泣き止んだ家畜(椿ver)
***
二回射精した後部屋を出た瞬間に、襟元を掴んで壁に背中を打ち付けられた。
ドンと音がして背中に木が当たる感触。
まぁまぁな時間がたったはずなのに、コイツは中に乗り込んでくることもなく律儀にもここで待っていたらしい。
「…っ、痛ぇな」
「あれは…っ、あれはなんですか…っ!!真冬くんに、あんな酷いこと…」
「なんだよ。いい子ぶんじゃねえよ。自分だって飲み物強請られて勃起したくせに」
「…っ」
やはり図星か。
俺の服を掴む手を払いのけると、気まずそうにカッと頬を染めて、悔しそうに拳を強く握りこんだ。
コイツも男だったってわけか。
誰かにそういう感情を持たないやつだと思ってたのに。
双子ってのは好みまで似るものなのか、彼方と蒼はあの”家畜”のことになると驚くぐらい感情を露呈させる。
(…ああ、そういや)
「お前…男が怖くなくなったのかよ」
「……」
「…へぇ、他の男はダメなのに、アイツはいいんだ?」
その反応を見て、面白いモンを見つけたと唇の端を歪めて持ち上げる。
確かコイツも、(蒼がされたのとは比較できないぐらい短期間だけだが)自分の父親が連れてきた奴らにいいように弄ばれたことで、男も女も両方ダメになったはずだった。
表面上うまく隠せているせいで全然そうは見えないから、恐らくほとんど誰も気づいていないだろう。
気づいてるのはおそらく俺と、こいつらの父親と、蒼。
自分で恐怖を押さえつけながら誰かに媚びるのはうまいやつだったけど、心の中では性への恐怖にまみれた人間になっていたはずだった。
それがまさか、よりによって蒼の大切にしているヤツにホの字とは。
(蒼が知ったらどうなるかわかってんのか)
「今日お前を呼んだのは、アイツを見せる為だけじゃねえ」
「……他に、何をしろって…」
「蒼に会いに行って今日見たことを全部伝えろ」
「…は?」
驚いたような声。
今日見たこと、といえばその内容はわかっているだろう。
ここからが今日の本題だ。
「あの部屋に入ることを許可してやる」
何を考えているのかと怪訝な顔をする彼方に、歯を見せて笑う。
ああ、楽しみだ。胸が躍る。
「全部、ちゃーんと伝えてあげろよ」
蒼がどう反応するか、どんな顔をするか、楽しみでならない。
もうすぐ、俺の一番楽しみにしてた瞬間を迎えることができる。
彼方に背を向けて、は…っと冷めた笑いを零す。
馬鹿な奴ら。
好きだなんだと気色悪ぃ。
……んなの、一時的な病気みたいなもんじゃねぇか。
自分を呼び止める声を無視して、俺は別の目的を果たすためにその場を後にした。
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人の苦しんでる姿ほど、俺に生きてる実感をくれる。
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