聞いた明希が展望台に向かう途中に同じくマオを止めようと向かっていたネロに声をかけられたのがきっかけだった。展望台のはるか手前でマシンガンの音が鳴り響き「確認しに行くのは危険」とネロに諭されたので諦めたが、明希はメンバーの、それも一番付き合いの長いマオの呼びかけに答えなくてよかったものかと少し気に病んでいた。
「なんか《ごっこ遊び》なのにちょっと悲しいですよ・・・」
「マオとは付き合い長いもんな、そりゃショックだろう」
「・・・いや、なんかその言い方だとマジでマオ君が死んだみたいなんで止めて下さい」
「そうだな、悪い悪い」
シャレにならない。
それはともかく明希の言うとおり、マオは進んで自滅するタイプでもないし、拡声器で呼びかけをすることの危険さが分からないほどバカではないのは事実だ。この疑問が解消しないかぎりすっきりしないだろう。
極論を言ってしまえば《ごっこ遊び》が終わるか、自分がゲームオーバーになった後にマオから直接聞けばいいだけのことなのだが、スギゾウ同様、この二人も多少雰囲気に飲まれていたのでその回答にはいたらなかった。
「マオ君いなくて、俺どうしたらいいんだろう・・・」
その台詞こそマジっぽいがネロからのツッコミはない。
本気で落ち込んでいる様子の明希の肩をネロは優しく叩いた。
「なぁ、仲間を集めて《マーダー》を倒すっていうのはどうだ?」
明希を励ますつもりで言ったのだが自分でも良い案だと思ったらしく、少し熱を帯びた口調でネロは言う。
「《ごっこ遊び》だろ?別に正規のルート選んで優勝するばかりが道じゃない」
「でも、相手はマシンガンですよ?」
明希の武器は匕首だった。V系が持つとどうも似合わない感じがしてしまう。匕首というとヤーさんが浮かぶからなのか、ゴツイ人がオラオラ言いながら持ってるイメージがある。明希も説明書を読むまでは「ドス」だと思っていた。説明書にはそんな参加者の思考を先回りするように『ドスは短刀に対するヤクザの隠語です』と書かれていて、茶目っ気なんだろうが弱冠ムカついてしまった。温厚な明希ですらムカついたのはこの状況に対するストレスだろうか。
「だから仲間を集めるんだよ、数でいけばなんとかなるだろ」
ネロの武器は直径がCDほどある筒状の玩具のような(全ての武器が玩具といえば玩具なのだが)小型大砲で説明書には『ネコパンチバズ』と書かれていた。『ネコパンチ・バズーカー』だとネロは理解したが説明によれば飛距離と威力はあるが命中率は悪いという使い勝手がいいんだか悪いんだか分からない武器だった。マシンガンに対抗できるとは思えないし、そもそも『ネコパンチ』なんて気の抜ける名前からして期待できそうにない。
「仲間というと誰を集めますか?言っておきますが逹瑯さんはダメですよ!」
逹瑯、ガラに続き明希にも拒否された。日頃の行いが悪いのか彼のキャラがそうさせているのか、ムックのメンバーに聞かせたら達観した笑顔で流されそうだ。
「あとルキさんもやめたほうが、たぶん優勝狙ってるだろうし」
「そうなのか?まぁ逹瑯に関して言えば俺も全面的に同意だ・・・そうだな、おまえのところのメンバーだろ。ウチからは・・・ガラ以外」
「なんでガラさんは除外するんですか?」
明希が弱冠引きつった顔で聞いた。
「結生とか、他は大丈夫だ」
「・・・なんでガラさんは除外するんですか?」
スルーされてもめげずに明希はもう一度同じ台詞を繰り返した。
「逹瑯ほどじゃないけど割とあいつも悪ふざけをする方だしそれに、たぶん・・・」
ネロはため息まじりに言った。
「京さんを探してるだろうし・・・」
下手をすれば京のために《マーダー》になっているかもしれないというピンポイントで大正解な台詞は後輩の手前呑み込んだ。
「あぁ・・・そうかもしれませんね」
納得して歩みを進める明希の前にすっとネロが手を出して止めた。
「誰かいるのか?」
茂みの向こうに髪の長い後ろ姿が見える、煙草を吸っているらしく煙が漂っていた。馴染みのないシルエットに明希とネロは顔を見合わせて首を傾げた。
「そっちは誰?一人じゃないみたいだけど」
響きのある柔らかい声でそう問われた。ネロと明希が近づいてくるのも分かってた上で移動しなかったのか動揺はみられない。
「俺はメリーのネロ、一緒にいるのはシドの明希だ。どちらも戦う意志はない」
「シド・・・」
しばらく間を置いてからその人物はふり返った。メイクはしていないが髪型と童顔のせいで少しギャル男っぽい雰囲気のある、おそらく明希やネロよりは年上の男。見覚えならある、一時期スギゾウと組んでいたボーカリスト。
「シドのメンバーさんを探してた。伝えなきゃいけないことがあったから」
「・・・ユウナさん?」
ネロの問いかけにユウナは微笑んで頷いた。
「あの、俺を探してたって・・・」
明希は不安そうだった、ユウナから探される心当たりは全くない。
「マオ君のことで、伝えたいことがあるんだ」

