ドウタヌキ?


81話〜100話


その81「Hello,Hello」

携帯電話を変えようと思う、機種変更。ずいぶん古くなって不具合も多い、新しいものに慣れるのは面倒くさいけれど、仕事にも使う電話だ、妙なミスがあっても困る。
明日はオフだ、機種変更しに行こう。
「長い付き合いだけれどお別れだね、君のことはたぶん・・・すぐ忘れるだろうけれど」
撮りためた写メールもなくしたってかまわないものだ。移すべきは無駄に数の多いメモリーだけで、それはショップが滞りなく行ってくれるだろう。
ベッドに転がって携帯電話のフォルダを見てみる、何が何でも残しておきたいものなんてない。
「携帯本体の留守番電話に入ってるメッセージは当然引き継がれないよな、残す方法ないのかな・・・」
ネットで調べようかとも思ったけれど、なんとなく積極的行動には出たくない。
明日になれば、手元から離れていく携帯電話だ。
最後にだなんてのも馬鹿馬鹿しいけれど、今、聞きたい気分なのだと言い訳して伝言メモの再生ボタンを押した。

『Hello,Hello?春ですね』
「だからどうした」
『イノラン君寝てる?それか仕事中?』
「仕事中だったな、この時は」
『たまには国内旅行もいいかなと思って突発的に飛び出してきちゃったんだけどね、今、俺はとってもすごいところにいます、大興奮だよ』
「声から興奮がまったく伝わってこないけどな」
『バスの窓から見たら、虹の根元がすぐ近くに見えたんや、すぐにバスを降りて向かったんだけど、その場所まで来てみたら何もなかったというか、ちょうど消えちゃった。でも此処は虹の根元だよ・・・』
「俺が知っていてタクヤ君が知らないわけがない、反射する水分の関係で虹は移動するから永久に根元には辿り着けないんだ。虹の根元なんて存在しない」
『虹の根元には宝が埋まってるって言うでしょ、どうしても見てみたくて』
「夢見がちな少女か、そんなこと信じてるヤツ、今時いないよ」
『見つけたよ。全部が宝物だった、雲が飛ばされてくよ、俺の帽子も雲と一緒に飛んでった、春の嵐に巻き込まれて、嫌なことがみんな飛んでいったよ、花の香りがするよ、神様だっているよ・・・宝物は此処にあるよ。この世界の全部が虹の根元だよ』
「どうしたんだよ?もしかして歌詞の下書き?たまにタクヤ君の言ってることよく分からないよ、突っ込みきれねぇよ」
『だから全部、大丈夫なんやな。まだ世界は大丈夫、ちゃんと綺麗、じゃあバイバイ』

一方的なメッセージ、そのうえ意味不明なのに、たまたま落ち込んでいるタイミングで聞いたものだから妙にはまってしまったそれだけだから、何が何でも残しておきたいわけじゃない。この言葉に励まされたのとは違う、思考の切り替える方向が違いすぎる。
永久に辿り着けない虹の根元を、本当は存在しない虹の根元を探し続けるのが人生なら、それはあまりにも不毛だから、時折言い聞かせるだけだ此処が夢の地なのだと思いこもうとするだけだ、それでも・・・気の迷いでも思いこみでもそれが、必要になるだけだ。
人は弱いから。
あまりにも弱い存在だから。
明日、携帯電話を買い換えよう、機種変更しに行こう。その帰り道にもし何か良いものでも見つけたら留守番電話にメッセージを残しておくのも悪くないかもしれない。
「・・・あったらだけどね」
イノランは携帯電話を放りだして目を閉じた。

−心の中にはちゃんと残ってるから大丈夫。


その82「冬のしあわせ」

「何?食べたいの?」
スタジオ近くのコンビニ。手に会計前の商品を持ったまま肉まんのケースを真剣な顔で見ている恒人に大城が声をかけた。同じくレジに並ぼうとした英蔵も顔を出す。
「ああ、それ可愛いよね」
「・・・なんでどれ見てたか分かるんですか?」
「いや、なんとなくだけど」
軽く眉を寄せて英蔵を見てから恒人は肩を竦める。
「まぁ、前から気になってはいたんですけどね」
恒人が見ていたのはミニチャーシューまん。可愛らしいぶたさんの形をしたものでその名の如くかなり小さいサイズのもの。
「気になってるなら買えばいいじゃない」
尤もなことを言う大城に恒人は「いやあ」と笑う。
「2個で120円ってなってるけど2個はいらないなぁと思って・・・」
「1個だと売ってないの?」
「1個だと80円なんですけど、いつもケースの中に2個だけあるんで、ここで一個だけ買うと後で数が合わなくなりそうで、なんか悪いなぁ・・・と思って・・・」
「そんなこと気にしなくてもいいでしょうに」
呆れた様子の大城に恒人も気にしすぎだと思っているのか苦笑した。
「や、俺もなんか気になっちゃうな、そういうのってさ!」
わたわたと相変わらず挙動不審気味の英蔵に言われ「そういうもん?」と大城は首を傾げた。
「あ〜でも俺もそれ、食いたいかも。2つ買って分けよっか?」
「いいんっすか?」
「いいよ〜、俺も2個だと多いし、ちょうどいいじゃん」
「ありがとうございますっ」
仲良くレジに並ぶ下手組を微笑ましそうに見る大城から特にツッコミはなかった。
・・・
・・・・・・
誰かツッコミ役連れてこい!!!

−どこまでもツッコミ不在。

置いてあるのが偶数じゃない店を探し回ってようやく食べて美味しかったんです。
それで思いついた話です。
しかしミニチャーシューまん。関東では売ってないらしい。あらら。


その83「あけましておめでとう!」


−ディルの場合

「京君、あけましておめでとう!」
「別にめでたくないし」
「言うと思ったぁぁぁぁっ!!」
ハイテンションの敏弥を冷ややかに見返す京の頭を薫がどついた。
「こら!」
「いだっ!指輪痛いっ!なにすんねん!」
「大人なんやから、新年の挨拶ぐらいちゃんとせいや・・・」
指輪の固い部分がクリーンヒットした頭を撫でながら京は猫口で薫を見上げる。
「薫君に常識問われた・・・」
「どーいう意味や〜?」
頬を引っぱってくる薫の手をふりほどいて京は敏弥に視線を移す。
「あ・・・あけ、まして・・・おめっ!」
そしてこれ以上ないほど照れながら言った。
「なんか俺が恥ずかしい台詞言わせてるみたいになっちゃった!?」

−Dの場合

「ツネ〜。あけましておめでと〜」
「年が明けて最初のあけおめが英蔵さんなんて・・・今年の運は悪そうです」
いきなりフルスロットルな恒人に英蔵は情けない顔をする。
「どういう意味だよ〜」
「だって英蔵さん、運がなさそうですから」
今年初の狐耳と尻尾装備バージョンに切り替わったが、英蔵は気づかない。
「それシリーズ化するの!?俺のどこが運がないっていうの!?」
「そうですね、英蔵さんは例えるならば・・・5年連続おみくじで《末吉》を引いてしまうような運のなさです」
「最悪だ!!ならもういっそ《凶》を引きたいよっ!」
そんな英蔵を恒人は冷ややかに見返して一言。
「《凶》を引きたいとか・・・どんだけマゾなんですか?」
「ツ・・・ツネ〜!こら!」
笑いながら逃げていく恒人を追いかける英蔵の背中を見送りつつ、その一部始終を見ていた大城が一言「平和だな〜」と嬉しそうに呟いた。

−ムックの場合

「ミヤ君!あけましておめでた!」
逹瑯に明るく言われてミヤは珍獣でも見たような顔をした。
「なんだよ〜!あけましておめでとう、今年もよろしくね」
「・・・ああ」
「ああ。じゃねぇよ!」
にまにま笑っている逹瑯に背を向けてミヤは作業に戻ってしまった。
「うわ〜。挨拶ぐらいしてよね〜!」
ちょっと拗ねた顔の逹瑯にミヤが背を向けたまま何かを投げた、綺麗な放物線を描いて飛んできたそれを逹瑯がキャッチすればそれはMD。
「・・・ミヤ君?」
「お年玉だ。歌詞よろしく」
相変わらず背を向けたままだけれど、確実に笑っているその背中に逹瑯も素直に笑う。
「あいあいさ〜!りーだー!!」

−みんなの今年が素敵なものになりますように!


