プロンプトくんと観光旅行
「あぁ、助かったよ。わざわざ届けてくれてありがとう」
マーゴの店主、ウィスカムさんに頼まれていた物を納品して再びゴンドラに乗る。
ウィスカムさんはシドさんの古い友達らしくて、ルシスでしか手に入らない食材を届けてほしいってオレ達に依頼してきたみたい。
お世話になってるシドさんの頼みでもあったし断る理由は元々なかったけど、報酬にリウエイホテルのロイヤルスウィート宿泊券をくれるって話だったから、たまには観光がてらゆっくり過ごそうって話になったんだよね。
「さて、これからどうするか…」
ゴンドラ乗り場に降りた所でイグニスが辺りを見渡す。
オルティシエってすごく広くて通路や橋もたくさんあるし、迷路みたいで…どこから行こうってみんなで悩む。
「んじゃ釣りしよーぜ!……いや冗談だって、4人揃ってその顔やめろ」
ウキウキと瞳を輝かせて提案された内容を聞いて、4人全員がうんざりした顔になってノクトを見る。
いや絶っっ対本気だったでしょ、ガッカリしてるじゃん。
「ノクトはどこ行っても釣りだよね〜」
「人を釣りバカみてーに言うなっての」
「間違っちゃいねえな」
「あのなぁ…」
なまえさんとグラディオに揶揄われたノクトがムスッとして口を開いたその時、オレ達のそばを通っていく女の子達の賑やかな会話が耳に入る。
「ルナフレーナ様が着るドレスってどこに展示してあるんだっけ?」
「この橋を渡った向こう側だったと思う。早く行こう〜!」
そういえばガーディナでもそんな話を聞いた気がする。ノクトとルナフレーナ様の結婚式が行われるオルティシエで、ウェディングドレスが展示されているって。
5人で顔を見合わせた。
「まずはそこから行こう」
口火を切ったイグニスに4人で頷いて、女の子達が向かった先へオレ達も歩き始めた。
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少し歩いた先に人集りができていた。そこに集まった人達はみんな同じ方向を見て感嘆の声を上げている。
オレ達の前にいた人が順番にいなくなって、漸くショーウィンドウの目の前まで来た。
「うわあ……!」
「シンプルだがとても洗練されたデザインだな」
色白なルナフレーナ様によく似合いそうな純白のドレス。
ドレスだけでもすっごく素敵なのに、これをルナフレーナ様が着たらめちゃくちゃ綺麗なんだろうなぁ。
ふと隣のノクトを見てみたら、案の定ポーッとしてて。
「なーに見とれてんのノクト!」
「別に見とれてねぇし!」
肘でグイグイ押して茶化せば大慌て…分かりやすいなぁ。
「あはは、照れちゃって〜。ねぇなまえさん見て、ノクト赤い…よ…」
「………」
珍しく赤面してるノクトをいじりまくってやろうと思って、仲間を増やそうとなまえさんを見る。けれどオレ達の事は全く見ていなくて、真っ直ぐにウェディングドレスへ向けられていた。
その瞳はキラキラと輝いていて、まさに憧れを見る目だった。
なまえさんも結婚式とかドレスに憧れるタイプなのかな…?