ユウナはスギゾウとマオが武器を交換した事を二人に話した。といってもユウナは二人の会話を聞いておらず、詳しい経緯は知らないので伝えられるのは「交換した」という事実だけだったが。
「そんなことがあったんですか・・・」
明希はどうリアクションしていいか分からないらしく遠くを見ていた。
「それでも分からないんですが、何故マオは拡声器でメンバーを呼ぶような自殺行為をしたんだ?」
先輩と後輩に挟まれているため敬語かタメ口か迷ったらしくネロはまとまりのない言葉遣いで言う。
ユウナは使い終わった携帯灰皿をポケットに突っ込んで眉間にシワを寄せた。
「俺もそれをずっと考えててね、推測が一つ・・・拡声器にそうしろという指示が書いてあったっていうのはどうかな?」
「指示ですか?」
「そう《ごっこ遊び》を面白くするための指示だったんじゃないかな。序盤に動きがないと優勝者決まらないし」
「ってことは《マーダー》も・・・」
「あぁ!マシンガンとセットになっていた可能性も出てきますね」
ユウナは内ポケットのホルスター(武器の付属品だった)から《自殺志願》を取り出してくるくると回した。某サスペンスドラマの女主人公のようだったが、鋏のサイズが尋常じゃなくデカイためちょっとした大道芸にも見えた。
「それで、さっき明希にも言ったんですが、徒党を組んで《マーダー》を倒そうと思ってるんです、ユウナさんもどうですか?」
くるり。と大鋏を回転させて、ユウナは目を細めた。
「マオ君の敵討ち?」
「も、かねてます。無難に優勝狙うよりはいいかな、と」
「おもしろそうだね」
ユウナが笑顔で肯定し、《マーダーキラー》パーティが誕生した。

明希
【武器】匕首
【所属】シド
【状態】青
【行動方針】マオの敵討ちを兼ねて《マーダー》を倒す。
【特性】?

ネロ
【武器】ネコパンチバズ
【所属】メリー
【状態】青
【行動方針】《マーダー》を倒す。
【特性】?
(現時点ではこのパーティのリーダーである)

ユウナ
【武器】自殺志願−マインドレンデル−(超大当たり判定武器)
【所属】なし
【状態】青
【行動方針】ネロ達につき合って《マーダー》を倒す
【特性】??
(スギゾウを攻撃したことと、超大当たり判定武器を持っていることは告げていない)



