61話〜80話
その61「ざ☆ばとる」
はい、前回一言しか台詞がなかった敏弥です。久々の語り部ってことでテンション高くスタジオに着いたら「すいません、集合時間一時間早く伝えてしまいました!」とスタッフに言われました。
まぁしかたがないのでソファーに座って雑誌を読みつつ時間を潰していると京君登場。
「おはようさん」
「あれ?もしかして京君も集合時間間違い?」
「そやね」
「・・・となると15分遅刻してますけど!?」
「チャリンコのサドル盗まれたんや」
「自転車乗らないでしょうが、つくならもっとマシな嘘つきなよ」
京君は無言で俺の隣に座って携帯ゲーム機で遊びだしました。朝だからテンション低いなぁ。いや、時間的には昼過ぎてるんだけどね。
しばらくすると京君は怠いのかソファーの肘掛けに頭を乗っけたり、背もたれに仰け反ったりともぞもぞしたあげく、俺の肩に頭を置いてゲーム再開。
まぁ別にそんなことは俺も気にしないので雑誌を読み続けてるといきなり「固いわっ!」とか言って俺に肘鉄かましてきました。
なにすんじゃこの野郎!!理不尽にもほどがある!!
ちょっぴり頭にきたので右腕を京君の脇から通して反対側の肩を掴みがっちりロック。怪訝そうに見上げてくる京君を空いてる方の手で思いっきりくすぐってやった。
「は!?ちょおまて!う゛なななななななななっ!!」
「先に攻撃してきたのそっちでしょうが」
「いや、てめぇふざけ、ひゃはfgjkl;:」
いくら力つけたって身長差だけはどうにもならねぇだろ!容赦なく俺の顔面を狙って振り回してくる手を避けながら、全身をくすぐり続ける。
・・・っていうか、ライヴとかで散々見て分かってはいたけど、京君の身体すげぇ!鍛え方が半端じゃない。一分の隙もない身体してやがる。
昔は幼児体型だったというのに、今や見事な筋肉美!
で、なんで同じように鍛えてる俺は女の子ファンからキモイって言われるんだろうなぁ。などと考えながら声にならない悲鳴を上げる京君をくすぐり続けていると扉が開いた。
「おはようさ・・・」
いつものように爽やかな声で挨拶をしかけた堕威君は俺達を見てフリーズ。引きつった笑顔のまま扉を閉めた。
「ちょ!コントのような勘違いをしたまま去るなっ!!」
俺が堕威君に気を取られた隙に、京君はソファーの背もたれに手をかけ、腕力をフルに使って自らの身体をすごい勢いをつけて俺の腕から引っこ抜いた。
そのまま背もたれの上で片腕倒立して、掌を使って飛び上がり、空中で姿勢を変えて背もたれに着地した。
いやいやいや、ええ!?いやいやいや!?おかしいだろ!?
唖然とする俺に京君はふんぞり返って笑う。
「ボーカリストたるもの二段ジャンプぐらいできて当たり前や!」
笑顔で物理法則をねじ曲げるウチのフロントマン。
いや、別に二段ジャンプはしてなかったけれど・・・できたら人間じゃねぇよ。
人外の域に達するのは唄ってる時だけにしてくれ。
「よくもやってくれたな、ハンムラビ法典なんぞ甘すぎる、一億倍返しにしたるわ」
それだと俺、死ぬから!
俺が慌てて立ち上がると京君は再び倒立し、腰を回転させて強烈な蹴りを見舞ってきた。
間一髪避けるが、すぐ後ろが机だったため、俺は机に座る形になる。風圧で前髪が揺れる。
この人、メンバーに本気の蹴りを入れる気だったぞ!?
「ちょ!京君!どこで覚えたのそんな技!?」
明らかにカポエイラの動きだった気がするんだけど・・・そもそもこの人どこで身体鍛えてるんだろうな、あの刺青で入れるジムあるか?
「はぁ?格闘ゲームやれば覚わるやろ、このくらい」
「頼むからどんどん人間の域から離れないでくれる!?」
格闘ゲームやって格闘技が覚えられるなら今頃日本は格闘王国だ!!
昔はほやほや〜っとしてのに、いや、それは今もか。
もっさもさの金髪をかきあげて不敵に笑う京君がかっこよかったので俺も机の上に立ってファイティングポーズをとる。
「来いっ!」
「やったらぁ!!」
ノリノリになった俺達二人の横に突然人影が立ち・・・
「なにやっとんねんおまえらっ!!!!!!」
出勤してきたリーダー、薫君から特大の雷が落ちた。
「で?なにしてたん?」
京君は背もたれの上に立ったまま猫口で薫君を見る。
「だって敏弥が・・・」
「先に手を出してきたの京君でしょ!?」
「ちょっとつついただけやん」
らちが明かないとばかりにため息をついて薫君は言う。
「心夜、なにがあったんや?」
え?なんで此処でやもちゃんの名前が出るの?とふり返ると向かいのソファーで心夜が文庫本を読んでいた。
「いつからいたの!?」
「いつからいたんや!?」
俺と京君が同時に声を上げると心夜は冷めた目で見上げてきた。
「京君が敏弥に軽く肘鉄入れた時から」
全く気がつかなかったんだが、ヤモリか、君は。というか挨拶ぐらいしてよ!
「で、その後、敏弥が京君にセクハラしまくっとった」
あれセクハラじゃねぇよ!
「ああ、俺も見た!」
と扉から顔をのぞかせたのは堕威君だった。アンタ今まで何処にいたんだ・・・
「敏弥が京君に後ろから抱きついてなにやらかんやら・・・」
後半を濁すな!くすぐってただけだよ!!
「・・・とし坊、おまえなにしてんの?」
薫君に冷ややかな声で言われた、目がメンバーに向けるものじゃなかった。
あれだ、俺が語り部やるとろくなことないな!!あははは!!
−この後、誤解を解くのに20分かかった。
その62「とんだ偶然」
都内某コンビニ、限定商品が並べられている棚の商品に二人同時に手が伸びた、まぁここまではよくあること、手を伸ばした二人は相手の姿を確認しようと片方は視線を上げて、もう片方は視線を下げて固まった。
これはさすがにかなり確率の低い《偶然》だろう。
「・・・あ、ミヤさん?」
「・・・えっと、浅葱さん?」
二人はしばし顔を見合わせる。手を伸ばした商品はそれが最後の一つだった。
「ああ、俺はけっこうなんで、どうぞ」
「いや、俺もいいんで、どうぞ」
そして延々と譲り合いが始まった。
「・・・あれ、どうなっちゃってるの?」
D、他のメンバーも一緒だったらしい。スイーツのコーナーから困惑気味に顔をのぞかせる英蔵に隣にいた恒人が言う。
「あれはですね、年齢は浅葱さんのほうが上だけどムックさんはキャリア長いしデビューも早いけど、ウチは妙に上と交遊広いし、メジャーやバンドに括らなければ浅葱さんも充分長いし、でもムックさんも先輩面子とは交遊広くてお互いの立ち位置何処って感じなことプラスどちらも真面目な性格なんで譲ることを譲れないんでしょうね・・・まぁ決着ついたら俺らも挨拶しに行きましょう」
「あれ・・・決着つくかな?」
相変わらず譲り合いを続けている二人を見ながら英蔵は苦笑い。
「いつかはつきますよ。でも・・・譲り合ってるのがアレって言うのが、なんというか」
浅葱とミヤが譲り合っていたのは苺味のチョコ菓子、リラックマ限定バージョンだった。
厳ついとは言わないが、大の男が二人して、周囲から見ればそれは限りなく微妙な光景だった。他に客がいないのは幸いか、店員は怪訝そうな顔で見ているけれど。
「ついでに言うとな!」と英蔵と恒人の間に涙沙が割り込んできた。
「浅葱君はあのリラックマの容器に興味あるんや、あれならとっておけるやん。だから中身は俺とツネにでもあげようかな〜とか思ってんねんで」
推理ではない。《浅葱に詳しい》のが涙沙の特技。
「それはますますややこしいですね」
と恒人も苦笑。下手に口を出すとこじれそうなのでD弦楽器隊は成り行きを見守ることにした。
譲り合いは続く。
「ぐっちゃ〜まだ〜?」
そこにやってきたのはムックのドラマー、サトチ。不思議そうに菓子を譲り合っている浅葱とミヤを見ること数秒。輝かしい笑顔を浮かべて言った。
「あ!それぐっちゃが前から食べたいって言ってたやつだべ!あったんだ、よかったなっ!」
ミヤも浅葱も、成り行きを見守っていたD弦楽器隊も目が点になる。
メンバーだから一番先に我にかえれたのか、メンバーだからこそ最もダメージを受けたのかミヤはサトチの腕を掴んで、胸に軽く頭をぶつけた。ヘッドバットなのか縋りついたのか微妙なラインの強さで。
「ん?どした!?ぐっちゃ」
「・・・頼むから」
「おお!なに!?ぐっちゃからお願いあるの!?」
「空気を読め!バカっ!!どうにもならなくなっただろうが!」
「俺、なんかダメなことしたのか、ごめんな!」
捨て犬みたいな目で謝られてはそれ以上なにも言えない。深いため息をついてミヤはサトチから離れた。
その様子を真剣な表情で見ていた浅葱は、何かを思いついたらしくぽんと手を叩いた。
「提案なんですが・・・ミヤさん、ミヤさんはそれの中身が食べたいんですよね?」
「え。ああ、そうですけど・・・」
「ええ!?それ容器も喰えるんか!?」
驚くサトチの言葉に、その場にいた全員がふきだしてしまった。これは笑うなというほうが無理だろう、店員ですら笑っている。スイーツコーナーの影でD弦楽器隊も必死で口を押さえて声を出すのを我慢していた。
