運はいい方だと思う。
中2で初めてヤった時、生で外出しだったけど大丈夫だった。えーと、そうそう、福岡まで花火見に行って、途中でヤりたくなって、公園の多目的トイレでセックスをした。臭い、汚い、なかなかにひどかったけど、それはそれで別に標準的な経験だと思う。
「勝生くんいつからタバコ吸うん?」
「高校」
「商業だっけ」
「うん」
中学の同窓会で久しぶりに会ったこの女の子は、当時は絡みなんて全然なく、どちらかというと学級委員とかやって真面目グループだった。
「◯◯は頭良かったもんね」
「そうかなー」
「全然、やっぱ違うよ」
「……うん」
煙を彼女とは反対方向に吐き出す。地元の酒は度数が高く、彼女もだいぶ飲んだみたいだった。あはははとよく笑い、品の良さそうな小ぶりのネックレスをつけ、勝生くん二次会行こうよ、と声をかけてきた。喉に灼けつく煙。彼女はまだシーツの中だ。僕はタバコを灰皿に押し付ける。
「ねぇ……もう一回、いい?」
顔の横に手を付き、長い髪の毛を指先に巻く。内股に触れる太ももの肌はしっとりと柔らかい。スプリングがぎしっと鳴った。
「しよっか」
「やった」
「……ピル飲んでるから、生でもいいよ?」
「それは流石に彼氏に怒られるでしょ」
「いいのに」
枕元のボックスからコンドームを取り出す。酒くさいキス。名前のイニシャルと思われるネックレスを見ながら、おっぱいを触った。
「今日泊まる?」
「んっあ、帰る、実家だし」
「タバコ大丈夫?」
「友達が吸ってたって、言えば大丈夫でしょ、ん」
随分とよく濡れる。指先でそこを触るとあっという間にびしょびしょになった。
「すごい、指気持ちいい、いれて」
「◯◯がこんなとは思わなかった」
「内緒にしててよ、勝生くん」
「するよ」
同窓会前にパイパンにするなんて、絶対ヤるつもりだったでしょ。手マンの後、お礼だとかなんだか言って流れるようにフェラしてくれて、コンドームもつけてくれる。肩まである茶色の髪はどこの親の前に出しても恥ずかしく無い良いとこのお嬢さん風にツヤツヤサラサラしているのに、彼氏からもらったネックレスを外さないまま、10うん年ぶりに会った地元の同級生のちんこを舐めるだなんて、これだから女の子は怖い。
「バックがいいな」
「いいよ、ほんとエロいね」
「んっ、ありがと」
僕は指で開かれたそこに勃起したちんこを入れた。あつい、やわらかい。気持ちいい。
高校を卒業して、福岡でいくつかバイトしたけど、なんか色々めんどくさくなったしそもそも家賃も高いしで、実家で働くようになって2年。ラーメン、引っ越し、キャバクラ、アパレル、コーヒーショップ、携帯電話……色々しながら友達とバンドしたり、フットサルしたり、遊び倒した自信はある。
「勇利くんは結婚せんのね」
「まだそのつもりありませんね〜」
お客さんからいつも聞かれる。めんどくさいなぁ、と思うとピアスを触ってしまうのが僕の癖だ。軟骨にまで開けたピアスは評判がいい。特に優しい女の子に。「金髪プリンになってるよ、染めないの?」と襟足や、「痛そう」と耳たぶを触ってきた子は、7割くらいの確率でセックスする。別にそういうつもりでしてるわけじゃ無いのに、案外僕はモテるらしい。
「お父さんが引退したら勇利くんが社長やろ」
「社長ってほどのものじゃありませんよ」
「どんな風にするとね、このゆーとぴあかつきを」
「そうですねぇ、一流リゾートホテルにしますかねぇ」
姉は県外の大学に行ってそのまま就職しているから、どうかな。一応跡取りってことにはなってるから、父の付き合いで最近はちょくちょくいろんな所に顔を出すようになった。少しずつ、習うより慣れろで、やってはいる。いつのまにか役員という大層立派なポジションも与えられ、通帳や印鑑の場所も知っている。
いい方だと思う。この町を中心に、僕の人生は回っている。最後の客が帰り、駐車場にチェーンをし、風呂場とロッカーの忘れ物をチェックする。レジの売り上げを金庫にしまい、火元を確認して、セキリュティを付け、電気を消した。家の方に戻るともう1時だ。居間でタバコに火をつける。そういえばもうスケートのシーズンだ。今シーズンの日本勢は活躍していて、僕がかつてリンクメイトだった子がその中にいる。もう向こうは僕の名前なんて覚えていないだろう。
僕はフィギュアスケートをしていた。居間には、随分前、小学生か中学生の頃の賞状とメダルが飾られている。昨今のフィギュアブームのおかげかこの点も女の子に好評で、「意外! 鍛えてるの?」とボディタッチが増える。怪我したわけじゃない。ただ、根性がなくて普通に辞めた。アイスキャッスルの先生は随分と残念そうにしていたけれど、僕よりうまかったその子がメキメキと頭角を現してからは、僕に戻ってこいと言わなくなった。現金なものだ。
「……」
フーッと煙を吐きながらスマホを見ると、案の定彼は福岡で行われた国際大会に出て、しかも2位らしい。すごい。
「やっぱ素材が違うよなぁ」
去年から新しいコーチに変えて、これがまたすごく人気のある選手で、僕がやってた頃から名前は有名だった。スケートとは縁のない人間でも知っている、ヴィクトル・ニキフォロフだ。去年現役を引退して、コーチに転身したらしい。コーチ業にも向いてるだなんて、天は二物どころじゃない、五物くらい与えすぎだろ。
眠たくなったのでタバコを消して自室に上がる。階段を登っている間に、彼のことはもう忘れていた。それほど、僕にとってスケートは過去のものになっていた。
END