場所にして最初に敏弥が疾走していた海岸線付近の林(つまりハイドとサクラがいた地点とは反対側)の中をガゼットの二人が歩いていた。ルキとれいた。出発直後になんとか追いついて合流できたが、自分の存在を無視された形になったルキは未だ不満が解消していないらしく少し不機嫌だった。
ルキの支給武器はワルサーPPKという小型の自動拳銃と《大当たり判定武器》だったものの、原作でこの武器を支給されたキャラが初っ端から裏切りに合って死亡していたので気分はあまり晴れなかったらしい。
「ルキ〜。いいかげん機嫌治せよ、いいじゃねぇか合流できたんだし・・・」
沈黙に耐えきれなくなったれいたの言葉にルキはそっけなく鼻を鳴らす。
「このゲームは事実上《バンド対抗》だぜ?メンバーはかたまってたほうが有利だろうが、入り口にトラップがあったからうっさん達と合流できなかったのはしかたねぇけど、オマエは出た途端全力疾走しただろ」
「だからそれは謝ったじゃねぇか」
「別に怒ってねぇし。俺は優勝したいんだよ」
怒ってるだろうがと言いたかったが不毛になりそうなので止めた。遠慮なくものを言い合える関係ではあるが、この状況でそれをするのも悠長すぎるというか馬鹿らしい気がする。
時折聞こえるマシンガンの音は第一回放送後も着実に参加者が減っている証拠だろう。それ以前にれいたはルキに言わなければならないことがあった。
れいたが廃校を出てすぐ走ったのは「ルキが待っていること」を予想していたからだった。ルキの性格を考えれば優勝狙いで行動するだろう、しかしれいたは別のルートを考えていた。
《主催者反撃ルート》である。
それをどう切り出そうかずっと悩んでいたのだ。
「おまえさ、言いたい事あるなら言えよ。あと邪魔ならそれ取れば?」
ルキはれいたの顔を指さして言った。見抜かれているらしい。
「・・・ん、邪魔ってなにが?」
とりあえず誤魔化してみる。
「鼻の布!さっきからずっといじってる」
れいたは顔に巻かれた布に引っかけていた指を外してルキを見た。
「なぁ、ルキ。明希のこととか心配じゃないのか?」
ルキと交流のある明希の名前をだしてみたがルキはあくまで素っ気ない。
「心配って、別に《ごっこ遊び》だろ、これ」
「その《ごっこ遊び》で・・・優勝狙うとしてだ、遊びでもルナシーやグレイのメンバーさん攻撃できるのかよ?俺はイヤだぞ、しかも俺の武器、こんなだし」
れいたに支給された武器はクナイだった。忍者や大道芸人じゃあるまいし只のベーシストがこんなものでどうにできるわけがない。
ルキは上目使いにれいたを睨む、上目使いなのは単に身長差の関係だが。
「俺はできる、おもしれぇじゃねぇか。俺らみたいなのがゴールデンタイムで好きなだけぶちまけられるんだぞ、すごい衝撃を与えられるはずだ」
ルキは優勝賞品を「面白い」と捕らえたらしい。
「それにしたって戒君達の意見だって聞かないと・・・」
「禁止エリアが広まってくれば嫌でも会える、その時に俺から話す」
このスーパーB型人間め!と叫びたくなったが短い付き合いではないので腹が立つとかそういったことはない。自分の意見を切り出すタイミングを窺っているだけだ。手持ちのカードは果たして切り札か爆弾かと思いながらもルキに有効な「彼」の名前を出してみることにした。
「・・・・・・京さんも攻撃するのか?」
ルキの目つきが変わった。マジ睨みである、爆弾のほうだったかなと思ったが言っちゃったものは仕方がないのでれいたも黙って見つめ返す。
「できる」
ぼそりと低い声で答えが返ってきたので「そっかそっか」とあえて軽い調子でれいたは笑う。
「で、俺さぁできれば優勝より《主催者反撃ルート》狙いたいと思ってるんだけど」
「だろうな」
意を決して言ったら「そんなことは分かっている」とばかりに鼻で笑われてしまった。
「だろうなって!」
「たぶん同じように《主催者反撃ルート》狙ってるであろうJさんと合流したいとも思ってるだろ?」
「思ってるよ」
そこまで言い当てられたらもう笑うしかなかった、若干引きつった笑いだったため今の台詞を正確に文章化すると「おもっちぇるよ」だ。
「だからさっきから一緒に優勝狙ってくれって頼んでるんじゃねぇかよ」
頼んでいたつもりだったらしい。
「おまえな、人に頼む時はもっと分かりやすく頼めよ・・・」
がっくりと頭をさげた拍子にズレた鼻の布を治しながられいたは苦笑した。
「治さなくていいから外せよそれ」
「いや、トレードマークだから」
「そうじゃなくて、匂わないか?煙草のニオイ」
ルキの険しい表情を見てれいたは言われた通りに布を外す。確かに煙草の匂いがする、目を凝らすと微かに風上から流れてくる煙も見えた。
「誰かいるみたいだな・・・」
「でも煙草吸ってる人なんていっぱいいるぞ?」
参加者のほとんどが喫煙者である、煙草などなんの手がかりにもならない。しかし確率的に低いもののガゼットの他のメンバーだという可能性だってある。
「ニオイ的にマルボロっぽくないか?メンソールじゃないやつ」
喫煙していると煙草の匂いには鈍くなるはずだが禁煙して久しいルキは逆に敏感になっているらしく銘柄当てをした。
バンド内に該当者がいる以上確かめないわけにはいかない。二人は煙を辿って歩きだした。

