楽園の君




昼食も夕食も食べずに何時間も小春と体を重ねた。確実に7回は彼女の中に出してしまった。…あれは小春の煽りに乗ってしまった私の失態だ。小春は笑っていたが、万が一の時はしっかりと責任を果たす気持ちだ。いずれは迎えたいと思っているのだから、少しくらい早く訪れたとしても私は心からそれを喜ぶだろう。浴室で再び行為に励んだ後は、互いに体を洗い合った。またしても彼女に反応する自身を何とか堪えていると、小春はそんな私を見て笑った。彼女の笑顔は不思議だ。嫌な事も、疲れた体も、空腹さえも忘れるくらいに眩しく、私もつられて笑顔になるのだから。小春の足腰が立たない程にその体を堪能してしまったからには、しっかりと責任を果たさなければならない。体をバスタオルで拭くと、彼女を所謂お姫様抱っこで抱えて浴室を出た。彼女に与えた部屋には既に増えた洋服たち。小春の指示で下着を探し出して彼女の体を抱えたまま下着を手に部屋を出た。リビングに連れて行きソファーにそっとその身体を下ろす。ショーツを足に通してやるば小春はゆっくりと自分で着替え始めた。私も自分の下着と着替えを取りに部屋に向かう。服を着てリビングへ戻ると、小春はソファでうつらうつらと舟をこいでいた。重たそうな瞼に耐えようとする顔さえ愛らしい。寝室に置いたままの鞄からスマホを探り出し、彼女の写真を撮った。…写真は待ち受けにした。浴室から持って来たドライヤーを手に彼女の隣に座る。

「小春、髪の毛を乾かさないと風邪を引きますよ。」
「…んー、」
「…小春、」
「ん。」

コンセントにプラグをさし、ドライヤーを小春の髪から少し遠目に当てた。長い髪が絡まらないように優しく解すように乾かしていく。小春はもう限界なようで、目を閉じて眠ってしまった。揺れる頭がドライヤーに当たらぬように気を配りながら彼女の髪を乾かした。さらりと指を通り抜ける小春の髪の毛が擽ったい。私と同じシャンプーの香りに頬が緩んだ。彼女が私の部屋に移りきるまであと一週間。

「…早く私の元に来てください。小春がいる家に帰るのが楽しみだ。」

私の声はきっとドライヤーの音で聞こえていないだろう。仕上げに小春がよく使っているトリートメントを塗ってあげると、彼女の体をそっとソファーに横たえた。寝室は私たちが汚してしまった。自分の髪を乾かすと、ドライヤーを仕舞って寝室を片付けに掛かる。 小春には湯冷めしないようにブランケットをかけておく。私たちの抜け殻をかき集めて浴室へ運び、私のスーツはクリーニング屋のバッグに畳んで入れた。小春の下着は洗い方に困るため念のために分けておく。掛け布団は二人分の体液と汗を吸って湿り、色濃くなっている。…これもクリーニングに出そう。掛け布団をひとまずベランダに干しておいた。小春をソファーからベッドまで運び、毛布を掛ける。ブランケットもそのままかけておいた。部屋を片付け終えると冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して喉を潤した。小春は何も飲まずに寝たが平気だろうか。声が掠れるほど啼いていた彼女を思い出し、愛らしさに胸が震える。どうしようもない程彼女の事が愛おしい。小春がこの家に移れば、私にとってそれはもう楽園だ。楽しみでならない。自分の頬が緩むのにも慣れてきた。小春と出会ってからの自分の変化には、自分が一番驚いている。私がここまで人を愛せる人間だったとは思っていなかったからだ。

「全く…不思議な女性だ。」

ミネラルウォーターを冷蔵庫に仕舞うと、歯を磨いて彼女の眠るベッドに向かった。食事は彼女が起きてからでいいだろう。起きたらパスタでも作ろう。きっと二人とも腹が減っているだろうから、少しでも早く食べれるものでいいだろう。

「おやすみなさい小春、良い夢を。」

静かに眠る彼女の額に口付けを落とし、アラームをセットして私も目を閉じる。心地よい眠気に誘われ、小春の体を抱き締めたまますぐに私も眠りについた。


...



翌日、目を覚ますと小春はまだ私の腕の中にいた。アラームはまだ鳴っていない。小春の寝顔を写真に収めておく。空腹で胃がキリついた。小春を起こさないように優しく頭を撫でると、私の手にすり寄るように身を捩る姿が可愛らしい。…動画を撮った。

「小春…朝ですよ、起きてください。」
「…ん〜、」
「起きないとあなたを襲いますよ。」
「…ぅん…、」
「…本当にいいんですか。」
「んー…、」

言葉の意味が分かっているのかも不明だ。小春の頬に口付けを落とし、唇に、耳にもキスをした。耳元で名前を呼べば、肩が震える。

「…起きているのでしょう。」
「…んふっ、」
「全く…。」
「ふふ、建人さんおはよー、」
「おはよう小春。朝食は私が。小春は支度をしてください。」
「はぁい。」

ゆっくりと体を起こして布団から這い出る姿に笑みが零れた。

「体は平気ですか。」
「…ちょっと腰が…、」
「では、階段から落ちたあなたは腰も強打していたという事で。」
「…なるほど、その手がありましたか。」
「正直に言うわけにもいかないでしょう。」

腰を擦りながら洗面所に向かう小春の後を追い、鏡の前に立った彼女を後ろから抱きしめた。彼女の髪の毛に鼻を埋めて大きく息を吸い込めば、そこからはまだ私と同じ匂いがする。私の満足そうな笑みを小春は鏡越しに見ていた。

「ふふ、建人さんったら可愛い人。」
「あなたも可愛いですよ、小春。」

私の楽園の君に、愛おしさを込めてキスをした。



 


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