配信:仲良し兄妹が真面目な話するよ!


最近、妙な視線を感じる気がする。お兄ちゃんと一緒に学校から帰る途中、立ち寄ったスーパー。タクシーを駐車場に待たせて、夕飯の材料や日用品を買おうとお兄ちゃんと店内を物色していた時だ。…また誰かに見られてる気がして、振り向く。

「馨?」
「…何でもない。」
「どっち買う?」
「…こっち。」
「どした。急に元気ないじゃん。生理?」
「違うっ!」

ぺし、とお兄ちゃんの腕を軽く叩いた。お兄ちゃんが笑う。気のせい?

「つか、オマエもうすぐ来るだろ、足りる?」
「え、なんで知ってんの?」
「いやいや、馨のことで知らないことないから、俺。」
「怖いんですけど…。」
「は?俺のどこが?」
「ストーカーみたいじゃん、もう!」

そういって、ハッとする。ストーカー…?まさか、そんな事、

「さっきからマジでどうした、馨。」
「あ、いや、」
「……、」

お兄ちゃんが私の背後をじっと見つめる。私も振り向く。でもそこには誰もいなくて、やっぱり気のせいだと私は目の前の陳列棚から調味料を手に取って籠に入れた。買い物を終えてタクシーに戻ると、その日はそのまま家まで帰った。料金を支払って、荷物を持つお兄ちゃんの代わりにオートロックを開ける。ポストを確認すると、宛名も差出人も書いていない封筒が入っていた。…なんだろう。

「なにそれ。」
「わかんない…何も書いてない…。」
「エレベーター来た。」
「あ、うん。」

エレベーターに乗り込んで、封筒を開けてみた。便箋のような紙が入っていて広げてみると、はらりと何かが落ちる。お兄ちゃんが荷物を持ったままそれを拾い上げた。私は便箋に書かれた文字を見て手が震えた。

「は?なにこれ。なんで馨の写真?」
「…なに、この手紙…、」

手紙には私のことが好きだとか、会いたいとか、お兄ちゃんの悪口とか、いろいろ書かれていた。お兄ちゃんが手紙を取り上げて読む。ぐしゃりと紙を握りつぶして舌打ちをした。震える私をお兄ちゃんが抱きしめてくれた。がさり、袋の音がして、私はようやくハッとした。

「大丈夫、俺が守るから。」
「お兄ちゃん…っ、怖い…、」
「ん、俺がいる。すぐ親父たちにも連絡するから。」
「うん…、」

エレベーターが最上階について、部屋の鍵を開けて中に入る。お兄ちゃんが鍵を閉めて荷物を廊下に置くと、その場で私をギュッと抱きしめた。ずっと体が震えていた。お兄ちゃんの優しい手が頭を撫でて、チュッと額にキスをされる。お兄ちゃんにしがみ付いて私は恐怖で涙を流した。

「親父に電話する。」
「うん、」

私が落ち着くと荷物を整理して、お兄ちゃんが紅茶を入れてくれた。ソファに座った私の隣で、お兄ちゃんは私の肩を抱きながらお父さんに電話を掛けた。電話がつながると、お兄ちゃんがスピーカーにしたらしい。お父さんの声が聞こえた。

『悟か、どうした。』
「馨がストーカーに遭ってる。」
『…すぐに警備を手配する。』
「あと探偵でもなんでも雇って、すぐ捕まえて。」
『ああ、勿論だ。車はどうする。今もタクシーを使ってるのか?』
「いつもの人。だけどそれも替えて。」
『うちの運転手を派遣する。最初からそうしておけばいいものを。』
「黒塗りの車の方が目立つからタクシー使ってんだよ。あと車、スモークガラスにして。」
『わかっている。馨はいるか。』
「お父さん…、」
『大丈夫か?Yon Tuberなんてものをやってるからこうなるんだ。やめなさい。』
「…でも、」
「それは馨が決めることだろ、親父が決めんな。」
『有名になりたいなら父さんがモデルでもなんでも仕事を振ってやる。』
「…Yon Tubeは好きでやってるから、やめたくない…。」
『悟も、馨と距離が近すぎる。五条財閥の名に恥じるようなことはするな。』
「へーへー。じゃ、よろしく。」

お兄ちゃんが電話を切った。はぁ…とため息を吐いたお兄ちゃんに抱き着く。

「…大丈夫か?」
「…今日、一緒に寝てもいい…?」
「……。」
「…なんで黙るの?」
「…いや、俺が我慢できなくてもいいなら、いいけど。」
「…うん、いいよ。」
「マジ?」
「…うん、」
「…今日は動画と配信休むか?」
「…配信だけでもやらないと、」
「無理すんな。」
「大丈夫…、」

