5−6
「いたたた」
気が済んだ兄弟子達は去って行った。
軽く傷を擦りながら私は立ち上がる。
幸い今日は素手での「稽古」だったので、いつぞやの惣次郎みたく顔には痣も無いし、生活に支障が出るような怪我はしなかった。
それは惣次郎も同様に見える。
その惣次郎はただ、ひたすら黙っていた。
(すごーく怒ってる気がするんだけど)
何というか……その沈黙が怖い。
心当たりはただ一つな私は、恐る恐る声をかける。
「あの〜惣次郎?」
「……」
「惣次郎くん…怒ってますよ、ね?」
そう私が言うと、惣次郎はそれはそれは黒い何かを背負った笑顔を私に向けた。
「真尋…僕が怒ってるって……分かってるんだ?」
「うわ!黒い!怖い!何か後ろから出てるよ、惣ちゃん!!」
「そのふざけた呼び方は何」
「そんなに嫌だった!?」
正直血が出ている顔でその笑顔は、本当に怖い。
私は彼が怒っている理由が分かっているので、ばつが悪くわざと茶化すように返した。
そんな私に彼は「はぁーぁ」と大きく溜息を吐きながら、静かな口調で語りだす。
「どうしてここに来たの」
「偶々声が聞こえたから」
「怪我するかも、とか考えなかったの」
「正論ぶつけて帰って頂くという穏便な計画を立ててました」
ああ言えばこう言う私に、惣次郎は眉をしかめる。
思わず「土方さんみたい!」と口走りそうになったが、それはさすがに思い留まった。
後が怖すぎる。
「何であんな事したの?」
「……惣次郎がいたから」
「ほっとけばよかったじゃないか」
「…見てみぬフリなんて出来るわけないじゃん」
「…………」
以前なら間に入るなんてしなかったと思う。
でも今は、違う。
私の言葉に惣次郎は黙り込む。
「てか道場の中じゃ俺が一番下っぱだし、それなりにあの人達の世話もしてるしね?」
「だけど……」
「それにね」
そこで言葉を切った私は、惣次郎の目を見る。
「一人で耐えないで」
惣次郎の目が、大きく開かれる。
私はありのままの思いを告げる。
「約束したじゃん、二人で強くなろうって。あれ、すごい嬉しかった。あの言葉が無かったら今も俺は、一人殻に籠もってずっとうじうじしてただろうし」
今毎日が充実しているのは、あの約束があるから。
私はそう笑いながら言う。
「すごく楽になった。一人じゃないんだ、ここにいていいんだって思えた」
「…………」
「だから、俺にも言わせて。惣次郎も一人で耐える必要無いから。二人で頑張ろうよ?」
そう言い切り、惣次郎の言葉を待った。
惣次郎は何かを考え込むように黙っていたけど、やがて照れたように笑いながら言ってくれた。
「ありがとう」
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