林の中にぽっかりと何もない空間があった。その端で煙草を吸っている人物がいる、足音を消していたわけではないので二人が近づいてくることは分かったはずだが特に警戒した様子も見せずに端正な横顔を空へと向けている。
その人物が誰か確認できた途端、れいたは顔を輝かせてその名前を呼んだ。
「イノランさん!」
「ん〜?れいた君じゃん、元気?」
「はい、元気っす!」
イノランは右手をあげると指先だけでおいでおいでの仕草をした。れいたは素直にイノランに近づいて行く。その後ろでルキは瞬間的に感じた違和感の正体を必死で探っていた。先程はああ大見得を切ったもののいざ大先輩を目の前にするとうかつな行動は取れない。
でも・・・
違和感の正体に辿り着いた。
−なんで左利きの人が右手で呼んだんだ!?
イノランの左手はあぐらをかいた彼の足に隠れている。それを確認した瞬間、ルキは叫んでいた。
「戻れ!れいたっ!」
ルキが叫ぶと同時にイノランはバネ仕掛けのような勢いで立ち上がっていた。煙草をくわえて笑みを浮かべたまま、ルキが気づいてくれてむしろ嬉しくてしょうがないといった表情だった。
向けられた銃口にれいたは全てを理解した。もう自分は間に合わない。
「ルキ!いいからオマエは逃げろ、優勝するんだろーがっ!」
せめてもの目くらましになればとれいたは手にしていたクナイをイノランに向けて投げつけるが、ミニウージーで軽くたたき落とされてしまった。

ぱららららららららっ

銃声が響いた。


「この手のは回転つけて投げなきゃダメだよ」
いつも通りの優しい口調でイノランにそう言われ、既に胸のランプが『赤』に変わっているれいたは「そうなんですか」と気の抜けた声で言った。
「うおっ!ルキ君早いなぁ」
遠ざかっていくルキの後ろ姿を見ながらイノランは楽しそうだった。
「後ろから撃つのは君らの熱いメンバー愛に免じてやめておこう、50秒ハンデ!い〜ち、に〜い・・・」
完全にキャラが壊れていた。そのうち『なんで火がつかねえんだ!ジッポーってのは火ィつけるための道具じゃねーのかよおおおおおおっ!!!』とか言い出しそうなくらいイノランのキャラは完全に、壊れていた。
「れいた君どうしよう、俺すっごい楽しい!」
数をかぞえるのを中断してイノランはれいたに輝かしい笑顔を向けた。
「いや、正直俺がどうしようって感じなんですけど・・・・」
「あははははははははっ!」
聞いてない。クールだけど世話焼きな兄貴分といったイノランのイメージがれいたの中でがらがらと崩れていった。多少浮世離れしたところがあるとは思っていたがこれはまるっきり、方向が違う。
「生き残れ、ルキ・・・なんか無理ぽいけど」
尊敬する大先輩の壊れっぷりを目の前にしてれいたは自分の所のボーカリストの無事を祈った。


ルキ
【武器】ワルサーPPK
【所属】ガゼット
【状態】青
【行動方針】イノランから逃げ切る、優勝を狙う
【特性】超B型

イノラン
【武器】ミニウージー、エリミネーター、手榴弾、ニューナンブM60
【所属】なし
【状態】青(情緒不安定?)
【行動方針】マーダー、ルキを追う
【特性】危険乱数

【れいた ガゼット ゲームオーバー】
(クナイはれいたの近くに散らばっています)

