熱を分け合う




荷物を取りに会社に戻ると、先輩がギョッとした顔をして私に駆け寄ってきた。

「七海さん、どうしたの!?」
「そ、それが…、帰り際に歩道橋?の階段を踏み外して転がっちゃって…えへへ…、」
「えへへ、って…怪我は!?」
「あ、頭を少しぶつけちゃって…、えへへ、」
「だからえへへじゃないってば!病院行ってきなさい!頭ってぶつけたら怖いんだから!」
「あ、はい、病院行ってきます!」
「…本当に大丈夫?救急車呼ぶ?」
「え、いや、それはちょっと!あ、それより、制服破けちゃって、事務で頼めば大丈夫ですよね?」
「そうね、明日にでも頼んでみて。気を付けて病院行くのよ?」

何とか早退することができた私は、あくまで怪我人ですってくらいのスピードでゆっくりと歩いて更衣室に向かう。更衣室に着くと急いで着替えて、化粧も整えて、建人さんに無事に早退の許可を得た事をメッセージで伝えた。以前も送られてきた変な顔のキャラがやったー!と言っているスタンプが届いて自然と笑顔になる。…生きててよかった。本当に。

「建人さん、ありがとう。」

会社から出ると、建人さんがタクシーを停めて待っていた。タクシーに乗り込んで建人さんが住所を告げる。いつかのタクシーでもそうだったように、彼の大きな手が私の手を包むように握って、私もそれを握り返した。優しい目で私を見つめる建人さんが、なんだか寂しそうに見えた。タクシーを降りマンションに着くと、エレベーターの中というのも構わずに建人さんが私に噛みつくようにキスをする。

「んっ、けんと、さ、」
「小春…、」

唇から首筋に降りてきた唇にくすぐったくて身を捩る。苦しい位に私を抱き締める建人さんが、いつもより小さく感じた。エレベータが開く。部屋まで手を引かれて小走りになりながら彼の背を追う。玄関を開けて引き寄せられて、たくさんのキスの雨が私を濡らす。

「小春…、生きていてよかった…。」
「…私も…生きていてよかったです。建人さんを置いていかないって約束したから、約束、守れてよかったです…。」
「ありがとう…。」

建人さんが再び私の手を引き部屋の中へ。問答無用で寝室に連れ込まれると、持っていた荷物を彼に奪われる。すぐにキスをされて、そのままお互いに自分の服のボタンを外していく。今はただ、お互いの温もりを求めている。建人さんがバサリと背広を脱ぎ捨てる音がして、シュルシュルとネクタイを解く音が私の耳に色濃く残る。閉じていた目を開けば、建人さんが私を見ていて、目が合うと優しく目を細めた。ああ、好き、堪らなく。愛してる。言葉にしたいけど、絡めた舌も、触れる唇も、この人と離れたくないと言っている。互いに下着姿のまま暫く抱き締め合いながら長い長いキスをしていると、背中に回っていた手がするりと背筋をなぞった。

「んっ、」
「小春、愛してる。」
「私も、建人さんを愛してる。」

見つめ合って、触れるだけのキスが私の唇、頬、瞼、耳朶、額、髪、首筋、鎖骨、胸元、色んなところに触れて、それだけで私の体は彼を求めるように震えた。彼の割れた腹筋を滑るように撫でながら、その胸元にキスをする。私よりも温かい彼の体温を私に移すように頬を寄せると、胸の締め付けが緩んだ。二の腕にずり落ちてきた紐すら今の私には邪魔でしかない。床に落としたそれを踏まないように足で軽く退けると、建人さんの首に腕を回した。建人さんが私の腰を掴んで、そのままベッドまで抱えられる。ゆっくりと布団に横たわった私の体の上に建人さんが重なるように跨って、私の胸元に顔を埋めた。きっと彼には私の煩い心臓の音が聞こえてると思う。心臓が、唇が、手が、瞳が、子宮が、私のすべてが彼を愛おしく見つめ、求めている。

「建人さん、好き、大好き、愛してる。」
「小春…、愛してる。小春の全てを私にください。」
「とっくの昔に私はあなたのものです。」

指を絡め取って、そのままキスをして、私の髪を撫でる彼の手にもどかしい熱を感じながら、彼の腹部に触れる。筋肉の割れ目に沿って指を這わせて、臍から胸元へ。彼の体を押して起き上がると、今度は彼の体を下にするようにベッドに押し倒した。驚いた顔でベッドに肘をつく建人さんに愛おしさを感じながら、彼の腰に跨る。

「建人さん…いい…?」
「…お好きにどうぞ。」

彼の言葉にふわりと笑う。彼の胸元に覆い被さるようにキスをして、私のよりも小さな突起を舌で転がして、時折吸い付いてみる。彼の小さく漏れる吐息を聞きながら、挑発するように彼の目を見た。細められた目が私を見ていると思うと、もっと彼に触れたい欲が溢れた。腹筋を舐め、臍にキスを落とし、ボクサーパンツの中から窮屈そうに頭を出していたそれを、布の上から優しく撫でた。ピクリと震える筋肉にうっとりとしてしまう。素敵な体…。

「建人さん、素敵、愛してます。」
「小春、私もあなたに触れたい…。」
「まだダメ。今日は私が好きに触りたい気分です。」
「…もどかしい…。」
「ふふ、建人さんかわいい。」

彼のパンツに手をかけ、硬くなったそれを優しく取り出す。既に垂れる程に先走った液体に私は思わず笑みが零れた。

「…あまり見ないでください。私にも羞恥心はある。」
「えー。私の事はいつも隅々まで見るくせに。ね、お願い。」
「…可愛くおねだりしてくれたらいいでしょう。」

こんな状況でも自分優位だと思っているらしい。私は彼のものにチュッと口付ける。彼の目を見て、少しでも厭らしく見えるようにわざと舌を出して舐め上げた。私の挑発に建人さんは喉を鳴らして唾を飲み込む。口に含んで舌を絡める。少しでも彼が気持ち良くなってくれるように頭を動かし、届かない分は手で扱いた。ぢゅるぢゅると水音を立てながらもう一度彼を目だけで見上げると、ベッドに肘をついて少し体を起こしたまま私を見つめる建人さんと目が合う。眉を顰めて少し上気した頬と、それを隠そうと口元に手を当てる彼の姿に、感じてくれているんだと思うと嬉しくなった。

「ん…っ、小春、」
「へんほはん…ひほひい?」
「っ、…ぅ、」

ピクリと震えるそれが限界が近い事を教えてくれる。攻め立てるようにスピードを上げると、色っぽい吐息が少し苦しそうになった。口の中に勢いよく吐き出された彼の欲望を受け止め、最後の一滴まで搾り取るように吸い付く。口を離すと、荒くなった息で私を見つめる建人さんに見えるように、口を開けた。

「…すみません、すぐにティッシュを。」
「んーん、」

ごくりと飲み込んで再び口を開けると、彼が眉を顰めた。

「…出してください、おいしいものではないでしょう。」
「建人さんのならおいしく感じますよ、ごちそうさまでした。」

ふふ、と笑って彼にキスをする。口の中に広がる独特の苦みを彼にもプレゼントすると、低い唸り声と共に舌が絡み合った。



 


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