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………

…………………


「ごめんね。長い話になって」

「いえ、…ありがとうございました」


申し訳なさそうに謝る彼方さんに、首を振る。
一度お茶を飲んで、彼方さんは微笑んた。

やっぱり雰囲気こそ違えど、顔がそっくりだからその笑顔で心臓がどきっとする。

ああ、もうドキドキするな。


(…だから、蒼じゃないんだってば)


蒼じゃない。蒼じゃない。

何度も心の中でそう呟いて、ふーっと深く深呼吸して落ち着かせた。



「えーっと、真冬くんは、蒼とはどういう関係だったのかな」

「…友達、です」


多分、と心の中で呟く。
本当のところをいうと…わからない。
蒼が俺に言った好きの意味も結局どういう種類の好きだったのか、わからないままで。

俺も、蒼に抱いてる感情がどんなものか、わからないままここにいる。

…いや、本当はわかっているような気もしたけど、こんな状況になってそんなこと考えてる場合でもない気がする。


「…俺は、…蒼と、ずっと友達でいたかったんです」


言葉が、想いが口からあふれてくる。

蒼と、ずっと一緒にいたかった。

だから、ずっと友達でいようって約束した。
それでも、関係がぐちゃぐちゃになって、俺もどうしたらいいかわからなくなって。

……蒼に閉じ込められて、でもそれでも俺は蒼を友達だと思ってて。

蒼と俺の今までの出来事を話す間、彼は何も言わずに聞いてくれた。


うん、うんと優しく相槌をうってくれて、俺は感情のままにすべてを話した。



「いつも、蒼はそうやって、守るって、そればっかりで…俺には何も教えてくれなくて、…」

「…そっか」



蒼の話を聞いたら、余計に放っておくわけにはいかないような気がした。

知ったからこそ、尚更俺は行かなくちゃいけないと思う。


「危険だとわかってても、蒼が俺を遠ざけようとしてたってかまわないんです。だから、蒼のところに連れて行って、…もらえませんか…」


蒼は勝手だ。

勝手すぎる。


傍にいてって言って、俺を閉じ込めたくせに。
今度は俺を守るためとか言って、俺を遠ざけるのか。

…俺の気持ちなんて本当にひとつも考えてくれない。


振り回される俺の気持ちになってみろっていうんだ。ばか蒼。


でも、そんな俺の気持ちとは裏腹に、彼方さんは断固として首を横に振る。


「…今真冬くんが行けば、確実に真冬くんは危険な目に遭うし、蒼はもっと悲しい目に遭うってわかってるから」

「…っ、そんなの、」


…俺はどうなったっていいのに。
ギリ、と歯を食いしばる。



「…俺は、死んでもいいから…蒼の傍にいたかった。普通に笑って、過ごして、こんなふうにいきなり別れを告げられるくらいなら、死んだ方がマシだった」

「…蒼のことが、好き?」

「はい」

「蒼に、あんなにたくさん酷い事されたのに?」

「…はい」


好きか嫌いかと言えば間違いなく、好きだと思う。

どうしてそんなに嫌いにならないでいられるのかと言われれば、俺自身もよくわからない。 

でも、…どんなことがあったって、何をされたって、蒼は俺にとって大切な友達に変わりない。

中学の時から、この気持ちは変わってない。

………勿論、されたこと全部が嫌じゃなかったわけじゃないけど。

蒼といて、嬉しかったことも、いっぱいあったから。


「…蒼が、羨ましいな…」

「…え?」


ふいにぽつりとつぶやいた彼方さんの言葉の意味がわからなくて、首を傾げると。

彼は俺の頬に手を伸ばして、優しく微笑んだ。
頬に温かい感触が触れる。


「…さっき後悔しないのかって言った俺が言うのもなんなんだけど、…真冬くんが望むならここで俺が蒼の代わりをして、何も危ない目に遭わずに生きていくこともできるんだよ?」

「………」

「…真冬くん?」



自分の顔が強張った気がした。

…どうして、蒼の代わりをするなんて、そんなこと言ってくれるんだろう。

さっきだって、自分はいいけど、”俺”が嫌じゃないかって、…初めてあったばっかりなのに、どうして…。

疑問が湧き上がってくる。
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