お兄ちゃんが私にキスをした。ちゅっ、と触れるだけの優しいキス。離れると、お兄ちゃんが立ち上がってぐっと伸びをした。

「配信だと、アイツも見てる可能性あるぞ。コメントしてくるかもしれねぇ。」
「…早く捕まるヒントになるかもしれないから、やる。」
「怖くなったらすぐ言えよ。俺もいるから。」
「うん…、好き、お兄ちゃん。」
「悟、」
「悟、好き。」
「俺も馨のこと大好き。」

両手を広げたお兄ちゃんに、私も立ち上がって抱き着く。ぎゅうっと抱きしめてもらって、配信の準備を始めた。

「ストーカーのこと、言うか?」
「…言う。怖いけど、」
「ん。無理ってなったら部屋に行けよ、配信終わらす。」
「うん。」

「るんるんチャンネルをご覧の皆さん、お疲れサマンサー!皆のお兄ちゃん悟です!」
「お疲れサマンサ、皆の妹馨です。」
【西中の虎:1コメ!】
【恵:2コメ。】
「今日はちょっと大事なお知らせっていうか、警告っていうか、ちょっと真面目な話するから!」
【モブ美:お疲れサマンサー!タイトルどうしたの?!】
【モブ代:今日の配信タイトルでなんか悟った。】
【おにぎり:明太子!!高菜???(´;ω;`)】
【傑:お疲れ。】
【パンダ:なんだ、真面目な話って。】
「結構人集まってきたね。んじゃ、真面目な話するね。…今日、うちのポストにこんなのが入ってたの。」
「宛名も、差出人も不明です。中には私の写真と、私宛の内容、お兄ちゃんの悪口などが書かれてました。」
【脹相:俺こそが真のお兄ちゃんだ!!】
【恵:今真面目な話してるんで黙ってもらえますか?】
「あとね、馨に対するなんて言うの、性的な発言?そんなのが書かれてんのね。」
【傑:馨ちゃん、大丈夫かい?】
「で、やったの誰。今すぐ名乗り出ろ。じゃねぇとマジで通報すんぞ。」
【モブ子:悟君ガチギレ…?】
【モブ菜:馨ちゃんが可愛すぎてストーカー?】
【直哉ちゃんねる:は?馨ちゃんにストーカー?誰やねんソイツ。】
【呪いの王:愉快愉快。】
【恵:全然愉快じゃないです。黙ってもらえますか?】
「…今日、スーパーで買い物をしていたら、ずっと誰かに見られてる気配がして、」
【西中の虎:馨ちゃん大丈夫?警察は?】
「気のせいって、思ったんですけど…っ、」
「馨、無理すんな。」
「ぅっ…、でも、前から何度か、同じようなことがあって…っ、今日は家にっ、」
【モブ子:馨ちゃん泣かせるとか許せん。】
【モブ佳:ストーカーとかマジ滅べばいいと思う。】
【おおお:見てるよ、馨ちゃん。】
「あ?」
【おおお:俺からのラブレター喜んでくれた?】
「おい、テメェかよ。俺の妹泣かせたの。」
【恵:アンタですか、やったの。】
【西中の虎:ストーカーは犯罪だろ!!】
<ピンポーン>
「誰だよ、こんな時に。」
「…私見てくる、」
「一人で行くな、俺も行く。」
【傑:カメラでインターホン映せるかい?】
【恵:ストーカーだったら顔晒した方が早く捕まります。】
「晒すのは…っ、」
「んなのどうでもいい。ストーカーだったら殴る。」
「待って、お兄ちゃん!」
<ピンポーン>
【モブ代:大丈夫?ストーカー来た?】
【7☆:馨、大丈夫?】
【おにぎり:高菜!!ツナマヨ!!<(`^´)>】
【パンダ:警察呼ぶか?】
「はい、どちらさん。」
<……。>
「…おい、アンタ誰。」
<馨ちゃん、来たよぉ、開けてぇ。>
「んのやろ、」
「お兄ちゃん待って!」
【モブ美:ガチじゃん。】
【恵:警察呼びましょう。】
【西中の虎:さっきの奴?】
【傑:馨ちゃん、スマホ見れるかい?】
「え、あ、はい。…もしもし、」
『もしもし、傑だよ。今から私もそっちに行くから、安心して。絶対に捕まえるから。』
「危ないです、」
『大丈夫、こう見えて喧嘩は強いんだ。じゃ、すぐ行くから。』
「え、傑さん、」

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