4−5



「見てた…の?」

沖田くんはそう遠慮がちに尋ねてくる。
私はゆっくり頷いた。

「両親は逃げろって言ってくれてたけどね。足が動かなかった」

一瞬何が起こったか分からなくて。
声を出そうにも出なかった。
目の前は赤一色で。
私の髪からは両親の血が滴り落ちる。
ただ両親が遺した言葉が頭に残っていた。

「言葉?」
「うん。『これが私達人間だよ』って、そう言ってた」

どういう意味かは、分からない。
今思えば父上は自分たちを追ってくる人たちや、もっと別の誰かを「人間」と呼んでいた。
まるで、人以外の何かを知っているような……そんな言い方だった。
そしてその口振りは、必ず刺を含み、「人間」に強い怒りを向けていた。

「両親を殺したのは、俺達家族を追ってた人たちで…、首を刎ねた後は、俺に刃が向いた」

ゆっくり男たちが近づいて来る。

(逃げなきゃ…)

そう思って動こうとするけど、ガタガタと震える体は一向に動かない。

(動け…!動け!)

そう自分を鼓舞し、とっさに腕は父上に託された刀に伸びた。

男が頭上で刀を振り上げる。
それが降ろされるのと同時に私は抜刀した。

「っ…」

男の剣先は突然の力の介入で僅かに左に逸れた。
私の行動を予想していなかったのだろう、男は前につんのめりになる。
私は直ぐに体を半回転させながら立ち上がる。
逸れた刃先が左腕を掠めた。

「そこからはとにかく走った。幸い足には自信あったからね」

逃げて逃げて逃げて。
見知らぬ町にたどり着いた時には、左腕の血も止まっていた。
追い掛けてくる足音もない。

「多分安心したんだと思う。そこで俺の意識はぷっつり」
「気が付けば保護されてた?」
「そう」

目を開ければそこは見知らぬ部屋で、しばらく呆然としていると慌てたように人が入ってきた。

「聞けば四日も眠ってたらしくてさ。もう目を覚まさないと思われてたらしい」
「寝すぎだよ」

おどけたように言うと、沖田くんはいつもと変わらない口調で続いてくれる。

(やっぱ優しいよな)

こんな話をしているのに、私の心は不思議と凪いでいた。

「とりあえず名前や両親が死んでいること、身寄りが無いことを言ったかな」

というより、それしか話すことは無かった。
自分でも分からない襲撃の話をする訳にもいかない。
怪我のことも聞かれたが、覚えてないと言った。
うまい言い訳が思いつかなかった。
そして、何より。

「何て言うか…目が嫌だったんだ」

大人たちの口から出る言葉は優しかったが、その目には強い不審と同情が透けていた。

「『可哀想に』『辛かったでしょう』『気の毒に』そんな言葉ばかりだったよ」

確かに辛かったことは辛かったんだと思う。
あの時はまだ理解はしているけど、納得は出来ていなくて。
目の前で両親が殺され、命からがら逃げてきたことは悲しくもあった。
でも。

「可哀想とか気の毒なんて言葉は要らなかったよ」

そんな事は誰も…私も思ってない。
そんな言葉は欲しくない。
私が欲しかったのは――

「そんな時だった。近藤さんと出会ったのは」

私は空を見上げながら、後ろに倒れる。
沖田くんも同じように寝転ぶのが見えた。
すでに薄暗くなっていた空には……一番星だろうか。
一つの輝く星があった。

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