今度は良い意味で壊れた空気に乗せて浅葱が続きを言う。
「俺はその容器が欲しいんですよ。ですから・・・ちょっと行儀悪くなってしまいますし、お時間があれば、なんですが・・・」
そこまで行くとミヤも浅葱の言いたいことが分かったらしく、微笑んで頷いた。
「いいですよ。コンビニの前で食べる、で容器は浅葱さんにあげる。そーいうことで良いですか?」
「お嫌でなければ、ですが」
「いや、若い頃はよくやってたんで。料金は折半で大丈夫ですか?」
「はい」
商品を取って二人並んでレジに向かう姿を眺めながらサトチは必死で今展開された会話の意味を考えていた。
−良くも悪くも空気を粉砕するサトチさん
その63「ごめんね☆」
球/体ツアー中かな?(怪談小話含みますのでご注意を)
「あれ?逹瑯君?」
事務所近くでタクシーを降り、ツアー用の大荷物を引きずって歩いていると、突然声をかけたれた。
「逹瑯君でしょ。俺、俺」
と、相手はサングラスを外して笑う。
「イノランさん、おはようございます。どうしたんですか、こんなところで」
「とくに意味はないのよ」
丁重に頭を下げる逹瑯にあまり答えになっていないことを言って、イノランは逹瑯の荷物に目をやった。
「もしかしてツアー中?」
「ええ、アルバムのツアー中ですよ」
「何処に向かうの?」
「名古屋っすけど・・・」
それを聞いたイノランはにいっと嫌な感じの笑顔を浮かべた。
「10年ぐらい前にさぁ、ツアーで名古屋のホテル泊まった時の話なんだけど、その時泊まった部屋がさ、ちょっと雰囲気悪かったのね。入った瞬間空気重い、みたいな?でもそんなことで部屋変えてもらうのも面倒だから黙ってて、で帰ってきてさぁ寝ようって思ったら風呂場で物音がしたのよ。なんだ?と思って行ってみると、バスダブのカーテンが閉じてるの、俺、その日は使わなかったのに。でもさっきトイレに入った時は開いてたよなって、不思議に思ってそのまま見てるとシャッてこう・・・カーテンが動いてね、その間から子供の手が出てたんだよ、凄く小さい。でもその位置が高いんだ、俺の背よりずっと。ほとんど天井に近かったな。バスダブだろ?足がかりになるとこなんかないじゃん。それに夜中に小さな子供?それで“誰だ?”声をかけたらその手がサッて隠れたんだ、カーテンの後ろに。思い切ってカーテンを一気に開いてみたよ。でも誰もいない。飲み過ぎたかなぁなんて思ってベッドに戻って、ふっと窓を見たらね、子供の手形がついてたのよ。あれは怖かったなぁ」
目が点になっている逹瑯にイノランは微笑みかける。
「11階の部屋だったよ。今日泊まるとこ、11階じゃないといいね。じゃ、がんばってね〜」
明るく手を振って歩き出すイノランにもう一度頭を下げてから逹瑯も歩き出す。
「・・・・・・」
集合時間ちょうどか、新幹線の問題もあるし今日は誰も遅れてこないだろうなどと考えながらだんだん早足になってしまう。
「・・・っていうか!」
もうほとんど小走りでカートをガラゴロ引きずりながら事務所を目指す。
「・・・今の話、地味に怖ぇぇぇぇぇぇ!!!じわじわじわじわ来るっ!!!!」
事務所の前に到着、移動用の車の前に立っていたユッケを逹瑯は蹴り飛ばした。
「いきなりなにすんだよ、このアホっ!!」
当然のことながら怒るユッケの肩を掴んで逹瑯は必死の形相で言った。
「今日、ホテルの部屋一緒にしない?ってゆーかしろっ!!」
「・・・いや、アナタ人にモノ頼むのに蹴りいれるってどーいうことよ?」
−誰も同室OKしてくれませんでした。
きっとサトチはさらっと「イヤだ!」と言い、ミヤ君にはそもそも頼めない(笑)
その64「ただいま、蛍」
そろそろ寝る準備をしようかと思っていた時、携帯電話が振動した。表示された名前を見てイノランは慌てて通話ボタンを押す。
「もしもし!?」
『・・・初めてイノラン君の《もしもし》って聞いたなぁ』
可笑しそうに笑う電話の相手にイノランも笑みを浮かべて言う。
「タクヤ君、日本帰ってきたんだ」
『うん、ついさっきね。で、今みんなにお土産配ってるところなんだけど、イノラン君、今大丈夫?』
「休めよ。疲れてるでしょうに。俺は大丈夫だけど何処に行けばいいの?」
『実は今、近所まで来てるんだ、角の酒屋さん分かる?』
「交差点のとこでしょ?分かるよ」
『そこの駐車場のベンチにいるから』
「了解。15分で行けると思う」
『分かった。待ってるよ』
電話を切ると、財布と携帯と鍵だけポケットに突っ込んだ。部屋着といえば部屋着だが外に出られないほどの服装ではないからそのまま扉を開けて外にでる。
まだ汚れていない空気と朝の香り、時刻は早朝5時。
薄闇の中を待ち合わせ場所に向かって足早に歩き出した。
「急にごめんねイノラン君。至急渡したいものがあったから、空港から急いで来たんだ。さて、俺はいま言葉の中で《急》という字を何回使ったでしょうか?」
ベンチの前で手を振るタクヤにイノランはちょっと眉をひそめてから言う。
「4回だろ?」
「あれぇ?引っかけ問題だったのに。まぁいいや」
タクヤはベンチに腰を下ろしイノランにも座るように促した。
「タクヤ君、言葉は遊ぶものじゃない、伝えるものだよ」
煙草に火をつけながら言うイノランにタクヤが口角を上げる。
「外で煙草吸えるの近所じゃ此処だけになっちまった、嫌な世の中になったもんだ」
ベンチ脇の灰皿を横目にぼやくイノランにタクヤも頷く。
「禁煙ファシズムはもはや全世界的になってきてるよ、健康志向と一口に言えば素晴らしいけど気に入らないものを排除するのはよろしくないわ。ところでイノラン君、ツンデレ風にお願い」
「・・・べ、べつにアンタがいなくても寂しくなんかなかったんだからっ!でも帰ってきてくれてありがとっ!」
「どんどん上手くなっていくねぇ、逆に心配になるよ」
「じゃあ振るんじゃねぇよ!」
軽く睨みつけてくるイノランにタクヤは鞄から小瓶を取り出し、イノランの手に押しつけた。
「なに、コレ?」
「お土産」
星の砂とかが入っていそうな小さな小瓶の中には、青く淡い光を放つ丸い物体がふわふわと浮いていた。
「そうじゃなくてっ!いったいこれはどういうものなの!?」
「ヴァンパイアハンター・タクヤはイングランドの遺跡で妖精を捕獲することに成功したんです」
「冗談に聞こえねぇ!!タクヤ君が言うとまったく冗談に聞こえねぇっ!!」
「心配しなくてもワシントン条約に引っかかるモノではないから大丈夫だよ」
「あたりめぇなんだよ、馬鹿!」
「妖精はワシントン条約には入ってないからね」
「マジで妖精なの!?」
「9割ぐらい冗談だから大丈夫だよ」
「1割はマジなんだっ!」
アホなやりとりをしながらイノランは改めて小瓶の中をのぞき込む。光の感じは蛍そっくりだけれど、形としては毬藻に似ている、振ってみると意外にもカラカラと軽い音がした。
「石?いや、石は浮かないし・・・冗談抜きでなんなの、これ?」
「秘密です。いつか当てて下さい」
真顔で言うタクヤにイノランは頭を掻いた。
「《いつか》ねぇ・・・」
「イノラン君、来年は一緒に旅に行こうよ。また、あの時みたいにさ」
「《来年》ねぇ・・・」
「先の約束めんどくさいのは知ってるけど、たまにはいいでしょ」
「めんどくせぇわけじゃないよ、忘れっぽいだけ。スナッキーなタクヤと違ってそうそう旅行も行かなくなったしね」
「スナフキンね。スナッキーってなんか雑魚キャラみたいだからやめて」
「おや、自分が雑魚キャラじゃないと思っていたのかい?」
「友達に罵られた!暴言吐かれた!ショックや!」
「まぁ行くにしても、何処に行く?」
「・・・桜前線ならぬ蛍前線を追いかけてみない?」
タクヤの言葉にイノランは小首を傾げる。
「蛍の出る場所をずっと見ていこうってことか。相変わらず大河ロマンだね」
「俺はそんな壮大な人間やないから。ロマンティストね」
イノランはまた小首を傾げて言った。
「それも楽しいかもしれない、来年の約束だ・・・タクヤ君、改めまして・・・おかえりっ!」
その言葉にタクヤも満面の笑みで答える。
「ただいまっ!」
−世界で一番、あたたかい言葉を、何度でも。
その65「君は優しい人」
三つ重なればそれは偶然じゃない誰かが言っていたけれど、こんな程度の低いことなら偶然でいいだろう。今回の語り部は俺、ユッケです。今、スタジオの駐車場でバイクを止めているミヤ君を発見したとこ。
「ぐっちゃおはよ」
「おはよ・・・」
根を詰める作業が多い時は眠そうだけれどとても生き生きしている。ミヤ君は根っからの音マニアだ。
「ところでさっきから聞こえてくる発情期の動物みたいな声はたつぅだよね?」
俺の言葉にミヤ君は吹き出して頷いた。
二人で声のする方へ行ってみたらたつぅが迷い込んできた子猫と遊んでいるところだった。
「なんだぁおまえかわいいなぁ〜。ご飯欲しいの〜。ごめんなぁ、今な〜んも持ってねぇんだあ〜」
大人しくたつぅの腕に抱かれていた子猫ははしゃいだ様子でたつぅの肩によじ登る。お〜いその無駄にでっかいやつは悪い人だからダメだよ、子猫ちゃん!