その84「ウィンチェスター・ボディ」

年末のツアー前リハで集まった時のこと、休憩中に堕威が京に声をかけた。
「京君、またタトゥー増やしたってマジ?」
「・・・なんで知ってんの?まぁ背中にちょっとな」
「え〜!?見せて見せて!」
寄ってきた敏弥を鬱陶しげに手で払いながら京は顔をしかめる。
「まだ未完成やから、あかん」
「・・・どっちにしろライヴじゃ上半身裸じゃんか〜、楽屋でも〜」
「なぁ京君、なんでまたタトゥー増やしたん?」
京の隣に座った薫が少し心配そうな顔で言った。
「いや、薫君が言うか、それ・・・」
もはや服を着ているのと同義な薫の腕を指して堕威は呆れた顔。
「・・・実はな薫君、俺の身体にはウィンチェスター・ハウスと同じ呪いがかかってるんや」
「うぃんちぇすたー・・・ってなに!?」
声を上げた薫に心夜が淡々と言う。
「ウィンチェスター・ハウスはカリフォルニアにある館のことや。家の建設をやめると呪い殺されるっていう霊媒師の言葉を信じて38年間、家は建て増しに建て増しを重ね続けて、屋敷内部は様々な魔除け、何処にも通じないドアや階段がある奇々怪々な建物のこと・・・まぁまさに京君のタトゥーはそんな感じやな」
「そやねん、俺は身体にタトゥーを入れ続けないと呪われてまうんや」
そう言って京はにんまり笑った。

翌日のこと。スタジオに行くと敏弥が素早く寄ってきて京の肩を叩いた。
「なんやねん、いきなり・・・」
「あのさ、京君が昨日言った冗談・・・薫君信じてるみたいだよ!?」
「・・・・・・え?あのウィンチェスターの?」
「うん!訂正してあげなよ!」
「いや、信じる方がおかしいやろ、俺悪くないもん」
その通りと言えばその通りなのだけれど、敏弥は困ったように頭を掻いた。
「心配性のパパに変なこと言うからでしょ、訂正しといてね」
「・・・・・・ったく、薫く〜ん!」
薫の方に向かっていく京の背中を敏弥が見送っていると、様子を見ていたらしい堕威が並んだ。
「ま、薫君が京君に甘いのはもはや当たり前やけど、京君も薫君に甘いよなぁ・・・」
「だよねぇ・・・」

−やっぱり仲良し親子


その86「年齢差」

「年が明けると、すぐるいちゃんの誕生日でその次はツネの誕生日だよね」
休憩中、英蔵がふともらした言葉に大城が苦笑した。
「るいちゃんは2月でツネは3月だよ、そんなにすぐじゃないよ」
「いやぁ、最近は時間の流れが速くて・・・」
「歳のせいですよ、それは」
恒人に悪戯っぽい笑みで言われ英蔵は頭を掻く。
「言うよねぇ・・・誕生日プレゼントなにが良い?」
「気にしなくていいっすよ、俺もたいしたものあげなかったし」
「いや、ツネのプレゼントが一番ヘヴィだったやん」
涙沙がにま〜っとして寄ってくるので恒人は不思議そうな顔をした。
「ヘヴィってどういうことっすか?」
「あ、天然でやったんや、アレ・・・」
「別にヘヴィじゃないよ〜?ホントに嬉しかったから、見る度に癒される」
手首につけた恒人からの誕生日プレゼントを指さして英蔵は素直に微笑む。
「こっちも天然か〜」
「るいちゃんもツネも冬生まれなんだよね」
別作業をしていた浅葱も会話に加わってきた。
「え?三月頭って冬ですか?」
「秋田では冬だよ」
なるほど、納得だ。
「あ、ツネって三月頭に生まれたってことは早生まれ?」
大城の問いに恒人は少し顔をしかめて頷く。
「そうなんですよ。小学生の頃とか他と体格とか運動神経が下回ってって大変でした・・・」
「だよね、早生まれってそういう苦労あるよね。しかし次で26歳かぁ!若いねぇっ!」
大城にばしばし肩を叩かれて苦笑する恒人を見て浅葱が言った。
「ということはツネが30歳になる頃、俺は400歳だね」
「あ、そこはキャラ守るんすね」
「ほぼ年齢告白したのと同義だけど」
目を丸くするリズム隊の隣で涙沙は笑顔。
「やっぱ浅葱君は浅葱君やね〜」

−浅葱さんはヴァンパイアですから。



その87「ファンタジックすらスルー」

・・・・・・どうも心夜です。今回の語り部は僕らしいです。正直面倒です。何故ならウチのメンバーはオールボケだからです。堕威君は自分はツッコミだと思っていますが爽やかにバカなので務まっていません、僕も面倒なのでツッコミません。敏弥は論外です。
現在の状況を説明します。待機中です。堕威君は喫煙所に行きました。敏弥は・・・そういえばおらんな、影が薄いから気づかんかったわ。
で、俺の隣で京君が雑誌を見ています、でも目がどっか逝ってるのできっとなにか考えているんやろな。向かいでオッサ・・・薫君がそんな京君をにやけたり心配したりしながらチラチラ見ています。気持ち悪いです。
そして薫君、ズボンのチャックが開いています。社会の窓全開です。ライヴ中もたまに開いていますが僕は気づいても言いません。ほっておくと自分で気づいてこっそり直してほっとしていますが直した時点でメンバー全員に気づかれていることがほとんどです。
堕威君は気づくと3分の1ぐらいの確立で教えてあげますが敏弥はずっと含み笑いで見ています。京君は地味に気にしぃなので言えません。僕は面倒なので教えません。
座っているせいでパンツ見えてます。
京君の表情が元に戻りました。薫君の社会の窓が開いているのに気づいて困っていますが結局、雑誌に視線を戻しました。言う気はなさそうです。
ぼーっとしていると窓から光の玉が飛び込んで来ました。薫君が素っ頓狂な声を上げました、突発的なことに弱い京君はフリーズしています。僕は無表情です。
光の玉は変な生き物に変わりました。身体の比率に対して頭が異様に大きいフェネックギツネみたいな感じです、目だけはチワワみたいに大きくてキラキラした生き物です。
額に青い宝石がついています。その妙ちきりんな生き物は言いました。
『助けてピピ!ボクの故郷が悪の帝王に滅ぼされかけてるんだピピ!』
あまりに当たり前なことをいうので危うく笑うところでした。京君は少し首を傾げてからその生き物の頭をがっしり掴んで持ち上げました。
「・・・本物や」
感動したようでした、薫君はまだ唖然としています。至極真っ当な反応です。
生き物はジタバタしながら言いました。
『君達が伝説の戦士になって悪の帝王を倒して欲しいピピ!』
また笑いかけました。すごいことを言う生き物です。
「はあ?無理」
京君が斬って捨てました。さすがです。
「・・・なんでオレらにそんなこと頼むんや?」
薫君も持ち直しました、さすが人外的メンバーをまとめているリーダーです。
『伝説の戦士に変身できるブレスレットは君達のような精神力の高い人間にしか扱えないピピ!』
「へぇ。でも悪いけどオレら忙しいねん。仕事以外のことやってる暇ないからほか当たってくれる?」
薫君が諭すように言いました。相手が喋るフェネックギツネもどきだというのにあまり気になっていないようです。こういうところこの人は天然です。
『そ、そんなこと言われても、伝説のブレスレットを扱える人間はそうそういないピピ!』
「そうそういないってことはどっかにいるんやろ」
薫君、正論だけど可哀想なことを言います。それを猫口で聞いていた京君が冷めた声で言いました。
「なぁ、オマエさ。滅ぼされかけてんのはオマエの国なんやろ?なんで人に頼るん、オマエの国だろうが、自分のものは自分で守れ。他人の力を借りようとするな、伝説なんぞに頼る前にまずオマエの力でオマエがどうすべきか考えろ、守りたいものがあるなら死ぬ気でやれ、それでも無理なら死ね」
京君の言葉に変な生き物は目をパチパチさせて、それから深々とお辞儀をするとまた光の玉になってどこかへ飛んでいきました。
常々、言葉に出しはしないけれど、この二人を凄いと思っていたんやけど・・・あらためて凄いなと思いました。非常識やけどね。
それに免じて僕は言いました。
「薫君、さっきから社会の窓全開やで」

−アンタが一番変だ!

