過去clap1
「あっつ…」
「ジャケット脱いだらどうだ」
うだるような暑さの中、チョコボに乗って移動しながらノクティスが呟くとお決まりのようにグラディオラスが指摘する。
「こんな暑いんだから脱いでもそう変わらなさそー」
「黒色は熱を溜め込むと言うしな」
ノクティスと同じく1枚羽織っているプロンプトがベストの胸元を掴んでバタバタと風を起こし、長袖2枚重ねという誰よりも厚着のイグニスが口調だけは涼しげに言葉をこぼす。
「キューッ」
「あ?どうしたチョコボ」
「キュウ…」
突然ノクティスが乗っていたチョコボが鳴きながら急ブレーキをかける。心配そうに首元を撫でてやっても、何か言いたげに鳴くばかりだった。
「チョコボも暑さにやられているんだろう。…この近くに川がある、少し休憩させてやらないか?」
「キュー!」
「おわっ!おい危ねえって!!」
イグニスの言葉を理解したのか、チョコボは嬉しそうに声をあげながら飛び跳ねノクティスを揺さぶるのだった。
ーーーーーーーーーー
少し森へ入ると小さな清流があった。川底が見えるほどに透き通っている綺麗な水が、サラサラと流れる音が心地いい。
ノクティス一行はそこで少しばかり休憩をとることにした。体が軽くなったチョコボ達は、羽根を休めたり水面に顔を寄せ喉を潤している。
「このあっちい中で走り回ったらそりゃ疲れるわな」
「しかも俺ら乗せてだもんねー……て、あっ、どこ行くの?!」
木陰で体を休めているチョコボに寄りかかりながら、もっと労ってやらなければと話していた時、プロンプトが撫でていたチョコボが不意に立ち上がり軽快な足取りで離れていく。突然どこかへ行こうとするチョコボを引き止めようと追いかけるプロンプトだが、すぐにその足はピタリと止まった。
ーザブン!
「えっ、水浴び?!」
チョコボの行く先にはあの清流があり、ぴょんと地面を蹴り綺麗なジャンプで川へと飛び込んで大きな水しぶきを上げながら羽根を広げたり体を震わせたりし始めたのだ。
その光景にぽかんとしたプロンプトだったが、ガバッとベストとタンクトップを脱ぐとブーツも脱ぎ捨てていく。
「は?!お前なに脱いで……ま、まさか!」
「おーいまじか…?」
ーザブン!
ギョッと驚くノクティスと呆れたように苦笑いを浮かべているグラディオラスを他所に、下半身の衣服だけ身につけたプロンプトはチョコボを追うように川へ飛び込んでしまった。
「うわーっ冷たー!でもめっちゃ気持ちいいからみんなも入ってみなよー!」
水の冷たさに驚いたり気持ち良さそうにしたり大忙しで楽しそうな姿に、仲間達は呆れつつも笑ってしまう。モンスター討伐続きで心身ともに疲れ切っていた3人は、プロンプトの行動に張り詰めていた精神を穏やかにさせられた。
「バッカじゃねーの、びしょ濡れじゃねーか」
「暑いしこれくらい乾くって!ほらノクトも!」
「しゃーねえから付き合ってやんよ」
「うわ!素直じゃない!」
おかしそうに笑いながらプロンプトへ歩み寄るノクティスは、仕方ないと悪態をつきながらプロンプトと同じような格好になって川へと飛び込む。
子どものように水をかけ合い大騒ぎする2人を見てチョコボも嬉しそうに近付き、水浴びを楽しんでいる。
「まだまだガキだな」
「こんな姿をレギス様が見たら何と言われるか…」
「まーでも、息抜きになったんじゃねえか?ここんとこノクトも塞ぎがちだったし、プロンプトもどうにか支えてやらねえとって気張ってたしな」
故郷を失い、父を失い、無理に前を向くノクティスにプロンプトを始め仲間全員が心を痛め助けてやりたいと思っていた。学生時代からの親友が旅について来てくれて本当に良かったと、年長2人は安堵する。こういう時、自分達よりも親友の方がノクティスの心を修復してくれる事は明らかだった。
「そうだな…、今日は街へ戻ってモーテルに泊まる予定だったが…キャンプに変更してもう少しゆっくりさせてやろう」
「名案だな」
童心に帰ったように水遊びを楽しむ2人は、ふかふかのベッドで眠る事ができるせっかくの機会を逃している事をまだ知らない。