【残り46人】

ルキは必死で走りながら手に持ったワルサーPPKを見た。これで反撃できたかもしれない、れいたが撃たれた時点で逃げるのが最善のように思って逃げ出したが本当にそれで良かったのだろうかと煩悶する。
優勝すると自分が言ったのに、ごっこ遊びとはいえメンバーを置いて逃げて良かったのだろうか。
自らの思考の海へ沈んでいたルキは気づくのが遅れた、すぐ目の前に人影がある。
「誰やっ!」
「誰だっ!」
ほぼ同時に声を上げた。おそらく相手もマシンガンの音に気を取られていたのだろう、かなりの近距離で銃を向け合う結果になった。
相手は二人、S&Wを構えた薫と釘バット《愚神礼賛》を持った京だ。
距離にして2メートルほど。ルキは息を飲んだ。
京が自分の目の前にいる。
初めて会ったわけではないが京にとって自分の印象がよくない可能性はずっと懸念していたことだ。
それが今、こんな形で目の前にいる。
薫はあの独特の人を見下したような目つきでルキを見ていたが、ルキはそれより薫が庇うようにしている京へ目がいってしまった。漆黒の瞳が自分を見ている。
小柄なルキよりさらに低い位置から見上げてくる瞳は思っていたような鋭さはなくむしろ黒目の割合が大きいせいで子供っぽく見える。表情はない、こちらの様子を窺ってすらいない、道の電柱でも見ているような顔だ。
「おまえ・・・ガゼットのルキ?」
薫が銃を向けたまま言う。ルキの方も銃口は薫に向けたままだ。
言葉が出てこない。
ルキは京から目をそらせずにいた。れいたに言われた言葉が頭の中で回っている「京さんでも攻撃するのか?」と。
「おい、どうしたんや?」
薫が焦れたように少しきつい声音で言った。イノランとれいたが交戦した位置からここはほとんど離れていない、すぐに追いかけてくるだろう。薫達の側からしてみてもマシンガンの音が近くでした以上、此処に長くとどまりたくはないはずだ。
そこまできて薫はルキの視線が京を捕らえていることに気づいたのか、自分の後ろへ京を隠すように前へ出た。
ルキ自身にも何故だかはまったく分からないが、それが《きっかけ》になってしまった。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
自分を鼓舞すべく咆吼を上げ引き金を引く。標準となる赤い光は薫の腹辺りだったがルキが声を上げた途端、京が驚くほどの素早さで薫の前に出た。
《愚神礼賛》をバントでもするように横に掲げている。
キィーーーーーーーーーーーーーーーーン
高い金属音が響いた。直後にルキの胸のランプが電子音と共に点滅し始める。
−あの武器、銃弾を打ち返せるのか!?
かろうじて冷静さが残っている頭の隅が答えを弾き出し、高速で次の行動の指示を身体へ送る。ライヴでミスした時の感覚とどこか似ていた。
最善の動きを。
《当たり判定》中に制限されるのは《移動》だけだ。説明書通りならばリロードボタンを押さなくてもあと6発は撃てる。
しかし薫の方が素早かった。ルキが撃ってきたことですでに覚悟は決まっていたらしい。《愚神礼賛》を盾にした京の肩を支柱にして狙いを定めると(京の耳元で銃声を響かせるわけにはいかないので二の腕まで出していた)S&Wの引き金を引く。ルキのワルサーよりはるかに大きな銃声が鳴り響いた。
「おわっ!」
あまりに大きな音に一瞬で正気に戻ったルキは驚いた拍子にワルサーを落としてしまった。撃った張本人である薫も驚いており、京も目を見開いて耳を庇っている。薫が説明書を熟読していれば気づいたことなのだがS&W M500は世界最強とも呼ばれている拳銃であり、もしこれが本物だったなら凄まじい反動によって手が痺れてたうえ、支柱にされた京も怪我をしていた可能性が高いくらいの威力を持った武器なのだ(下手をすればトリガーをひけなかったかもしれない)支給武器の拳銃は口径・威力に合わせて銃声の大きさが決まる設定だということも説明書の端に書いてあったのだが、薫は見落としていたらしい。見ていたなら京の顔の近くで撃つようなまねはしなかっただろう。
即座に狙いを定めるのにはかなり良い案だったが別の意味で失敗だった。
「京っ!?耳大丈夫か!?」
薫はルキの存在を完璧に忘れて京の顔をのぞき込んでいる。かつて突発性難聴を患った左側ではなかったのが幸いといえば幸いだ。
「・・・大丈夫」
しばらく右耳を擦って無事であることを確認してから京は頷いた。