プリ●ュアオールスターズを見てふと、V系で考えてみたらこうなった。
たぶんみんなさくっと断って終了。
個人的には設定やらアクションシーンやらキャラ設定やらでSSが一番好き。


その88「ファンタジックにスルー」

人間生きていると信じられない出来事に直面することもあるものだよね☆
本日の語り部、ユッケです。ミヤ君が隣のブースで作業してて、俺らはその最終確認で集まってたんだけどなんとそこにファンタジックな生き物が現れたんです。耳がでかくてね、ちょっとフェネックギツネっぽい、キラキラな目をした喋る生き物さん。サイズ的には猫ぐらい。それがね、笑えることに言うんですよ。
『助けてピピ!ボクの故郷が悪の帝王に滅ぼされかけてるんだピピ!君達が伝説の戦士になって悪の帝王を倒して欲しいピピ!』
語尾に『ピピ』ですよ!たぶんこの生き物『ピ』が付く名前なんだよ!!とか現実逃避中。
たつぅが手を伸ばしてがしっとその生き物を掴んで耳をひっぱりました。
「なんだこれ?感触リアルだべ!電池どこに入ってんだ!?」
どうやらロボットだと思ったみたいです、ある意味、常識的な反応なのかな?
さとーもその生き物をいじくりまわしながら笑ってます。
「え?なにこれ、新しいドッキリ企画か!?」
『真面目に聞いてほしいピピ!!』
ぱ〜っとその生き物が光を放ちました。たつぅとさとーはちょっと驚いた顔。
「最近の技術はすげぇな〜」
『伝説の戦士に変身して悪の帝王を倒してくれる人間を捜してるんだピピ!そのブレスレットは精神力の強い人間にしか扱えないんだピピ!お願いピピ!』
「え〜!マジで!?変身すんの!?俺レッドが良い!レッド!」
さとーがはしゃいでいます、さすがファンタジスタです、ファンタジックに勝る!
『お願いピピ!君ら4人ならできるピピ!』
4人ってことは隣にいるミヤ君も含まれてるわけか、まあそうでなくても言わなきゃいけないだろう。
「あのさ、俺らの一存じゃ決められないよ、リーダーに聞かないと」
「あは。そうだね〜ミヤ君の許可取ってからにして!」
まだなにかの冗談だと思っているのかたつぅは笑って言いました。
俺はその生き物を抱いて隣のブースをのぞきます、作業中のミヤ君の周囲はまるで結界でも張られているかのようにピリピリしていました。
俺が躊躇っているとその生き物はぴょんと飛び降りてミヤ君に近づいて言いました。
『助けて欲しいピ・・・』
静かにミヤ君がその生き物を見下ろしました、鬼目200%です。
「悪いが静かにしてくれ、作業中だ」

語尾が『ピ』の生き物は光の玉になってどこかへ飛んでいきました。
今日もムックは平和です。

−仕事中のリーダーに話しかけたらダメですよ!


その89「陪審員の判定により有罪」

休憩中、お菓子をつまみつつ、D姉妹組が談笑していた。
「なんかあれやね、顔に特徴的なホクロがあるってええな」
恒人の顎のホクロをつつきながら涙沙が笑う。
「まぁ今は気に入ってますけどね〜、子供の頃はからかわれたりもしましたよ」
「そんなもん?俺は可愛いと思うけど、なぁ浅葱君」
向かいにいた浅葱に話をふると、浅葱が頷く。
「うん、可愛いと思う。でもたしか顎の横にあるホクロは孤独ホクロって言うよね、人相占いで。ツネはそんな感じしないけど」
「え〜!本当ですか!?」
「人間関係につまずきやすいって判定されることが多いみたい」
「・・・あ、当たってるかも」
ちょっとショックを受けた様子の恒人に浅葱が慌てて手を振る。
「ただの占いだから気にすることないよ・・・」
ぱん!と突然涙沙が手を叩いて恒人をのぞき込む、にんまりした顔で。
「な・・・なんですか?」
「それってつまり《ツンデレ》ってことやな!」
「なんか最近、なにがなんでも俺をそこへ持っていこうとしてません?」
「事実ツンデレやん。人相占いでもツンデレ確定されたわけやな〜」
「ツンデレぼくろってことか〜」
話を聞いていた大城までそう乗ってきて恒人、苦笑。
そこに英蔵が戻ってきた。
「なんかすごい盛り上がってるね〜」
「ツネにツンデレぼくろがあるって話しとったんや」
英蔵はしばし首を傾げてから、ごく普通の調子で言った。
「ああ、鎖骨の上辺りにあるほくろ?」
恒人がゆらりと立ち上がり、手元にあった雑誌を丸めて英蔵を叩いた。
叩いた。
叩いた。
叩いた。
「ちょ!いたいっ!なんで叩くんだよ!」
ばこばこ叩かれている英蔵を見る残りの3名は顔を見合わせて言う。
「なんでそんなマイナーな位置のホクロを言うんだ?」
「ツンデレってところも普通に受け止めたしね・・・」
「ちゅーわけで2重の意味で英蔵君が悪いから止めなくてええか」
「そうだね、あれは英ちゃんが悪い」
「天然で言ったんだろうけどね」

−鎖骨上辺りにあるホクロを見たいがために肩の出た衣装を着て欲しいと願ったわたくし。


その90「新本格魔法少年京2」

それは一見すると手術室のようで、よくよく見てもやはり手術室だった。床にはメスやらなにやらが散乱していて、手術台は大きく傾いていた。歩くたびにぱりぱりめりめり音がするのはガラスが散乱しているからだ。
手術台の上の電気が瞬いて、自分の影が不気味に揺れていた。
窓からは巨大な赤い満月。
耳を澄ましてもなんの音も聞こえない。廃墟というよりは突発的なナニカがあってこの病院内が無人になってしまったかのようだ。
とてつもないなにかがやってきて。
とてつもないなにかに襲われて。
とてつもないなにかに破壊された。
ふと、足音が聞こえてきた、小さくて歩幅の狭い足音、子供の足音。
この状況で子供?でも化け物よりましだ。
やがて足音の主は姿を現した。
やはり子供、小学校半ばといったところの小さな少年。
どこか猫を思わせる顔立ち、漆黒より黒い瞳、妙に洒落た赤い服にぶかぶかの赤い三角帽子を被っていた。
「薫君」
と少年は自分の名前を呼んだ。
よく知っている声に似ているけれど少し違う声。
きちきちきちきちと少年は手に持った大きな赤いカッターを出し入れしながら笑う。
「薫君」
少年は笑う、チェシャ猫の笑み。
その瞬間少年は弾けた。赤い、月より赤い赤が部屋中にひろがる。ひたひたと、ひたひたと、どろりとした真っ赤なプールに変わる。
薫の足首まで埋めた赤がゆらゆらと波打つ。
赤は赤だった、液体でありながらなにも映さなければなににも染まらない赤だった。
赤い三角帽子だけがたゆたっていた。
「のんきり・のんきり・まぐなあど ろいきすろいきすろい・きしがぁるきしがぁず のんきり・のんきり・まぐなあど ろいきすろいきすろい・きしがぁるきしがぁず まるさこる・まるさこり・かいぎりな る・りおち・りおち・りそな・ろいと・ろいと・まいと・かなぐいる かがかき・きかがか にゃもま・にゃもなぎ どいかいく・どいかいく・まいるず・まいるす にゃもむ・にゃもめ」
声が部屋中に響き渡る、空気を震わせ、鼓膜を揺らし、脳髄を揺さ振る声。
「にゃるら!」
にゅっと赤いプールから腕が出現する。美しく筋肉のついた、そして際限なく刺青の入った、見知った腕。
部屋を埋め尽くす赤が集約し、一人の人間を形作る。
もはや自分の一部で、自分も彼の一部といってもいい、その人になる。
やはり美しく絞り込まれた上半身の半分には刺青。
下はボンテージっぽい赤いズボン。
ぴったりサイズの合う三角帽子をアシンメトリーの金髪にちょいっとのせて彼は笑う。
「よお、薫君、暇やったから壊滅しといた」
「京君・・・暇で壊滅はしたらあかんで」
京は楽しそうに笑った。