「なまえさん」
「えっ、あぁごめん。何?」
肩をポンと叩くとやっと気付いてくれて、瞳がドレスからオレに向けられる。
そんな夢中になるなんてなまえさんも女の子だな〜って、なんか微笑ましく思っちゃったり。
「ドレス、綺麗だね」
「ね、すごい素敵。…身近で結婚式ってなかったから、何だかドレス見るだけでも感動しちゃう」
そう言ってまたドレスを見つめる横顔がすっごく綺麗だって思ったのは、オレだけの秘密。
そしてなまえさんはいつもの調子で、ノクトの背中をバシバシ叩き始める。
「いってぇな、何?!」
「ルナフレーナ様と、ぜーったいに幸せになってね!」
「…あったりまえ」
照れながらドヤ顔を決めたノクトをみんなで茶化しながら、オレ達は次の名所を目指して歩き始めた。
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少し高台の広場に来てみると、ワイヤーのようなもので作られた巨大なオブジェが広場の真ん中を陣取っていて、願い鳥と呼ばれる名所だそうだ。
なんでも、願い事を書いた紙を放り投げてオブジェの中に入ったら、文字通り願いを叶えてくれるんだってさ。
「面白そうじゃねぇか!」
「やってみようよ、みんなで」
意外と乗り気なグラディオとなまえさんを先頭に、店のおじさんから紙をもらってそれぞれ願い事を書いていく。
「(なんて書こうかな……)」
考えだすとたくさん浮かんじゃって、悩みながら意外にも真剣に書いている4人をチラリと盗み見る。
…うん。やっぱりオレの願いはこれしかない。頭に一番に浮かんだ願い事を紙に書いて、丁寧に折りたたむ。
書き終わったみんなとオブジェに近寄って、それぞれ思い思いの場所から順番に紙を投げた。
結果、ノクトの紙だけが外れちゃって、悔しそうなノクトに何て書いたのか聞いてみたら「大物が釣れますように」だって。
やっぱ釣りバカじゃん!ってみんなで笑って、ついでに記念撮影もしてから、また次の名所へ移動した。
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夜、マーゴで夕食を食べてから、1人だけ願い鳥が外れたノクトがあまりにも可哀想って事で釣りをする為に水辺に来た。イグニスとグラディオがそばで見守る中、オレは少し離れたベンチに座って満腹ではちきれそうなお腹を摩っていた。隣にはオレのカメラで今日撮った写真を見ているなまえさんもいる。
「あ、願い鳥のところで撮ったやつ、いいね。フィルターも良い感じ」
「でしょ!オレも気に入ってんだー。ここはどこも綺麗だから撮りがいがあるよ」
「バッテリーも保って良かったね。あと4%だよ」
「ほんとそれ。切れちゃわないかヒヤヒヤしたよー」
なまえさんがゆっくりしたペースでピ、ピ、と切り替えていくカメラの画面に写った写真を隣から覗き込みながら、誰かと共有した思い出を切り取った1枚1枚を、一緒に見ながら思い返して共感できるってこんなにも楽しくて幸せなんだと改めて実感する。
「オレさ、願い鳥に“この旅が無事に終えられますように“って書いたんだよね」
「…えっ、言ったら叶わないよ?!」
「それさ〜迷信だって、きっと」
そういう話はよく聞く。今まで半信半疑だったけど、何でか今はなまえさんに話したくなって、信じてないフリをして流してしまう。
するとなまえさんはぽかんとオレを見てからニッと口角を上げた。
「じゃあわたしも言っちゃおうかな。聞いてくれる?」
「オレが聞いて良いなら、もちろん!」
まさかなまえさんも教えてくれるなんて思ってなくてちょっとびっくりしたけど、どんな願い事を書いたのか興味もあって頷いた。なんかこれ、2人だけの秘密みたいで、少しワクワクする。
「実はねー、2つ書いちゃったんだぁ」
「2つ?!欲張りだねぇ〜!」
「えへへ」
いたずらっ子のように笑うなまえさんは幼く見えて可愛い。
…でも、1つ余分に書いたせいでノクトのが外れたんじゃないのって思っちゃったけど…これは言わないでおこう。
「1つ目は、“いつまでもみんなが元気に暮らせますように“」
「…うん」
