19

込み上げてくる感情に、ふ、と自然と頬が緩む。


「真冬って泣いてばっかりだな」


苦笑にも似た微笑みを浮かべて、真冬が俺に以前やったようにぐしゃぐしゃと髪を撫でる。
柔らかくて、少し茶色がかった髪。
さらさらしている感触が手に心地よい。

頭の上に手を置いたまま、涙で濡れてぐちゃぐちゃになっているその頬に唇を近づける。


「…っ、ひゃ…っ!」


舌を出してぺろりと舐めてみた。
その瞬間、ビクッと今まで以上に真冬が大きな声をあげた。


「…しょっぱい」

「…っ、く、くく…くーくん…っ?!!」


ヒックヒックとまだ若干しゃくりあげて泣いた余韻を残しながら、頬を真っ赤にしてこっちを見る濡れた瞳。
びっくりしたように目が見開かれている。


「な、なんで今…っ、」

「舐めたくなったから」


笑みを零しながらそう言えば、爆発するんじゃないかってくらい赤くなる真冬の顔。


(…嗚呼、なんかやばい…)


俺、こんな性癖じゃないと思うんだけど。
…泣いてる姿がすごく可愛い…とか思ってしまった。



…それにしても、真冬は一日で一体何回泣いてるんだろう。
俺の何十倍も涙腺をフル活用してる気がする。
いつか枯れそうなその後の目の乾燥具合を考えてちょっと心配になる。


「泣き虫真冬」

「…っんぐ…っ、いつもはこんなにないたりしないもん…!」


なんだかさっきとは違って胸の深いところがすごく満たされている。
もう不愉快な感情はない。


…今真冬の思いの全部が自分に向けられている。

傍から見れば多分すごく些細なことだろうけど、でもそんな小さなことに酷く満たされていた。


上から退いて、身体を起こしながら服で鼻水やら涙やらを拭う姿を見て笑えば、めざとく見つけられて「くーくんにばかにされた……」とむぅっと頬をこれ以上ないほど膨らませて怒るから、ごめん、と言えば「やだ!」と返ってくる。


ぷいっとそっぽを向く真冬にもう一度謝ったら、拗ねたらしく後ろを向いて完全に許さないモードに入ってしまった。

…ちょっと笑いながら謝られたのが相当気に入らなかったらしい。

後ろから見てもプンスカ怒ってるのかわかるくらい声に出してわかりやすく怒ってるんだけど、真冬だからか全然怖くない。

…でも、だからといってこのまま放置しておくと余計に面倒なことになりそうなのでなんとかしなければと声をかける。




「…どうしたら許してくれる、んでしょうか」



気を遣ったら変な敬語になった。
そんな俺にちょっと気分を良くしたのか、チラリと少し赤くなった目を後ろに目を向けてくる。


「………じゃあ、ぎゅってしてくれる?」

「…は?」

「あー!いますっごいいやそうなかおしたー!!」

「…いや、嫌っていうか…」


なんでそのことが許してくれることに関係してくるんだ。
全く関連性がない。

嫌そうな顔というよりは、突拍子のない言葉すぎて理解できなかっただけだ。
でも勘違いしたままの真冬はぶーぶーっとむくれてさらに機嫌を悪くしたようだった。


「ぎゅーってしてくれないとやだ!ゆるさない…!くーくんとはもうあそばない…!」

「……」

「あそばなーい!もうくーくんなんかしらなーい!」


…なんか幼稚園児みたいなことを言っている。
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