「と、いう夢を見たんや」
嬉々として報告してくる薫に視線もやらずに心夜が言う。
「前回より原作に近くなったな。とでも言うと思ったか、オッサン。前にそれ報告して散々バカにされたの忘れたんか?」
「・・・え、なに?心夜機嫌悪いん?」
焦る薫に堕威も笑いながら言う。
「ええ歳こいてなんちゅー中二病な夢見とんねん」
「上半身裸で下が赤のボンテージに三角帽子ってめっちゃ斬新なファッションやな」
京は見当違いなところに突っ込んだ。
「え〜?案外カッコイイんじゃない、京君やったら?」
ノリノリな敏弥に京は冷めた一瞥をくれる。
「はぁ?お前じゃあるまいしなんでそんな変態じみた恰好せなあかんねん」
「・・・京君の中で俺はなんなのよ!」
「え?変態」
「あれれれ?攻撃が俺に向いてるのは何故!?」
「敏弥だから」
「存在が攻撃理由かよ!」

−アホなネタは繰り返し使いましょう。

より元ネタに近くしてみた。成長魔法が使える少年京。
ファン●ーララ的な。病院壊滅は冗談でしたけどね。
親子話のつもりが敏弥と京君のバトルになってしまった。


その91「ファンタジックにキャッチ」

ある意味それは思春期共通の夢ちゅーか、それこそ「ただの人間には興味ありません!」やないけど、誰でも一度は夢見たことがあると思う。
ほら、変身して正義のヒーローになって悪と戦うってやつやね。
ちょうど俺ら5人やし、ある意味ヒーロ戦隊的なもんかもしれんし、愛を音楽で運ぶみたいな。悪とは戦いきれないかもしれないけれど、超人じみた武器よりもっと力強い「音楽」っていう力をもってるからもう興味はないけどな。
ま、俺は可愛いし、綺麗やし。ツネもキュートやから二人でプ●キュアとかいけるんちゃう?衣装も着こなしてみせるわ、ふわっふわのスカートでもな。
英蔵君とか完璧にやられ役顔やけど。あれやね、カラーリングで言ったら確実にグリーンやろ。で、大城君がブルーで浅葱君がレッドな。ツネはホワイトで俺はピンク!
誰や今お前はブラックだろとか言うたの!
まぁ俺、そこそこ現実主義ではあるけど、急にぬいぐるみみたいな生き物が『ピピ』とか語尾につけてしゃべり出しても受け容れるし対応できるで。
要求飲むかは別やけどね。
非現実的な出来事も起こってしまえば「そうか」って頷く。ちょっとみんな驚いてるけど、話は聞いた。
特に浅葱君はめっちゃ真剣に聞いて、色々答えてる。
しかし今時、変身アイテムがブレスレットってのも面白いな、最近は携帯電話型が主流やない?あれも邪魔くさい気がするけど。
やっぱ俺の世代は腕時計タイプやね、かぱっと蓋が開いて変身するやつな。
それには色んな機能がついてたりして、他のメンバーと通信できたり、ん?それって携帯電話やん!時代進んだなぁ。そのうち腕時計型の携帯電話できるかもな。
やっぱ俺とツネでプリ●ュアやね、それで浅葱君がタキ●ード仮面様的な。
違う、それセー●ームーンだったわ。
冗談はさておき、さすがに変身してその悪の帝王やらと戦うことはできないから、とにかく話を聞いた、そして出せる限りの意見は出した。
ちょっと変身したらどうなるのか興味はあったけどな、魔法とか使えるようになるんかな〜冷静に考えたら使いたい魔法なんてないけど。
休憩時間だった20分ぎりぎりいっぱい使って『ピピ』とかいう生き物と話した、礼を言って帰っていったわ。なんとかしてやりたい気もするけど、届かない位置に手を伸ばしたら目の前にある大事なもんをなくしてまうからしかたない。
数日後、その『ピピ』とかいう生き物が来て、『悪の帝王』とやらと和解したって言いに来た。ちょっとした行き違いがどんどんでっかい事態になっていたってことが話し合ったら分かったとか、浅葱君のアドバイスのおかげやね。
だってそうやろ、アニメやゲームじゃあるまいし、明確な「悪」や「正義」なんてないんやから。そうやって正義のヒーローになる夢から卒業してくんや、誰でも。
『ピピ』とかいう生き物は国の特産品だとかいってキラキラ光るビー玉みたいな石を一個ずつくれた、偶然にも俺が適当に思ってたカラーリングと同じ色を配られた。
人間の世界のいろんなことも大抵は行き違いやから、こうやって上手くいったらいいのにねってみんなでちょっと悲しく笑った。
キラキラ光る石を大事にしまって、俺らの日常は普段どおりに流れだした。

−ピピ編解決(笑)彼等は真面目に聞くと思うんだ・・・るいちゃん語り部。


その92「午前0時の合わせ鏡」

打ち上げがかなり盛り上がってしまったため、そろそろ日付も変わろうかというころ、恒人が自宅に帰り着いた。
「・・・酔った」
珍しくハイペースで飲んだせいか、少しふらふらしている。
「風呂・・・は危ないからシャワーだけ浴びて・・・明日は午後に出ればいいから・・・」
明日の予定を確認しながら洗面台の前に立った。鏡を見れば色白のせいで顔が真っ赤になっているのがはっきりと分かる、酒に強い方ではないが、いや強い方でないから、こんなに酔うのは珍しい。
鏡に映る自分の背後の壁に、小さな鏡が掛けてある。後ろ髪を整える時のためにつけたものだ、ふと、その存在が気になった。
腕時計を見ると0時15秒前。
−午前0時に合わせ鏡をのぞくと悪魔が現れる、だっけ?
そんな都市伝説を思いだした。なんとなくそのまま鏡の前に立っていると、0時ジャスト、後ろの鏡から何か出てきた。
小さな紫色の身体、ちょこんと生えた耳に、人を小馬鹿にしたような顔、蝙蝠羽根に、先が菱形の長い尻尾。
合わせ鏡の悪魔。
が、通常であれば常識的なリアクションをする部類の人間であろう恒人は、酔っていた。
かなり酔っていた。
「あはははははははははっ!すげぇ!ベビーサタン出てきた!ドラクエのっっっ!!」
そして大爆笑だった。
『イオナズン!!・・・しかしMPが足りない!!!って違うわぁぁぁぁっっっ!!!俺は合わせ鏡の悪魔だっっっ!』
律儀にノリツッコミをして子猫ほどのサイズの悪魔は胸を張った。
恒人はけらけら笑っている、酔うとテンションが上がるタイプなのだ。
「あの〜!写メ撮っていいっすか?」
『は!?いや、いいけど・・・俺だぶん写らないよ!?』
無邪気に言われて思わず承諾する悪魔さん。恒人は携帯電話のカメラ機能を使って悪魔を撮ってみるがたしかに写らなかった。
「はははははは!!!ホントだぁ!!すごいっ!!まぁいいや、記念に保存しとこっ!」
『いや、あの、ところでなんだけど・・・悪魔を呼び出したわけだから、なにか願い事とかないの』
恒人はきょとんと悪魔を見る。
「願い事っすかぁ〜」
はしゃいだせいで酔いが回ったのか舌っ足らずに言って恒人は首を傾げる。
『願い事。なんでも叶えてあげるよ』
「いえ、貴方にそんなことをきいてもらう義理はないのでけっこうです」
『義理とかそういう問題じゃなくて!俺は悪魔だからそれが仕事なわけねっ!?なんかないの?こうなりたいとか、こうなってほしいとか!』
「たくさんあるけど、全部自分でやるんでいいです。叶えて欲しいことはありません」
たとえ偶発的に呼び出した人間であれ、そんなことを言われたのは初めてだった悪魔は驚いた顔をする。「それに」と恒人は悪戯っぽく微笑む。
「世界平和とか犯罪なくしてとかそーいう願いゴトはダメなんでしょう?」
『いや・・・確かにそうだけど、アンタさ・・・』
「だったら自分が頑張ってできる範囲だからいいです。わざわざ出てきてもらったのにゴメンなさい」
そう丁重に頭を下げられ、悪魔は困ったように頭を掻いて鏡の中へ戻っていった。

