パジャマ姿でリラックスしながらソファに座ってテレビを見ていると、お風呂の扉が開く音が聞こえてびくりと肩を上げる。
 あれ? 工くん、今日お風呂早くない?
 あと、五分長く入ってて欲しかった、と思っていると、お風呂場からひょっこりと顔を覗かせた工くん。濡れた髪をおでこに貼り付けながらこっちを見るなり、いいもの見つけた! とでもいうように瞳を輝かせてくる。その嬉しそうな様子を見ていると、なんだか、工くんの頭には三角の犬耳が見えてくるし、背中の後ろでは上を向く弓形の尻尾がパタパタと振られているような気がしてくる。その可愛らしい姿に、それだけで笑いそうになってしまい、いけない、いけない、笑っちゃだめだ、と工くんから目を逸らした。
「ナマエさーん! 聞いてください!」
 お風呂場から響く声。きっと工くんは、これから私を笑わせようと、私がつい笑っちゃうような面白い話をするつもりなんだろう。いつも使ってくる手だ。絶対に聞かないと耳を塞いでいると、パンツだけ履いた工くんがバスタオルを頭に被り、髪をガシガシ拭きながらやってきた。
「あ! ナマエさん、また耳塞いでますね!」
 バスタオルを肩にかけた工くんは、私の隣にどかりと座り、ねえ、俺の話聞いてくださいよー、と言いながら私の耳を塞いだ両手を掴み、私の耳から外そうとする。唇を尖らせながらもニヤニヤを隠しきれない工くんに釣られて、また頬が緩みそうになり、いけない、いけない、と表情を変えないように結んでいた唇にぎゅっと力を込めた。
「俺のこと無視して、ナマエさんは俺のこと、嫌いなんですか?」
 ほら、またそうやって困らせること言う。そんなことないよ、と、喋れない代わりに首を振った。
「じゃあ、俺の話聞いてくださいよー」
 横から抱きつきながら言ってくる。脇腹に回されたお風呂上がりのホカホカした手がこそばゆい。こそばゆさに吹き出しそうになるけど、笑うものか、笑うものか、と顔に力を入れるが、ふっ、ふっ、と何度か閉じた口の代わりに鼻から息が漏れた。
「もしかしてナマエさん、こそばゆいの?」
 ぎくりと体を強張らせると、いい事思いついた、とでもいうように工くんはまた尻尾を振り出す。私はこんなにも苦労して表情を固めているのに、さっきからコロコロ表情を変える工くんはいつも考えていることを顔に出す。嬉しい時も、悲しい時も、楽しい時も、辛い時も。その全てが愛おしくて、工くんがそんなに頑張って私を笑わせようとしなくても、工くんが隣にいるだけで私は笑顔になっちゃうんだよ、なんて思っていると、脇腹を両手でくすぐられ始めた。
「ん……ふっ……ぅっ……」
 笑っちゃだめ、笑っちゃだめ、と耐えるけど、工くんは楽しそうにずっと脇腹をくすぐってくる。私が工くんの手を離そうと脇腹をくすぐり続ける工くんの腕を押すけど全然お構いなしな工くん。男の人って力強いからずるいなぁと思う。
 喋っちゃだめ。笑ってもだめ。そう思って耐えていたけど、遂に大きな口を開けて笑ってしまった。
「もうっ、やめっ! あは、もうっ、やめてって! ふふっ、もう!」
 私が笑ったことに満足したのか、くすぐっていた手を止めた工くんは得意げに、今回も俺の勝ちですね! と言って歯を見せて笑った。
 もう! 毎回毎回、何がそんなに、楽しいのやら。
「パックしてるときはパック取れちゃうから笑わせないでっていつも言ってるでしょ!」
「だって、ナマエさん面白いんだもーん」
 さっき笑ってしまったことで、口元だけ取れてしまったパックを鏡を見ながら付け直していると、工くんにまた、ぎゅーっと横から抱きしめられた。
 パックをしていると、いつも工くんは、こうして私に何か喋らせようと、変なことしてきたり、笑わせようと、面白いお話をしてきたりするから、パックは工くんがお風呂に入っている間にこっそりやっているのだ。でも、たまにこうやって見つかって、悪戯しちゃお、と少年のように無邪気に笑う工くんに邪魔されてしまうのです。
「ナマエさん、大好き」
 私もだよ、と喋るとまたパックが取れてしまうので、代わりに、私の肩に頭を乗せる工くんの濡れたままの髪の毛を撫でてあげた。