5−4
その日の夕飯は土方さんも一緒だった。
話題は終始今日の手合わせのこと。
「まっさか惣次郎相手にあそこまで出来るとはな」
「あぁ見事なものだったよ」
「い、いえ…完敗でしたし。惣次郎は本当に強いね」
「まぁね…でも僕も驚いたな。近藤さん以外で僕とあんなに出来るなんて」
いつもより多くよそわれたご飯を食べながら話す。
そういえば、と土方さんが私に尋ねてきた。
「お前最後木刀弾かれた時、即座に蹴りの体勢に入ったろ?あれは何なんだ?」
「あ、それ僕も思った。来ると思って少し焦ったな」
…正直近藤さんの声が無かったら、多分蹴り上げていただろうと思う。
「あれは、父上に教え込まれてたもので…。俺力弱いから鍔迫り合いになれば、格段に負ける可能性が高くなるんですね」
――女である私は、必ず男の力に負ける時が来る。
そう父は言っていた。
それは早くも正しかったと実感した。
「だから刀を飛ばされた時の対処は徹底して教え込まれたんです」
「へぇ。じゃあ体術も出来るってことか」
「はい。刀相手の徒手はかなりやりました」
想定していた事態に無意識の内に練習通りに体が動いたことは、父の教えが染み付いていることを証明し、私は嬉しかった。
「きっと明日から稽古きつくなるよ」
「何で?」
「そりゃあ、あれだけ出来たら『入ったばかりだから』なんて配慮いらないでしょ」
「が…頑張る!」
〜・〜・〜
今日は体がくたくただった。
疲労感いっぱいの身体だが、同時に充実感も身体を満たしている。
明日からの稽古への期待も膨らむばかりだ。
私はいつもより早目に床につく支度を始めた。
そんな私の元に惣次郎がやってくる。
「あれ、惣次郎?珍しいね」
「うん、ちょっとね。今大丈夫?」
私が大丈夫、と伝えると、惣次郎は少し周りを伺ってから部屋に入ってきた。
その顔にはいつもの笑顔が無く、真剣そのもので私は何となく居住まいを正す。
「どうしたの?」
私がそう訊ねると、彼は少し迷いながら口を開く。
「明日から気を付けて」
言葉の意味が分からず私は首を傾げる。
惣次郎は言いにくそうに続ける。
「僕が兄弟子達に暴行を受けてるのは知ってるよね?」
「…うん」
「理由は様々だけど、…ひどくなったのは僕が初めてあの人たちに勝ったときなんだ」
負けた腹いせに…ということ何だろうか。
「今日君はあの人達に勝っちゃったからね。もしかしたら…有り得るかもしれない」
そう言って惣次郎は「じゃあ」と立ち上がる。
それだけを言いにきてくれた様だ。
私は部屋を出ていこうとする彼に言った。
「わざわざありがとう」
「どういたしまして。じゃあおやすみ」
私は背中を見送る。
心配してくれる彼に感謝しつつ、私は布団に入った。
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