翌日、恒人は携帯電話の画像フォルダに洗面所の壁を映しただけというまったく身に覚えも意味もない写真を発見して首を傾げることになるのだが。

−悪魔すら転がす末っ子気質。


その93「午前0時の合わせ鏡パート2」

午前0時に合わせ鏡をすると悪魔が出て、願いを叶えてくれる。流布している寓話のパターンは幾つかあるが本質としてはその一言すむ。
というわけで午前0時、合わせ鏡の悪魔は呼び出されて現世へと現れた。
稀に偶然呼んでしまう人間もいるが、そこは悪魔もお仕事、適当に契約へと持ち込むのだが、今回は事情が違ってしまった。
「なるほど、アンタは合わせ鏡の悪魔で、召喚者の願いを叶えるために出てきたと・・・そういう理解でいいんだな?」
おそらくどこかオフィスなどのトイレらしきそこは男子トイレのわりに清潔感があり、背の低い色白で目つきが悪い男は洗面台にもたれて悪魔を見ながらそう言った。
『はい。概ねそれでよろしいかと』
誰かが向かい側の台に置き忘れた手鏡が偶然、洗面台の鏡と合わせた状態になっていたらしい。男は悪魔の登場にも眉一つ動かさずに淡々としていた。
『あの・・・お名前は?』
「ミヤだ」
男はそう言ってやはり無表情で悪魔を見た。
『みあさん』
「ミヤ!」
今度は「ヤ」を強調して言った、どうやら不快なポイントに触れたらしく露骨に顔をしかめられてしまった。
『ミヤさんはなにか叶えたい願い事とかはないんでしょうか・・・?』
「アンタさ、最初に出てきた時に『なんでも叶える』とか言ったけど、本当のところどうなんだよ?無理なことはあるのか?」
『・・・あの、世界規模のこととかは無理です、戦争をなくして欲しいとかは』
「だったら『なんでも』じゃねぇだろ、嘘をつくな、嘘を。はったりのつもりだとしても最悪だぞそれ」
『すいません!』
なんというか妙に迫力のある男だ、悪魔は縮こまって謝ってしまう。
「だいたいアンタ、悪魔なんだろ?もっと恐ろしげに出てこいよ、全然怖くねぇし。ダメだろ、アンタらみたいなのが怖くないんじゃ」
いや、普通は鏡からなんか出てきた時点で怖がるんだがと思いつつ悪魔はまた謝った。
「その外見じゃドラクエのベビーサタンにしか見えねぇよ」
『イオナズン!!・・・しかしMPが足りない!!!って違うわぁぁぁぁっっっ!!!』
「ああ、しかたないよな。そういう外見なんだから、いや・・・そもそもドラクエのベビーサタンのほうがアンタをモデルにしたのかもな、悪かった」
渾身のギャグがウケなかった上に完璧な抹殺をされた。とんでもなくマイペースらしい、このミヤという男。
「ところで、だが。参考までに聞くがアンタは今までにどんな願い事を叶えたんだ?」
『え・・・っとですね。大学に合格させて欲しいとか、彼女が欲しいとか、嫌いな上司を殺してほしいとか、色々ですけど』
ミヤは細い目をさらに細める、睨まれているようで怖い。
「アンタが悪魔ってことは、その願いは魂と交換なんだろ?」
『はい、よくご存じですね。悪魔ですからそういうシステムになります』
「そんなみみっちい願い叶えるためにそいつらは魂を捨てたのか・・・やれやれ、だな」
心底呆れたという顔でため息をつくミヤに悪魔は言う。
『なんというか、その辺りは死後のことになるので、みなさんあまり重要視されていないようでした』
「死後・・・か・・・」
初めて少し弱々しい、憂うような声でミヤが呟く。
「刹那的な連中だな・・・大学の合格も、彼女も、自分でどうしようもないことじゃなかっただろうに、それに嫌いな上司を殺して欲しい?別に殺人を容認するわけじゃあねぇけど本気で許せないと思ってたらアンタに頼みはしないだろうな、軽い、軽すぎる・・・それからアンタさ」
急にまた声のトーンが変わった、どちらかといえばぼそぼそと聞き取りづらい声なのに少し低くなっただけで言いしれぬ迫力を持つ。
「最初はすげぇ軽薄な感じだったくせに、いきなり大人しくなったじゃねぇか。最初のテンションだとウチの馬鹿を思いだして苛つくと同時に悪い気はしなかったんだけどな。もっとしっかりしろよ」
『・・・すいません』
何故、自分は人間に説教をされているのだろうかと思いつつ、悪魔は素直に謝った。
『それであの、願い事なんですけど・・・なにかないですか?ほら、大金が欲しいとか』
「溢れるほど稼いでるわけじゃねぇけど、困ってないからいらん。それにあぶく銭なんざ興味はない」
『・・・仕事で成功したいとか、そっち系は?』
「自分の頑張りでどうにかしなきゃ意味がないことだから、却下」
『・・・綺麗な彼女が欲しいとか?』
「悪魔にあてがわれて真の愛情が育めるとは思えん、却下」
『死んで欲しい人間がいる、とか?』
「いるにはいるが、実際死なれたら目覚めが悪いし、その程度の人間に自分の魂賭けたくもない、却下」
『・・・・・・生き返って欲しい人がいる、とか?』
「死んだ人間は、生き返らねぇよ・・・嘘をつくな」
今までは単純に、地の性格で怖いだけだったミヤの空気が変わった、明らかに怒気を含んだその声に悪魔は本気で謝る。
『嘘です、ごめんなさい・・・』
「その程度か、アンタが提示できる願い事のサンプルはそんなもんか?魂を賭ける価値はねぇよ・・・もういいか?煙草吸いたくなってきちまった」
そう言ってミヤは洗面台から離れ、出口に歩いていく。
『じゃ、じゃあ・・・幸せになりたい、とか!?』
ミヤがふり返る、ふり返ってへにゃりと笑う。
「残念ながら、それはもう叶ってる・・・じゃあな、悪魔さん。せいぜい頑張れ」
そう言ってミヤは本当にトイレを出ていってしまった。
ずいぶん長いこと生きているが人間に「頑張れ」などと言われたのは初めてだった悪魔はしばしその場で呆然としていた。

−悪魔相手にリーダー気質発揮。


その94「甘い聖日と冬生まれの君達へ」

2月13日、バレンタイン前日、大城と英蔵は一緒にカー用品を見に行った帰りに居酒屋で食事をしていた。
「誕生日プレゼント、どうしましょう・・・」
「ああ、涙ちゃんの誕生日プレゼント?」
「いや〜涙ちゃんのはこの前ツネと一緒に買いに行ったんですけど、ツネにあげるのが決まらないんですよ」
恒人の誕生日は3月なのでまだ間があるが、丁度忙しい時期に重なるので決めるなら早く決めたほうがいいだろう。一箇所ツッコミどころがあった気がするが、それは気のせいか気の迷いだ。
英蔵は手首にはめてあるブレスレット。恒人が誕生日にプレゼントしてくれたものを見てからすこし微笑んで言う。
「・・・同じ物、とかどうかなぁと思ってるんですけどね」
「・・・・・・同じ物、って?」
完全に顔が引きつっている大城に気づかないまま、英蔵は続ける。
「いや〜ツネ、パワーストーンとか好きなら、俺もこれと同じブレスをあげようかなって、石を一個ずつ選んで・・・」
がしっっ!!と英蔵の肩を掴んだ大城が普段の穏やかな空気はどこへやら、必死の形相になって言った。
「お前・・・それだけは・・・やめとけっ!!」
「・・・は、あ。そうっすか」
英蔵は不思議そうな顔をしながらも頷いた。
そんなやりとりをしているとテーブルの上に置いてあった英蔵の携帯電話が振動した。
「あ、ツネからだ」
「出て良いよ、どーぞ」
「じゃあ失礼します」
そう言って英蔵は通話ボタンを押す。
「もしもし?どうした?・・・・・・え?なに突然。・・・・・・・へぇそんなのがあるの!?じゃあね〜え〜っと・・・・・・・制限時間とかつけるなよぉ!分かったって!じゃあ上杉謙信!はい、ありがとね〜!」
電話を切った英蔵に大城が怪訝そうに問いかける。
「ツネちゃん、どうしたって?」
「いやぁ、なんか今、チョコ売り場にいるらしいんですけど」
この時期のチョコ売り場といったらバレンタインの特設会場なのだろう、最近は男子が買うのも珍しくないらしいし、恒人ならば抵抗なく入るのだろうなぁさすがに自分は無理だけど、と思いながら大城は頷いて続きを待つ。
「『戦国武将チョコみたいなのが売ってたんですけど、買っていってあげますよ、どれがいいですか?』って言うから、かなり迷ったんですけど上杉謙信に、う〜ん究極の選択でした」
「どの戦国武将か以前に選択しなきゃいけないことがあるんじゃないか!?と言いたいところだが・・・・・・へぇ、よかったね」
半笑いで言う大城に英蔵は嬉しそうに頭を掻いた。