ルキもそれを聞いてほっとしたように息を吐いて、そして気づいた、銃声に驚いていて気がつかなかったが胸のランプは『赤』に変わっていた。
薫と京もそれに気づいたらしく、ルキを見ている。
話す事もないし話したくもないのでルキはワルサーを拾うと京に向けて投げ渡したが、キャッチしたのは薫だったので複雑な気分になりルキはその場へ座り込んだ。自分が何を期待しているのか分からない。
視線を上げると京と目が合ってしまった。どこか先程とは違う色が浮かんでいる気がする。少なくとも『ルキ』を見てくれてはいるようだ。その瞳が何か言いたげに揺れた時、薫が京の腕を引いた。
「京君、行くで《マシンガンの人》が来る!」
ルキが抜けてきた藪が僅かに揺れている、イノランが追いかけて来たのだろう。
薫と京が走って木々の向こうへ消える時、京がふり返って何かを言った。声には出さなかったのか、単に聞こえなかったのかは分からないし、唇の動きだけで言葉を読み取るような高度な技をルキは持っていない。だから礼を言われたのか、謝られたのか、罵られたのかは分からなかった。ただ、気持ちが浮遊したように落ち着かなくて、呆然と二人が走って行った木々の向こうを見ていると、後ろの藪が大きく揺れてイノランが出てきた。
「るちこ発見っ!」
今、呼ばれたのは自分か?
急激に嫌な現実に引き戻された気がした。
「ルキですっ!」
「そうそう、るちこ。死んじゃったの?」
人のよさそうな笑みを浮かべながらイノランは物騒な言葉を吐いた。
「ルキです。死にました。ちなみに死因は《銃の痕が二カ所》ってとこです」
面倒なので聞かれる前に答えたが、それを聞いたイノランから表情が消えた。
「変だねぇ、確かに銃声は二回したけど違う音だったんだけどなぁ。君が拳銃を持ってるのはさっき見えたから一発はるちこだと思ったのに。まぁ当然の如く拳銃は持ち去られてるけど」
平坦な声でそう言いながらイノランはルキのディバックを開ける。取り出したのはワルサーPPKの説明書だった。
−しまった、説明書渡し忘れた・・・
現物を渡したから安心してしまっていた。まぁ自動拳銃とリボルバーの違いがあるとはいえ、同じ銃器だからなんとかなるだろうが。
「ワルサーねぇ・・・一番高い可能性としてはるちこが遭遇した相手は二人で二人とも拳銃を持っていた。そしてるちこはワルサーを撃つ暇もなく二発撃たれた」
「ルキです。イノランさん、死体役から聞き出せる情報は死因だけですよ」
わざと戯けたような口調でそう言うがイノランは無表情のまま首を傾げる。
ぶっちゃけ怖い。美形に無表情で見つめられるとむちゃくちゃ怖い。
「な〜んか変な音がしたよね・・・何かが跳ね返ったみたいなさ」
イノランは180度辺りを見渡して、迷うことなく京達が行った方向に足を踏み出した。カンだとしたら鋭すぎる、只単にルキがそちらの方向を見ていたからだろう、それ以外の理由だったらすごく嫌だ。
「イノランさん!れいたは?」
「《死亡判定》喰らってゲームオーバー。それわざわざ聞くこと?」
「いや、メンバーのことだし気になるじゃないっすか」
「メンバー愛だねぇ、妬けるよ」
「なんで《マーダー》なんかやってるんすか?」
イノランはふり返って笑った、擬音にして「にたり」という感じの笑顔だ。
「もしかして時間稼いでるの?」
「そんなつもりはないっすよ!」
「その否定は肯定に聞こえるよ。庇うってことはお友達かな?メンバーは除外できるとしてメンバー以外の知り合いか?違うよねぇ、まさか後ろから《マーダー》が迫っている状況でお友達とバトルごっこする余裕ないもんねぇ。一つ前言撤回をするけど。といってもこの発言はるちこに言ったわけじゃないけどさ、ある程度かき混ざって来たら《緊張度》の高い関係もまた交戦率が上がるんだよ、いわゆる《疑心暗鬼》ってやつ」
「ルキですってば。言ってる意味がよく・・・」
「相手は、君が密かに憧れを抱いている先輩ってとこかな」
このピンポイント攻撃を表情に出さずにやりすごしたルキもかなりのものだったが「表情を変えない」というのも一つの答えとなる。
「あえて誰かは言わないけどね」
イノランはその場で大きく伸びをするとくるりと方向を変えて京達が行ったのとは違う方向へ歩きだした。
「あぁ、だりぃ・・・」
何故か急に不機嫌そうになったその背中に声をかけることができずにルキは無言で見送った。
「・・・・・・・・・・・・怖えぇよっ!あの人超怖え〜っ!」
なんだかいろいろありすぎて泣きたくなった。