子猫を肩に乗せてたつぅはハイテンション、両手を広げて「ぶーん!」とかいいながらその場を旋回して、ようやく俺達に気がついた。
たつぅアホ面で俺達を見て固まっている、バカだなぁ。
「たつぅさぁ、人間にももっと優しくしてよ、主に俺にっ!」
俺達に見られたことに多少ショックを受けた様子だったけれど、すぐに立ち直ってたつぅは言う。
「ああ?おめぇも猫扱いして欲しいのか?頭掴んで振り回してやるからこっち来いよ!」
まったくこの人は・・・俺が呆れているとミヤ君がいつもの涼しげな顔でさらっと言った。
「いいんじゃねぇ?動物に優しいのは心根が優しい証拠だべ」
最後に「オマエらも早く入れよ」と言って、ミヤ君はスタジオの中に入っていった。
その時のたつぅの顔、是非とも録画したかった。
唖然として、それからにやけそうになる顔を必死で押さえ、わざと仏頂面になって、それも上手くいかずに、への字になった口と、膨らんだ鼻と、まん丸になった目と、下がった眉がなんともいえずぶっさいくで、良い顔だった。
「うしっ!!今日も頑張るかっ!!」
なんていう声はご機嫌そのもの。
「たつぅって複雑なんだか単純なんだかなぁ・・・」
と言ったら頭を叩かれた、またくだらない悪戯してくるんだろうな。
今日も良い日だ。
−何気ない一言がストライク!
その66「それは例えが悪い」
「すっごくすっごく今更だけどさ、薫君って京君のこと好きだよね、あ、腐的な意味じゃなくだよ」
突然そんなことを言いだした敏弥にメンバーの視線が集まる。
「ほんまに今更というか、何をそんな分かりきったことを言うねん」
苦笑する堕威と
「つーか《腐的な意味》とか・・・これだからオタクは」
と冷ややかな言葉を浴びせる心夜。
「ちょ、やもちゃんヒドイ!自分だってDSやるじゃない」
「DSはやるけど敏弥みたいなオタゲーやらへんもん」
「く・・・言い返せない!」
本気で悔しそうな顔をする敏弥をスルーして薫が言う。
「まぁ確かに京君のことは好きやで」
「どの部位が・・・あ、間違った、どの部分が?」
ハッピーターンを囓りながら聞く京に薫は微笑む。
「部位を聞かれたら激しく困ったとこやわ。まぁ全部やな、特に歌声」
「ああ、薫君って京君の歌声に惚れ込んでるもんなぁ、ま、それは俺もやけど」
「俺だって」
堕威と敏弥にも言われて、照れたのかちょっと顔を伏せる京に薫が言う。
「まぁ極端な例えで言うなら、京君の歌声で勃つ、ぐらい?」
しばしの沈黙の後、ずざざざざっと京以外のメンバーが薫から離れた。
「さすがにそれは引くわ・・・」
「例えにしても下品やねん、オッサン」
「リーダーが変態だ・・・」
「いや、だから極端な例えって言うたやん!実際勃ったことはないて!」
逃げていったメンバーに慌てて弁解する薫の服の裾を京がちょいちょいっと引っぱった。
見下ろせば八重歯を見せて笑う京がいて薫はほっとして言った。
「例えで言うたんに、みんな引きすぎやんなぁ・・・」
「薫君・・・」
京は笑顔から一転、これからデスボシャウトでもするように顔をしかめて一言。
「きもいっ!!」
−リーダーの頭の中でドナドナが流れました。
その67「あの名台詞をお願いします」
D姉妹コンビにお願いします『化/物/語』のあの名台詞を言って下さい。
「え、なになに?これを言ったらええん?」
涙沙さんお願いします。
「でもこれ、相手に振ってもらってから言う言葉やろ」
じゃあ浅葱さんお願いします。
「はい、《るいちゃんは僕のどんなところが好きなの?》」
違和感なく、さらりと言い放つ浅葱に涙沙はちょいっと首を傾げてから言う。
「《優しいところ、可愛いところ、俺が困っとったらいつだって助けに駆けつけてくれる王子様みたいなところ》」
しばし楽しげに浅葱と笑い合ってから涙沙ははたと他のメンバーを見て言う。
「ちょお!なんか突っ込んでや!」
その言葉に大城と恒人が失笑と苦笑が混じったような顔で答える。
「突っ込むって?今更なにを?どこを?」
「むしろ日常会話に聞こえましたけど・・・」
ねえ?とばかりに頷き合うリズム隊の隣で英蔵が大仰な動作でぶんぶん頭を振っていた。ヘドバンに見えるがたぶん頷いているつもりだろう。
では次、英蔵さん振りで恒人さんお願いします。
「え?浅葱さんか大城さんがいいです」
きっぱりと言う恒人にオーバーリアクションで身体ごと向いて英蔵が声を上げた。
「なんでぇ!?」
「理由の説明が必要ですか?」
本気で凹んだ顔の英蔵に恒人が「しかたない」とばかりに目を細める。
「じゃあいいですよ、英蔵さんで」
「《じゃあ》って・・・」
不満を漏らしかけたが「早くしろ」とデカイ目で睨まれて、英蔵は咳払いを一つ。
「え〜っと、ツネはぁ、俺のぉ・・・どんなところが好き?」
「《優しいところ、可愛いところ、俺が困ってると・・・ぷっ・・・助けに、駆けつけてくれる・・・王、子様みたいなとこ・・・ろ》」
笑いながらも言いきったが、言い終わったとたん俯いて本格的に笑い出した恒人に英蔵はさらに凹んだ顔。
「なんで笑うの!?」
「ない、王子様はないですっ!!」
俯いたまま笑い続ける恒人の隣で助けを求めるようにメンバーを見る英蔵に浅葱がさらりと言った。
「《ない》のは《王子様》の部分だけなんだね」
空気にヒビの入る音がした気がしたが、大城と涙沙が誤魔化すように上げた笑い声になんとか回避。
俯いたまま「まぁ・・・そうですね」と呟く恒人の隣で英蔵だけがきょとんとしていた。
−《王子様みたい》以外はあっていたらしい。
その68「いぢわる大作戦」
まぁ幼なじみに「ぐっちゃも協力して、お願い!」と頼まれたら引き受けないわけにはいかないだろうけれど・・・
そして俺も子供じみた部分はあるから「小学生じゃないんだから」と止めることもできなかったのだけれど・・・
本日、俺は(仕事の話は除くという約束で)ウチのパグ、いや唄うたいをシカトすることに決まった。
ユッケはまたアイツの手酷い悪戯の犠牲になったらしく、その仕返しだとか。
「さとーにも頼んでおいたから!」ってユッケ、ヤスにそんな高等なコミュニケーションスキルが備わってると思ってるのか?