一方こちらはバレンタイン当日、ディル親子コンビ。
地下作業中であるためバレンタインなんぞ遠い異国の話だったがカレンダーを見た薫が気づいて京に言った。
「今日はバレンタインなんやなぁ」
「・・・・・・で?」
「『で?』っときたかっ!まぁええけど・・・この歳になると別段心躍るイベントでもないしな」
「ほぉ、昔は心躍っとったんか」
「揚げ足を取るな!」
ぺち!ともさもさの金髪頭を叩きつつ薫は笑う。
「いや、バレンタインが来ると同時にああ、もうすぐ誕生日やな、と思ってな〜」
「・・・で?」
今度は少し笑いを含んだ調子で京は薫を見上げる。
「京君の誕生日で、次は俺の誕生日、どーする?」
「俺らが決めることちゃうやん、まぁまたまとめて祝って貰えるんやない」
「まぁまとめんとな、2日連続誕生日パーティとかラテン系すぎるわな!」
「ラテン系の人にどんな偏見持ってんねん、おっさん」
今度は金髪頭をぐしゃぐしゃとかき混ぜながら薫は笑った。
「今年も一緒やな〜」
「・・・悪くないで、別に。薫君とまとめられるんは」
「そやな」
そうして二人で赤マルが並んだカレンダーを見てにんまりとした。

−バカップルもどきとほのぼの親子。

ツネは翌日(バレンタイン当日)当たり前のように何の他意もなく英蔵に「あ、これ昨日言ってたチョコです、なんか幕末のもあったんでついでに買っておきました」と普通に渡して、英蔵も普通に喜んで受け取って、るぅ辺りから「さすがにそれはないわ!」と突っ込まれてればいい(爆)



その95「そんな僕等の地元愛!」

某飲み会にて。(どんな集まり?というツッコミは受けつけません)恒人が下座の隅の方でぼんやりと英蔵さんどこいったかな〜?などと思っていると、半端に酔った二人組がやってきた。手足の長いパグと金色のキノコ。正式名称はムックの逹瑯とユッケだ。
「あ、どうもこ・・・」
「ねーねーねーねー!恒人君ってさ、出身横浜ってほんとー!?」
恒人の挨拶を遮って逹瑯がテンション高くそう聞いてきた。
「ええ、横浜ですけど・・・」
「横浜っ!すっげえ、やっぱ良いとこ色々あるっ!?」
何故だか嬉しそうに顔を近づけてくる逹瑯に恒人は困ったように首を傾げた。
「ん〜、都内よりは人が少なくていいですね・・・」
「「ええええええ!!!!!!」」
これにはムックの阿呆二人が不満そうに叫ぶ。
「ちょ、横浜でしょ!?」
「ですけど、やっぱり都内に比べれば人がすくな・・・」
「横浜で人が少ないって言えるなら石岡なんて無人だべ!!」
何故かふんぞり返る逹瑯をユッケが「うっさい、無人じゃねぇよ!」と睨み、改めて恒人に言う。
「だって横浜って言ったら中華街とか赤レンガとかタワーとかいっぱいあるじゃない!」
「いや、横浜って言っても広いんで、全部が全部観光地ってわけでは・・・それに近くにあると案外行かないし、興味がないものですよ」
「「むきーーーーっっっ!!!」」
中堅の先輩に「むきー!」と怒られて恒人、本気で困った顔。
「あ、えと、茨城だって観光地あるじゃないですか・・・」
「あん?茨城の観光名所言えるのかよ、一個一個上げて言ってみろよ〜」
「たつぅ、タチの悪い絡み方しないで!あるよ、山とか川とか山とか川とかねっ!あとダチョウねっっ!」
「おう!ダチョウ!!地元愛では負けんぞ!!都会っ子には負けねぇ!!」
勝つ気もないですけど、とは言わず恒人は笑って頷いて流す。
「ところで恒人君とこってみんな出身地バラバラだったよね?北関東の人いる!?」
ユッケと逹瑯に思いっきり顔を寄せられて恒人は一歩後ろに下がった。
「え、えと、大城さんは、群馬ですけど・・・よく風の強さが物足りないとかなんとか・・・」
「群馬!!!聖地だ!!!ユッケ行くぞ!!!」
「おっしゃー!!北関東連合組もう!!!」
あ、タチの悪そうな酔っ払いを自分のところのドラマーに送ってしまった。と思ったが時既に遅し、ムックの二人は人垣を縫って行ってしまった。
「えっと・・・英蔵さんどこかな〜・・・」
とりあえず現実逃避をしつつ、思う。むしろ豊かな自然に囲まれたところのほうが楽しそうなのになと、でもそれもないものねだりというやつかもしれない。
「あ、でもダチョウはなんかすげぇ羨ましい・・・」

−群馬はロックの聖地ですから。



その96「新本格魔法少年京3!」

スタジオへ向かう途中変わった少年を見つけた。背は低いが小学校高学年といったところだろうか、何故かサイズのあっていない、明らかに大人用の服を着て歩いていた。
面差しにどこか見覚えのある少年はスタジオの建物脇の路地へ入っていった。興味をそそられた薫はこっそりのぞいてみた。
少年は鎖のついたペンをかかげ手を交差させながら言った。
「時の記憶に願いを込めて、今ディルの京に華麗なるせいちょ〜」

がつん!という鈍い音とともに、薫の話は途中で遮られた。
「ちょお!まだオチまで喋ってないやろ!」
ドラムスティクでどつかれた頭をさすりながら薫は心夜を見上げる。
「おっさん、マジきもい」
心夜は嫌悪を含んだ視線で吐き捨てるように言った。
「心夜、ツッコミにしても薫君傷つくで」
「ツッコミちゃう、本気やもん」
堕威のフォローにもディルの末っ子は冷ややかだった、そこに黙っていればいいのに敏弥が首を突っ込んでくる。
「しかし『ファン●ーララ』とは薫君もなかかなマニアックなとこいくねぇ」
「分かるお前はやっぱりオタクやな」
案の定、心夜に一撃で沈められ、すごすごと引っ込む敏弥。
京は助けを求めるような薫の視線をうけてにっこりと笑った。
そして歌い出した。
「くちっびるに願いをこ〜めて〜、しっあわっせば〜らまくよ〜お〜に〜、歌うわラララあなたにも〜届いたらい〜な、わったっしフ●ンシーララ〜♪」
「きょ、京君が可愛らしく歌を!しかもフリつきっ!・・・あかん、鳥肌立った!」
堕威が腕をさすりながら一歩下がる。
「誰にも言えない秘密を胸にか・く・し・て・る、女の子だったらみんなそ・ん・な・も・のきっと!ごめんねひっそり内緒の私にか・わ・る・わ、憧れをあっつめて星をくっつけてい〜まぁ〜♪」
「いやだなにそれ怖い!遺伝子レベルでの恐怖を感じるっ!」
敏弥も後ろに下がった。
「魔法じかけ女の子の不思議〜、駅に町に部屋にあふれてるぅのぉ〜〜〜っ♪」
心夜も無言で後ろに下がった。
「くちっびるに呪文をの〜せ〜てぇ、き・の・うの涙た〜ち〜にぃ〜さ・よ・な・ら・ラララ微笑みで、あなた〜に会いた〜い、わったっしファンシー●ラ〜♪」
歌い終わった京をしばし見つめて薫は言った。
「う〜ん、京君が歌うには軽すぎる歌詞やな・・・」
「アンタどれだけ京君に盲目なんだよ!」
「薫君、そこ突っ込むとことちゃうで!」
「もはや・・・さすがリーダーとか言うべきなんか・・・」
壁際まで下がった他三名の叫びが虚しく響く。
「あっそ」
京は複雑な顔で頷いた。