薫と京は木々の間をジグザグに走っていた。既に海岸線へ出るのは諦めている、できるだけ遠くへ『マシンガンの人』から逃げるのが先決だ。
ルキの武器だったワルサーはとりあえず薫の腰のベルトにさしてある。薫はすでに銃を所持しているので京が持つべきかもしれないがそういう些末なことは後回しにしてとにかく走っていた。
が、どうも「走る」という行為はライヴと使う筋肉が違うらしく、すでに二人とも息切れしている。
林を抜けると道路があった。それを横切り、向かいの小山を駆け上がると、適当な藪を見つけてその中にしゃがみ込み、荒く息を吐いた。
「京君、大丈夫か?」
「大丈夫・・・薫君は?」
「大丈夫や」
ちなみに薫の「大丈夫か?」が本日20度目であることを京は密かにカウントしていたが別につっこむ目的で数えていたわけではないので黙っていた。
しばらく水を飲むなどしながら息を整える。
「・・・ルキ、なんやったのかな?」
「ほんまやアイツ、いきなり撃ってきおって!」
薫はルキに撃たれた事を怒っているようだ「京以外にはツンデレ」と言われるゆえんはこういうところにある・・・のかもしれない。ツンデレじゃなくてツンツンじゃねぇか?(メンバーは除外)
「いや、なんてゆ〜かさ・・・あいつ、ほら」
京にしては歯切れが悪い。薫は黙って続きを待った。
「なんか周りが勝手に、俺があいつのこと嫌ってるみたいな、そんな話になっとるやろ?」
「あぁ、まぁなっとるな」
わりと爆弾発言の多い京は誤解されやすい。只嘘がつけない性格なだけなのだが。
「・・・いや、まぁええわ。とりあえずなんとか乗り切ったな」
言葉を途中で切った京に対して特に追及はせずに薫はワルサーを京にさしだした。
「これ京君が持っといたら?」
「腰に物差すと動きにくいから薫君が使って。二丁拳銃とか超カッコイイで」
「え、マジで?」
「【KR】の時の堕威君も格好良かったな。やっぱ銃が似合う男ってええな、憧れるわ」
今の言葉はどう取れば良いのか。とりあえず京の中で堕威は「銃が似合う格好いい男」に分類されているらしいが、話の流れからしてそこに薫も入っているのかいないのか、微妙なラインだ。
−【KR】の時は俺も銃持っとったけど、特になんも言われんかったしなぁ・・・
女顔とまでいかなくても堕威に比べれば薫は優男というか中性的な印象がある。
堕威のほうは彫りの深い男らしい顔をしているので無骨な拳銃を持つと確かに似合う。
「まぁ今はそれはおいといて。それにしても説明書通りやったな《愚神礼賛》」
「そうやな、ホンマに銃弾打ち返せたな」
かなりの反射神経が必要だが、標準のための光に相手が引き金を引くタイミングで上手く当てれば、射撃手に弾は返っていくと説明書には書いてあった。《愚神礼賛》が只の釘バットではない、《超大当たり判定武器》としての特性である。
「かといってマシンガン相手は無理やろなぁ・・・」
マシンガンが一気にどれだけの弾を発射できるかは知らないが、防ぎきるのは不可能だろう。撃たれるさいにバットを構えていれば弾の幾つかは跳ね返るはずなので相手にダメージを与えられるがその場合、跳ね返らなかった分に被弾するので相打ち覚悟になってしまう。
「でもまぁなんとか逃げ切れたし、その釘バットの性能も確かめられたし、よかったわ」
「薫君って昔から変なとこでアバウトやなぁ。これからどうしよう?」
「まだ《マシンガンの人》が近くにおるかもしれへんし、離れよか」
たった今指摘されたばかりだというのに薫はアバウトな方針を打ち出した。
「そやな」
京の方も言ってみただけで別に不満があるわけではないらしく素直に頷いてから、ふと真剣な顔になり立ち上がりかけた薫の腕を掴んで止めた、怪訝そうに見下ろす薫にほとんど声をださずに伝える。
「だれかいる」
薫はもう一度しゃがんで藪の向こうを見た。石段が見え、小山の上の方に視線をやると大きな鐘が僅かに見えた、どうやら此処は寺らしい、地図にも載っていた。そして京の言う通り話し声がする、誰かまでは判別できないが、低い声と高い声。メンバーの声であれば分かるはずなのでそれ以外なのだろう。
薫は京に顔を近づける。
「もうしばらく隠れてよ、今動いたら気づかれるかもしれへん」
銃二つに《愚神礼賛》とかなり強力な武器を持ってはいるものの、特に好戦的でも《ごっこ遊び》を楽しんでいるわけでもない二人は、無用な戦いは避ける方向のようだ。そもそも薫の最優先事項は『優勝』ではなく『京を守る』ことであり、京の方は薫に任せると決めているので、二人は息を殺してその場にしゃがみ込んだ。見つかった時に備え、すぐに動き出せる体勢だ。
話し声はだんだん近づいてきた。