とはいっても俺と逹瑯はそんなに雑談をするほうではないし上手くいけば関わらずにすむかもしれない、すでに一悶着始まってしまっているけれど。
目線すら合わさず無視を続けるユッケに喧しく喋り続ける逹瑯。ギャグ、おもしろ画像、変顔、あげくに罵詈雑言でユッケの気を惹こうとするものの、さすが二度目ともなるとユッケもやり方を心得てきたのか上手く無視している。
まぁ顔は笑いを堪えるのに必死といった感じだったが。
やがて諦めたのか逹瑯はヤスに声をかけた。
「なぁヤス〜、あのキノコが俺のこと無視してくるんだぜ?ひどくね?」
逹瑯に声をかけられるとヤスは困ったように視線を彷徨わせて言った。
「俺な、今、オマエのこと無視してるから答えられねぇ!!」
ユッケがずっこけた。ほらみろ、ヤスには無理だって言っただろうが・・・
「いや、答えてんじゃん・・・」
「無視してるからなんも言えねぇっ!!」
さすがに呆れた様子の逹瑯に色々言われていたが、ヤスはオウムのように「無視してるからなんも言えねぇ!!」を繰り返すばかりで飽きたらしい、とうとう俺の前にやってきた。
「ねぇリーダー!!メンバー内いじめだべ〜。なんとかしてよ」
俺が答えないでいると逹瑯はちょっと首をかしげて、それから鼻に皺がよるぐらい顔をしかめた。
「ミヤ君ミヤ君ミヤ君ミヤ君ミヤ君ミヤ君ミヤ君ミヤ君ミヤ君ミヤ君ミヤ君ミヤ君!」
うるせぇよ。
「ミヤ〜!ミ〜ヤ!ミヤ!ぐっちゃぁぁぁぁぁ!!!」
そしてうぜぇよ!なんだこいつ!玩具売り場によくいる子供みたいに足をばたばたさせながらウチの唄うたいは俺の名前をバリエーション変えしながら連呼する。
「りーだぁぁぁぁ!矢口さん!!雅哲君!!ぐっちゃ〜?」
それでも俺は無視を続ける。こっそりうかがえば逹瑯はこれ以上ないほど不満そうな顔で俺を見ている。
「冗談でしょ?ミヤ君も乗ってるの?メンバー内いじめだよ!文部省にかけこむよ!?」
今は文部科学省だよ、そしてバンド内のもめごとなんて管轄外だろう、文部科学省が請け負ってくれるなら俺はオマエの存在そのものを問題として持ち込んでるつーの!
「寿限無、寿限無、五劫の擦り切れ、海砂利水魚の水行末 雲来末 風来末・・・続きなんだっけ?」
食う寝る処に住む処、やぶら小路の藪柑子、パイポパイポ パイポのシューリンガン、シューリンガンのグーリンダイ、グーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの長久命の長助だろう。でも口は開かないぞ、その手には乗らない。
「あ〜ゴメン、ミヤ君は舌っ足らずな上に噛みまくるから寿限無なんて言えないよね」
・・・コロスぞ。
「俺どっちかつーと《たらちね》のほうが言葉のリズム的に好きなんだけどね」
・・・俺もそっちが好きだけどな。あっちのほうがサゲが面白い。
さっと俺の目の前に逹瑯の携帯電話が差し出されておもしろ画像を見せられたけど笑わずに回避。
これはこれでゲームみたいで楽しいな。
「ホント、ミヤ君って動じねぇなぁ・・・」
なんて言いながら逹瑯は携帯をいじっている。
「ミヤ君は動じないなぁ・・・」
うるせぇ、顔に出ないだけだよ。俺は癖で出しかけた煙草を目の前にいるのが逹瑯だということに気づいて、またしまった。
逹瑯はそれを見て嬉しそうに笑った。
こういうところは、分かりやすいヤツ。
「実はさあ、ミヤ君が好きだって言ってた白木蓮、俺もけっこう好きなんだよね、被るのもなんだなぁと思って言わなかったけどさぁ・・・」
そうなのか、へぇ。もっと派手な花が好きかと思ってたのに。
「早く咲く季節にならねぇかなぁ」
これから秋だっていうのにずいぶん先の話をするんだな。
「なんか変なの、ミヤ君一言も答えてくれてないけど、ちゃんと話してるみたいで可笑しい・・・」
俺もまさに今、そう思ってたよ。
「さて、あのキノコどついてくるわ、ミヤ君にまで俺のシカト頼むなんていじめてくれって言ってるとしか思えねぇし」
まぁな、いいかげん逹瑯には勝てないってこと学習したほうがいいと俺も思う。
ま、オマエらにとっちゃこういうやりとりも楽しいんだろうけどさ。
「じゃね!」なんて言って背を向ける逹瑯を見送りながら俺は思う。
この勝負、どっちの勝ちなのかな、と。
−たぶん引き分けです。
その69「それはヒントになってない」
撮影の休憩中、お菓子をつまんでいた涙沙が急に「あ〜!」と声を上げて隣で同じくお菓子をつまんでいた恒人に言った。
「なんやっけ、アレ、映像は浮かぶのに音がでてこん!!」
「どんなのですか?」
「アレ」だけでは分からない、と首を傾げる恒人に涙沙は無駄に手を動かしながら言う。
「あんな、動物が出てきて、青くて、あと虫がいっぱい出てきて、目が光って、へんなおじさんが出てくんねん!!」
「・・・えっと、ホラーですか?」
「いや、ホラーやなくて、なんか不気味なやつ!!なんやっけ?」
「・・・・・・分からないです」
とりあえず言われたものを想像してみたものの、そんな端的な言葉でまともな映像が浮かぶわけもない。不満そうな涙沙に恒人はすまなそうに苦笑いを浮かべた時、向かいに座っていた浅葱がぽつりと言った。
「《まっくら森の歌》じゃない?あさ〜からずっとまっくらくら〜いくらい♪って歌」
涙沙はぱあっと顔を輝かせて手を叩いた。
「それや!浅葱君さすがやな〜、なんでも知ってるなっ!」
「いや、ツネは世代が違うから分からなかったんじゃないかな・・・」
「あ、そっか。ごめんなぁ」
「・・・いえ」
というか、浅葱が唄っているのを聞いて恒人もはっきり思い出せたのだが。
映像も浮かんだのでちゃんと見た記憶もあるのだが・・・
(なんであのヒントで分かるんですか!?)