−京の嫌がらせ、薫に不発。


その97「方言アレコレ」

「もしもし、浅葱でした」
そう言って電話に出た浅葱に涙沙は目を細めた。
久しぶりに二人で遊びに出た途中の喫茶店、向かいの浅葱は手短に用件をすませて電話を切ると「ごめんね」と謝る。
「いや、べつにええけど。久々に出たなぁと思って・・・『でした』が」
「え?嘘、方言出てた!?」
「そりゃもうしっかりと。最近言わなくなってたから珍しいな〜」
浅葱は照れくさそうに頭を掻く。
「やっぱ気を抜くと出ちゃうね。東京出てきたばっかりの頃に散々突っ込まれたから気をつけてはいたんだけど・・・」
再び浅葱の携帯が着信を告げる。恒人からだ。
「もしもし、浅葱でした」
(・・・言っちゃった!!!)
という顔で視線を合わせてくる浅葱に涙沙は思わず声を上げて笑ってしまう。
『ああ、浅葱さん。もしかして涙沙さんも一緒でしたか』
「あ、うん・・・」
『じゃあ手短に、明日のことでちょっと・・・』
普通に用件をしゃべり出す恒人に浅葱が複雑そうな顔をしたので涙沙が浅葱から携帯電話を取り上げた。
「え、るいちゃん!?」
「あ、もしもし、ツネ〜!」
『ああ、涙沙さんどうしたんですか?』
「今、浅葱君電話に出た時『浅葱でした』って言ったやん。気づいた?」
『気づきましたよ〜』
「そんでツッコミなし?」
『え?あれボケで言ったんですか?俺はてっきり単純に言い間違えたか、もしかしたら方言なのかと思って流したんですけど』
無駄に生真面目な末っ子はあっさりそう言って、涙沙苦笑い。
「いや、方言なんやけど。方言ではあるけどいつも突っ込まれるところをスルーされたから浅葱君なんか寂しそ・・・」
「ちょっと、るいちゃん!」
浅葱は慌てて涙沙から携帯電話を奪い返した。
「ああ、ツネ、気にしなくていいからね・・・」
『ってゆーか浅葱さんって、電話で喋ってるといつも後半はすっごい訛ってますよ』
「ええ!?ホント!?」
『はい、俺も敬語じゃないとすぐハマ弁になっちゃうんで気にはしてませんけどね〜』

用件を終え、電話を切った浅葱は困り顔で涙沙を見た。
「るいちゃん・・・変なことツネに言わないでよ・・・」
「ってか俺からしたらなんで訛り直さなきゃいかんのかが分からんけどなぁ」
「全国認知度が高い関西弁とはまた別なんだよ・・・」
「TPO弁えるんやったら故郷の言葉使ってなにが悪いん?」
「るいちゃんってカッコイイなぁ」
「あたりまえやろ〜」
・・・あれ?なんでラブラブな空気になるんですか?
またツッコミ不在かっ!

−ハマ弁→ヤンキーっぽく聞こえる。北関東系→怒っているように聞こえる。秋田弁→分かり辛い。らしいです。

「〜でした」は山形ですが秋田の一部地域でも使われています。浅葱さんが当てはまっているかどうかは知りませんが。



その98「愛すべき唄うたい」

ライヴ前、楽器隊が機材の調整をしていると逹瑯がちょこちょことやってきてステージ上を見て回り始めた。
確認というよりは暇だったから来た、という感じだ。ユッケの前で変顔してみたが相手にされず下手側をうろうろしていると、丁度移動して方向転換をしたミヤのギターヘッドが逹瑯の肩胛骨やや下辺りを強打した。
「いてっ!」
「あ、悪い・・・」
「ちょ、ミヤ君!わざとじゃないよね〜!」
逹瑯が巫山戯て問うとミヤは生真面目な顔で言った。
「わざとそんなことするかよ、ギターが壊れたらどうするんだ」
「・・・・・ミヤ君!ギターと俺どっちが大事なのさ!」
もちろんこれも半ばおふざけで言ったのだが、ミヤはとても難しい顔になる。
「ギターとオマエどっちが大事って、難しいことを聞いてくるな・・・うん?これは哲学的問答かなにかか?」
「あの、すいませんリーダー。そのまんまのミヤ君が好きだけど、自分が天然だって自覚は持ってよねっ!」
まだきょとんとしているミヤを置いて、逹瑯は再びユッケをかまい始めたが、どうやら本気で忙しかったらしく、キャラ放棄状態で睨め付けられた。
「オマエ、マジうっさい!茨城帰れ!」
「ああ?そんなこと言うと本気で帰るぞ!」
「帰れよ、邪魔!」
「・・・帰ってやる!おめぇが代わりに歌えよ、バーーーーーカ!!」
そう言って踵を返す逹瑯にさすがに邪険にしすぎたとユッケが慌てる。
「冗談じゃん、帰っちゃダメだよ・・・」
「ユケツ〜ほっとけ〜」
ドラムセットからサトチが顔をのぞかせ、真顔で言った。
「逹瑯はチキンだから、ライヴ前なんて状況で本気で帰れるわけねぇべ」
ぐさりっ!と突き刺さるその台詞に逹瑯がふて腐れた顔で叫ぶ。
「ヤス!せめてそこまで無責任じゃねぇとかそーいう言い方してくれてもいいべ!」
「ああ?逹瑯は歌に関してはちゃんとしてるから当たり前だべよ。当たり前のことだからわざわざ言わなかっただけだ」
「・・・ヤス〜〜〜〜〜!!!!!」
感激のあまり跳ねる逹瑯にミヤが冷ややかに、でも笑いながら言う。
「うっせえんだよ、オマエは」
「えへへ!喉あっためて来ま〜す!」
楽屋へ駆け戻っていく憎めない唄うたいの背中を見送りながら楽器隊は顔を見合わせて笑った。

−うざいけど憎めないヤツ。


その99「午前0時の合わせ鏡パート3」

都市伝説は『思い』を元に存在している。
合わせ鏡の悪魔は午前0時のその瞬間、合わせ鏡を見た人間が『合わせ鏡の悪魔』のことを思った時だけに、それも低確立で発生するものだ。
噂が好きで、他人に流されて、他力本願で、人の不幸を笑える人間と都市伝説は相性が良い。
子供は人格が完成されてない故に都市伝説とは相性が良い。
だからこそこれは天文学的確立といえよう、合わせ鏡の悪魔は都市伝説と尤も相性が悪い人間のところへひょっこり顔を出してしまった。
噂が嫌いで、流されるのが嫌いで、人に頼るのが嫌いで、人の不幸を笑える人間を心底憎んでいる彼。
アシンメトリーの金髪はセットしたわけではなく、手入れをしていないがためにぼさぼさで、童顔ながら寝不足のせいで凶悪な面構え、混沌を閉じ込めたように黒い黒い瞳は静かに合わせ鏡の悪魔を見ている。
「ふぅん・・・」と悪魔の説明を聞き終えた京は興味なさそうにそう言った。
『あの、ですからね、願い事・・・』
悪魔も出てきた以上、やることはやりたいのだが、京は冷めた顔のまま。
「逆に聞きたいんやけど、魂と等価値になるほどの『願い事』ってたとえばなんや?」
『はい?』
「せやから・・・例えば俺は歌う。ライヴを整えるまでにたくさんの人の力とけっこうな金額がいる。チケット代だってめちゃめちゃ高いわけでもないけど安くもない、五千円だとしてもキャパが二千なら・・・あ〜計算できへんけどかなりの額になるやろ」
『五千×二千は一千万ですけど・・・』
「まあかなりの額やろ?それに加えて一人一人がいろんな思いを抱えて会場に来る、俺達はそれに全力で応える。数値化できないものだから絶対に等価値とは言いきれんけど、来たヤツ、関わったヤツ、自分も含めて全員が納得がいくように死力を尽くす、それが矜持でそれが義務。だから・・・悪魔であるオマエに聞きたい、魂と等価値になるほどの『願い事』っていったいなんや?」
黒い瞳は静かに、しかし最奥に灼熱の激しさを持って悪魔を見ている。
「・・・俺はそんなものはないと思う。命がけで頑張る必要性は生きていればいくらでもあるけど死んだら無意味やし、魂を他者に委ねて叶える『願い事』に価値があるとは思えん。しかしこれは俺の意見や、なあ悪魔・・・オマエの考えを聞かせろや」
『そ、それは・・・』
悪魔は答えられない。魂と等価値の『願い事』が何一つ浮かばない。
京は少しだけ笑んで、嘲笑とも自嘲ともとれる微笑みを見せて言う。
「ないのなら、オマエのやってることっていったいなんや?」
魂の等価値の『願い事』そんなものが存在していないのであれば、自分は義務もはたしていないし、矜持も持っていない。
黒い瞳が霞んでいく、合わせ鏡の悪魔がそれは自分の存在が消えかけているのだと認識するのと完全な消滅は同時だった。
「なんや、人の質問にも答えんと・・・」
京は小さくため息をついて、たまたまのぞき込んだ手鏡(目が痒かったとか、そんな理由で)を机に置いた。
開くと両面に鏡があるタイプのものだったので『合わせ鏡』状態になった時、思いだしたどうでもいい都市伝説、悪魔が出てきたことに驚きはしたがついでだから質問をしてみたのだけれど。
まさかその『質問』が都市伝説を一つ消滅させたとは気づかずに、京はもう一度小さく息を吐いて、歌詞の続きを書くためにペンを取った。

