煙草(椿ver)
***
正式に蒼が結婚するまであと二週間。
着々と準備は進んでいる。
このままいけば、確実にあいつらを引き裂くことができる。
「こんにちは。椿様。相変わらずお美しい」
「あら、お世辞がうまいんですね。ふふ、澪様と蒼がうまくいっているようで何よりです」
「ええ、もう本当に、あの方々なら結婚しても末永く良い結婚生活を送っていけることでしょうね」
「……そうですね」
恋人も結婚も、本来は男と女が結ばれるものだ。
それによって、家系は続いていく。
アイツらがどれだけ男同士で幸せになることを望んだって、それは世間で認められるものじゃない。
……よくある浮かれた漫画みたいに性別なんか関係なくお互い好きならハッピーエンドだ、なんて…そんなのありえねぇんだよ。
普通の男女での交際でさえ、最終的にハッピーエンドになることなんかありえねえっつうのに。
そんな思惑を隠すように着物の袖で口元を覆いながら、擦れ違う妃家の関係の方々に軽くお辞儀をしつつ、かけられる言葉を受け流して、自分の部屋に戻ろうと廊下を歩く。
(昨日はいつもより蒼が抵抗するせいで色々と面倒だった)
大人しくしてりゃあ気持ち良くするだけで終わらせてやったのに。
一匹の家畜のためだけに骨まで折るとか、馬鹿みてぇ。
ま、アイツの父親はそういう反抗的なとこが気に入ったんだろうけど。
逆に俺にとっては、その部分は特に苛立つ要因にしか思えない。
これならあの家畜と彼方の方が従順で扱いやすい分マシだ。
「……」
自室に戻って、デスクの一番上の引き出しを開ける。
奥にしまってある煙草の箱が見えた。
「…………」
一目見ただけで古いとわかるほど黄ばんでいる。
高校生の時に貰ったものだった。
きっともう使いものにならないだろう。
だったら捨てればいい。
そう思って何度も何度も捨てようとして、どうしても捨てることができなかった物。
(…クソ、)
一瞬二度と思い出したくなかった人間の顔が浮かんできて、酷く惨めな気分になる。
惨めすぎて、そこらへんのゴミ虫になった気分だ。
「……ばっかみてぇ」
ぼそりと吐き捨ててから、ガコンッと鳴るほど強く取っ手を握る手に力を入れて閉める。
そのうざくて仕方がない物が見えなくなったことに少しばかり安堵して、チッと舌打ちをする。
……もう二度とあんなクズ箱視界に入れるか。
いつものように心の中で最早何度目かわからない台詞を吐き捨ててから、部屋を後にした。
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