という叫びが喉元まで出かかったが飲み込んだ、おそらく此処も突っ込んでもしょうがない部分だ。
「大人になってから聞き返すと《死》のメタファーだったんじゃないかと思うんだよね・・・」
独自の歌詞解釈を語り始めた浅葱の言葉に涙沙と一緒に耳を傾けながら恒人は思う。
(あれだ、まさにツーと言えばカー、だな)
−あ様に唄われたら異世界に誘われそうですね。
その70「数年越しの解決編」
その日、ドS同盟の二人が集まっていた。マオはツアーの合間の休息、逹瑯は海外に行く前の日本食食い溜めも兼ねている。
「やっぱミヤが手強い、天然だけどいぢらせる隙がねぇもん、基本的にウチのメンバー俺以外はくそ真面目だし」
「まぁ確かにウチのメンバーはいぢりがいありますね、まぁ俺が一番年上っていうのもあるけれど・・・」
ゆうやが呼び捨てにしてくるようになったのは最近のことで、それでも「君付け」だったり「さん付け」だったりあまり安定していない。
全員同い年で同郷のムックのメンバーとは条件が全く違うのだ。
「でも明希は酒が入ったら最強ですから、知ってるとは思いますけど酒乱ですよ酒乱、酔った明希にはだ〜れも勝てない」
最近ようやく落ち着いてきてくれたが思いだせば頭が痛くなるようなことばかり。
「あ〜ウチは基本みんな酔ったら潰れるだけだしな。明希の酔い方はマジでひどい」
「・・・そういえば、昔メンバーと4人で明希の家で飲んだ時のことなんだけど」
ふとマオが真顔になって話し出したので、逹瑯は何かおもしろい話かと身を乗り出した。
「ま、いざとなったら酔った明希を置いて帰っちまえ!ってことで明希の部屋で飲んだんだと思うけど・・・明希ががんがん飲ませるからしんぢもゆうやも早々に潰れちゃって結局俺がお守りしてたわけですよ」
数年前の話だ、たいして良いところに住んでいたわけではない、真夜中に大騒ぎして隣部屋から苦情が来たりしたら大変だと、いろいろ気を使ってはみたものの、酔っぱらっている明希にそれが通じるわけもなく、歌うわ喚くわ収拾がつかなくなってしまった。
「で、俺も酔ってたし、ちょっと頭にきたんで明希ちゃん押さえつけて“いいかげんにしねぇと犯すぞこら!!”って脅したんですよ」
逹瑯は小鼻に皺をよせてマオを見る。
「おいおい、シャレでも言うなよそんなこと、言葉のチョイスがひどすぎるよ。・・・で、どうなったんだ?」
「明希ちゃんはにっこり微笑みましてね“いいですよ〜。冷凍庫にこんにゃくゼリーが・・・”とだけ言ってそのままぱたっと眠ってしまいました・・・」
遠い目をするマオに逹瑯は苦笑して言う。
「で、とーぜん明希はそれを覚えていなかったわけだな」
「そのとーりです。今でもアレを思いだすと気になって眠れなくなりますよ、なんで“冷凍庫にこんにゃくゼリー”だったのかなって」
「難儀なやっちゃなぁ・・・」
と笑う逹瑯はふと、何かを思いついたらしくさらに身をのりだした。
「なぁ、冷凍庫の中にはこんにゃくゼリー、あったのか?」
マオは少し首を傾げる。
「ん・・・ああ、ありましたよ。気になったんで確認したから」
「それさ。たぶん“お菓子ないの?”的な言葉と聞き間違えたつーか勘違いしたんじゃねぇか、明希は」
しばしの沈黙の後、マオは「ああ!!!」と大声を上げた。
「うるせぇよ、声デカイんだから・・・」
「そっか、それか!喉の小骨が取れた気分ですよ!」
「・・・よかったじゃん。にしても明希様酔っ払い最強伝説はいくらでも出てくるんだな」
−名探偵逹瑯。
その71「ドSとドMの関係性」
この状況は話の展開上の都合だということで集まっている面子はさらっと流してくださいな。とすげぇ導入から始まります今回の舞台は都内某居酒屋、主に中堅クラス集合飲み会。
移動したりなんだりで座敷の六人用テーブルに北にドS同盟、南にマゾ同盟が偶然着席。
右手に酒、左手に水を持った明希が言う。
「やっぱあれですよね、気持ちいいですよね、拡張って・・・」
それに答えるミヤが食べているのはジョッキパフェで明らかに見た目からして持ってる物逆のほうがしっくりくる並びだ。
「ああ、俺も拡張は好きだ、ちょっと痛いのがなんか癖になる」
くいっと酒を飲み干して明希は弾んだ声で言う。
「そーなんですよね!あの肉がひらいてく感じも気持ちよくて・・・」
生クリームをたっぷりまとった苺を口に入れながらミヤも同志を見つけた笑顔。
「そうそう、ダメだって分かってるのにちょっと大きめのサイズに挑戦したくなる衝動を抑えるのが大変で・・・」
「ちょっと危ういかな〜ってサイズにチャレンジするときのあのドキドキ感がまた・・・」
その会話を遮るようにダンッ!とグラスを置いて、今まで大人しく飲んでいたマオが身を乗り出した。
「あの・・・俺が悪いのは分かってるんですがっ!お願いですから、お願いだから《ピアスホールの拡張》ってちゃんと言って下さいっ!」
きょとんとしたミヤに対し明希はすぐに顔を赤くして叫ぶ。
「アナタね!当たり前だから言わないんだよそんなこと!なに連想しちゃってるの!?」
マオの隣で逹瑯がにまにまっとした笑みを浮かべながら言う。
「あ〜あ、マオが失言だ、とんでもない失言だ、最悪〜!」
「いや、だって思っちゃったもんはしょうがないでしょう!?」
「え・・・なにが?」
ミヤだけ意味が分かっていないらしく逹瑯に聞くが、逹瑯はにま〜と笑ったまま正解を言わない。
「やだぁリーダーってば、ウチのお馬鹿の主語抜き喋りに慣れすぎちゃった?」
「ヤスはたまに動詞も抜けてるって・・・いや、だからなんの話なんだよ?」
「うっそ〜!?わかんないの?やだぁ!」
「なんでおねぇ語になってんだよ」
「いや!もうこの話ナシナシ!!」
顔を押さえて後ろの壁にもたれるマオを明希が冷ややかな目で見る。
「ホント、なに言ってんだよ〜!信じられねぇ〜」
「え?呼んだ?」
ちょうど明希と背中合わせになる位置にいたしんぢがふり返る。
「いや・・・呼んでないし・・・」
口を尖らせる明希にしんぢが胡散臭さ全開スマイルで言う。
「実はさっきから話聞いてたんだよ、いやぁ明希のエロトークに俺の息子が「言わせねぇよ!?」
某人気お笑い芸人(トリオ)のローテーション漫才のオチの如きやりとりのトドメに明希が手刀でしんぢの側頭部を叩いた。
「いたっ!明希、今のホントに痛いっ!」
「るせぇ!目玉焼くぞごらぁ!!!」
煙草片手にヘッドロックをかけてくる明希をしんぢが本気で押さえる。
「あ、ブラック明希様降臨だ・・・」
「なに、それ?」
もう話に飽きたのかジョッキパフェを食べることに戻っていたミヤがマオの呟きに答える。
「破壊神よりは可愛い、酔っ払い明希しこです・・・」
「どっちにしろ酒乱じゃん」
ミヤのツッコミは的確だった。
「おいおい、話逸らすなよ。マオにゃ〜ん、どんな失言したんだっけ?拡張って聞いてなに連想したのか言ってごら〜ん?」
にまにま笑いを引っ込めない逹瑯に言われてマオはまた顔を押さえる。
「もういいじゃん!同盟切りますよ!?」
「誰でも平等にいじめなきゃドSが廃りますので〜」
「えっと、つまりアレか、マオは下ネタを言ったのか・・・」
悪気の欠片もなく追い打ちをかけてくるミヤにマオは膝に顔を埋めて首を振った。
「すいませんでした、失言でした・・・」
その向こうでやや切迫したしんぢの声。
「マオ〜!明希どうにかして!」
「てめぇは自業自得だろうが、自分でなんとかしろっ!こっちはそれどころじゃないつーの!」
キレるマオに明希はしんぢの首を絞めるのをやめて着席、水を一口飲んで首を傾げた。
「え〜〜〜〜〜〜〜〜〜と、なんの話してたんだっけ?」
「拡張の話」
最強マイペース天然ミヤの言葉に明希はうんうん頷いた。
「そうでした、拡張の話でした、いいですよね、アレ」
「いいよな」
当たり前のように元に戻った天然二名に逹瑯も笑みを引っ込めて唖然。
「え?なにこれループするの?マオ、もう一回さっきと同じ台詞言ってみて」
「・・・いやです」
−アイテム《酒》で《酒乱》が発動するとマゾ同盟は《無敵》状態になります。
その72「ドSとドMの関係性(その2)」
拡張の話は4度目のループに入ったところでミヤが気づいて終了した。明希はともかくミヤは素面だったので気づいて当たり前だが。
相変わらずハイペースで飲み続ける明希とジョッキパフェを食べ終わり至福の表情を浮かべているミヤ、先程の失言を引きずっているマオに逹瑯が言った。
「王様ゲームでもやる?」
「いや、なんでっすか!?」
マオから正当なツッコミが入った。
「暇だから。この4本のつまようじのうち一本だけ先が折ってあるからそれ引いたヤツが王様で残り三人は王様の命令に絶対服従で」
「あれ?なんかルール違わないですかぁ?」
酔って舌っ足らずさが増している明希に逹瑯がさらりと言う。
「ん、ローカルルールだから」
「なるほろ〜」
「明希しこ〜!どう考えても嘘やろ、納得するなよ〜!」
マオに言われて明希は怪訝そうに首を傾げた。思考能力低下中。
「いいじゃん、やるべ」
「阿呆かおまえ、絶対細工してあるだろ、そのつまようじ」
ミヤの指摘に逹瑯は心底驚いた顔。
「なんで分かったの?バレないようにこっそり準備したのに・・・」
「おまえはやることがワンパターンなんだよ」
「ちぇ〜」と逹瑯はつまらなそうにつまようじをテーブルにばらまく。
「さすがリーダーですね」
「こんな部分でリーダー性発揮するってすげぇ無駄づかいだよ・・・」
感心した様子のマオと投げやりな感じのミヤが笑い合っていると、明希の嬉しそうな声。
「あ、鳩が休んでますよ〜」
「・・・どんな腰の折り方だよ」
マオにもミヤの投げやり感が伝染したらしく半眼。
「明希様、Bカッコイイ!」
逹瑯にびしっと親指を立てられて明希は首を傾げる。
「なんっすか?“Bカッコイイ”って・・・」
「B型っぽくてカッコイイ!略してBカッコイイ!」
「いや、確かに俺はB型ですけど、俺のどこがB型っぽいんですか?」
「「全部だよ!!」」
明希のあんまりな発言に逹瑯とマオ、同時ツッコミ。
「つーか明希しこ。おまえいつもみんなから“B型だよね”って言われるって自慢してたやん」
マオに言われて明希は首を捻りつつ記憶を辿る。
「そーいえばそうだねぇ。忘れてた」
「Bカッコイイ!!ねぇミヤ君、どう“Bカッコイイ”って言葉」
嬉しそうな顔で逹瑯はミヤに振るがミヤは遠くの壁に視線をやって、目を細めていた。
「ミヤく〜ん!リ〜〜ダ〜〜!?」
目の前で手を振られてミヤはようやく視線を逹瑯に戻す。
「・・・あそこに書いてあるフォンダンショコラって美味いかな?」
しばしの沈黙の後、逹瑯とマオが同時に叫ぶ。
「「Bカッコイイ〜〜〜ッ!!」」
−O型だけど、Bカッコイイ!!