−理屈を越えて正しい人。



その100「日常が大円団」

さて、100話目ということで、誰かにオチをつけてもらおうとやってきました、地の文です。まずDのみなさんのところへやってまいりました。
「英ちゃん、なんかその服だと小学生みたい!」
英蔵が大城にファッションのことで突っ込まれております。
腹部に大きいポケットがついたパーカーです。
「え?そうですか!?ツネ、この恰好変?」
「いや〜、素敵ですよ。有袋類みたいでっ!」
小狐耳と尻尾装備の恒人に言われ笑って頷く英蔵。
「そっか、変じゃないか・・・あれ!?俺からかわれた!?」
遅れて気づく英蔵に、背を向けて恒人が肩を震わせていると、他の二名もやってきました。
「あ、地の文さん、こんにちは」
「浅葱君、普通に話しかけたらあかんて〜」
語尾にハートを飛ばしながら突っ込む涙沙に浅葱は笑顔。
ところで100話目なんですけどなにかオチないですか?
「いやいや、僕等がオチというわけにはいかないよ、先輩方に任せます」
浅葱に丁重に断られてしまいました。しかしせっかくなのでなにか一つかましてもらいましょうか、『萌えるシチュエーション』。
涙沙がちょいっと首を傾げてから言います。
「よく布団を捲ったら裸の美女が〜とか言うけど浅葱君の場合、布団を捲ったら可愛いにゃんこが!のほうがええんちゃう?」
「ああ、それかなり嬉しいね、にゃんこ」
笑顔で頷く浅葱に、大城と涙沙大爆笑。英蔵も嬉しそうに頷いています。
そんな中、恒人が真顔で言いました。
「しかし考えてみれば、布団の中に裸の人間がいたら犯罪かと思って対応に困りますけど、にゃんこだったらどっから迷い込んできたのかな〜ですむんで俺もにゃんこのほうがいいです」
「・・・ツネちゃん、それギャグで言ってるの?それとも天然?」
「はい?」
困り顔で問う大城に首を傾げる恒人、天然で言ったようです。
「英蔵君、なににやけてツネ見てんの?むっつりやなぁ」
「え!?なんで俺に攻撃がくるのっ!?」
ナチュラルにみんなして「にゃんこ」とか言ってたのが気になりますが、オチきらなかったので次いってみよ〜!!


「てとさ〜ん、パパと遊ぶにゃ〜?」
逹瑯さ〜ん!
「うぉあぅ!!ビビった!なんだ地の文じゃねぇか!」
愛猫、てとちを抱いた逹瑯がふんぞり返って言います。猫語でお話していたことには突っ込まないでおいてあげましょう。
逹瑯さん、もう最終話なんでなにか面白いことお願いします。
「ああ、おもしぃことなぁ。よっしゃ任せとけ!」
そう言って携帯電話でユッケにかける逹瑯。こういうことは頼れますね〜ホント。
『もしもし、たつぅ?どうしたの?』
「きらいきらいきらいきらいきらいきらいきらいきらいきらい♪貴方が大嫌いです〜♪死んでくれっ!」
『いきなりなんなのさっ!』
「これは呪いの電話です。10分以内にミヤ君に回さないとオマエの自宅のがらくた全部捨てるぞ、ばぁぁぁぁぁか!!」
『ちょ!おいっ!アホかオマエ!!』
喚くユッケを無視して逹瑯はにんまり笑って電話を切りました。
「まったく、子供か、アホの逹えめっ!」
などとぶつくさ言いながらミヤに電話をかけるユッケ、無視すればいいのに、素直なのか、本気で逹瑯が怖いのか。
『・・・・・もしもし』
「き、きらいきらいきらいきらい・・・♪」
『用がねぇなら切るぞ』
ぶちっとあっさりミヤに電話を切られて、唖然とするユッケ。しばし迷ってからサトチに電話を掛けました。
「あ、ヤス君!今から言うことミヤ君にまわしてねっ!」
『おう!分かったッ!』
サトチに『大嫌い』を歌ってみせてからしばらく、ユッケの携帯にミヤから着信。
「も、もしもし!?ミヤ君!」
『きらいきらいきらいきらいきらいきらいきらいきらい♪貴方が大嫌いです〜♪死んでくれ』
「・・・ミヤ君?」
『ってヤスから回ってきたから、そんだけ。じゃあな』
あっさり通話が切れた電話を見ながら崩れ落ちるユッケ。
「な、なんで俺のは一蹴したくせに、ヤス君のはちゃんと聞くんだよぉぉぉ!!!」
じゃあユッケさん、これが最終話のオチってことでいいですか?
「嫌だよ!なんか俺が可哀想な人みたいだしっ!それに俺らより先輩にまわしてよっ!」
・・・しょうがないですねぇ。

ディルのみなさん、100話目なんですけど。
「ん、わかった。敏弥が爆発して落とすから」
京がさくっと言って敏弥を見る。
「しねぇよ!!・・・って堕威君、なにライターに着火してんの!?」
「え?爆発するんやろ?」
「しねぇっつってんだろうが!!いいかげんにしてよ!!」
オイルライターを近づける堕威から逃げつつ敏弥が叫ぶ。
「え〜敏弥が爆発して、最後にビバノン音頭歌って終わるのが普通やろ」
あくまでさらりという京に敏弥が半ギレで叫ぶ。
「ドリフじゃねぇし!っていうか京君がビバノン音頭歌ったらそれが放送事故だよ!」
「は?何言ってんの、オマエ一人で歌うんやろ」
「京君、無理強いはあかんで」
薫にたしなめられて京は不満そうにしながらも黙った。
「無理強いってさぁ、俺は1ミリも悪くなかったよね・・・」
ため息をつく敏弥の隣で心夜が淡々と言った。
「なぁ100話ってことは・・・あれか、百物語を完成させたってことか」
「は!?どういうことやねん」
ちょっと焦った顔で言う堕威に心夜は眉一つ動かさずに言う。
「100話が終わったんやから、怪が現れるんやないの?」
全員が不安そうに黙り込んで互いの顔を見ていると、心夜が「ああ」と呟いてから京を指さした。
「怪なら最初っから此処におったわ」
「・・・なめとんのかこの宇宙人がっ!」
くわっと口を開いて怒る京の肩を薫が優しく叩く。
「京君は怪やない、奇跡や!存在が奇跡!」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・あ、俺ちょっと煙草吸ってくるわ!」
まず堕威が立ち上がる。
「お、おれ喉乾いたから自販機行ってくる!」
敏弥も立ち上がった。
「薫君、そんなんでオチつけようなんて甘いわ」
「ははは、京君は辛口やなぁ!」
京に言われて照れ笑いする薫に、京は少し口角を上げた。
「でも薫君は俺に甘いけどなぁ〜」
仲良く笑い合う天然親子を見ながら心夜が誰にも聞こえないような小さな声で呟く。
「部屋ごと崩れて屋台崩しオチついたらええのに・・・」



−はぁ〜あビバノンノン♪さようなら!!


- 5 -

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