イノラン
【武器】ミニウージー、エリミネーター、手榴弾、ニューナンブM60
【所属】なし
【状態】青(情緒不安定?)
【行動方針】マーダー続行
【特性】危険乱数



【武器】S&W M500、ワルサーPPK
【所属】ディルアングレイ
【状態】青
【行動方針】京を守る、メンバーを探す、ルナシーメンバーを警戒(?)、優勝を狙う
【特性】保護者モード全開


【武器】愚神礼賛−シームレスバイアス−(超大当たり判定武器)
【所属】ディルアングレイ
【状態】青
【行動方針】薫に任せる、《ゲーム》の《攻略法》を探す、ルナシーメンバーを警戒(?)
【特性】冷静沈着

【ルキ ガゼット ゲームオーバー】

【残り45人】

寺の階段を下りて来たのは二人、低い声の主は元ルナシーのベーシスト、J、そして高い声の主は西川貴教だ。
二人は当然知るよしもなく、そして石段から離れたところに隠れている薫と京も知らないことだが、イノランが薫達を追うのを止め、こちらに来なかったことはこの二人にとってとんでもないラッキーだった。
旧知の仲であるJと西川はイノランを疑いもしないだろうが《マーダー》に徹しているイノランはなんの躊躇もなく二人を攻撃したはずだ。
これに関しては本当に運が良かったが、支給武器に関しては二人とも運がなかったといえる。
Jが片手にさげているのは木製の棒で、強いて言うなら麺棒に似ているが、それよりは長く持ち手がしっかりと補強されている。
説明書には《ひのきのぼう》と記されていた。
自分はツッコミ属性だと思ってるJは色々ツッコミたかったが、なにをどう言っていいのか分からなかった。
あくまでJは自分で『ツッコミ』だと思っているだけでむしろ周囲からすればツッコミどころ満載なキャラクターなのだが(それに気づいていない所がまたツッコミどころだ)ちなみにこの《ひのきのぼう》材質は当然のようにひのきではなく他の鈍器や刃物と同じ柔らかい材質だ。
念のため記しておくがJは一応ファミコン世代に入っているし、ゲームもするので元ネタは分かっている。
分かっているからこその脱力だ。
《小当たり判定武器》になってはいるものの、ほとんどハズレの部類であることを予測する事は容易だったので、Jにしても一応持ってるだけという雰囲気だった。
もしこれが本物であれば頭部を執拗に狙って倒すことは可能かもしれないという物騒なことをJはチラリと思ったが、これは単なる元ヤンの条件反射的思考であって実際どうこうしようとは思っていない。Jの性格を考えれば誰でも予測がつく通り彼が狙っているのは只一つ《主催者反撃ルート》だ。そもそも正面切ってヒデに喧嘩を売れる(この場合、買える?)人間は参加者の中ではJかスギゾウしかいない。キリトという例外はいるが。
「だめだ、やっぱり書いてないわ!」
西川が自分の支給武器に付いていた説明書を乱雑に畳むとバッグの中へ突っ込んだ。西川が手に持っているのは大型自動拳銃の銃身の部分に小型のノートパソコンを付けたような見た事もないものだった。
他の支給武器には詳細な説明書が付いていたがこの武器にはたった二行の説明が書かれているだけだった。
『猫背刑具
 使ってからのお楽しみ』
「《刑具》って物騒なのに《猫背》っていうのが意味不明だよな」
Jも猫背刑具の正体を計りかねてしかめ面だ《主催者反撃ルート》を狙うのにあまりに心許ない。
「やっぱ他にも仲間探そうよ、J君、後輩たくさんいるやん」
「そうだけどさ、みんなそんな素直に仲間になってくれるかな?」
「いや〜J君が頼めば一発やと思うで」
「それを言ったらオマエだって友達多いだろ」
「そうやなぁ、仲間になってくれそうなのは松ちゃん(松岡充)とか、ガクト君とか・・・」
「あとはイノランとリュウにも声かけるか?でもさっきから誰とも会わねぇよなぁ」
「まだエリアが広すぎるんじゃないの?」
年長者故の余裕もあるだろうが、J、西川共に楽観的だった。ひのきのぼうをくるくる回しながら辺りを見渡していたJは唐突に声を上げた。
「だれかいないか!」
よく響く低音だったが、鳥の声以外なにも聞こえない。この時点で薫と京が隠れている位置はほとんど直線上だったので、声の主がJと西川だということは分かったはずだが、返答をしないところをみるとやりすごすつもりのようだ。そこにいたのが敏弥であれば喜んで出てきただろうが、京はルナシーメンバーとの交流は薄く、薫が友好関係を結んでいるのはスギゾウだったので避けられたらしい。
「J君、マシンガンの奴が来たらどうすんだよ、さっきけっこう近くで音がしたじゃん」
「あぁ悪い悪い」
そう言いつつも彼等はマシンガンの主をそこまで警戒してはいないようだった。参加者のほぼ全員が後輩だという意識があるからなのか、そこまで気を回していないのかは分からないが、ここまで楽観している参加者も他にいないだろう。雰囲気に飲まれていないという点では大人な対応ともいえるが。
「とりあえず、この診療所に行ってみない?此処なら誰かいそう」
「そうだな、行ってみるか・・・」
そう言いながら二人は石段を下りていった。


J
【武器】ひのきのぼう
【所属】なし
【状態】青
【行動方針】《主催者反撃ルート》を狙うための仲間を募る
【特性】ベーシストホイホイ

西川貴教
【武器】猫背刑具
【所属】なし
【状態】青
【行動方針】《主催者反撃ルート》を狙うための仲間を募る
【特性】?


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