文字だとわかりやすさ優先でこうしましたが口で言う時は
「Bかっけぇぇぇぇ!!」みたいな感じで(笑)
その73「本音?」
異国のアナウンスにもずいぶん慣れてきた、海を越えるだけでどうして香りや空気の色まで変わってしまうのかそれはまだ分からないけれど・・・
と、格好良く導入してみました、今回の語り部、ユッケです。
ナイトフライトに備えて飛行機の座席に着いたらさっそく寝る準備。時差は強大な敵なんですよ。隣のサトチもさすがに大人しく俺と同じく寝る準備。
後ろからアホ・・・逹瑯の声が聞こえてきた、珍しく後ろでミヤ君と並んでいるのだ。
「そういや日本出る前にさ、ガラにディルのライヴDVD見せられたの、で、見てて思ったんだけど《お立ち台》って格好良くねぇ?」
「ああ、そうだな」
リーダー、力一杯生返事。「力一杯」の「生返事」ってなんかすごい言葉だね☆
「俺もアレ使ってみたいなぁ、《お立ち台》ぜってーカッコイイべ!」
おねだりなんだか雑談なんだか微妙なラインだけれど俺は背もたれから顔を出して逹瑯を見た。うわ、変な顔。そんな迷惑そうな顔しなくてもいいじゃない。
「ダメだよ、たつぅの身長で《お立ち台》なんか立ったら電球交換してる人にしか見えないよ!」
「このバカ者っ!!」
顔面に掌底を喰らった。加減をしろ、加減を!!アホ!!
「よりにもよってパクリギャグなんてオマエはプライドねぇんか!」
「いや、意味分からないんだけど!」
「・・・機内で騒ぐな」
ぼそりとミヤ君が低音で言ったので俺は大人しく自分の席に座った。
「ねぇリーダー、どうよ、《お立ち台》!?」
「オマエと京さんじゃ違うだろ・・・・」
「身長が!?あ、俺が《お立ち台》なんか立ったらミヤ君がますますちっちゃく・・・ごめんなさい・・・・」
睨まれて凹んだのが会話だけでも分かるよ、面白いな〜この二人。
「そっちじゃなくて動きだよ。京さんはわりとその場でパフォーマンスするけど、オマエは暴れまわるだろ」
「あ、そっか・・・まぁ確かにね」
「《お立ち台》の上で暴れてうっかり落ちたらしんぱ・・・っ迷惑だろう」
「ちょっと、なんでわざわざ酷い方で言い直す・・・」
逹瑯の言葉が止まった、ぶっちゃけ俺もフリーズ。サトチはひゃーって感じの顔で俺を見ている。
「・・・・・・今、《心配》って言った?」
「言ってない」
「嘘だぁ、言いかけたべ、《心配》って」
「噛んだんだよ」
「へぇ、噛んだの、へぇぇぇぇ!」
「・・・俺はもう寝るから静かにしてくれ」
「はいはい、リーダー」
逹瑯のにやけ面とリーダーの照れを誤魔化した顔が見られないのが残念だなぁ。
良いナイトフライトになりそうだ。
−某DVDで頭に怪我したたたを心配そうに見るリーダーがツボに入ったんです。
その74「二択ですらない!(ハロウィン記念)」
「・・・る君、薫君」
耳に馴染んだ声で名前を呼ばれて薫は目を開けた、どうやらスタジオで休憩の合間に眠ってしまったらしい。
「あ、ごめん寝とったわ。どした?京君」
薫の前で京はにこ〜っと無邪気な笑みを浮かべて一言。
「Trick and treat!!」
「ああ、今日はハロウィンか・・・あれ?京君、もう一回言って?」
「Trick and treat!!」
「お菓子か悪戯かすら選ばせてもらえへんのかいっ!!」
身を起こして叫ぶ薫を京は鼻で笑う。
「やればできるやん、即座に突っ込めや」
「いやいや、俺は別に突っ込みのスキルを磨きたいわけではないで!?」
「いつも堕威君ばっかに突っ込み役やらせて可哀想やろ?それはええねん、もうトリックはすんだからトリートよこせ!!」
ずいっと手を差し出してくる京に薫はしかたないなぁと頭を掻きつつ鞄をあさって、ハッピーターンを渡した。
「またコレかい・・・」
「しゃあないやん、なんも準備してへんかったんやから」
むぅっと口をとがらせながらも京は薫の隣に座ってハッピーターンを囓る。
「まこなんてこーんくらいのジャック・オ・ランタンのケースに入ったお菓子の詰め合わせくれたで?」
そう言ってバスケットボールぐらいの円を描く京に薫は苦笑いを浮かべる。
「ガラにも“トリック・アンド・トリート”って言ったん?」
「うん・・・“どんな悪戯してくれるんですか?”とか目を輝かせて言ってくるから・・・さすがにちょっと引いた・・・」
「あいつどんどん悪化してないか?」
まあガラも薫にだけは言われたくないだろうが。
「ただいま〜」とコンビニに行っていた敏弥が戻ってきた、そして薫の顔を見るなり「うひゃ!!」と珍妙な悲鳴を上げた。
「なんやねん?」
睨め付けてくる薫に敏弥は顔を引きつらせながら「鏡見て!鏡!」と折り畳み式の手鏡を渡してくる。
薫が鏡をのぞくと・・・前髪をリボンで結って額に《肉》と書かれた自分が映っていた。
「なんじゃこりゃぁぁぁぁ!!」
殉職した有名刑事のような声を上げる薫の横で京は知らん顔。
そういえば「トリックはもうすんだ」とか言っていたか・・・
慌ててリボンを解く薫の隣、ハッピーターンを食べ終わった京がターゲットを敏弥にロックオン。危険を察知して逃げる敏弥ににじり寄りながら笑顔で言う。
「Trick and treat!!」
「どっちにしろ両方やられるのねっ!?」
−悪戯させろ!お菓子もよこせ!!