「2つ目は……“2人がずっと幸せでいられますように“」
「…そっか、ノクトとルナフレーナ様の事書いたんだね」
「……うん、そう」
2つともすっごくシンプルだけど、強くて優しいなまえさんらしい願い事だなって思った。きっとノクトとルナフレーナ様の幸せも、今日ドレスとか照れたノクトを見て思ったんだろうなぁ。そうなると紙が外れちゃったノクトも可哀想じゃないかも…良かったねノクト。
「みんなの願いが叶うと良いね」
「そうだね。…プロンプトくん、カメラありがとう。また明日見せてね!」
「もちろん!」
受け取ったカメラを持って立ち上がって、ちょうど水面に竿を振ったところのノクトに後ろからカメラを構えて歩み寄る。
「ノークトっ」
「ん?」
振り向いたところをカシャッとシャッター音を立てて写真に残す。近場にライトがあったおかげで、夜でもばっちり王子の姿が写っていた。
「何だよ撮っただけかー?」
「これも思い出でしょー」
「いやどうせなら釣れた時にー……って、おわ!!」
「え?!ヒット?!」
文句を言うノクトをベシッと叩いてやったタイミングで、竿の先端が海の中へと強く引っ張られ出した。
「オイオイこりゃでけえぞ!」
「ノクト、焦らずゆっくり巻くんだ!」
「えっ、今見えた影がそう?!でかいでかい!」
「ノクト絶対釣ってよね!」
「おめーら、うるせえっ…!」
5人でわちゃわちゃしながら水面を覗き込む。必死にリールを巻くノクトと、横から応援するオレ達。
何分も格闘して、無事ノクトは1mはありそうな大物を釣り上げた。
「よっしゃあ!」
「すーごいじゃんノクトー!はい、チーズ!」
嬉しそうに魚を抱え上げるノクトにカメラを向けて、カシャッとシャッター音を鳴らす。
今いま撮った写真が画面に映るのを確認していると、ふっと真っ暗になってしまった。
「あっ」
「…どうしたんだプロンプト」
「いや、バッテリー切れちゃった見たい。今の写真は保存できたと思うけど…」
覗き込んできたイグニスに苦笑いしながらバッテリー切れで真っ暗になった画面を見せる。確かにさっきなまえさんと見てた時に4%だったから、時間の問題だったんだけど…大物を釣ったノクトを写真に収めてから切れるなんて、タイミング良すぎる。
「……ノクト運持ってるよね〜」
「まーな」
「願い鳥が外れても叶ったな?」
釣り糸から外した魚を担いだグラディオが笑いながら言う。
確かに願い鳥は外れちゃったけど、結果的に関係なく大物を釣り上げちゃってるし、カメラのバッテリーも保っちゃうし…
ラッキーだなぁって思ってたら、後ろから背中をつつかれた。
「ノクトの願い事、叶って良かったね」
なまえさんがこそっと話しかけてきた。
外れたと思ってたノクトの願い事も叶ったし、さっき思った事言っちゃおうかなーなんて、オレって意地悪かな。
「だね。なまえさんが2つも願い事書くから、ノクトの分が外れちゃったのかと思ったけど安心したよ」
「え……そ、そうだったのかな?!」
なまえさんはサッと青ざめて、オレ達の話なんて聞こえていないノクトの背中に「ごめんねノクト〜!」と小声で両手を合わせている。その様子にぷっと笑ってしまった。
「大丈夫だって、あんなでかいの釣ってるし。それに2つ書いたのだって、ノクトの事でしょ?仲間の幸せを願える優しいひとなんだから、だーれも怒らないよ」
案外気にしてしまったようなので、可哀想になってフォローを入れる。
バッテリー切れになってしまったカメラをしまいながら、向こうから手招きしているイグニスに片手を上げて返事をした。
「プロンプトくんだってみんなのことじゃない」
「オレ優しいからね〜」
当然!と言うようにへへへと笑って見せると、なまえさんは小さく「お調子者」と言って肘でつついてきた。
「だから大丈夫だって、ほら行こ!」
なかなか来ないオレ達に痺れを切らしたのか、ノクト達が先に歩き始めている。こんな広くて迷路みたいなオルティシエで取り残されたら合流できる気がしない。
なまえさんを急かして3人の元へ走り出した。
ーーなまえさんが困ったように笑っている事に、気付かないまま。
to be continued...