13

蒼にもたれ掛かったまま、安心したら段々と重くなってきた瞼を閉じる。

呼吸が、できる。
ゆっくりと息を吐いた。


「…おれは蒼と友達でいたい」

「…うん」


ぽつりとそう零せば、少し間をおいて蒼の声が返ってきて。
その返答に多少安堵して、おれは震える喉をおさえるように息を吸い、言葉を伝えるために、口を開く。

自分の、今の気持ちを。

本心を。

拒まれたらと思うと、怖くて。
もう全部、今日のことすらなかったことにしてしまいたいけど。
今までのように、忘れたふりをしたいけど。
…それだと、もしこれから蒼と一緒にいるなら、何度も心の中で引っかかってしまうから。

今、言えることを言って、それから戻れるなら元の関係に戻りたい。
”こういうこと”を、しない関係に、戻りたい。
蒼に無理矢理されるのが、嫌だった。すごく、嫌だった。

でも、それでも。


「…こんなことで、友達をやめたりしたくない」

「…うん」



少し声のトーンが下がった蒼に顔を向けると。
いつか見た迷子の子供のように、その綺麗な瞳が揺れている。

おれは、ふ、と息を吐いてその頬に手を伸ばした。
瞳を伏せた彼の頬に手で触れて、その額に自分のそれをくっつける。
額同士が触れあっているから、顔がすごく近くなった。

…でも、どうしても、そうしたい気分になって。


「蒼、おれは…」


一瞬言葉を止めて。

おれの望みを、彼に告げる。

それが、彼の望むものではなくても。
たとえ彼の望みとは異なるものであったとしても。

…それでも、伝えたいと思った。

息を吸う。



「…――おれは、……ずっと蒼と友達でいたいよ」

「…っ」


だから、もう二度と、こんなことしないでほしい。

祈るように瞳を閉じてそう伝えれば。
蒼は、息を呑んで。
その唾を飲みこむ音だけが、大きく耳にとどく。


「……」


額を離して、蒼を見る。
彼は酷く寂しげで、悲しげで、苦しそうな表情を浮かべていた。


「……うん」


ゆっくりと頷いて呟かれるその声は。
小さくて、いつもより力がなくて。
まるで震えているようにも聞こえた。

泣きそうな顔をした蒼に、ぎゅっと抱きしめられる。


「それで、まーくんが俺から離れないでくれるなら」


その言葉に、ほっと息を吐いて
おれたちは、改めて”友達”になった。

――――――――

ずっと一緒にいたいから、友達でいよう。

…それは、きっとずっとおれが望んでいたヤクソク。
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