その75「萌えについて本気出して考えてみた」
「そういえば涙沙さん、《萌え》って具体的にいえばどういう感情を指すんですか?」
撮影の合間の食事中、弁当を突く手を止めて恒人が涙沙にそう質問した。
「なんでピンポイントで俺に聞いてくるんか・・・はさておき、《萌え》なぁ・・・ツネが英蔵君に抱いとる感情とちゃう?」
「え?そうなんですか?」
納得いかないと首を傾げる恒人の隣で大城が苦笑いしている。
「だってツネ、英蔵君の写メ、専用のファイルに保存してあるやん」
「ぶはっ」と英蔵が口に入れたからあげで咽せた。
「なんでそんなことを知っているのか・・・はさておき、アレは面白いからとってあるだけですよ・・・強いて言うならば誤植を発見したのでとっておきましたみたいな」
「・・・俺の存在はVOWレベルなの?」
英蔵の悲痛なツッコミを「まさにそうです」と恒人は流した。
「あははは、ツネ上手いこと言うなぁ!」
「《築五分、駅から5年》ってチラシ発見したら間違いなく写メ撮って保存でしょう?その感覚ですよ」
ツボに入ったらしく笑い転げる涙沙と恒人。
「ちょっと、俺の存在は《築五分》なんて誤植チラシと同格!?」
「いいじゃないか、築五分君」
「変なあだ名定着させようとしないでくださいよ・・・」
大城にも笑いながら言われて英蔵はがっくりと肩を落とす。
「まあ築五分さんのことはともかく《萌え》なんですけど」
定着してしまったらしい、《築五分》。
「ん〜と言われてもなぁ、感覚的なもんやし・・・まぁ《萌え》って言葉が自然に出てくるようになったら《萌え》を理解した、みたいな・・・でもなんで突然そんなこと思ったん?」
「いや、最近ファンレターとかにも《萌え》って単語が出てくるんで・・・あの衣装可愛くて萌えました!みたいに」
「どの衣装?」
「変なとこ食いつかないでくださいよ、築五分さん」
英蔵が口を挟んだが、挟む場所はおかしかったため恒人にそうスルーされた。
「俺ね・・・最近よく使われてるなと思って調べてみたんだけど、《萌え》って言葉」
ずっと微笑みながら話を聞いていた浅葱が喋りだしたので他の4人は浅葱に視線を移した。
「《萌え》っていうのはつまり相手に対する好意的な感情で、例えば衣装が可愛いとか眼鏡がカッコイイとかそういった《属性》っていうの?とあと仕草とか言葉に庇護欲をそそられたりした時に使う、つまり相手に魅力を感じた時に使う言葉だって理解したんだけど・・・るいちゃんこれであってる?」
ぽかんと空いていた涙沙の口元が引きつった。
「ああ、うん・・・あってるんちゃう?」
そこまで考えたこともねえよって感じだったが、相手が浅葱なので涙沙はそう返した。
「と、いうことは、俺はメンバーみんなに萌えてるよ」
さらりと放たれた浅葱の言葉に4人分の割り箸が散らばる音がした。
沈黙・・・の後、残り4名は一斉に吹き出し、笑った。
「まあその理屈でいくなら、まあな、そやな!」
「確かに萌え萌えだね〜」
「なら俺の英蔵さんおもしろ画像ファイルも萌えファイルと言えなくもないかもしれませんね〜」
「うわあすごいついで感!でも俺もそうだな〜萌えだな〜」
「そうでしょう?」
満足そうに微笑む浅葱に4人はまた笑った。
−空気をクラッシュしてもすぐ再構築。
まあツネは若いから「萌え」ぐらい理解してるかもしれませんけどね。
その76「ツンデレ的誕生祝い」
「ミデ蔵さん」
輝かしい笑顔で寄ってきた恒人に防御態勢をとりながら英蔵は言う。
「俺の名前違うよ!そ、そんな昔のネタ引っぱってきて・・・」
「何を言っているんですか、俺は普通に呼びましたよ、空耳じゃないですか?」
「責任転嫁されたっ!」
「英ZOOさん」
「また間違えたよね!明らかに悪意で間違えてるよね!?」
「俺はちゃんと呼んでます、空耳が酷いですね、耳鼻科行ってきたほうがいいんじゃないですか?」
「空耳じゃねぇって!でなきゃツネが俺の名前噛んだんだよ!」
「失礼な、俺は生まれてこのかた噛んだことなんて一度もありませんよ」
「それは嘘だろ!俺、ツネが噛んだトコ見たことあるよ!?」
「・・・へえ、いつどこで何年何月何日何時何分何秒ブラックホールが何回消滅した時ですか?」
「今時小学生でもそんな言い訳しないよ!なんなのさ?」
「いえ、ミデZOOさん今月誕生日でしょう?」
「ついに俺の名前の原型がなくなった・・・そうだけど。つーかまたツネとの歳の差が6歳か」
「・・・6歳差、と考えると英ZOOさんが小学校に入学する頃、俺はまだ生まれたての赤ん坊だった、ということになりますね」
「ああ、そうなるね」
「そして俺が小学校に入学する頃には、(`зW)さんはすでに小学校卒業、ですか・・・」
「今、なにかすごく器用な呼び方で俺を呼ばなかった!?まあそうなるけれど」
「そしてミデ蔵さんが成人する頃、俺は人生で最もイタイとされる14歳ですか、それを考えると6歳差というのはとてつもなくエロいですねぇ・・・」
「エロくはないよっ!?どこがエロいの!?どのへんがエロいの!?」
「どこがって・・・そんなの俺の口からはとても・・・」
「そんなに!?逆に気になるよ、すごく聞きたいよエロい理由を!」
「セクハラで訴えますよ?」
「振ったのそっちじゃんか!」
と、下手組の漫才を見るその他3名。
「楽しそうだな〜元気にいぢられてるなぁ・・・」
「どことなく幸せそうやし、ほっとけばええか。しかしツネもさっさと聞けばええのに」
ほっこりしている大城の隣で涙沙が苦笑気味に言った。
「ん?ああ、ツネちゃん用事があって話しかけてるんだ、あれ」
「誕生日プレゼントなにが良いか聞きたい、らしいんやけど・・・」
「そんなありふれた一言のためだけに英ちゃんはあそこまで言われてるの!?」
さすがに驚いた大城の隣でずっと目を閉じて何かを考えている様子だった浅葱が口を開いた。
「ブラックホールは一度も消滅してないよね?」
「・・・浅葱君、そこ突っ込むとこちゃうから」
−どこまでもツンデレ。
その77「リーダーはつらいよパート2」
久々にメンバー全員がオフというその日、薫は自宅でマネージャから連絡を受けた。
曰く「明日の撮影がセッティングの関係で3時間早まったのでそれを全員に伝えて欲しい」とのこと。
マネージャーも色々忙しいので「それぐらいは」と引き受けた。
「ってちょっと待て、以前これと全く同じ導入でろくでもない目にあった記憶があるで!」
だから「パート2」って言ってるじゃないですか。
「・・・じゃ、今回は心夜からかけようかな」
順番変えても結果は同じだと思いますけどね。数コールのあと通話が繋がった。
『心夜です!得意技は3バスドラです!』
「おまえ誰やっ!?」
『心夜ですって名乗ったやん・・・』
「嘘だっ!!心夜はそんなアクティヴな挨拶せぇへん!お前偽物やな!!」
『そのボケ殺しは薫君やな』
「何事もなかったかのように話を進めようとすんな!!」
『電話越しに喚かんといて、鰈臭がするやろ』
「俺はいつから魚類になったん!?」
電話越しから露骨なため息が聞こえて声がいつものテンションに戻った。
『・・・で?なんか用事?』
「そのドライさは本物やな・・・」
さっさと用件を告げると電話を切った、次に選択したのは敏弥の番号、こちらもやはり数コールのあと繋がった。
『敏弥ですっ!!得意技はベースの弦千切りです!!』
「・・・あ、とし坊?ちょっと連絡事項があるんやけど」
『スルーしないでぇぇぇぇ!!!』
がんがん声を響かせて敏弥が叫ぶので薫は受話器から耳を離して顔をしかめた。
「だってつまらんかったし、意外性もないし」
『薫君にダメ出しされると腹立つぅ!』
「で、連絡事項なんやけど・・・」
『だから無視しないでよっ!』
ぎゃーぎゃー喚くのをなんとか宥めて連絡事項を告げて電話を切る、次は・・・少し迷ったが京の番号を選んでかける。
『京様です、得意技はティルトウェイトです』
「大きく出た上にマニアックやなぁ・・・」
『分かりやすく言うと核爆発や』
「まあ京君の存在がそんなもんやけどね」
『・・・ん?そのボケ殺しはもしや薫君?』
「京君、ちゃんと相手確認して出なあかんやろ」
『なんで他のヤツには言わないで俺にだけそれ言うん?』
「・・・なんで他のメンバーには言ってないこと知ってんねん」
『ふっ、引っかかったな、斧をかけたんや』
「それを言うならカマかけた、やろ?」
『・・・・・・・・・・・・・・・うぬ』
「え!?今の素っ!!??」
『バディ!!』
「即死魔法唱えるな!」
ある意味突っ込み役がもう一人必要なやりとりの後、連絡事項を伝えて電話を切った。
そして最後に、堕威の番号を選択してかける。
『堕威です!得意技はペットボトル投げや!』
「・・・お前らさ、俺の知らないところで談合でもしてんの?」
『は?なに言うてん?』
「え、ちょお待て!偶然4人とも同じボケなん!?」
『ん?そのボケ殺しは薫君やな!』
「なあ、絶対談合してるやろ!?」
電話越しに堕威の唸る声が聞こえる。
『薫君、まさか電話俺が最後?』
「・・・そうやけど?」
『困ったな、オチ考えてへん・・・』
「いや、落とす必要ないちゅーねん!!」
−特に談合はしていない、メンバー内テレパシー。
その78「リーダー最強伝説!」
※海外ツアー前。
「何これ?ペットホテルのチラシ?」
机の上に無造作に放り出されていたそれを手にとって逹瑯はミヤを見る。
「ああ、さすがに長期間になるし、友達に預かってもらうにしても難しいかなと思ってプリントアウトしてきたんだけど・・・料金がバカにならないから結局やめた」
「さすがにペットホテルに長いこと預けるのも心配だしね、俺は実家で預かってもらうことにしたよ」
「ああ、やっぱホテルじゃ不安だよな。俺もそうするつもり」
猫と犬という違いはあれど動物を飼っているもの同士、心が通じ合った会話。
逹瑯がペットホテルのチラシをミヤに返すと、ミヤは改めてそのチラシを見て目を細めた。
「ああ、でもここ・・・大きさの制限があるんだ、無理じゃん」
「・・・は?」
逹瑯は怪訝そうに顔をしかめる。大きさの制限って、ミヤが飼っているのはチワワだろう。小さすぎると預かれないということか?しかし今時、小型犬を預けられないペットホテルなんてあるわけもない。
「50キロ以上の大型犬は預かれないのか、そうか・・・」
50キロ以上の大型犬?自分の知らない間に新しい犬でも飼い始めたのかと、逹瑯は首を傾げた、確かにボルゾイとか飼っていたら似合いそうではあるけれど。
「逹瑯は預けられないのか・・・」
さらりと、まったく表情を変えずにそう言い放ったミヤに逹瑯はずっこけた、本気で転んだ。
「・・・ミ、ミヤ君?」
「ん?どうかしたのか?」
「ちょ、今の天然!?」
机に手をついてなんとか起きあがった逹瑯はびしっとミヤを指さして言う。
「誰が犬よ!?ミヤ君の飼い犬になった覚えはないね!しかもなんで俺、預けられるの!ボーカルなんですけど!一緒にツアー行くんですけどっ!!??」
そんな逹瑯を不思議そうに見上げてミヤが一言。
「オマエ、なんの話してるんだ?」
「・・・・・・無意識で言いやがったよ、この人っ!無意識に人を飼い犬扱い!?」
−正しいこと言うから勝てない時と天然すぎて勝てない時があるんです。
その79「何故、今更?」
※ディル海外ツアー中。
「あれやな、日本食喰いに行くつーとすごい集合率上がるよな、京君いるし・・・」
「・・・おったらあかんのかい」
「ってゆーかラーメンって日本食?」
「国民食や、カレーとラーメン嫌いな奴なんておらんやろ」
「そんなわけないやろ、探せばおるって」
「うっさいな、重箱の隅突くな!」
まあそんなことを言いながら食べている最中、ふと堕威が言った。
「そーいやさっき聞いたんやけど、今日泊まるホテル、幽霊出るて」
「・・・いらん情報持ってくんなや」
露骨に嫌そうな顔をする薫の隣で京が猫口になって言った。
「は!死んだ人間より生きてる人間のほうが強いねん、ビビることあらへんわ」
「・・・とか言いつつ京君、その顔は強がってる時の顔だよね〜」
悪戯っぽい笑顔で言う敏弥に、軽く舌を出して京はそっぽを向いた。
「大丈夫や、京君が歌ったらどんな怨霊でも浄化されるって、たとえ近衛天皇の怨霊でも!」
何故か力一杯、良い笑顔で言い放つ薫に心夜が淡々とツッコミを入れた。
「薫君、近衛天皇は怨霊になってへん、なったのはその兄弟の崇徳天皇やから。なんで近衛天皇なんてマニアックな名前が出てきて崇徳天皇と間違えんねん、怨霊の名前上げたいのならもっと有名なんいくらでもいるやろ、なんでいちいちハードル上げるん?」
「・・・そこまで言わんでもいいやろ」
「あと・・・浄化できるとか、どんだけ夢見てんの?」
傷ついた顔の薫に京がさらっと追い打ちをかける。
「いや、でも浄化とはいかなくても京君が歌ったら霊も逃げそうやない?」
「そーそー霊も怖がって逃げる、逃げる!」
堕威と敏弥はツボに入ったのかきゃらきゃら笑い出した。
「京君、俺の部屋で一曲歌って〜!」
「あ、俺の部屋でもよろしく!」
巫山戯る二人に京は呆れた顔。その横で薫がずいっと手を差し出した。
「一曲につき5千円や」
「ちょ、メンバーから金取るんかい!?」
「しかもなんで薫君が仕切ってんのさぁ!」
「5千円?薫君、5千円なん?」
京に言われて薫はふっと笑って言い直す。
「ほな、85兆円や」
「国家予算レベルやん!」
「一曲で!?一生レンタルじゃなくて!?」
「一生だったらレンタルちゃうやろ、阿呆」
ぎゃあぎゃあ騒ぐ年上メンバーを横目に心夜がまたボソリと言った。
「初めて海外でレコーディングした時・・・」
隣に座っていた堕威と向かいの敏弥が心夜の方を向く。
「ああ!そうだった!あの時泊まったとこも幽霊が出るとかで!」
「でも結局な〜〜〜んにもなかったよねぇ」
心夜が顔を上げて、敏弥の斜め後ろに視線をやってから言う。
「あの時から敏弥にずっと赤毛の女の子が憑いてるけど、なんともないみたいやから幽霊なんて怖いもんやないな」
一瞬の「はい??」という空気の後、心夜以外の全員が敏弥から離れた。
「ちょ、やもちゃん!?なんでそんな10年も前からのことを今言うのさっ!!」
あわあわと後ろをふり返りながら叫ぶ敏弥に心夜は軽く首を傾げ、一言返した。
「・・・なんとなく、やな」
−10年憑かれっぱなし!
その80「慣れなかったのっ!」
仕事場で簡単な誕生祝いをしてもらい、英蔵は心の底から嬉しそうだった。
どことなく全体的にほっこりした空気の中、ふと大城が言う。
「そういや、英ちゃんさ。せっかく誕生日なんだし、オレらになんかやってもらいたいことないの?」
「いやあ、もう祝ってもらって、プレゼントまでもらって満足ですよ〜」
「欲がないこと言うねぇ、なにか希望言えばいいのに」
肩をばしばし叩きながら言う大城に英蔵は少し首を傾げてから答えた。
「えっと、じゃあ・・・今日は一日、俺いぢりナシで・・・」
「めっちゃ俺の方見て言いましたね」
すっと目を細める恒人に英蔵は慌てて首を振る。
「いや、別にそういう意味じゃなくてねっ!?」
「いいですよ」
「ふへっ!?」
「今日一日、英蔵さんが何を言っても何をやってもいぢりません」
にっこり無邪気に微笑む恒人に、ばっちり狐の耳と尻尾が見えていたが、英蔵は気づいた様子もなく「本当?」と喜んでいる。
それを見ていた他三名は(何故自ら罠に手を突っ込むようなまねを・・・)と思いつつ面白いので黙っていた。
さて問題の休憩時間、並んで座っている英蔵と恒人。その隣に大城が来た。
「絶対、面白くなるで!」
「・・・だよね」
雑誌で顔を半分隠した涙沙と浅葱が期待に満ちた目でその様子を見ている。
「あのさ、《ブラボー》って言葉に《ア》を付けて、《アブラボー》って言うとなんか妖怪っぽい響きにならない?」
そんなことを言う英蔵に、大城が力一杯「だから何?」と言いたいのを堪えて恒人の反応を見る。
恒人はきゃらきゃらと、それはもう本当に可笑しそうに笑っていた。
「ホントだ、妖怪っぽい!面白いですね!」
「・・・でしょ?」
此処までは良かった、のだが・・・
「英蔵さんって本当に面白いですよね、俺、英蔵さんといるとすごく楽しいです」
「・・・あ、そ・・・う」
「それにすっごくカッコイイですし」
「いや、俺はそんな・・・」
「英蔵さんは優しいですよね、優しくて頼りになる男って憧れます」
「あ、あの・・・」
「ほら、この前連れて行ってくれた店、オススメだって言ってたところ、本当に美味しかったですよ、だいたい店選び外さないですよね、案外できそうでなかなかできない部分ですよ、今度また一緒に行きましょう。またオススメの店あったら教えて下さいね。英蔵さんが言う所なら信用しますから」
「・・・すいませんでした」
「俺、英蔵さんのこと尊敬してますよ」
「俺が悪かったから!お願い!普段通りにしてっっ!」
30分間の休憩を残り10分残して、会話の中でちまちま挟まれる恒人の普段からは考えられない言葉に英蔵はついにギブアップ宣言をした。
そうでないと《褒め殺し》で死ぬ史上初の人間になってしまうところだった。
恒人が「そうですか、じゃあ戻します」とまた楽しげな笑みを浮かべると狐耳と尻尾が引っ込む。隣で大城が笑いすぎで机に突っ伏したまま起きあがれなくなっていた。
離れて見守っていた涙沙と浅葱も雑誌を持つ手が震えている。
「やっぱり英蔵さんはいじられてナンボですよ!」
「嫌なアイデンティティだな〜、だからってツネもあんな嫌味言うことないじゃない?」
「嫌味?」
薄い唇を結んで見返してくる恒人に英蔵は口を尖らせる。
「頼れるとかさぁ、憧れるとか心にもないこをとを・・・」
英蔵のその言葉に浅葱が口を開きかけたが涙沙がとっさにそれを塞いで阻止する。
恒人は頬杖をついて視線を逸らしたままポツリと言った。
「俺は、嘘は一つも言わなかったんですけど、ね?」
沈黙。
「お手洗い行ってきます」と席を立った恒人が部屋を出ていって、またしばし沈黙。
「ツ、ツンデレktkr!!」
「るいちゃん、日本語喋って・・・」
「ひ、大城さん、今のどういう意味だと思います!?」
「・・・そのまんまの意味だと思うよ」
−ありがちすぎネタごめんなさい、改めてハピバ。
いや、ツネがいたずらする時に(見える人にだけ見える)狐耳と尻尾が出たら可愛いなと。
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